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プロローグ
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――『異能』
それは常人とは逸脱した力のことを指す言葉。
科学では説明できないような超常的な現象を起こせる人間のことを、人は『異能力者』と呼ぶのだ。
この物語は、そんな特異な力を持った少年少女達の物語である。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ここはとある研究施設。
現在時刻は深夜11時過ぎのまだ日付が変わっていないような時間帯だ。
そんな研究施設内では、緊急事態を知らせるアラートが鳴り響いている。
このことから、この研究施設内で何かが起きたということが理解できるだろう。
その研究施設の廊下を二つの影が通りすぎ、その直後、まるで津波のような勢いで『ナニカ』が通りすぎていった。
まるで追いたてられるようにして『ナニカ』から逃げる二つの影。
どちらも黒一色で統一され、金属などで装飾されたフード付きのコートのような衣服を身に纏っている。
そんな彼らは、一人は金属で出来た籠手を装着し、もう一人は刀を腰に提げていた。
まるで身を守るためのプロテクターのような装飾品と、金属のような光沢を放つ武器を持つ彼らだが、しかし、それらの重さを感じさせないかのような速さで駆け抜けていく。
「ハァッ……ハァッ……ッ!」
「しつこい……ッ!」
一人は息も絶え絶えな状態でありながらも、足を止めるようなことはせずに更に加速させ、もう一人はそれに追随するように加速していく。
そして二人はある一つの扉に向かって走りきり、間髪いれずそのまま勢いよく扉を開き中へと飛び込んだ。
扉を勢いよく閉めた次の瞬間、外から轟音が響き渡り、扉が大きくへこむ。
彼らを追ってきていた『ナニカ』がぶつかったのだろう。
しかも、一度だけではなく何度もぶつかってきていた。
このままでは破られるのに数秒とかからないだろう。
「ッ! 楓!」
「了解!」
だが、片割れに『楓』と呼ばれた影が刀を抜き、扉に向けて振るった。
しかし、刀のリーチ以上に離れた距離から振るっていたので、その斬撃は空を切る。
不発に終わった……と思いきや、刀が振り抜かれると、扉に幾何学的な紋様が浮かび上がり、その模様がパッと輝いた。
すると、何度も響いていた扉を破壊しようとする轟音が小さくなり、扉も少しずつではあるが修復されていく。
現実的に考えれば明らかにおかしい光景だが、それを目にしている彼らは特に気にすることもなく、壁に背を預けて、一息ついた。
「助かったぁ……ナイス楓。いつも助かってる」
「そんなこと言ってられないわよ。これは急拵えの『結界』。時間稼ぎ程度にしかならないわ」
「それでも十分だよ。あの化け物相手に数分でも時間を稼げるならさ」
「まあね。だけど油断しないで。 あの化け物は『キメラ』と呼ばれるーー」
「分かってる。この違法に作られた研究施設がそこらの『魔物』を捕らえて実験してる場所だってことくらいはな。だから俺達はここに忍び込んで、研究員の始末をしに来たんだし……」
「そうだったわね……。でもまだ安心はできない。ここから早く脱出しないと……」
聞き覚えのない単語が彼らの口から飛び交い、密室となった部屋に木霊する。
彼らが何者で、何をしていたのか?
そもそもこの場所は何なのか?
