21 / 26
チャプター4:崩壊
第20話 終わりの始まり
しおりを挟む
しばらく経ったある日、アイザックは自身がスポンサーをしている飲料企業のイベントに参列するため、自宅からスカーグレイブの駅前へと向かっていた。
「オルガ、キティ。そちらの様子は?」
「問題なーし」
「ええ、こちらも大丈夫よ」
「そうか…何かあった時は頼む」
こういった仲間達との定期的な連絡を行うようになったのはつい最近であった。リチャードが自分のもとを去り、彼を追跡していたジェームズの消息さえも絶たれた以上、警戒をせずにはいられなかった。幸い残っている連中は自分に忠実であり、好意的な者達ばかりである。裏切る心配も無かった。
「お忙しいみたいですね。流石はSNSをはじめとしたメディア界の重鎮といった所でしょうか」
運転手がアイザックに対してそんな事を言った。
「あ、ああ」
「もうすぐ到着しますから、暫し寛いでいてください」
運転手に気まずそうにするアイザックだったが、彼はのんびりするようにアイザックに告げると、上機嫌でハンドルを切っていた。
「…なんだか、いやに気分が良さそうだな」
気を紛らわせたかったアイザックは、なるべく人当たりの良い風を装って運転手に尋ねた。
「そりゃあ!あのアイザック・ウィンストンに運転を任されたとなったら、気分が昂らない人なんていないでしょう!ああ、ご心配なく。顧客の情報を漏らすなんて真似はしませんよ」
話をしている内に駅前に到着した後は、警備員たちに誘導されて付近の地下駐車場へと案内される。車を降りると、イベントの主催者と思われる小柄な男性がこちらへ向かってきた。
「いや~ミスター・ウィンストン!よくぞいらしてくれた」
「この後の予定は?」
ご機嫌取りのつもりだろうか、馴れ馴れしい態度とわざとらしい笑顔が特徴的な男であった。アイザックは悟られないようにしつつ、今後のスケジュールを歩きながら聞いた。
「あなたの出番はこの後からです。我が社の新商品の応援大使という役割で登場していただきます。商品の名前は『デビルティア、”ヘルズ・スパークル”』!!強烈な炭酸、そして果汁の甘さや酸味を組み合わせた期待の新製品!ところで我が社の商品をお試しになられた事は?」
「ジュースは飲まない主義なんだが、デビルティアについては時々買っている」
「ほほう…!ではこうしましょう。あなたは敢えてジュースが苦手だという体で話を進める。だがデビルティアだけは気に入っていると語っていただいた辺りで、新作デビルティアを渡しますので、飲んだ後に好意的な感想でアピールをしてもらいたい。一気に飲んでしまうも良し、最悪ちょっと口を付けていただくだけでも結構。大事なのはあなたに美味いと太鼓判を押して貰えた絵面です。鶴の一声というやつを是非とも」
「良いだろう」
段取りの打ち合わせを済ませてステージの裏へ回ったアイザックは、改めてスーツのネクタイを締め直し、服に付いていた細かい埃をはたいて身なりを整えた。
「さあ、皆さん!ゲストであるアイザック・ウィンストンさん、そしてガリーナ・オ―ネストさんの登場です!拍手をお願いします!」
司会の合図と共に、アイザックはもう一人いたゲストと共に壇上へと姿を出した。どこかで見覚えがある女性であったが、彼にとってはどうでも良かった。あちこちからカメラのシャッター音が聞こえ、フラッシュが瞬いた。
「それではこちらに…本日はよろしくお願いします!早速ですが、お二人はデビルティアはご存じで?」
「私、大ファンなんですよ!いっつも新作が出たら必ず箱買いしてます!」
わざわざ手を叩いてあざといリアクションや話し方をする彼女を見て、アイザックは気色の悪い奴だと心の中で侮蔑した。碌に味を確認せず箱買いなど、余程のノータリンでも無い限りまずやらない。どうせファンに媚を売るための方便だろうと小馬鹿にしていた。
「アイザックさんはどうですか~?」
気が付いたら、ガリーナがこちらを見ながら話を振って来た。つくづく喋り方が癇に障る女である。確か自分が工作したハッシュタグに便乗してPMC批判をしていた女だったと、この時になってようやくアイザックは気づいた。先程の箱買いの下りもそうだったが承認欲求さえ満たせれば、言動の内容なんざどうでも良いのだろう。アイザックはそういった本音を隠して笑顔で彼女に反応する。
「ハハハ…いやあ、実は普段ジュースを飲まない主義でしてね。自分で飲料メーカーのスポンサーになっておきながら何を言ってるんだと思うかもしれませんが」
