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チャプター1:前兆
第5話 鉄拳制裁
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次々と群がって来るウィンプ達をイナバは次々と薙ぎ倒していった。パンチや蹴りで次々と吹き飛ばされては、壁や塀に叩きつけられては倒れていく。そして倒される度に、彼らは砂粒の様な粒子になり消えてしまった。時折腕や足に噛みつかれ、鋭い痛みに苛まれるが、それを力づくで振り払っては蹴飛ばすか踏んづけていった。
「思ったより痛くないぞ…ん?」
怪我は覚悟していたものの、思っていたほどの苦痛では無かったのもあってかイナバは噛み跡をマジマジと見ていた。だがその直後、傷から滴っていた血が部屋で見た時と同じような粒子に変化したかと思うと、そのまま傷口を塞いでしまう。しまいには皮膚と同化し完全に噛み跡が消えてしまうと、イナバは思わず驚いてしまった。
(まさか…治ったのか?)
そう思ったイナバは先程噛まれた足も見てみるが、こちらも傷跡らしいものは無くなっていた。イナバはこのせいで少し調子に乗り始めたのか、ウォーミングアップをするかのように体を少しほぐして、迫りくる未確認生命体達に余裕を見せつけ始める。
「よーし、いくらでも来いよ。俺なんかに出会っちまった運の悪さを恨むんだな !」
自信満々に言い終えた後、もう少しカッコいい事を言えなかったものかと悩んだが、敵は当然待ってくれなかった。何よりホールからはまだまだ湧き出てきており、そのどれもがイナバに向かって来る。遂にはブロウラーさえもがこちらへ迫っていた。なぜ、警官達の元へは行かないのかいささか疑問ではあったが、本能的に優先すべき相手だと感じているのかもしれないとイナバは思った。
ウィンプ達を片付けていると、ブロウラーが雑魚を押しのけながら仕掛けてきた。急いで振り下ろされた拳を避けると、拳はアスファルトに亀裂を入れてみせる。食らったらひとたまりもなさそうだと距離を取るが、こちらだってそう簡単には倒せないぞと、イナバは再び向かって行った。所詮図体がデカいだけだと思いつつ、続けざまの攻撃を躱して肥満体の様な腹に全力でパンチを放った。
拳に鈍い痛みと痺れが走った。岩石の様な皮膚がちょっとやそっとの攻撃では壊れない程に頑丈である事と、なぜ警官達が援軍の到着を待とうしていたのかが少し分かったような気がした瞬間、ブロウラーの拳が横から襲い掛かって来た。イナバはそのまま弾き飛ばされて壁にショッピングモールの壁に激突すると、中々の大きさを持つクレーターを作り上げた。
「痛ってぇ…」
何とか立ち直るが、体中が痛かった。顔を拭った際に手に血が付いていた事もあってか、口が切れている事に気づいたが今度は先ほどの様に傷が治っていないらしく、口元にヒリヒリとした痛みが続いていた。思えば帰宅してから何も食事をしていない事にイナバが気づくと、急に腹が減り出す。
(自分から首を突っ込んでおいて今更だが、散々な目に遭ってるな本当に…)
そんな思いで歩き出そうとすると、何か巨大な物体が目の前に飛んできた。慌てて両腕を突き出し、抱きしめるように受け止めると少しそれが冷たく、固い物であることが肌を通して分かった。投げ捨てた際にそれが大型の電動バイクである事が分かると、イナバはある考えを閃く。
ブロウラーがのそのそとこちらへ詰め寄り、再び拳を叩きつけてこようとした瞬間、イナバはすぐにバイクを掴み、ブロウラーの顔目掛けて力いっぱいぶつけた。巨体が大きく仰け反り、顔にヒビの様な物が入っているのが見える。
イナバは反撃の隙を与えまいと既にボロボロになっているバイクを跪いているブロウラーの頭部に何度も叩きつける。さながらパイプ椅子でしばき倒すプロレスラーであった。使っている得物の重量やその威力は雲泥の差だが。