様々な疑問が浮かんでくる。
しかし、その思考を妨げるかのように再び轟音が響いた。
「ッ!? もう壊されるの!?」
「いくら急拵えでもここまで早いのかよ!?」
二人が驚愕した表情を浮かべた直後、バキリという大きな破壊音をたてながら扉が完全に破壊された。
しかし、完全に破壊されてもなお、『キメラ』と呼ばれたナニカはそこから入ってくることはなく、代わりに、まるで獲物を狙う猛獣のような眼光で二人を見据えている。
「ハハッ……今の俺たちは追い詰められたエサってところか……!」
「そうみたいね……!」
苦笑しながら呟く黒衣の男に対して、楓は、険しい顔つきで刀を構え直していた。
先程まで追われていた時とは打って変わって、緊迫とした空気が流れる。
そんな緊張感に包まれながらも、二人は目の前のキメラから目を離すことなく睨み合っていた。
「……」
「……」
静寂。
耳に入る音といえば、遠くから聞こえるサイレンの音だけ。
そして、その沈黙を最初に破ったのは、二人のどちらでもなく、キメラの方であった。
「ガッ!?」
「優慈!?」
キメラの攻撃により、壁際に吹き飛ばされた黒衣の少年は、肺の中の空気を全て押し出されてしまったのか、荒い呼吸をしながらも立ち上がることが出来ないでいる。
しかし、そんな彼を庇うように黒装束の少女が前に躍り出た。
「させない……!」
少女は、刀の切っ先をキメラに向ける。
すると、刀身から炎のようなものが発生し、刀身を包み込む。
「ガァァァァァァアアッ!!」
雄叫びを上げながら突進してくる『キメラ』に対し、少女は迎え撃つようにして、その巨体に向かっていった。
「はぁッ!!」
先ほど優慈と呼ばれた少年を吹き飛ばしたであろう触手らしきものを体から伸ばしたキメラは、楓に向かってそれを振るう。
しかし、彼女はそれに臆することなく、そのまま突き進み、刀を横薙ぎに振るった。
次の瞬間、
「ガァアアアアアアアア!?」
彼女に向かっていた触手が全て燃え上がり、触手を伝ってキメラの全身を焼いていく。
「ギィイイッ!!?」
「まだまだッ!」
更に追い打ちをかけるようにして、刀身から発生させた炎を纏った斬撃を繰り出し、それがキメラの体を斬り裂いた。
「グギャァァァァッ!!!」
悲鳴を上げるキメラは、痛みに耐えかねたのか、全身を使って暴れだし、その場一帯を破壊していく。
「ッ!? このッ!」
咄嵯に防御姿勢をとったものの、彼女の体は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「カハッ……!?」
背中を強く打ったことで、一瞬息が出来なくなり、苦しそうな声が上がる。
「グッ……! このままじゃ……!」
壁に寄りかかりながら、刀を杖に立ち上がる楓。
そんな彼女を嘲笑うかのごとく、ゆっくりと近付いていくキメラ。
しかし、
『解除に成功しました!』
『楓』の耳に、とある声が届いた。
そして、その声を聞いた楓は、薄らと笑い、その場に響くような大きさで叫んだ。
「――今!」
キメラが彼女に意識を向けた瞬間を狙い、
「オラァアアアアアアアアアア!!!」
「ギュブァッ!?」
倒れていた優慈が全身から炎を吹き出した状態になって、キメラに激突した。
突然のことに、対応出来なかったキメラはそのまま勢いよく壁にぶつかり、ズルリと崩れ落ちるように倒れた。
「やったか……?」
「それはフラグよ……ッ!」
彼の問いかけに対して否定する言葉を口にする楓。
次の瞬間、轟音を立てながら壁を崩壊させ、大量のキメラが雪崩れ込んできた。
「ハハッ……さすがに、これ多くね?」
「元々相手する予定だったのよ。今更でしょ」
「違いない」
軽口を叩きながらも、優慈は両手から炎を噴き出し、構えを取る。対する楓も刀を構え直し、迫り来るキメラ達を見据えていた。
緊迫する空気の中、少年少女は動き出した。
「行くぞッ!」
「言われなくても!」
互いに声を掛け合いながら、同時に地面を踏み抜く。
その刹那、激しい轟音が鳴り響き、施設全体を揺るがした。
そして、戦いが始まった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ふぅ……」
「何とか片付いたな……」
あれからどれくらい経っただろうか?
二人は、最早残骸となった研究所の上に立ち、辺りを見渡していた。
そこにあったはずの施設は跡形もなく破壊されており、まるで戦争でも起きたのかと見間違うほどの崩壊具合だった。
それを見渡した『優慈』は、頭をかきつつ呟いた。
「あ~……これ、何て言われるんだろうか……」
「良くて説教。悪くて拳骨ね」
「マジで勘弁してくれよ……」
そんな会話をしながら、二人は破壊された建物の上から降りていく。
そして、研究所の正面玄関前までやって来たところで足を止めた。
直後、空からヘリコプターが降りてきた。
それは彼らの前の開けた場所に着陸し、扉を開けて中から出て来たのは、スーツを着た一人の男。
男は二人の姿を見つけるや否や、頭痛をこらえるかのように眉間に手を当て、深いため息を吐いた。
「……ひとまずはお疲れ様。ターゲットもこの様子じゃ始末できていそうだ。ひとまずは目標の達成を労うためにお疲れ様と言っておこう。『一先ず』はな……。……それで、これはどういうことだ?」
「いやぁ……えっとですね……」
苦笑しながら言葉を濁す優慈。
そんな彼に代わり、隣にいた楓は、手に持っていた刀を腰に差し直してから、男に言った。
「すみません。私は止めたのに、優慈が『解放』まで使って……」
