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二章:招かれざる者
第13話 人権屋にご用心 その②
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結局捕まってしまった女性は、イゾウとシェリルによって路地裏に連れ込まれると逃げられない様に左右を固められた状態で壁際に立たされてしまう。イゾウは腰に携えている鞘から刀の刃をチラリと垣間見せ、抵抗すればいつでも始末できる準備がある事を遠回しに伝えた。
「なぜあの現場から逃げていたの?」
「…あんな光景に出くわしたら誰だって避けようとするに決まってるじゃない」
女性は強めの口調で尋ねて来るシェリルに対して物怖じする事なく言い返す。
「その割には俺達と目が合うまで動く様子が無かったがな。なぜだろうか…例えば、暴動の進捗を確認しておかないといけない理由があったから――」
「私が手引きをしてるとでも言いたげね。冗談はよして。大体あの場にいた大勢の中からなぜ私を選んだの?私が魔術師だから?」
挑発気味に彼女へ問いをぶつけるイゾウに対しても、女性魔術師は食って掛かる様に反論してきた。とにかく捲し立てて自分達を食い下がらせる気なのだろうとシェリルは推測し、辛抱強く説得する方針に切り替える。
「あの場で急に逃げ出したから少し話を聞いてみたかったの…ついさっき、調査で向かった店でも同じような事態が起こってたらしくてね。魔術師達が差別を訴えた事がキッカケで暴徒が押し寄せていると証言していたのよ…心当たりが無いにも拘わらず」
シェリルが手柔らかに事情を説明して近況について教えていると、女性魔術師は黙りこくってしまった。
「否定しない所を見る限り、思い当たる節があるようだな」
「そうよね…もう隠せ無さそう」
イゾウから遠回しに自白を促されると、女性魔術師は静かに頷いてそう答えた。思いの外、あっけなくボロを出した彼女の肩にシェリルはそっと手を置く。
「正直な所、あなたを捕まえた理由は他にもあって…色んな報告に書かれていた差別を訴える魔術師達の中にあなたと特徴が似てる人物がいたの。知っているならで良いけど、もしちゃんと事情を話してくれたら私達からも頼んで罪を軽くする事も出来る…どうする?」
シェリルからの提案に、全て見透かされているのかもしれないと女性魔術師は諦めたらしく、首を横に振って溜息交じりに事情を語り始めた。仕事に就けない生活に困っている時にある会社から仕事があると紹介されたのが事の始まりであり、自分以外にもお抱えの魔術師達がいる事を説明した。断ろうともしたが、一部とはいえ多額の賠償金を貰えるという魅力から逃れられずに今日まで続けていたという。
「その様子ならお前達を操っている連中は俺達が嗅ぎつける事も想定しているだろう。すぐに逃げる可能性だってある…責任の全てをお前たちに押し付けて、な」
「そんな…」
「正直に話してくれて良かった。今なら間に合うかもしれないし、その会社がどこにあるかを教えて」
推測を立てたイゾウがそれを述べると、女性魔術師は愕然としたように不安を顔に表したが、シェリルはそんな彼女に優しくフォローを入れてから自分達に任せて欲しいと会社の所在を聞き出した。
――――話を聞こうとしない暴徒達を、クリスは最終的に力づくで抑え込む羽目になってしまった。死んではいない様子の暴徒達だったが、何人かは腕や体の骨を折られたらしく呻きながら地べたに這いつくばっている。
「ま、まるで悪魔だ…!」
兵士達も大暴れしたクリスに対して思わず感嘆の声を漏らす。周囲の目を特に気にすることなくクリスは倒れている暴徒達のもとへ寄り、匍匐でその場から離れようと藻掻く一人を見つけると、服の襟を掴んで無理やり引き起こした。
「頼む…殺さないでくれ」
「安心しろ、誰も殺してない。もっとも…五体満足でいられるかは返答次第だ」
命乞いをする男に対してクリスは脅しを交えつつ、生かしておくことを約束してから質問に移り始めた。
「なぜこんな真似を?」
「頼まれたんだよ!ウォッチホーク社だ!金をやるから暴動を起こしてくれって!」
質問の答えとして証言された会社名にクリスは心当たりがあった。自身が今回の騒動の情報として使っていた新聞を発行している会社であるが、近年は他社が発行している雑誌や新聞に苦戦し、倒産も近いという話を耳にしていたのである。
「会社がどこにあるか分かるか?」
「ここから先…真っすぐ行った後、広場の西側にある煉瓦造りの建物だ!看板もあるから分かるはずだよ!」
指で指し示しながら簡単にと情報を吐いたあたり、どうやら雇い主に対する義理といったものはてんで持ち合わせていないらしかった。クリスは一度頷いて彼の襟首から手を離すと、体の汚れを軽く叩いてあげた。
「情報提供に感謝する…な、簡単だったろ?」
「じゃあ、許してもらえるって事で?」
「それとこれは別問題だ」
情報に関する礼を言った所で男は見逃してくれると勘違いしたらしく、少し馴れなれしく聞いて来る。クリスが即座に否定し、顎に一発パンチを入れると男は前のめりになって倒れこんだ。
「事情徴収をして来よう。こいつらを頼む」