「ええっ?そうだったんですか!?」
アイザックが笑いながら告げると、司会をしていた男性は素っ頓狂なリアクションで彼に返した。会場からも驚いたような声が少しばかり上がった。
「元々、甘いものが得意では無いんですよ。しかし是非とも飲んでいただきたいという事で試しに飲んでみたのですが…これがかなりの美味しさだったのがキッカケでして。以来、仕事の合間に飲みたくてデビルティアだけは買っています。今回、イベントをやるという話が来たので『それなら是非とも出させてくれ!』と頼み込んだわけです」
世辞も並べつつ、商品についてアイザックは語っていた。今の自分はガリーナとやっている事が同じではないかと一瞬考えたが、こいつと違って自分はスポンサーという立場であり、周りから注目されたいがためにやっているわけでは無いのだから問題ないと強引に割り切った。
そうして暫くの間は試飲をして適当な感想をしたり、フリートークなどで時間を過ごしていたアイザックだったが、ふと観客側の方から妙なざわめきが聞こえる。端末などから何かを見ている様子だった。その時、付近の大型モニターなどからも臨時ニュースを報せるアナウンスが入る。
『ニュース速報です。民間軍事会社であるレギオンとスカーグレイブ市警は賄賂による市議会との癒着や、数週間前に交戦した”処刑人”と称されているアマルガムへ犯行の教唆を行った疑惑があるとして、スペンテック社の代表取締役であるアイザック・ウィンストンの逮捕に踏み切る事を発表しました』
アイザックは自分の目を疑った。
『既に指示をするウィンストン氏の映像がインターネットに出回っている事もあるだけでなく、一部の市議会議員やスペンテック社の役員から、民間軍事会社が社会的に不利な立場になるようSNSを始めとしたメディアを使い情報の操作をしていたという証言が先程公表され———』
ソーシャルメディアや街の各地で報道が続き、市民からどよめきが上がり続ける最中、キティは建設中のビルのクレーンの先端から双眼鏡で街の様子を見ていた。
「おっと…盛り上がってきたねえ」
彼女が双眼鏡で見つめる先には駅前へ向かって行くパトカーと、その後ろで隊列を組んで追いかけるレギオンの装甲車の姿があった。
「オルガ、キティ。そちらの様子は?」
「問題なーし」
「ええ、こちらも大丈夫よ」
「そうか…何かあった時は頼む」
こういった仲間達との定期的な連絡を行うようになったのはつい最近であった。リチャードが自分のもとを去り、彼を追跡していたジェームズの消息さえも絶たれた以上、警戒をせずにはいられなかった。幸い残っている連中は自分に忠実であり、好意的な者達ばかりである。裏切る心配も無かった。
「お忙しいみたいですね。流石はSNSをはじめとしたメディア界の重鎮といった所でしょうか」
運転手がアイザックに対してそんな事を言った。
「あ、ああ」
「もうすぐ到着しますから、暫し寛いでいてください」
運転手に気まずそうにするアイザックだったが、彼はのんびりするようにアイザックに告げると、上機嫌でハンドルを切っていた。
「…なんだか、いやに気分が良さそうだな」
気を紛らわせたかったアイザックは、なるべく人当たりの良い風を装って運転手に尋ねた。
「そりゃあ!あのアイザック・ウィンストンに運転を任されたとなったら、気分が昂らない人なんていないでしょう!ああ、ご心配なく。顧客の情報を漏らすなんて真似はしませんよ」
話をしている内に駅前に到着した後は、警備員たちに誘導されて付近の地下駐車場へと案内される。車を降りると、イベントの主催者と思われる小柄な男性がこちらへ向かってきた。
「いや~ミスター・ウィンストン!よくぞいらしてくれた」
「この後の予定は?」
ご機嫌取りのつもりだろうか、馴れ馴れしい態度とわざとらしい笑顔が特徴的な男であった。アイザックは悟られないようにしつつ、今後のスケジュールを歩きながら聞いた。
「あなたの出番はこの後からです。我が社の新商品の応援大使という役割で登場していただきます。商品の名前は『デビルティア、”ヘルズ・スパークル”』!!強烈な炭酸、そして果汁の甘さや酸味を組み合わせた期待の新製品!ところで我が社の商品をお試しになられた事は?」
「ジュースは飲まない主義なんだが、デビルティアについては時々買っている」
