やってはいけない危険な遊びに手を出した少年のお話

山本 淳一

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さとるくん

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「おはよう」

浩一は、目の前にいる昭人に話しかけた。
しかし、その声は暗く、覇気が感じられない様子であった。

「おっ、おはよう。なんか今日眠そうだけど大丈夫か?」

「一応大丈夫......」

数日前の停電以降、浩一は悪い虫の知らせのようなものを感じて、あまり眠ることができずにいた。

「なあ昭人」

「ん?」

「やっぱりなんでもない」

浩一は、数日前のラップ音や停電の事を昭人に話そうとしたが、また自分が好きなオカルトやおまじないなどの事を否定されては嫌だと考え、話すのをためらった。

昭人は浩一が何かを隠しているんじゃないかという雰囲気を感じたが、深追いはしなかった。

一方で浩一は、尋常ではないことが起こっているのに関わらず、やってはいけない儀式やおまじないに対する好奇心がどんどん強まっていった。

その夜、浩一はパソコンを起動して、検索ボードに「やってはいけない儀式・おまじない」と入力した。

浩一は今までもそのようなことを調べる機会はあったが、どちらかというとパソコンの文字を読むよりも本を読む事が好きであったので大して調べずに終わってしまったのであった。
また、パソコンを買ってもらったのは高校生になってからであったので、浩一にとってまだインターネットは未知の領域でもあった。

「たくさん出てきたな」

浩一は検索してから一番上に表示されたサイトをクリックした。

そこには「さとるくん」、「生き人形遊び」、「鏡の前で45度でお辞儀をして横を向く」、「チャーリーゲーム」、「ひとりかくれんぼ」という儀式と共に、それぞれの儀式のやり方や説明が記されていた。

浩一はその文字を見た瞬間、とてつもなくそれを知りたい衝動に襲われた。
「ひとりかくれんぼ」という儀式は以前読んだオカルト関連の本にも書かれていたので軽い内容は知っていたが、他の儀式に関しては彼からすれば未知の鉱脈を掘り当てたようなものであった。

そして、それらの説明を読むにつれて、浩一の中で「この儀式を全て試してみたい」という感情が心の奥から湧き出てきた。

今日も母親はパートから帰っておらず、家にいなかったので一番やりやすそうな「鏡の前で45度でお辞儀をして横を向く」という行為から始めてみることにした。

彼は母の部屋にある三面鏡へ行こうとしたが、昨日の合わせ鏡の件から本能的な恐怖を感じていたので、洗面所の前にある鏡の方に向かった。

浩一は鏡の前に立つとサイトに書かれていたやり方を思い出した。

「まず......鏡の前で45度の角度でお辞儀をする。それから、クルっと横を向けばいいんだな」

そう言うと、浩一はまったく躊躇する事もなく、行動に移した。

浩一が鏡の前でお辞儀をして、横を向いた瞬間だった。

鏡の前を黒い影のような何かが横切った。
だが、一瞬の事であったので、浩一はそれに気付く事なく儀式を終えた。

「なんだ。何も起こらないじゃん」

浩一はつまらなさそうに言い、パソコンの前の椅子に座った。

「『鏡の前でお辞儀』がダメなら次は『さとるくん』を試すか......」

「さとるくん」のやり方はこうだった。

①公衆電話に入り、10円玉を入れる。

②自分の携帯電話に電話をかけて、次の呪文を唱える。

「さとるくんさとるくん、おいでください。さとるくんさとるくん、おいでください。さとるくんさとるくん、
いらっしゃったらお返事ください」

呪文を唱えた後に、電話を切り、それから携帯電話の電源も切る。

③ここまでの儀式を間違いなく行うことができれば、24時間以内に電源を切ったはずの自分の携帯電話に「さとるくん」から電話がかかってくる。

「それで『さとるくん』は電話でいる場所を告げてきて、電話に出るたびに『さとるくん』のいる場所が自分に近づいて来る。最後に、『いま、君の後ろにいるよ』と言う。この時、『さとるくん』は一つだけどんな質問にも答えてくるという......」