遂には体に纏わりついていた外殻が砕け、皮膚が見え隠れするようになったところで、イナバはダメ押しと言わんばかりに廃車同然となったバイクを叩きつけた。ブロウラーが動かなくなり、辺りに体液が飛び散っていたがイナバはそんな事には目もくれずへたり込んだ。大勢の化け物を相手取るには、体力的にも辛いものがあったがとにかく体を回復させたいと立ち上がって次の行動を考えようとした直後にそれは起こった。
体から大量の粒子が放出され、目の前で倒れているブロウラーを包み込む。すると、ブロウラーの体は粒子に包み込まれたままこちらへ引き摺られるように向かって来た。
「な、なんだあっ!?」
思わず叫んだイナバは慌てて逃げ出そうとしたが、それよりも早く粒子達はブロウラーの体を粒子に分解し、混ざり合いながらイナバの体へ纏わりついて来た。部屋で起きた異変と同じように粒子達が消え失せると、空腹感だけでなく体に残っていた痛みや疲れが一気に消えたのをイナバは感じた。
「なるほど…食事するより効率は良さそうだけどよ…」
そう言うとイナバはこれから先、何度もあんなグロテスクな連中を体に取り込まなきゃいけないのかと少し身震いをする。
それを遠目に見ていた警官達は、交差点で起きている人の業を離れた光景に口が塞がらなかった。
「み、見たか今の?」
「あれがアマルガム…人の皮被ったバケモンじゃねえか」
そんな言葉が遠くから耳に入ったイナバは少しムッとしたが、すぐにホールから新たなブロウラーが現れるのが見えると、再び構え直す。戦おうとした直前、後ろを振り向き「聞こえてるからな」と大声で言うと、警官達は少々慄いた。
しかし、状況は良いとは言えなかった。残り一体とはいえ、先程の様に武器として使えそうな物が周りに落ちていなかったのである。どうにかあの鎧の様な皮膚を破る方法が無いかと頭の中で考えていると、突如として腕に違和感を感じた。見てみると、腕が粒子に包まれ始めており、次第に重量感を増していく。
「どういうことだ、これ…!?」
粒子が消えると、そこには本来の自分の腕とは違うゴツゴツとした岩石の様な腕があった。確かに重いが、指先までどうやら問題なく動かせるようで、試しに拳を握ってぶつけ合わせてみると重々しい衝突音が小さく鳴った。
「新しい武器がアンロックされましたってとこか?」
子供の頃に遊んでいたゲームを思い出したイナバは、少し高揚しながらそんなことを呟く。ブロウラーが向かってくると、同時にイナバも走り出した。そして攻撃をしてくるよりも早く懐に潜り込み、腹に目掛けてもう一度拳を撃ち込む。何かが砕けるような音が聞こえたかと思うと、ブロウラーが大きくよろけた。腹には拳がめり込んだ痕跡と、周囲にヒビが入っているのが見える。間違いなく効いていた。
「攻撃が利くんならこっちのもんだぜ !」
一方、遅れて到着したヘンリーとレイは目の前で繰り広げられている戦いを少し信じられないという様に眺めた。
「ナーシャ。今のコレ見えてるか?」
「バッチリだぜ…マジかよ、武装形成まで使えるのか…」
困惑しながら連絡をするヘンリーに対してナーシャはそう答えながら、カメラをの映像を拡大させて観察をしていた。
「二人とも…どうにかしてそいつを捕まえてくれ」
「だからさっきのアレを無人機で送って貰ったの。やるだけやってみる」
「気を付けろよ…試作品らしいから効果には時間制限があるぞ」
通話越しに指令と届いた装備に関する説明を聞き終えたレイは、バイクに積んであった箱を開けた。中にはグローブやマスク、そして足先まで覆い隠すほどに丈のある長袖の雨具の様な物が入っていた。レイはそれを取り出しながら大急ぎで身に付けていく。
その頃イナバは、一方的にブロウラーを攻め立てていた。単調かつ遅いブロウラーの攻撃では彼に当てる事もままならず、ひたすら体中を痛めつけられていくばかりだった。体中の外殻がボロボロになり、体液もあちこちから滴っている。
「これで…トドメだぁっ ! 」
息も絶え絶えなブロウラーにイナバは飛び掛かり渾身の右ストレートを放つと、見事顔面に当たった。ブロウラーはそのまま仰向けに倒れると、ピクリとも動かなくなってしまった。
