一周まわった水筒

水戸 淳

文字の大きさ
1 / 1

一周まわった水筒

しおりを挟む
ある夏の日。

困ったことになった。

「あーあ今日もまた手持ちかぁ」

そう、ランドセルに水筒が入らないのである。

あと数冊ほど教科書が入るスペースがあるというのに、肝心の水筒が入る隙間はない。

なんとも消化しにくいムカつきが表情に出ていたのかお父さんが話しかけてきた。

「どうしたんだい息子よ。発明家であるお父さんが手を貸そうか」

「……水筒がランドセルに入らないんだ」

「何だ、そんな事か。ここはお父さんにまかせなさい」

そういってお父さんは自分の部屋へと走っていった。

お父さんは変な発明品ばかりつくる人だった。

今回もまた変なものをつくるつもりだろう。

前見たいに巨大防犯ブザー付きランドセルみたいなものを作られたら大変だなぁ。

そうのんきに考えていると数分もたたないうちにお父さんは部屋から勢いよく出てきた。

「完成だ!なかなかいい出来だとは思わないかね」

そういってお父さんは教科書サイズの物体をぼくに渡してきた。

「なにこれ」

「どこからどう見ても水筒じゃないか!……いや四角い形をしているから水箱と言うべきかな」

なるほどとぼくは思った。よく見ると四角い物体にペットボトルのキャップみたいなのがついている。

さっそくランドセルの中に入れてみる。

「すごい!サイズがピッタリだ」

「そうだろう。そうだろう」

お父さんは得意げに首を振っている。

たまにこういった役立つものを作ってくれるから憎めないんだよな。

「あっこのままじゃ遅刻だ」

「お父さんの新しいドラゴン型自転車に乗っていくかい」

「いやだ」



次の日、また困った事になった。

「どうしよう。水筒がまたはいらない」

ランドセルは昨日より若干狭くなったスペースを開けており、お父さんに作ってもらった水筒はギリギリ入らなかった。

「しょうがない。今日は手持ちでもっていくか」

「またまたお困りかい。息子よ」

「うわあ。いきなり声をかけないでよ」

「まあまあ。そう言わずに。それよりもまた困っているのだろう。お父さんに相談しなさい」

「……昨日の水筒がまたランドセルにはいらなくて」

「ああ、昨日作った水箱だね。安心したまえ息子よ。また薄く作ればいい話だ」

そういってお父さんはまた部屋に行って新しい四角い水筒を作ってくれた。

「すごい!今回もピッタリだ」

「そうだろう。そうだろう。ところで息子よ。いいホッピングマシンができたのだが」

「いや学校には歩いていくよ」

僕は急いて家を出て行った。



その日からランドセルに入らなくなる度に四角い水筒は薄くなっていき、ついには曲げられるようになった。

これはこれで下敷きみたいに曲げて遊べるのでぼくはこれで気に入っていた。

学校でも物珍しい形の水筒を持ってる事で少し人気ものになったりした。

水筒一つだけで少し充実した日々を送っていたが、そんな日々はついに終わりを告げた。

そう、ランドセルの隙間がなくなってしまったのである。

「ランドセルがパンパンで入らないよ」

「これはお父さんにもどうにもできないなぁ。そうだ、お父さんの作ったデラックスサイズのランドセルを」

「手持ちで持ってく」

僕は急いで家を出て行った。

それにしても教科書サイズのものを手で持つのは煩わしい。

歩きながら僕は考えた。

そうだ丸めればもっと持ちやすくなる。

そうして僕は四角い水筒を筒形に丸め手にもって学校に行ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...