「ハァッ!? 解放使ったのは楓もだろ!? なんで俺だけ悪いみたいに言ってんだ!?」
「うるさいわねぇ! あんたが無茶するからでしょうが!」
「無茶って言うならお前の方がしてただろうが!」
「あぁ!?」
「やんのかコラァッ!?」
先ほどまでの凛とした雰囲気は何処へ行ったのか、二人の言い争いは徐々にヒートアップしていく。
「――まぁ、いい。事情は後で聞くとして……一先ずは説教だ。もちろん正座でな?」
そう言って、怒りを滲ませた笑顔を浮かべる男。
それを見た二人は、静かに肩を落とし、その場に座り込んだ。
『あの……先生。とりあえず『昇級審査』の結果としてはどうなんですか……?』
ヘリコプターの方から、スピーカー越しに声が聞こえる。
その声の主は、今回の任務において二人のサポートをしていた少女の声だった。
「あぁ、そっちは問題無い。対象の討伐は確認できた。後は、こちらで処理しておく」
『分かりました。本部への報告は?』
「君がしておいてくれ。私はこのバカ二人を説教せねばならん」
『あはは……ほどほどにお願いしますね』
困ったような笑い声が聞こえた後、通信が切れる。
あとに残るのは、正座する二人とその前に立つ一人の男性だけであった。
「……説教は後にする。始末書も書いて貰うぞ?」
「「はいぃ……」」
「では、行くとしようか? 騒ぎを聞き付けた『奴ら』がくるかもしれない。……と、その前に……」
踵を返して立ち上がろうとした男性は、思い出したように二人に告げた。
「『白石優慈』!」
「は、はい!」
「『秋神楓』!」
「はい!」
「監督官である私の権限の下、両名の『昇級』を認める!」
その言葉を聞いた瞬間、二人の顔には満面の笑みが浮かぶ。
「やったぜ!」
「当然の結果よね」
「……反省しろと言ったはずだぞ?」
「「はい! すいませんでした!」」
……こうして、しまらないながらも、彼らは帰っていく。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
この物語は、とある少年少女たちの物語。
『正義』とは何か?
『悪』とは何か?
『自由』とは?
『幸福』とは?
そして、『夢』とは?
様々な疑問が渦巻く世界の中で、それでも少年達は、今日もまた『日常』を送る。
普通とは言いがたい事情を抱えながら……。
それは常人とは逸脱した力のことを指す言葉。
科学では説明できないような超常的な現象を起こせる人間のことを、人は『異能力者』と呼ぶのだ。
この物語は、そんな特異な力を持った少年少女達の物語である。
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ここはとある研究施設。
現在時刻は深夜11時過ぎのまだ日付が変わっていないような時間帯だ。
そんな研究施設内では、緊急事態を知らせるアラートが鳴り響いている。
このことから、この研究施設内で何かが起きたということが理解できるだろう。
その研究施設の廊下を二つの影が通りすぎ、その直後、まるで津波のような勢いで『ナニカ』が通りすぎていった。
まるで追いたてられるようにして『ナニカ』から逃げる二つの影。
どちらも黒一色で統一され、金属などで装飾されたフード付きのコートのような衣服を身に纏っている。
そんな彼らは、一人は金属で出来た籠手を装着し、もう一人は刀を腰に提げていた。
まるで身を守るためのプロテクターのような装飾品と、金属のような光沢を放つ武器を持つ彼らだが、しかし、それらの重さを感じさせないかのような速さで駆け抜けていく。
「ハァッ……ハァッ……ッ!」
「しつこい……ッ!」
一人は息も絶え絶えな状態でありながらも、足を止めるようなことはせずに更に加速させ、もう一人はそれに追随するように加速していく。
そして二人はある一つの扉に向かって走りきり、間髪いれずそのまま勢いよく扉を開き中へと飛び込んだ。
扉を勢いよく閉めた次の瞬間、外から轟音が響き渡り、扉が大きくへこむ。
彼らを追ってきていた『ナニカ』がぶつかったのだろう。
しかも、一度だけではなく何度もぶつかってきていた。
このままでは破られるのに数秒とかからないだろう。
「ッ! 楓!」
「了解!」
だが、片割れに『楓』と呼ばれた影が刀を抜き、扉に向けて振るった。
しかし、刀のリーチ以上に離れた距離から振るっていたので、その斬撃は空を切る。
不発に終わった……と思いきや、刀が振り抜かれると、扉に幾何学的な紋様が浮かび上がり、その模様がパッと輝いた。
すると、何度も響いていた扉を破壊しようとする轟音が小さくなり、扉も少しずつではあるが修復されていく。
現実的に考えれば明らかにおかしい光景だが、それを目にしている彼らは特に気にすることもなく、壁に背を預けて、一息ついた。
「助かったぁ……ナイス楓。いつも助かってる」
「そんなこと言ってられないわよ。これは急拵えの『結界』。時間稼ぎ程度にしかならないわ」
「それでも十分だよ。あの化け物相手に数分でも時間を稼げるならさ」
「まあね。だけど油断しないで。 あの化け物は『キメラ』と呼ばれるーー」
「分かってる。この違法に作られた研究施設がそこらの『魔物』を捕らえて実験してる場所だってことくらいはな。だから俺達はここに忍び込んで、研究員の始末をしに来たんだし……」
「そうだったわね……。でもまだ安心はできない。ここから早く脱出しないと……」
聞き覚えのない単語が彼らの口から飛び交い、密室となった部屋に木霊する。
彼らが何者で、何をしていたのか?
