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鉱山都市ロイハイゲン編
58 下水道入口
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「どうやら成功のようだね?」
クロビア公爵がニコニコと笑いながらこちらへ来る。
「そのようです。クロビア様。そろそろ時期かと」
「わかっている。トリスト君、こちらへ」
クロビア公爵に呼ばれ、俺は書斎へと導かれる。
○ ○ ○
クロビア公爵の書斎にて。
「トリスト君。ここからは君たちだけで進みたまえ」
「えっ!協力してくれるんじゃ」
だがクロビア公爵は素知らぬ顔。
「そう。表立った協力はできない。だからこうして下水道から王宮までの道のりを考えていた」
「そんなっ!ーーーーーーーっ!」
クロビア公爵の顔は深く疲労が溜まっていた。それだけでもわかる。バレたのだ。俺達を匿っていることが嫉妬の魔王に。
「わかってくれ。おそらく儂とウィルは死ぬだろう。この屋敷を焼き払われて、捕らえられ反逆者として公開処刑でな。だからここからは、トリスト君。君に全てをたくそうと思っている」
フラグを乱立させながら話を進めるクロビア公爵。しかし時間が無いようだ。クロビア公爵は口早に話を進めているからだ。
「これが地図だ。辿っていくといい。だが下水道には奴がいる」
「え、奴って」
その時だ、バタンとマグたちが書斎に入ってくる。息を切らし慌てているようだ。
「奴らが来たわ!」
「クロビア様!早くリヴィアン様達を!わたくしは時間を稼ぎます!」
「頼むぞ、ウィル!さぁ早く!」
クロビア公爵が本棚の本を手前に引く。どこぞの古仕掛けみたいだ。ガコンという音と共に本棚が横へ自動にずれる。忍者屋敷かな?その下には穴がポッカリと空いていた。どこまでも続く深淵。
「クロビアおじ様は?ここにいたら死んじゃうわ!」
「リヴィアン、儂は行けない。いいかい?トリスト君といれば安全だ。儂といるより断然な。だから生き残ってくれ」
「いやっ!クロビアおじ」
最後まで言わさずドンッとクロビア公爵はリヴィアンを穴に突き落とす。そして俺の方に向き直る。
「娘を、頼む」
それはいつか約束したことのある言葉。一人の愛娘のため、国を裏切り反逆者として死んでいった狂信者。クロビア公爵もまた一人の父親役として愛娘を守るために死を選んだのだ。
「任せろ」
俺は奥歯をきつく噛み締め笑う。
「行くぞ、マグ」
「ええ」
そのまま後ろを振り向かずに俺は穴に飛び込む。マグもそれに続く。
「ああ、楽しい人生だったなぁ」
クロビア公爵の呟きは俺の耳には届くはずもなく、そして巨大な爆発音でかき消された。
ばしゃん!と着地した瞬間ひやっと水がズボンや靴にかかる。
「つめてっ!」
しかし冷たさなどとうに忘れる。臭い。ムンムンとアンモニアや糞の混じった匂い。さらには人間の死体まで流れている。
「クロビア、おじ様…。また、私は守られるだけ…。みんな私を守るために、また、いやっ、違う、そんな、わけ…」
取り敢えず、パンッ。
「え?」
驚いた声をマグが出す。リヴィアンは俺を見たまんま放心している。
「お前のせいじゃねぇんだろ」
ここで立ち止まられると困る。恐らくすぐに追っ手が来る。早く立直させなければ、全員嫉妬の魔王倒す前に死んでしまう。
「なら、お前を守ってきた人たちの分まであのクソッタレ魔王にぶつけなきゃいけないだろ!こんなところで止まって、全員共倒れか?何もしないでここにいるより行動あるのみだろ!立てよ。立てないなら何度でもお前を叩いて担いでやる。だから」
放心状態のリヴィアンが目を覚ましたように涙を流す。嗚咽も何も聞こえない。ただ涙が出るだけ。
「一人で背負い込むな」
俺はリヴィアンに手を差し伸べ、リヴィアンは俺の手を掴む。涙は依然として止まっていないが、何かを吹っ切れたようにリヴィアンは笑う。
「そうよね。ありがとう」