浩一は無意識に、途中から声に出して呟いていた。

「確か、10円玉だったら財布の中にあるな。それから携帯、というかスマホも中学になって買ってもらったから、あとは公衆電話か......」

浩一は左手に財布、右手にスマートフォンと自転車の鍵を持ち、外に出た。

空は夕焼けが立ちこめており、遠くを見ると闇夜が近づいていた。

浩一は自転車にまたがると、近くに公衆電話がないか探した。

少しの間自転車を漕いでいたが、公衆電話のある電話ボックスはなかなか見つからなかった。

近年、携帯電話やスマートフォンの普及にしたがって公衆電話が減ったといわれるが、それが理由なのだろうかと浩一は考えた。

浩一は面倒臭くなり、自転車を漕ぐ足を止めた。

今日はもう家に帰ろうかと思い、家の方向へ自転車を向けたその時、視界の真横に公園があることに気づいた。
その公園は人のいない小さな公園であったが、隅には電話ボックスが置かれていた。

浩一は公園に入ると空いたスペースに自転車を停め、電話ボックスの扉を開いた。
そして、ポケットにいれた財布から10円玉を取り出すと、公衆電話の小銭入れにそれを入れた。

次に、自分のスマートフォンの番号を丁寧に入力した。
公衆電話のボタンを押すたびに、自分の心臓の鼓動が少しずつ早くなるのを感じた。

間違えずに番号を入力したと思った浩一は耳に受話器を当てたまま、電話がかかるのを待った。

「プルルルル......プルルルル......」

静寂を打ち破るようにスマートフォンにも着信が鳴り響いた。

浩一は驚きそうになったが、それを抑えて冷静にスマートフォンの通話ボタンを押した。

それから浩一は、例の呪文を唱えた。

「さとるくんさとるくん、おいでください。さとるくんさとるくん、おいでください。さとるくんさとるくん、
いらっしゃったらお返事ください」

唱え終えると浩一はすぐさま公衆電話の受話器を元に戻し、スマートフォンの終話ボタンを押した。

「終わった......」

ふと我に返ると、浩一は自分の心臓が飛び出そうなぐらい波打っていることに気づいた。
内心ではとても緊張していたのかもしれない。

公衆電話の外を見ると、陽がすでに沈み、辺りは暗くなりかけていた。

スマートフォンをポケットにしまい、帰ろうと自転車の鍵を取り出そうとしたその時だった。

「ガシャン!」

真横に置いてあった自転車がいきなり倒れたのであった。
浩一は驚きのあまり、体を大きく震わせた。

もしかすると、先程行った「儀式」が影響したのではないか、と考えた。
しかし、まだ例の「さとるくん」から電話がかかってきた訳でもないのにそう考えるのは早計だろうと思い、電話ボックスの扉を開いた。

その瞬間、ごおーっ、と勢いよく風が吹くのを肌で感じた。
浩一はこの風で自転車が倒れただけだなと考え、それ以上は思慮を巡らせることはなかった。

そして、自転車を起こしながら、この後に「さとるくん」から本当に電話がかかってくるのだろうかと謎の期待を募らせた。

浩一が団地に帰ると、既に母が帰宅していた。

「浩一、あまり外に遅くまでいないでよ」

母は厳しい方ではなかったが、門限にはやや敏感な人間であった。

「わかってるよ。ちょっと課題やってくる」

浩一は面倒臭そうに言うと、自分の部屋に戻った。

「本当にこの後電話かかってきたりするのかな。まあじっとしてても仕方ないし、ゲームでもするか」

そう言うとパソコンの前に座り、この前プレイしたオンラインゲームの画面を開いた。

「この前データ飛んだから急いでレベル上げしないとなぁ......」

浩一は次第にゲームに熱中し、電話の事などそっちのけで画面にのめり込んでいた。

「浩一、ご飯できたわよ」

母の声でふと我に返ると、パソコンをスリープモードにして台所へ行った。

夕飯はコロッケだった。
浩一が夕飯を食べ始めると、母がいきなりある話をした。

「実は最近寝てる時、ラップ音するのよね......」

浩一はその言葉にギクッとした。
実際に心当たりが無い訳ではなかったからだ。

しかし、迂闊な事をして母に悟られてはまずいと思い、何もなかったように返答した。

「ふーん......そうなんだ」

「この家に霊でもいるのかしら。気味悪くなってきたわね」

「霊なんて人の空想でしょ。お母さんの借りてあった本もそうだけど人間が作り出したもので本当はいないんだよ」

浩一は実際のところそういう事はなく、霊をかなり信じていた。
けれども、ここで露骨な反応をしてはいけないと思い、自分の趣向とは正反対の事を言ったのであった。

「ごちそうさま」

浩一はご飯を食べ終わると、再び自分の部屋に戻ってしまった。

「最近の浩一、なんか変な感じするのよね。」

母は、浩一のわずかな変化を見逃さない様子であった。

浩一は部屋に戻ると、すぐに自分のスマートフォンを確認した。
「さとるくん」からの電話が来てないか知りたかったからだった。

しかし、着信は来ていなかった。

浩一は、つまらなそうな様子でスマートフォンをしまうと、独り言を呟いた。

「もしかすると、おまじないとか儀式ってやっても本当は何も起こらなくて空想の産物なのかもなぁ・・・。この前の停電とかだってただの偶然かもしれないし。そう考えると、他の危険なものもやっても大丈夫なんじゃないか」

それに母が言っていたラップ音だってこの前の停電の事から察するに電気関連の現象かもしれない。
浩一は、そう自分に言い聞かせ、好奇心を正当化していった。

「課題でもやるか」

浩一は、課題があることを思い出し、机に向かった。

そして、それを終わらせると何もなかったかのように入浴を済ませ、そのまま就寝した。



その夜。
浩一は夢を見た。

気が付くと、自分が真っ暗な一本道にいることに気づいた。
目の前には黒い闇が広がり、何も見えない状況であった。

自分は課題を終わらせて、床に就いたはずだ。
なんでこんなところにいるのだろう。

そう考えようとしたその時だった。

「プルルルル!」

ポケットに入れてあるスマートフォンの着信音が鳴り響いた。

浩一は、おそるおそるその通話ボタンを押した。
すると、通話口から不気味な少年の声がささやくように聞こえてきた。

「いま、君のすぐ近くにいるよ」

その声が聞こえた瞬間、スマートフォンの通話が切れた。

浩一は寒気がした。

後ろを振り向いたが、辺りは漆黒に包まれて何も見えない。

不安を振り払い、歩き出そうとしたその時だった。

「プルルルル!」

再びスマートフォンの着信音が暗闇の中で鳴り響いた。

浩一は、電話に出ては本能的にまずいと思い、電話に出ないようにした。

ところが、着信音は延々と止まらず、鳴り響くごとに音が大きくなっていった。

浩一は、しびれを切らして着信拒否のボタンを押そうとした。
その時、恐怖と不安で指が震えていたのか、通話ボタンに指先が当たってしまった。

「しまった!」

意に反して通話口からは何も聞こえてこなかった。

しかし、浩一は背後に何者がたたずむ気配を感じた。
そして、なぜか振り向きたくもないような状況なのに、振り向いて後ろを確認したい衝動にも襲われた。

浩一は、何もいない事を願いながら、ゆっくりと後ろを向いた。

背後には、依然として闇が広がり、人影一つない状況だった。

「よかった......」

安堵と共に胸をなでおろそうとした時だった。

不気味なノイズと共に通話口から先程の少年の声が途切れ途切れに聞こえてきた。

「いま......君の後ろに......いるよ......」

そう言うと、勝手に電話は切れてしまった。

浩一は、急いでその場から逃げ出そうとした。
だが、足が固まってその場から動けない。
何者かに押さえつけられているような感じだった。

そして、再び先ほどの後ろを振り向きたいような強い衝動に襲われた。

浩一は、絶対振り向かないように目をつぶり、首に力を込めた。
しかし、自分の意思と関係なく、首が勝手に後ろを向いてしまったのだ。

その瞬間――

浩一の目の前には、肌の白い短髪の少年がいた。

少年の目はそれと対照的に、飲み込まれるような漆黒の色をしていた。

そして、白い歯を見せながらにたーっと浩一に向かって笑いかけてきた。

浩一は驚きと恐怖のあまり叫び声をあげた。

「うわーーーっ!!!!!」

気が付くと、浩一はベッドの上にいた。
パジャマが汗で濡れており、ひどくうなされていたのだということに気づいた。

その日の朝。
浩一は麦茶を飲みながら自身のスマートフォンを確認した。
そこには不在着信の通知があった。

浩一は驚きのあまり麦茶を吐き出しそうになった。

もしやと思い、浩一はその着信が来た時間を調べた。
画面にはこのように記載されていた。

「非通知 2:00」

浩一が昨晩うなされていたのもこの時間であったのかもしれない。
それにその時の夢の内容といい、ただ事ではないような気がした。

だが、浩一はそれと共に気分の高揚感が起こった。

「昨日迷信だと思っていた事が本当に起こったのか......。そしたらすごくないか......? 他にもそういう儀式とか試してみたくなってきたな.......」

浩一はまるで何者かに感情を支配されているように好奇心が抑えられなくなった。
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