フェイト・オブ・ザ・ウィザード~元伝説の天才魔術師は弾丸と拳を信じてる~

シノヤン

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二章:招かれざる者

第12話 人権屋にご用心 その①

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「以上が報告の内容だ。上には既に伝えてある」

 共に本部へ戻ったクリス達は、談話室にて事件の一部始終を他の騎士たちに伝えると椅子に座り込んだ。

「フン…お前が呼び寄せたんじゃないのか?」

 少しするとイゾウが訝しそうに口を開いた。イゾウに睨みつけられたクリスは両手を上げてやれやれととでも言うように呆れ顔をしてみせる。

「何か証拠が?」

 クリスが挑発気味に尋ねてみると、イゾウはさらに不機嫌になったのか眉間の皺を増やした。

「主犯と顔見知りなうえに取り逃がしている。それだけで疑惑としては十分だろ。実はグルなんじゃないのか…例えば、密偵をさせるためにお前を――」
「あんたいい加減にしなさいよ…!」

 イゾウが因縁を付けたいかのように推測を並べ立てているとメリッサが食い気味に話へ割って入る。

「なら聞くがこいつが敵じゃないという確証は?」
「だとしたらわざわざ自分の仲間を殺しに行ったりなんかしないでしょ!取り逃がした奴にしたって、話を聞く限りなら二人だけで何とかなるような相手じゃなかった」
「だが…クソッ、もういい」

 食い下がるメリッサに対して、イゾウは舌打ちをして悪態をついた。そして窓の外へ目をやろうとした時、アルフレッドがノックと共に談話室を訪れる。

「やあ諸君…おっと私は、また出直した方が良かったかな?」

 険悪なムードを肌で感じたのか、気まずそうにアルフレッドは挨拶をしながら様子を見た。

「いえ、問題ありません。ちょうど新しい話題が欲しかったところです」

 いち早くデルシンが快く答えて部屋へ迎え入れると、アルフレッドも気を良くして勝手に茶をカップに注いでから手に持った。

「新しい仕事を君たちに伝えようと思ってきたところだ。特にガーランド、君も騎士団での仕事に早く慣れるべきだろう。そこで調査に出てもらいたい」
「調査?」

 紅茶をどうにか冷まして飲みながらアルフレッドが新しい仕事の内容を伝えると、クリスはスコーンを齧りながら興味ありげに反応する。アルフレッドが手渡して来た新聞には街で発覚した魔術師への差別と、それに対して市民が怒りの示威運動を行っているという内容が書かれていた。

「実は最近、街では魔術師に対する差別に敏感になっててね…それ自体は良い事なんだが、中にはそれを理由に暴力やらに訴える者もいるそうだ。その辺りの実態を少し調べて欲しいと思ってな。今後の条例作りにも役立てたいらしい」

 アルフレッドから事情を聴きつつ、クリスはスコーンをお代わりしようと手を伸ばしたが、シェリルが食べすぎだと目で合図をしながら差し押さえた。

「了解した」

 仕方なく手を引っ込めたクリスはアルフレッドに返事をして席を立つ。アルフレッドも満足げに頷いた。

「よろしい。この任務についてはもう少し人手が必要だろう」
「なら、私が行きます…そうだ、イゾウ。あなたも来て」
「はぁ?」

 アルフレッドが他に同行するものを募ろうとすると、すぐさまシェリルがそれに応えた。しかし、彼女がイゾウまで巻き込もうとしたため、当の本人は困惑したような声で突っぱねようとする。

「確かにもう少しいた方が良いかもしれんな。イゾウよ、二人と共に頼まれてくれるか?」

 アルフレッドからの催促には流石に逆らえなかったのか、最終的にイゾウは渋々承った。



 ――――二日後、三人は気まずい雰囲気の中で街へ繰り出していた。

「一応言っておくが俺はまだお前を認めていないし、これからも認める事は無い」
「はいはい。好きにしてくれ」
「また始まった…」

 相変わらずいがみ合う二人を尻目にシェリルは面倒くさそうに呟いた。ちゃんとクリスの仕事ぶりを見たいという理由によって自分から提案したとはいえ、ここまでイゾウが引きずるとは思っていなかった。そうこうしている内に、目的地が近づいて来ると、シェリルは手帳に走り書きしておいた簡易な地図で確認を始める。

「ここからは手分けしていこう…ほら、喧嘩してないでさっさと来て」

 シェリルに叱られ、渋々役割を決めた後にクリスが通りの角を曲がると、何やら騒がしい声が聞こえた。とあるパン屋の前に数人ばかりの人だかりが出来ており、口々に「差別主義者め!」、「このご時世に恥ずかしくないのか!」などと野次を飛ばしている。

