フェイト・オブ・ザ・ウィザード~元伝説の天才魔術師は弾丸と拳を信じてる~

シノヤン

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九章:瓦解

第68話 執念

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 剣が交わるたびに甲高い金属音が響き渡る。エントランスホールで発生していた戦いの事など知りもせずに、メリッサとゲンサイは必死に攻防を繰り広げていた。二本の刀を巧みに使って連撃で追い詰めるゲンサイに対して、体術も交えながらメリッサは防御に徹していた。途中で体に掠り、髪の毛や服の装飾が切り落とされてしまいながらも何とか凌ぎ切っている。

「…女だと見くびっていたようだ」
「はぁ…はぁ…伊達に鍛えてないもの」

 距離を置いて牽制をしあっている時に、そのような短い会話がなされるのを兵士達は固まったまま見ていた。自分達が立ち入れる領域では無い事を本能的に理解していたのかもしれない。

 互いが同じタイミングで息を吐き出した瞬間、メリッサが一気に仕掛けた。来ることなど分かっていたとゲンサイも彼女を迎え撃つ。鍔迫り合いに持ち込んで、膂力に物を言わせて彼女を押し、そして振りかざして来たサーベルを刀で弾き返してみせた。 

 サーベルを持った右腕が弾かれてしまい、体がガラ空きになってしまった瞬間を狙って、ゲンサイは刀で彼女を斬りつけようとして来た。メリッサは咄嗟に背後へサーベルを落とし、床に落ちる前に左手でキャッチさせてから攻撃を防ぐように構えを取る。間一髪であった。

「…チッ」

 再び鍔迫り合いのような形になってしまい、刀に力を込めながら思わず舌打ちをするゲンサイだったが、メリッサは気取られないように兵士達の方を見た。今なら撃ってもバレないと、カルロスはいち早く構えたが不安の波が押し寄せてくる。思わず手元が震えそうにさえなった。

 それでもやるしか無いんだと覚悟を決めて引き金を引いた。放たれた弾はゲンサイの背中へと食い込み、彼が怯んだような声を上げる。そのまま残りの兵士達も立て続けに援護を行い、二発三発と弾丸が命中した。辛うじて急所では無かったものの、ゲンサイは苦痛に顔を歪めている。

 好機と見たメリッサは怯んだ彼を押し返して脇腹へキックをかましたが、彼は痛みに耐えながら攻撃を防ぐ。蹴りを受け止めてから壁へメリッサを叩きつけ、そのまま刀を彼女の肩部へと突き刺した。

「うああああああああ!!」

 激痛が走った。悲鳴を上げて藻掻こうとするメリッサだったが、貫通した刀は壁に突き刺さってしまい抜けなくなっている。ゲンサイはそんな彼女を尻目に残る新兵達を視界に捉えて歩き始めた。一本しか刀が無いとはいえ、経験の少ない彼らにとってはあまりにも十分すぎる。あっという間に距離を詰められた新兵達は皆、成す術もなく切り捨てられていった。

「く…そおおおお !」

 刀を鷲掴みにして無理やり引っこ抜いたメリッサは、そのまま走り出して体当たりで彼にぶつかり、彼の背後にあった資料室と思われる部屋に二人して雪崩れ込む。そのまま馬乗りになろうとしたが、ゲンサイが隠し持っていたナイフで彼女の脇腹を刺した。怯んだ彼女を蹴り倒し、逆に上から抑えつけつつ彼女の顔面を殴り続ける。再び彼女に突き刺さっているナイフを抜き取ってから、顔面に目掛けて振り下ろそうとした時、自分の股間に何かが当たっているのを感じた。

「防いでみろよクソ野郎」

 彼女は隠していたデリンジャーをこっそりと手に持っていたのである。一言だけ罵倒を口にして、腹へ一発放つと血が飛び散った。すかさず二発目を胸のど真ん中へ発射すると、ゲンサイは少しだけ呻いてから彼女の方へ倒れこんでくる。血みどろになりながらも何とか彼を押しのけてから、血が溢れ出る脇腹を抑えてメリッサは辛うじて立ち上がった。碌に力も入らない片腕で何とかポーションを取り出してから口で栓を開け、中の液体を一気に口の中へ流し込む。