そもそもこの場所は何なのか?
様々な疑問が浮かんでくる。
しかし、その思考を妨げるかのように再び轟音が響いた。
「ッ!? もう壊されるの!?」
「いくら急拵えでもここまで早いのかよ!?」
二人が驚愕した表情を浮かべた直後、バキリという大きな破壊音をたてながら扉が完全に破壊された。
しかし、完全に破壊されてもなお、『キメラ』と呼ばれたナニカはそこから入ってくることはなく、代わりに、まるで獲物を狙う猛獣のような眼光で二人を見据えている。
「ハハッ……今の俺たちは追い詰められたエサってところか……!」
「そうみたいね……!」
苦笑しながら呟く黒衣の男に対して、楓は、険しい顔つきで刀を構え直していた。
先程まで追われていた時とは打って変わって、緊迫とした空気が流れる。
そんな緊張感に包まれながらも、二人は目の前のキメラから目を離すことなく睨み合っていた。
「……」
「……」
静寂。
耳に入る音といえば、遠くから聞こえるサイレンの音だけ。
そして、その沈黙を最初に破ったのは、二人のどちらでもなく、キメラの方であった。
「ガッ!?」
「優慈!?」
キメラの攻撃により、壁際に吹き飛ばされた黒衣の少年は、肺の中の空気を全て押し出されてしまったのか、荒い呼吸をしながらも立ち上がることが出来ないでいる。
しかし、そんな彼を庇うように黒装束の少女が前に躍り出た。
「させない……!」
少女は、刀の切っ先をキメラに向ける。
すると、刀身から炎のようなものが発生し、刀身を包み込む。
「ガァァァァァァアアッ!!」
雄叫びを上げながら突進してくる『キメラ』に対し、少女は迎え撃つようにして、その巨体に向かっていった。
「はぁッ!!」
先ほど優慈と呼ばれた少年を吹き飛ばしたであろう触手らしきものを体から伸ばしたキメラは、楓に向かってそれを振るう。
しかし、彼女はそれに臆することなく、そのまま突き進み、刀を横薙ぎに振るった。
次の瞬間、
「ガァアアアアアアアア!?」
彼女に向かっていた触手が全て燃え上がり、触手を伝ってキメラの全身を焼いていく。
「ギィイイッ!!?」
「まだまだッ!」
更に追い打ちをかけるようにして、刀身から発生させた炎を纏った斬撃を繰り出し、それがキメラの体を斬り裂いた。
「グギャァァァァッ!!!」
悲鳴を上げるキメラは、痛みに耐えかねたのか、全身を使って暴れだし、その場一帯を破壊していく。
「ッ!? このッ!」
咄嵯に防御姿勢をとったものの、彼女の体は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「カハッ……!?」
背中を強く打ったことで、一瞬息が出来なくなり、苦しそうな声が上がる。
「グッ……! このままじゃ……!」
壁に寄りかかりながら、刀を杖に立ち上がる楓。
そんな彼女を嘲笑うかのごとく、ゆっくりと近付いていくキメラ。
しかし、
『解除に成功しました!』
『楓』の耳に、とある声が届いた。
そして、その声を聞いた楓は、薄らと笑い、その場に響くような大きさで叫んだ。
「――今!」
キメラが彼女に意識を向けた瞬間を狙い、
「オラァアアアアアアアアアア!!!」
「ギュブァッ!?」
倒れていた優慈が全身から炎を吹き出した状態になって、キメラに激突した。
突然のことに、対応出来なかったキメラはそのまま勢いよく壁にぶつかり、ズルリと崩れ落ちるように倒れた。
「やったか……?」
「それはフラグよ……ッ!」
彼の問いかけに対して否定する言葉を口にする楓。
次の瞬間、轟音を立てながら壁を崩壊させ、大量のキメラが雪崩れ込んできた。
「ハハッ……さすがに、これ多くね?」
「元々相手する予定だったのよ。今更でしょ」
「違いない」
軽口を叩きながらも、優慈は両手から炎を噴き出し、構えを取る。対する楓も刀を構え直し、迫り来るキメラ達を見据えていた。
緊迫する空気の中、少年少女は動き出した。
「行くぞッ!」
「言われなくても!」
互いに声を掛け合いながら、同時に地面を踏み抜く。
その刹那、激しい轟音が鳴り響き、施設全体を揺るがした。
そして、戦いが始まった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ふぅ……」
「何とか片付いたな……」
あれからどれくらい経っただろうか?