「こんな昼間から何してる?」
「ああ?…ってやべ、騎士団だ!」
「逃げろ逃げろ!」

 野次馬達が退散し、辺りが閑散とした頃にクリスは戸を小突いた。しばらくすると、辺りを不安そうに伺いながら店主と思われる小太りの男が現れる。口元の髭が印象的であった。

「奴らは…?」
「もういない、安心してくれ」

 クリスから状況を伝えられた店主は、胸を撫で下ろしながら彼を迎え入れた。商品棚にはパンが並べられておらず、所々に埃が見受けられた。そうした店内の暗く、寂しい空気感によって商売に手を付けていなかった事が容易に分かる。店の奥へと案内されたクリスは、事務室の小さ目なテーブルに着く。古びた椅子が僅かに軋んだ。

「何が起きているかは…さっきの状況を見てくれたのなら分かるだろ?」

 店主は顔色を伺いながら遠慮がちに切り出した。

「新聞を見た限りでは、この店で働きたいという魔術師に対して差別をしたとあるが本当か?」
「とんでもない!うちは既に魔術師を雇ったりもしてる!真面目に働いてくれるなら誰であろうと大歓迎なんだ。そんな事をするわけが…」

 クリスが事前に調べた情報を基に問いただすと、店主は威勢よく否定し身の潔白を語り始めた。彼の話には新聞に書かれている記事と食い違いがあり、尚の事困惑させる。

「だが野次馬や新聞も言いがかりであんな行動に走ったりはしないだろ。何か心当たりは?」
「無いと言えば嘘になる…こないだ魔術師を名乗る女が雇ってくれと尋ねて来てな。人手は足りてたから、また次の機会にって断ろうとしたんだよ。そしたら急に火が付いたみたいに怒り出して行って、しばらくするとこんな新聞記事が…きっとあの女が記者どもに余計な事を吹き込んだに違いない」

 さらに質問をされた店主は、近況を語りながら新聞を指差して説明をした。憎さや辛さが入り混じった感情を声に込めている。クリスは少し考えるように指を顎に当てていたが、踏ん切りがついたのか話を切り上げる事にした。

「実はあんたと同じような話が何件もある。いずれにせよ詳しく調べているが、場合によってはあなたが捜査の対象になる事を忘れないでくれ」
「分かってるよ、隠す物なんて何も無いんだ。あんた達に任せる」

 そうした話し合いの末に店を出たクリスは、しばらくして他の証人のもとを訪ねてきた二人と情報の整理を行う。どうも状況や話の流れからして同じ手口を使っているらしかった。

「どれもこれも似通ってる。魔術師が雇うように頼み込んで、断ったら新聞屋に取り上げさせて野次馬を呼び寄せる…」
「そんなに仕事不足なのか?」

 シェリルが他の場所で手にした情報を照らし合わせてみると、どれも似たような経緯を辿っており、偶然の一致とするにはあまりにも不可解であった。クリスは差別を訴えている魔術師達の目的を口にしながら考えていたが、そんな彼に対してイゾウが溜息まじりに首を振る。

「そんなわけ無いだろ。奴らは店で騒いでからはそれっきり来てない。俺が調べた資産家の中には賠償金まで払わされた奴もいたそうだ…まあ、そんな事だろうな」

 駅前で立ち往生しながら三人で記録をした手帳を睨んでいると、騎士団の兵士と思われる青年が息を切らして駆け寄って来るのを目にした。

「ご報告です!駅前の郵便局付近にある酒場で小規模の暴動が発生中!数名の兵士を鎮圧に向かわせていますが、一部暴徒が凶器を携行しているとの事!」

 敬礼を済ませた兵士からの報告に、一連の騒動との繋がりを感じた三人が急いで急行すると、案の定の光景であった。店に向かって石を投げつけるだけでなく、店のドアを壊そうと斧まで持ち出している者さえ現れた。

「…おい、あそこ」

 イゾウが示した先には、その場を離れようとする女性の姿があった。明らかに店を避けている様な雰囲気があるだけでなく、こちらに気づいたのか走り始める。

「話でも聞きに行ってくれ。この場は俺が何とかする」

 すぐさま不審者を二人に追わせると、クリスは肩を鳴らしながら暴動が起きている目の前の酒場へと歩いていく。喧嘩に巻き込まれないものかと少し期待する自分に気づいたクリスは、すぐに冷静になって目の前の仕事に集中することにした。
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