23 / 112
壱ノ章:災いを継ぐ者
第23話 接待
しおりを挟む
煙を巻き上げながら葦が丘の街に敷かれた道路を、一台のステーションワゴン型のスポーツカーが疾走していた。カーブに差し掛かればタイヤが削り切れてしまうのではないかという勢いで道路を横に滑らせて曲がり、エンジンの轟音が響くたびに排気筒からは黄と橙の混ざった炎が時折瞬いた。やがて和風建築の料亭が見えてくると、その入り口に車は急停車する。出迎えをするために立っていた従業員たちも、特に動じず頭を下げだした。今に始まった事ではないのだ。
「着きました」
ひとまず車のギアをローに戻した織江は、少しズレた眼鏡の位置を調整しながら告げる。
「おう、ありがと。酒は無理だろうが飯ぐらい一緒に――」
「いえ、駐車場で索敵を行いつつ待機します」
「了解。何かあったら知らせてくれ。お土産はいるか ?」
「…柿の葉寿司を」
「あいよ。龍人、早く降りろ」
颯真と織江が約束をした後に龍人がゆっくりと、ふらつきながら助手席から姿を見せる。胃からこみ上げてきそうな何かを堪え、えづきを耐えるように口を噤んでいた。織江が車と共に颯爽と駐車場へ向かった直後、この後の事態を察した従業員が持ってきてくれた紙袋を無言で顔に近づける。そして吐いた。
「……次からは安全運転で頼む」
「ええ~ ? 楽しかったろ ?」
紙袋を携えたままグロッキーな様子で心細く歩く龍人だが、楽しんでいた颯真からすれば理解できない反応であった。せっかくの週末の楽しみを味合わせてやったというのに恩知らずな奴め。颯真は龍人に対してそんな思いを抱きながらも、二人で石畳を歩き、滑らかな肌触りの暖簾をくぐって玄関へと辿り着く。
だいぶ気分が良くなって来たのか、出迎えてくれた従業員へ会釈をしながら龍人は靴を脱いだが、同じく靴を脱いでいた颯真の足を見て疑問に思った。ミリタリーブーツを履いていた颯真だが、靴から露になったのは鳥類特有の鉤爪を持った三本指である。それもかなり大きい。
「その足、靴に入るのか ?」
見た目はただの履物だというのに、どうやって足を収めているのか。そこが気になってしょうがなかった。
「亜空穴の中から採取できる”黒擁塵”って物質があるんだ。水や複数の化学薬品と混ぜて大気中にばら撒く事で簡易的な別の空間を作り出せる。まあ、要するに〇次元ポケットだな。その黒擁塵を靴の内側に仕込んでいるお陰で、どんな履物だろうと、どんな足のサイズであろうと自分好みの靴を履けちまう。素晴らしいだろ ? 俺が考案した。既に知ってると思うが、俺が生み出したの物は他にもあるぞ。例えば―――」
よく手入れをされた艶のある檜の廊下を歩きながら颯真は説明をする。やがて二人は曲がり角を曲がった先にある奥の個室、庭園が良く見える席へと案内された。枯山水や錦鯉の泳ぐ池が供えられており、その上には小さく光ってうねりながら飛行する細長い虫の様な生物もいる。聞けば空魚というらしい。魚要素がどの辺りにあるのかは不明だが。
「―――つまるところ、この仁豪町に関して言えばウチの財閥が関わってない製品なんか存在しないってわけだ。機械、武器…鉛筆や下着に至るまで。ほぼ全部だぞ ?」
「ああ知ってる。博物館で散々見せられたよ。義翼を作ったのもお前なんだって ? 今は付けてないみたいだが」
「おう。いつも付けておく必要は無い。重いし…それに呼べば来るし」
「呼べば ?」
テーブルをはさんだ状態から、向かい合う形で二人は座り込む。互いに胡坐をかいていたが颯真は上着の下に備えている銃器を少しだけ確認していた。いつでも使えるようにしているのかもしれないが、このような場ではいささか物騒である。
「まあひとまず面接じみた経歴語りは無しにしようぜ。この店はお通しから甘味まで最高だぞ。和食は好きか ? 日本酒は ? それとも焼酎がいいか ?」
うずうずしているかの様に手をこすり合わせながら颯真が目を輝かせる。
「一応言っとくが金持ってないぞ」
「構わない。連れ出したのは俺だ。好きなモン食え…あっと、当ててやろうか。何が目的だ… ? だろ ?」
颯真は人差し指を小さく上げて龍人の反論を牽制する。
「別に首輪付けて飼おうとしてるわけじゃねえよ。だが老師様も爺ちゃんの肩を持ってる立場なんだ。その身内である俺やお前が仲良くしてて損はないだろ。それにこれは、俺にとって先行投資ってヤツだ」
「どういう事だ ?」
「味方につけておいた方が後々良いかもしれないと思ったんだよ。お前に関する老師の動きを見るに断言できる。お前はたぶん…今後、仁豪町において台風の目になる男だ」
運ばれてきた酒を自分と龍人の盃に注いで颯真は笑った。
「着きました」
ひとまず車のギアをローに戻した織江は、少しズレた眼鏡の位置を調整しながら告げる。
「おう、ありがと。酒は無理だろうが飯ぐらい一緒に――」
「いえ、駐車場で索敵を行いつつ待機します」
「了解。何かあったら知らせてくれ。お土産はいるか ?」
「…柿の葉寿司を」
「あいよ。龍人、早く降りろ」
颯真と織江が約束をした後に龍人がゆっくりと、ふらつきながら助手席から姿を見せる。胃からこみ上げてきそうな何かを堪え、えづきを耐えるように口を噤んでいた。織江が車と共に颯爽と駐車場へ向かった直後、この後の事態を察した従業員が持ってきてくれた紙袋を無言で顔に近づける。そして吐いた。
「……次からは安全運転で頼む」