二人は、最早残骸となった研究所の上に立ち、辺りを見渡していた。
そこにあったはずの施設は跡形もなく破壊されており、まるで戦争でも起きたのかと見間違うほどの崩壊具合だった。
それを見渡した『優慈』は、頭をかきつつ呟いた。
「あ~……これ、何て言われるんだろうか……」
「良くて説教。悪くて拳骨ね」
「マジで勘弁してくれよ……」
そんな会話をしながら、二人は破壊された建物の上から降りていく。
そして、研究所の正面玄関前までやって来たところで足を止めた。
直後、空からヘリコプターが降りてきた。
それは彼らの前の開けた場所に着陸し、扉を開けて中から出て来たのは、スーツを着た一人の男。
男は二人の姿を見つけるや否や、頭痛をこらえるかのように眉間に手を当て、深いため息を吐いた。
「……ひとまずはお疲れ様。ターゲットもこの様子じゃ始末できていそうだ。ひとまずは目標の達成を労うためにお疲れ様と言っておこう。『一先ず』はな……。……それで、これはどういうことだ?」
「いやぁ……えっとですね……」
苦笑しながら言葉を濁す優慈。
そんな彼に代わり、隣にいた楓は、手に持っていた刀を腰に差し直してから、男に言った。
「すみません。私は止めたのに、優慈が『解放』まで使って……」
「ハァッ!? 解放使ったのは楓もだろ!? なんで俺だけ悪いみたいに言ってんだ!?」
「うるさいわねぇ! あんたが無茶するからでしょうが!」
「無茶って言うならお前の方がしてただろうが!」
「あぁ!?」
「やんのかコラァッ!?」
先ほどまでの凛とした雰囲気は何処へ行ったのか、二人の言い争いは徐々にヒートアップしていく。
「――まぁ、いい。事情は後で聞くとして……一先ずは説教だ。もちろん正座でな?」
そう言って、怒りを滲ませた笑顔を浮かべる男。
それを見た二人は、静かに肩を落とし、その場に座り込んだ。
『あの……先生。とりあえず『昇級審査』の結果としてはどうなんですか……?』
ヘリコプターの方から、スピーカー越しに声が聞こえる。
その声の主は、今回の任務において二人のサポートをしていた少女の声だった。
「あぁ、そっちは問題無い。対象の討伐は確認できた。後は、こちらで処理しておく」
『分かりました。本部への報告は?』
「君がしておいてくれ。私はこのバカ二人を説教せねばならん」
『あはは……ほどほどにお願いしますね』
困ったような笑い声が聞こえた後、通信が切れる。
あとに残るのは、正座する二人とその前に立つ一人の男性だけであった。
「……説教は後にする。始末書も書いて貰うぞ?」
「「はいぃ……」」
「では、行くとしようか? 騒ぎを聞き付けた『奴ら』がくるかもしれない。……と、その前に……」
踵を返して立ち上がろうとした男性は、思い出したように二人に告げた。
「『白石優慈』!」
「は、はい!」
「『秋神楓』!」
「はい!」
「監督官である私の権限の下、両名の『昇級』を認める!」
その言葉を聞いた瞬間、二人の顔には満面の笑みが浮かぶ。
「やったぜ!」
「当然の結果よね」
「……反省しろと言ったはずだぞ?」
「「はい! すいませんでした!」」
……こうして、しまらないながらも、彼らは帰っていく。
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この物語は、とある少年少女たちの物語。
『正義』とは何か?
『悪』とは何か?
『自由』とは?
『幸福』とは?
そして、『夢』とは?
様々な疑問が渦巻く世界の中で、それでも少年達は、今日もまた『日常』を送る。
普通とは言いがたい事情を抱えながら……。
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