疲れたように息を少し切らしつつ、イナバは未確認生命体達を自分が倒したという事実や、自分の手にした力が想像以上に強力であるという事に対して得意げになりつつあった。失う物もあったが得る物もあったなどと思っていると、遠くから先程自分を追っていたと思われる強化外骨格を纏った兵士がこちらへ歩み寄ってきていた。今ならば恐れるに足らないとイナバは拳を構えるが、戦うつもりが無いかのように兵士は何もしようとしなかった。
「落ち着いてくれ。お前と戦うつもりはない」
「じゃあ何だよ?そんな恰好で言われても説得力がないぜ」
話しかけてくるヘンリーに対して、イナバは装備を指差しながら言った。
「これに関しては念のためだ。お前自身も分かっているだろうが、その体には既に恐ろしい力が備わっている。悪いが、俺達と一緒に来てもらうぞ」
「嫌だと言ったら?」
「言わせない」
会話の直後、イナバは背後から足音が聞こえたような気がした。振り返ろうとした瞬間、凄まじい勢いと力でヘンリーに体を掴まれる。どうにか抵抗しようとパンチを繰り出すと、拳は胸部の装甲に当たった。ヘンリーはそのまま少し吹き飛ばされるが、なんとか着地をする。
(何度も見てきたが、相変わらず恐ろしい力だ…)
ヘンリーがそんなことを思っている内に、イナバはその場から逃げ出そうとする。ところが、首筋にチクリとした痛みが走った。慌てて首を手で抑えたが、当然何もない。足元を見ると、空になった注射器が転がっていた。少しづつ視界が霞み、気が付けば腕の変形も元通りになっていた。とうとう地面に立っている事も出来なくなり、イナバは視界が暗くなっていくのをジワジワと味わいながら、地面に突っ伏してしまう。
「フゥ~、何とかなった」
先程までは何も無かった様に見えていた空間に突如として人影が出現する。フードを頭から取り、マスクを外しながらレイは標的がようやく倒れたことに安堵した。
「全くだ…見ろよ、一発でこれだぜ?」
「うわっひどい」
ヘンリーもまた愚痴を言いながら、彼女に大きく凹みが出来ている外骨格の胸部のプレートを見せつけた。歩兵向けにある程度軽量化しているとはいえ、複合装甲による頑丈な防具が一撃で使い物にならなくなってしまっている事にレイは驚く。とはいえ無事に鎮圧出来た事をハンク達に報告すると、捕縛用のワイヤーでイナバを縛り上げて二人はその場を後にした。
「思ったより痛くないぞ…ん?」
怪我は覚悟していたものの、思っていたほどの苦痛では無かったのもあってかイナバは噛み跡をマジマジと見ていた。だがその直後、傷から滴っていた血が部屋で見た時と同じような粒子に変化したかと思うと、そのまま傷口を塞いでしまう。しまいには皮膚と同化し完全に噛み跡が消えてしまうと、イナバは思わず驚いてしまった。
(まさか…治ったのか?)
そう思ったイナバは先程噛まれた足も見てみるが、こちらも傷跡らしいものは無くなっていた。イナバはこのせいで少し調子に乗り始めたのか、ウォーミングアップをするかのように体を少しほぐして、迫りくる未確認生命体達に余裕を見せつけ始める。
「よーし、いくらでも来いよ。俺なんかに出会っちまった運の悪さを恨むんだな !」
自信満々に言い終えた後、もう少しカッコいい事を言えなかったものかと悩んだが、敵は当然待ってくれなかった。何よりホールからはまだまだ湧き出てきており、そのどれもがイナバに向かって来る。遂にはブロウラーさえもがこちらへ迫っていた。なぜ、警官達の元へは行かないのかいささか疑問ではあったが、本能的に優先すべき相手だと感じているのかもしれないとイナバは思った。
ウィンプ達を片付けていると、ブロウラーが雑魚を押しのけながら仕掛けてきた。急いで振り下ろされた拳を避けると、拳はアスファルトに亀裂を入れてみせる。食らったらひとたまりもなさそうだと距離を取るが、こちらだってそう簡単には倒せないぞと、イナバは再び向かって行った。所詮図体がデカいだけだと思いつつ、続けざまの攻撃を躱して肥満体の様な腹に全力でパンチを放った。
拳に鈍い痛みと痺れが走った。岩石の様な皮膚がちょっとやそっとの攻撃では壊れない程に頑丈である事と、なぜ警官達が援軍の到着を待とうしていたのかが少し分かったような気がした瞬間、ブロウラーの拳が横から襲い掛かって来た。イナバはそのまま弾き飛ばされて壁にショッピングモールの壁に激突すると、中々の大きさを持つクレーターを作り上げた。
「痛ってぇ…」
何とか立ち直るが、体中が痛かった。顔を拭った際に手に血が付いていた事もあってか、口が切れている事に気づいたが今度は先ほどの様に傷が治っていないらしく、口元にヒリヒリとした痛みが続いていた。思えば帰宅してから何も食事をしていない事にイナバが気づくと、急に腹が減り出す。
(自分から首を突っ込んでおいて今更だが、散々な目に遭ってるな本当に…)
そんな思いで歩き出そうとすると、何か巨大な物体が目の前に飛んできた。慌てて両腕を突き出し、抱きしめるように受け止めると少しそれが冷たく、固い物であることが肌を通して分かった。投げ捨てた際にそれが大型の電動バイクである事が分かると、イナバはある考えを閃く。
ブロウラーがのそのそとこちらへ詰め寄り、再び拳を叩きつけてこようとした瞬間、イナバはすぐにバイクを掴み、ブロウラーの顔目掛けて力いっぱいぶつけた。巨体が大きく仰け反り、顔にヒビの様な物が入っているのが見える。
イナバは反撃の隙を与えまいと既にボロボロになっているバイクを跪いているブロウラーの頭部に何度も叩きつける。さながらパイプ椅子でしばき倒すプロレスラーであった。使っている得物の重量やその威力は雲泥の差だが。
遂には体に纏わりついていた外殻が砕け、皮膚が見え隠れするようになったところで、イナバはダメ押しと言わんばかりに廃車同然となったバイクを叩きつけた。ブロウラーが動かなくなり、辺りに体液が飛び散っていたがイナバはそんな事には目もくれずへたり込んだ。大勢の化け物を相手取るには、体力的にも辛いものがあったがとにかく体を回復させたいと立ち上がって次の行動を考えようとした直後にそれは起こった。
体から大量の粒子が放出され、目の前で倒れているブロウラーを包み込む。すると、ブロウラーの体は粒子に包み込まれたままこちらへ引き摺られるように向かって来た。
「な、なんだあっ!?」
思わず叫んだイナバは慌てて逃げ出そうとしたが、それよりも早く粒子達はブロウラーの体を粒子に分解し、混ざり合いながらイナバの体へ纏わりついて来た。部屋で起きた異変と同じように粒子達が消え失せると、空腹感だけでなく体に残っていた痛みや疲れが一気に消えたのをイナバは感じた。
「なるほど…食事するより効率は良さそうだけどよ…」
そう言うとイナバはこれから先、何度もあんなグロテスクな連中を体に取り込まなきゃいけないのかと少し身震いをする。
それを遠目に見ていた警官達は、交差点で起きている人の業を離れた光景に口が塞がらなかった。
「み、見たか今の?」
「あれがアマルガム…人の皮被ったバケモンじゃねえか」
そんな言葉が遠くから耳に入ったイナバは少しムッとしたが、すぐにホールから新たなブロウラーが現れるのが見えると、再び構え直す。戦おうとした直前、後ろを振り向き「聞こえてるからな」と大声で言うと、警官達は少々慄いた。
しかし、状況は良いとは言えなかった。残り一体とはいえ、先程の様に武器として使えそうな物が周りに落ちていなかったのである。どうにかあの鎧の様な皮膚を破る方法が無いかと頭の中で考えていると、突如として腕に違和感を感じた。見てみると、腕が粒子に包まれ始めており、次第に重量感を増していく。
「どういうことだ、これ…!?」
粒子が消えると、そこには本来の自分の腕とは違うゴツゴツとした岩石の様な腕があった。確かに重いが、指先までどうやら問題なく動かせるようで、試しに拳を握ってぶつけ合わせてみると重々しい衝突音が小さく鳴った。
「新しい武器がアンロックされましたってとこか?」
子供の頃に遊んでいたゲームを思い出したイナバは、少し高揚しながらそんなことを呟く。ブロウラーが向かってくると、同時にイナバも走り出した。そして攻撃をしてくるよりも早く懐に潜り込み、腹に目掛けてもう一度拳を撃ち込む。何かが砕けるような音が聞こえたかと思うと、ブロウラーが大きくよろけた。腹には拳がめり込んだ痕跡と、周囲にヒビが入っているのが見える。間違いなく効いていた。