「ええ~ ? 楽しかったろ ?」
紙袋を携えたままグロッキーな様子で心細く歩く龍人だが、楽しんでいた颯真からすれば理解できない反応であった。せっかくの週末の楽しみを味合わせてやったというのに恩知らずな奴め。颯真は龍人に対してそんな思いを抱きながらも、二人で石畳を歩き、滑らかな肌触りの暖簾をくぐって玄関へと辿り着く。
だいぶ気分が良くなって来たのか、出迎えてくれた従業員へ会釈をしながら龍人は靴を脱いだが、同じく靴を脱いでいた颯真の足を見て疑問に思った。ミリタリーブーツを履いていた颯真だが、靴から露になったのは鳥類特有の鉤爪を持った三本指である。それもかなり大きい。
「その足、靴に入るのか ?」
見た目はただの履物だというのに、どうやって足を収めているのか。そこが気になってしょうがなかった。
「亜空穴の中から採取できる”黒擁塵”って物質があるんだ。水や複数の化学薬品と混ぜて大気中にばら撒く事で簡易的な別の空間を作り出せる。まあ、要するに〇次元ポケットだな。その黒擁塵を靴の内側に仕込んでいるお陰で、どんな履物だろうと、どんな足のサイズであろうと自分好みの靴を履けちまう。素晴らしいだろ ? 俺が考案した。既に知ってると思うが、俺が生み出したの物は他にもあるぞ。例えば―――」
よく手入れをされた艶のある檜の廊下を歩きながら颯真は説明をする。やがて二人は曲がり角を曲がった先にある奥の個室、庭園が良く見える席へと案内された。枯山水や錦鯉の泳ぐ池が供えられており、その上には小さく光ってうねりながら飛行する細長い虫の様な生物もいる。聞けば空魚というらしい。魚要素がどの辺りにあるのかは不明だが。
「―――つまるところ、この仁豪町に関して言えばウチの財閥が関わってない製品なんか存在しないってわけだ。機械、武器…鉛筆や下着に至るまで。ほぼ全部だぞ ?」
「ああ知ってる。博物館で散々見せられたよ。義翼を作ったのもお前なんだって ? 今は付けてないみたいだが」
「おう。いつも付けておく必要は無い。重いし…それに呼べば来るし」
「呼べば ?」
テーブルをはさんだ状態から、向かい合う形で二人は座り込む。互いに胡坐をかいていたが颯真は上着の下に備えている銃器を少しだけ確認していた。いつでも使えるようにしているのかもしれないが、このような場ではいささか物騒である。
「まあひとまず面接じみた経歴語りは無しにしようぜ。この店はお通しから甘味まで最高だぞ。和食は好きか ? 日本酒は ? それとも焼酎がいいか ?」
うずうずしているかの様に手をこすり合わせながら颯真が目を輝かせる。
「一応言っとくが金持ってないぞ」
「構わない。連れ出したのは俺だ。好きなモン食え…あっと、当ててやろうか。何が目的だ… ? だろ ?」
颯真は人差し指を小さく上げて龍人の反論を牽制する。
「別に首輪付けて飼おうとしてるわけじゃねえよ。だが老師様も爺ちゃんの肩を持ってる立場なんだ。その身内である俺やお前が仲良くしてて損はないだろ。それにこれは、俺にとって先行投資ってヤツだ」
「どういう事だ ?」
「味方につけておいた方が後々良いかもしれないと思ったんだよ。お前に関する老師の動きを見るに断言できる。お前はたぶん…今後、仁豪町において台風の目になる男だ」
運ばれてきた酒を自分と龍人の盃に注いで颯真は笑った。
0
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました
グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れ果てた俺がたどり着いたのは、圧倒的な自由度を誇るVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。
選んだ職業は、幼い頃から密かに憧れていた“料理人”。しかし戦闘とは無縁のその職業は、目立つこともなく、ゲーム内でも完全に負け組。素材を集めては料理を作るだけの、地味で退屈な日々が続いていた。
だが、ある日突然――運命は動き出す。
フレンドに誘われて参加したレベル上げの最中、突如として現れたネームドモンスター「猛き猪」。本来なら三パーティ十八人で挑むべき強敵に対し、俺たちはたった六人。しかも、頼みの綱であるアタッカーたちはログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク・クマサン、ヒーラーのミコトさん、そして非戦闘職の俺だけ。
「逃げろ」と言われても、仲間を見捨てるわけにはいかない。
死を覚悟し、包丁を構えたその瞬間――料理スキルがまさかの効果を発揮し、常識外のダメージがモンスターに突き刺さる。
この予想外の一撃が、俺の運命を一変させた。
孤独だった俺がギルドを立ち上げ、仲間と出会い、ひょんなことからクマサンの意外すぎる正体を知り、ついにはVチューバーとしての活動まで始めることに。
リアルでは無職、ゲームでは負け組職業。
そんな俺が、仲間と共にゲームと現実の垣根を越えて奇跡を起こしていく物語が、いま始まる。
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
赤金武蔵
ファンタジー
日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる