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信仰都市ギャンヴェル編

35 宗教団体の黒幕除去

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前回のあらすじ。

「心地よい唇の感触」 

「いつか殺す、若造が」

 ニャルラトホテプ、通称ニャルが俺を睨みつける。今回はニャルラトホテプでしたー。…はい、すみません。

「はっはっは。何をおっしゃいますやら。あれは偶然であり偶発的なものだ。で、あるならこの件で俺は悪くない!その偶発を起こしたのはリヴィアンなので、悪いのはリヴィアンだ!」

 ビシィと成○堂○一もびっくりの指差しである。まぁ、ネタ通じる人がいないのが困りものだなぁ。

「わ、私じゃないわよ!」

「そんなことどうでもよいのでは?」

 マグが俺達をたしなめる。そして、

「では、ニャルラトホテプ。貴方を崇めていた教信者の名前を教えなさい」

 ふるふると頑なに首を横に振るニャルにフェイが脅しをかける。

「ああ、教えて頂かなくてもけっこうですよ。ただその場合、水の中で苦しむか氷の中で凍結するか選んでもらうことになりますが」

 と、右手にマナを水に換えたものと左手に氷を換えたものを浮かせている。さて選べと言わんばかりに見せつける。心なしか楽しそうなフェイの今日このごろ。

 その笑顔を見て、顔を青ざめさせカチカチと歯を鳴らすニャル。怖いなー、小悪魔フェイちゃんとか名付けたら可愛いかも。グッズ化まだかな…。そしてついに、ニャルが折れた。主に心が。

「は、話すよぅ…。ひんっ…。だから、ひんっ…、ぞれだげばぁがんべんじでぐだざいぃぃぃ」

 あ、マジ泣きだこれ。見てて哀れなり。俺はニャルの頭をぽんと乗せる。

「大丈夫だから、落ち着いて、話しなさい」

 優しく、ブッタも堕ちるほどの甘い声でなだめる。俺は意外とベビーシッターに向いてるのかもしれない。

「…ん。ヒック、確か、んくっ、名前はファナティック」

 ファナティック?んーと確か、

「狂信者、だよな?」

「そうだな。それであっている」

 ベルフェゴールが腕組みをしながら頷く。今俺達がいるところは拷問部屋らしき場所。ベルフェゴール城の地下にあるらしい。らしい、とはベルフェゴールに転移魔法でここまでニャルと一緒に飛ばされたからである。乱暴な扱いダメ絶対。俺割れ物だから。

 しかしまぁ、自ら狂信者と名乗るとは間抜けなのか脳内花畑かカーニバルなのかわからん奴だな。

「んじゃまぁ、ぱぱっと終わらせて飯食って寝よう!疲れたからな」

 そう言って、ベルフェゴール城の大広間へと足を運んだのだった。



   ○   ○   ○



「諸君っ!よくぞ集まってくれた!」

 ベルフェゴールが大きな椅子に(しかもふかふか)鎮座し、ざわめく民衆を静める。

「此度はオ、じゃなかった。此度は私の不備で諸君らに迷惑をかけてしまった!すまない!」

 頭を下げたベルフェゴールに対しての民衆の反応は果たして、

「そんなことないですよ!」

「そうだ!ベルフェゴール様が頭を下げる必要なんて全くありません!」

「いつだって民衆のことを思ってらっしゃる貴方が我ら愚民に頭を下げるなど!」

 ワオ。すげぇ人望。どっかの魔王バカとは大違いだ。

「だが!」

 またも大広間は静寂に包まれる。

「この中にいや、この国の聖職者に裏切り者がいる!」

 その言葉に民衆はどよめき、お前か?お前だろ!と言い合う声が聞こえ始める。

「静粛に!その裏切り者がした事は、戦闘神モリガンをたてまつると偽り、渾沌の王ニャルラトホテプを崇め力を蓄えさせていた!今!ここで正直に名乗り上げるなら罰は軽くなる」

 ベルフェゴールは言葉の最後を静かに言う。そしてまた、きらりと怪しげに目を光らせる。

「だが!今ここで名乗り出ないのなら!判決は死刑とする!良き市民を危機に晒し、大切な人材を失うところだった!転生者の手を借りてこうして諸君らは生きている!彼がいなければこの街は壊滅し、例え私が倒したとしても都市の機能は落ち、そして崩落していた!たった一部の裏切り者によって!裏切り者は断罪され、糾弾されるべきなのだ!」

 怒りに満ちた声。それは訴えであり挑発する言葉。さて、裏切り者のファナティックはどうしますかねぇ?

 しかし、数十分しても誰一人として出てこない。そりゃそうだわな。誰でも罰は怖いし、だけどいいのかなぁ?ファナティックさんよぉ。

「誰も名乗り出ないか…。私は失望したよ。裏切り者とはいえ、この国の住民の一人だ。そうか、では私が裏切り者の名を申す」

 ファナティックは必ずこの大広間にいる。何故なら、他の仲間が裏切らないか監視しなきゃなんないからな。

「ファナティック司祭!貴様が裏切り者だろう!」

 その名前が出た瞬間、ばっと一部に人がいなくなりその真ん中に一人の聖職者が佇んでいた。

 当の本人といえば、しらけた顔をして笑っている。

「何のことやら。ベルフェゴール様。貴方は賢明なお方だと思っておりましたが、ここまで愚が過ぎると少々私としましては貴方様を一から見直す必要があるやもしれませんなぁ」

 見た目は八十歳前後のジジイ。禿げた頭に、皺が少し顔にある程度。なかなか元気そうな年寄りで。それに加え修道服に十字架を首から下げ、左手には聖書を持っている。かなりボロボロで年季が入っているようだ。

「その必要性はないぞ?ファナティック司祭」
 
 にやりと笑うベルフェゴール。この笑いを合図に前へと進み出る。ここからは俺の舞台だ。カツンと靴をわざとらしく鳴らし、学ランを脱ぎ捨てる。脱ぎ捨てる必要があるのかと言われると、必要は無い。雰囲気は大事ですから。カッターシャツ姿の俺は凄惨に笑う。

「ようこそおいでなさいました、ファナティック司祭。俺は転生者いわゆるこの街の救世主の、トリストと申します。以後お見知りおきを」

 変わった自己紹介にファナティック司祭に限らず、民衆ぎ怪訝な顔をし困惑していた。それに構わず俺は続ける。

「ファナティック司祭。貴方が裏切り者である証拠は確かに存在しません。いうことやること出鱈目デタラメです。しかぁし!」

 ファナティック司祭をジョジョ立ちで指差し指摘する。

「貴方なら知っていますよねぇ?モリガンの特徴を」

「フンッ、何を言い出すかといえば。知っているとも。鎧と灰色のマントを羽織真っ赤なドレスで現れ、2頭の真っ赤な馬に乗っている、非常に好戦的な女神でしょう?」

 「他には?」

「他などありませんよ。これで充分です」

 俺はこの時ほど愉悦に浸れたことは無い。浅知恵に溺れた狂信者は自ら狂信者と名乗り出たのだ。
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