「攻撃が利くんならこっちのもんだぜ !」
一方、遅れて到着したヘンリーとレイは目の前で繰り広げられている戦いを少し信じられないという様に眺めた。
「ナーシャ。今のコレ見えてるか?」
「バッチリだぜ…マジかよ、武装形成まで使えるのか…」
困惑しながら連絡をするヘンリーに対してナーシャはそう答えながら、カメラをの映像を拡大させて観察をしていた。
「二人とも…どうにかしてそいつを捕まえてくれ」
「だからさっきのアレを無人機で送って貰ったの。やるだけやってみる」
「気を付けろよ…試作品らしいから効果には時間制限があるぞ」
通話越しに指令と届いた装備に関する説明を聞き終えたレイは、バイクに積んであった箱を開けた。中にはグローブやマスク、そして足先まで覆い隠すほどに丈のある長袖の雨具の様な物が入っていた。レイはそれを取り出しながら大急ぎで身に付けていく。
その頃イナバは、一方的にブロウラーを攻め立てていた。単調かつ遅いブロウラーの攻撃では彼に当てる事もままならず、ひたすら体中を痛めつけられていくばかりだった。体中の外殻がボロボロになり、体液もあちこちから滴っている。
「これで…トドメだぁっ ! 」
息も絶え絶えなブロウラーにイナバは飛び掛かり渾身の右ストレートを放つと、見事顔面に当たった。ブロウラーはそのまま仰向けに倒れると、ピクリとも動かなくなってしまった。
疲れたように息を少し切らしつつ、イナバは未確認生命体達を自分が倒したという事実や、自分の手にした力が想像以上に強力であるという事に対して得意げになりつつあった。失う物もあったが得る物もあったなどと思っていると、遠くから先程自分を追っていたと思われる強化外骨格を纏った兵士がこちらへ歩み寄ってきていた。今ならば恐れるに足らないとイナバは拳を構えるが、戦うつもりが無いかのように兵士は何もしようとしなかった。
「落ち着いてくれ。お前と戦うつもりはない」
「じゃあ何だよ?そんな恰好で言われても説得力がないぜ」
話しかけてくるヘンリーに対して、イナバは装備を指差しながら言った。
「これに関しては念のためだ。お前自身も分かっているだろうが、その体には既に恐ろしい力が備わっている。悪いが、俺達と一緒に来てもらうぞ」
「嫌だと言ったら?」
「言わせない」
会話の直後、イナバは背後から足音が聞こえたような気がした。振り返ろうとした瞬間、凄まじい勢いと力でヘンリーに体を掴まれる。どうにか抵抗しようとパンチを繰り出すと、拳は胸部の装甲に当たった。ヘンリーはそのまま少し吹き飛ばされるが、なんとか着地をする。
(何度も見てきたが、相変わらず恐ろしい力だ…)
ヘンリーがそんなことを思っている内に、イナバはその場から逃げ出そうとする。ところが、首筋にチクリとした痛みが走った。慌てて首を手で抑えたが、当然何もない。足元を見ると、空になった注射器が転がっていた。少しづつ視界が霞み、気が付けば腕の変形も元通りになっていた。とうとう地面に立っている事も出来なくなり、イナバは視界が暗くなっていくのをジワジワと味わいながら、地面に突っ伏してしまう。
「フゥ~、何とかなった」
先程までは何も無かった様に見えていた空間に突如として人影が出現する。フードを頭から取り、マスクを外しながらレイは標的がようやく倒れたことに安堵した。
「全くだ…見ろよ、一発でこれだぜ?」
「うわっひどい」
ヘンリーもまた愚痴を言いながら、彼女に大きく凹みが出来ている外骨格の胸部のプレートを見せつけた。歩兵向けにある程度軽量化しているとはいえ、複合装甲による頑丈な防具が一撃で使い物にならなくなってしまっている事にレイは驚く。とはいえ無事に鎮圧出来た事をハンク達に報告すると、捕縛用のワイヤーでイナバを縛り上げて二人はその場を後にした。
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