「はっ!了解しました!」
クリスは暴徒達を拘束するように兵士に頼み、兵士もまたそれに威勢よく返事をする。作業を始めるのを確認したクリスは男の言っていた所在を頭の中で復唱し、ウォッチホーク社の拠点を探しに向かった。
「なぜあの現場から逃げていたの?」
「…あんな光景に出くわしたら誰だって避けようとするに決まってるじゃない」
女性は強めの口調で尋ねて来るシェリルに対して物怖じする事なく言い返す。
「その割には俺達と目が合うまで動く様子が無かったがな。なぜだろうか…例えば、暴動の進捗を確認しておかないといけない理由があったから――」
「私が手引きをしてるとでも言いたげね。冗談はよして。大体あの場にいた大勢の中からなぜ私を選んだの?私が魔術師だから?」
挑発気味に彼女へ問いをぶつけるイゾウに対しても、女性魔術師は食って掛かる様に反論してきた。とにかく捲し立てて自分達を食い下がらせる気なのだろうとシェリルは推測し、辛抱強く説得する方針に切り替える。
「あの場で急に逃げ出したから少し話を聞いてみたかったの…ついさっき、調査で向かった店でも同じような事態が起こってたらしくてね。魔術師達が差別を訴えた事がキッカケで暴徒が押し寄せていると証言していたのよ…心当たりが無いにも拘わらず」
シェリルが手柔らかに事情を説明して近況について教えていると、女性魔術師は黙りこくってしまった。
「否定しない所を見る限り、思い当たる節があるようだな」
「そうよね…もう隠せ無さそう」
イゾウから遠回しに自白を促されると、女性魔術師は静かに頷いてそう答えた。思いの外、あっけなくボロを出した彼女の肩にシェリルはそっと手を置く。
「正直な所、あなたを捕まえた理由は他にもあって…色んな報告に書かれていた差別を訴える魔術師達の中にあなたと特徴が似てる人物がいたの。知っているならで良いけど、もしちゃんと事情を話してくれたら私達からも頼んで罪を軽くする事も出来る…どうする?」
シェリルからの提案に、全て見透かされているのかもしれないと女性魔術師は諦めたらしく、首を横に振って溜息交じりに事情を語り始めた。仕事に就けない生活に困っている時にある会社から仕事があると紹介されたのが事の始まりであり、自分以外にもお抱えの魔術師達がいる事を説明した。断ろうともしたが、一部とはいえ多額の賠償金を貰えるという魅力から逃れられずに今日まで続けていたという。
「その様子ならお前達を操っている連中は俺達が嗅ぎつける事も想定しているだろう。すぐに逃げる可能性だってある…責任の全てをお前たちに押し付けて、な」
「そんな…」
「正直に話してくれて良かった。今なら間に合うかもしれないし、その会社がどこにあるかを教えて」
推測を立てたイゾウがそれを述べると、女性魔術師は愕然としたように不安を顔に表したが、シェリルはそんな彼女に優しくフォローを入れてから自分達に任せて欲しいと会社の所在を聞き出した。
――――話を聞こうとしない暴徒達を、クリスは最終的に力づくで抑え込む羽目になってしまった。死んではいない様子の暴徒達だったが、何人かは腕や体の骨を折られたらしく呻きながら地べたに這いつくばっている。
「ま、まるで悪魔だ…!」
兵士達も大暴れしたクリスに対して思わず感嘆の声を漏らす。周囲の目を特に気にすることなくクリスは倒れている暴徒達のもとへ寄り、匍匐でその場から離れようと藻掻く一人を見つけると、服の襟を掴んで無理やり引き起こした。
「頼む…殺さないでくれ」
「安心しろ、誰も殺してない。もっとも…五体満足でいられるかは返答次第だ」
命乞いをする男に対してクリスは脅しを交えつつ、生かしておくことを約束してから質問に移り始めた。
「なぜこんな真似を?」
「頼まれたんだよ!ウォッチホーク社だ!金をやるから暴動を起こしてくれって!」
質問の答えとして証言された会社名にクリスは心当たりがあった。自身が今回の騒動の情報として使っていた新聞を発行している会社であるが、近年は他社が発行している雑誌や新聞に苦戦し、倒産も近いという話を耳にしていたのである。
「会社がどこにあるか分かるか?」
「ここから先…真っすぐ行った後、広場の西側にある煉瓦造りの建物だ!看板もあるから分かるはずだよ!」
指で指し示しながら簡単にと情報を吐いたあたり、どうやら雇い主に対する義理といったものはてんで持ち合わせていないらしかった。クリスは一度頷いて彼の襟首から手を離すと、体の汚れを軽く叩いてあげた。
「情報提供に感謝する…な、簡単だったろ?」
「じゃあ、許してもらえるって事で?」
「それとこれは別問題だ」
情報に関する礼を言った所で男は見逃してくれると勘違いしたらしく、少し馴れなれしく聞いて来る。クリスが即座に否定し、顎に一発パンチを入れると男は前のめりになって倒れこんだ。
「事情徴収をして来よう。こいつらを頼む」
「はっ!了解しました!」
クリスは暴徒達を拘束するように兵士に頼み、兵士もまたそれに威勢よく返事をする。作業を始めるのを確認したクリスは男の言っていた所在を頭の中で復唱し、ウォッチホーク社の拠点を探しに向かった。
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