「うぐっ…」

 押し寄せて来る吐き気を必死に我慢して飲み込むと、幾らか気分が楽になった。それでも痛みが残る体に鞭を打って彼女は歩き出す。

「メリッサ…」

 メリッサが部屋を出ると、両手に拳銃を携えたクリスがこちらへ歩いて来ながら呟いた。笑って見せる彼女だったが、それに対してクリスは突如足を止めてから彼女に銃口を向ける。

「え ?」
「伏せろ !」

 眉間に皺を寄せながら言い放った彼の言葉を聞き、メリッサが条件反射の如く倒れ込んだ直後に拳銃から弾丸が発射される。息も絶え絶えに忍び寄っていたゲンサイに当たると、銃弾は彼の体に立派な風穴を作り出した。

「大丈夫か ?」

 仰向けに倒れている彼の死体をメリッサが見ていると、クリスが駆け寄って身を案じてくれた。先程の殺気を剥き出しにした表情は消え失せ、いつもの野暮ったさの残る不安そうな顔をしている。その変わり身の早さに少し戸惑った。

「平気…だけど…」
「そう強がるな。脇腹は抑えててやるから肩を貸せ」

 クリスに言われると、メリッサは彼の肩に腕を回した。もたれ掛かりながら階段を下っていき、息を切らしながらエントランスホールへと辿り着く。出口までもうすぐという地点まで差し掛かった時、クリスが始末したリュドミーラの亡骸があった。辺りが出血で真っ赤に染まっている。

「…これはあなたが ?」
「ああ」

”なぜ殺したの…!?”
”違うんだ…あいつらは…俺はただ…”
”出て行って…二度と戻って来ないで… !”
”嘘だ…そんな…!!”

 メリッサに目をやった時、ふと過去の記憶がクリスの脳裏をよぎる。

「何かあったの ?急に止まっちゃって」
「あ…ああ。すまん、考え事をしていた」

 不審に思って話しかけて来たメリッサに嘘をつきながら、ようやく銀行の外へ出る事が出来た。雨が降り続けてはいるが、血生臭さのない新鮮な空気をようやく吸い込んでいると、兵士達もこちらへ近づいて来る。

「怪我人と死者が出てる。中に残ったままだ…他に異常は ?」
「それなんですが…一人、捕まえました」

 クリスが状況を伝えると、見張りをしていた兵士が思いもよらない報告を返してくる。聞けば急に出て来て助けを求めたので話を聞いてみると、銀行強盗の一人だったらしい。クリスはメリッサを預けて彼が乗っているという馬車へ案内するように言った。

「ヒッ… !」

 手錠を掛けられた強盗が落ち着かない様子で席に座っていると、馬車のドアを勢いよく開けてクリスが入り込んできた。

「お、俺は別にあんたの命なんか狙ってねえよ !マジのマジで !」
「そんな事はどうでも良い。答えるんだ…ギャッツ・ニコール・ドラグノフ、アンディ・マルガレータ・コーマック…もしくはガトゥーシ・クロード。誰についてでも構わん、居所を教えろ」
「クロードだ !そいつなら知ってる…確か今はホテルに隠れている !街で一番デカい…えっと名前は忘れたが…とにかく一番デカいホテルだ !それだけは間違いない !」

 これまた忠誠心の無い小物であった。とにかく見逃してもらおうと情報を喋るだけ喋った強盗は、ご機嫌を窺っているのか引きつって怯えた顔でこちらを見ている。涙目であった。

「…嘘だったら戻って来るからな」
「嘘じゃないです !マジです !」

 念のために釘を刺してからクリスは馬車から降りた。メリッサの方は兵士に任せて馬を一頭だけクリスは借りると、心当たりのある場所へと雨に打たれながら走り去っていった。
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