そして俺達は走り出す。追っ手から逃げるのか、それとも魔王を倒すため走るのか。答えはもう分かっている。
クロビア公爵がニコニコと笑いながらこちらへ来る。
「そのようです。クロビア様。そろそろ時期かと」
「わかっている。トリスト君、こちらへ」
クロビア公爵に呼ばれ、俺は書斎へと導かれる。
○ ○ ○
クロビア公爵の書斎にて。
「トリスト君。ここからは君たちだけで進みたまえ」
「えっ!協力してくれるんじゃ」
だがクロビア公爵は素知らぬ顔。
「そう。表立った協力はできない。だからこうして下水道から王宮までの道のりを考えていた」
「そんなっ!ーーーーーーーっ!」
クロビア公爵の顔は深く疲労が溜まっていた。それだけでもわかる。バレたのだ。俺達を匿っていることが嫉妬の魔王に。
「わかってくれ。おそらく儂とウィルは死ぬだろう。この屋敷を焼き払われて、捕らえられ反逆者として公開処刑でな。だからここからは、トリスト君。君に全てをたくそうと思っている」
フラグを乱立させながら話を進めるクロビア公爵。しかし時間が無いようだ。クロビア公爵は口早に話を進めているからだ。
「これが地図だ。辿っていくといい。だが下水道には奴がいる」
「え、奴って」
その時だ、バタンとマグたちが書斎に入ってくる。息を切らし慌てているようだ。
「奴らが来たわ!」
「クロビア様!早くリヴィアン様達を!わたくしは時間を稼ぎます!」
「頼むぞ、ウィル!さぁ早く!」
クロビア公爵が本棚の本を手前に引く。どこぞの古仕掛けみたいだ。ガコンという音と共に本棚が横へ自動にずれる。忍者屋敷かな?その下には穴がポッカリと空いていた。どこまでも続く深淵。
「クロビアおじ様は?ここにいたら死んじゃうわ!」
「リヴィアン、儂は行けない。いいかい?トリスト君といれば安全だ。儂といるより断然な。だから生き残ってくれ」
「いやっ!クロビアおじ」
最後まで言わさずドンッとクロビア公爵はリヴィアンを穴に突き落とす。そして俺の方に向き直る。
「娘を、頼む」
それはいつか約束したことのある言葉。一人の愛娘のため、国を裏切り反逆者として死んでいった狂信者。クロビア公爵もまた一人の父親役として愛娘を守るために死を選んだのだ。
「任せろ」
俺は奥歯をきつく噛み締め笑う。
「行くぞ、マグ」
「ええ」
そのまま後ろを振り向かずに俺は穴に飛び込む。マグもそれに続く。
「ああ、楽しい人生だったなぁ」
クロビア公爵の呟きは俺の耳には届くはずもなく、そして巨大な爆発音でかき消された。
ばしゃん!と着地した瞬間ひやっと水がズボンや靴にかかる。
「つめてっ!」
しかし冷たさなどとうに忘れる。臭い。ムンムンとアンモニアや糞の混じった匂い。さらには人間の死体まで流れている。
「クロビア、おじ様…。また、私は守られるだけ…。みんな私を守るために、また、いやっ、違う、そんな、わけ…」
取り敢えず、パンッ。
「え?」
驚いた声をマグが出す。リヴィアンは俺を見たまんま放心している。
「お前のせいじゃねぇんだろ」
ここで立ち止まられると困る。恐らくすぐに追っ手が来る。早く立直させなければ、全員嫉妬の魔王倒す前に死んでしまう。
「なら、お前を守ってきた人たちの分まであのクソッタレ魔王にぶつけなきゃいけないだろ!こんなところで止まって、全員共倒れか?何もしないでここにいるより行動あるのみだろ!立てよ。立てないなら何度でもお前を叩いて担いでやる。だから」
放心状態のリヴィアンが目を覚ましたように涙を流す。嗚咽も何も聞こえない。ただ涙が出るだけ。
「一人で背負い込むな」
俺はリヴィアンに手を差し伸べ、リヴィアンは俺の手を掴む。涙は依然として止まっていないが、何かを吹っ切れたようにリヴィアンは笑う。
「そうよね。ありがとう」
そして俺達は走り出す。追っ手から逃げるのか、それとも魔王を倒すため走るのか。答えはもう分かっている。
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