「ほほう…!ではこうしましょう。あなたは敢えてジュースが苦手だという体で話を進める。だがデビルティアだけは気に入っていると語っていただいた辺りで、新作デビルティアを渡しますので、飲んだ後に好意的な感想でアピールをしてもらいたい。一気に飲んでしまうも良し、最悪ちょっと口を付けていただくだけでも結構。大事なのはあなたに美味いと太鼓判を押して貰えた絵面です。鶴の一声というやつを是非とも」
「良いだろう」
段取りの打ち合わせを済ませてステージの裏へ回ったアイザックは、改めてスーツのネクタイを締め直し、服に付いていた細かい埃をはたいて身なりを整えた。
「さあ、皆さん!ゲストであるアイザック・ウィンストンさん、そしてガリーナ・オ―ネストさんの登場です!拍手をお願いします!」
司会の合図と共に、アイザックはもう一人いたゲストと共に壇上へと姿を出した。どこかで見覚えがある女性であったが、彼にとってはどうでも良かった。あちこちからカメラのシャッター音が聞こえ、フラッシュが瞬いた。
「それではこちらに…本日はよろしくお願いします!早速ですが、お二人はデビルティアはご存じで?」
「私、大ファンなんですよ!いっつも新作が出たら必ず箱買いしてます!」
わざわざ手を叩いてあざといリアクションや話し方をする彼女を見て、アイザックは気色の悪い奴だと心の中で侮蔑した。碌に味を確認せず箱買いなど、余程のノータリンでも無い限りまずやらない。どうせファンに媚を売るための方便だろうと小馬鹿にしていた。
「アイザックさんはどうですか~?」
気が付いたら、ガリーナがこちらを見ながら話を振って来た。つくづく喋り方が癇に障る女である。確か自分が工作したハッシュタグに便乗してPMC批判をしていた女だったと、この時になってようやくアイザックは気づいた。先程の箱買いの下りもそうだったが承認欲求さえ満たせれば、言動の内容なんざどうでも良いのだろう。アイザックはそういった本音を隠して笑顔で彼女に反応する。
「ハハハ…いやあ、実は普段ジュースを飲まない主義でしてね。自分で飲料メーカーのスポンサーになっておきながら何を言ってるんだと思うかもしれませんが」
「ええっ?そうだったんですか!?」
アイザックが笑いながら告げると、司会をしていた男性は素っ頓狂なリアクションで彼に返した。会場からも驚いたような声が少しばかり上がった。
「元々、甘いものが得意では無いんですよ。しかし是非とも飲んでいただきたいという事で試しに飲んでみたのですが…これがかなりの美味しさだったのがキッカケでして。以来、仕事の合間に飲みたくてデビルティアだけは買っています。今回、イベントをやるという話が来たので『それなら是非とも出させてくれ!』と頼み込んだわけです」
世辞も並べつつ、商品についてアイザックは語っていた。今の自分はガリーナとやっている事が同じではないかと一瞬考えたが、こいつと違って自分はスポンサーという立場であり、周りから注目されたいがためにやっているわけでは無いのだから問題ないと強引に割り切った。
そうして暫くの間は試飲をして適当な感想をしたり、フリートークなどで時間を過ごしていたアイザックだったが、ふと観客側の方から妙なざわめきが聞こえる。端末などから何かを見ている様子だった。その時、付近の大型モニターなどからも臨時ニュースを報せるアナウンスが入る。
『ニュース速報です。民間軍事会社であるレギオンとスカーグレイブ市警は賄賂による市議会との癒着や、数週間前に交戦した”処刑人”と称されているアマルガムへ犯行の教唆を行った疑惑があるとして、スペンテック社の代表取締役であるアイザック・ウィンストンの逮捕に踏み切る事を発表しました』
アイザックは自分の目を疑った。
『既に指示をするウィンストン氏の映像がインターネットに出回っている事もあるだけでなく、一部の市議会議員やスペンテック社の役員から、民間軍事会社が社会的に不利な立場になるようSNSを始めとしたメディアを使い情報の操作をしていたという証言が先程公表され———』
ソーシャルメディアや街の各地で報道が続き、市民からどよめきが上がり続ける最中、キティは建設中のビルのクレーンの先端から双眼鏡で街の様子を見ていた。
「おっと…盛り上がってきたねえ」
彼女が双眼鏡で見つめる先には駅前へ向かって行くパトカーと、その後ろで隊列を組んで追いかけるレギオンの装甲車の姿があった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる