快晴に咲く

雫花

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訪ね歩くは星降る夜

主神ヴァシリアス

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『あのクソ旦那、人の話聞きやしないんだから』


 リリィは、セイカの頭に座りながら足を組み、頬杖をついて口を不機嫌そうに尖らせた。


「旦那、とは……プシケに伴侶が居る話は聞いたことないのですが……」

『ヴァシリアスよ、ヴァシリアス。人間嫌いのクソ浮気オトコ。そんな奴に何万年も振り回されてる私も私だけど、流石に今回の件でブチ切れて冥界から家出してきたの』

「うそぉ……ボクらもしかしてすごいこと聞いてる今……?」

「そうだな……そうみたいだな……なぁリリィ、あんたこの件について、なんで今まで何も言わなかったんだ?」

『だって、事実は全て他の女神や人から伝わることで完結するもの。私の話については余談でしかないわ。リセットというのも本当よ。魂は輪廻する。だから殺さず生かさず……腹が立つわ』

「要は、その……夫婦喧嘩中……という事でしょうか」

『そうよ?冥界の女神が嫁のくせに!ニンゲンを生かしも殺しもしないからもう誰も来ないの!魔法使いだけバンバン生み出して、どうしろって言うのよ!魔法使いの死後は管轄外よ馬鹿旦那!』


 リリィが憤慨している中で、3人は顔を見合せた。
 ヴァシリアスは、人間が嫌いでリセットを行った。そして今、冥界の女神プシケが、人間の魂が来なくなってしまったためどうにかして欲しい思いでリリィとして弟子に着いてきている。

 ただしここで、ひとつの疑問が浮かび上がる。


「なぁリリィ。このリセットって……ヴァシリアスが、人間嫌いでやってる事なんだよな?」

『えぇ、魔法使いだけの世界にしたいんだって言ってたわ。ぶん殴ってきたけれど』

「じゃあだぞ。運命ってなんだ?」


 セイカがそう聞くと、リリィはぽかんとした後に目を見開いた。


『……あぁ、確かにそうねぇ。正直この計画は最近始まったもので、運命なんかじゃない……と思うわ。あと、貴方にセイカと名をつけろと言った神はヴァシリアスじゃないわ』

「は?じゃあ、大神って誰だよ?」

『……誰なのかしら。……そもそも、イスラはヴァシリアスが嫌いだから口すら聞かないわ。セイカを女にしたような子よ。ヴァシリアスの話をするだけで不機嫌になって話さなくなるもの、命令されて受けるような子でもない』

「じゃあ尚更、てか、魔法使いが女神から生まれるってやつ、あれはヴァシリアスは関係ないのか?女神とヴァシリアスの子が魔法使いってイメージしてたんだが」

『そんんんんな浮気してたらあたしだって何万年も大人しくしてないわ!魔法使いは、ただヴァシリアスが作った創造物よ。そこに、女神たちが命を吹き込むの。要は、ヴァシリアスはお人形遊びをしているだけよ。あの人が作ったあとの人形の後先なんか考えること、これっぽちもないの』

「……じゃあ、ほんとに誰なんだ……」


 そこで流れる、沈黙。全員が頭を悩ませてしまった。唯一、全てを知っているはずだったリリィまでも。

 大人たちがそうして頭を悩ませていると、リビングルームの扉がゆっくりと開いた。
 そちらを見やると、眠たそうに目を擦りながら、低い身長でやっと扉を開けたのであろうマホが居た。


「どうした、マホ?」

「……せいかさまぁ……怖い夢見たあ……。一緒寝よぉ……」

「えぇ……リリィ、お前が」

『それは安心ね!さぁ!セイカ、一緒に寝てあげましょう!』

「おい……!……はぁ。分かったよ。ほら部屋に行くぞ。まぁ、とにかく明日、星の街に向かおう。半日あれば着くはずだ」

「うん。おやすみセイカ、マホちゃん、リリィ、セラ」

「おやすみ、いい夢見るんだぞ」


 ビオンとリジェネは、他を見送りリビングルームに残った。
 そして、ビオンは世界図書を開いた。
 リジェネも、それが最善だと考えたようだ。


「運命を告げるような神様なんて、誰かいたかな」

「さぁ……神話に詳しい方だと思うが、聞いたことがない。冥界の女神プシケ、主神ヴァシリアス、泉の女神たち……これ以外の神を知らないな」

「まぁ……。ヴァシリアスに話を聞くっていう目的もなくなっちゃったわけだね。何をどうしたらいいのか……」

運命さだめなのであれば、自ずと見えてくるものなんだろうか」

「さぁ……。だけどさ、セイカなら何とかしちゃう気がするんだ。……セイカは、なんでも出来てしまうから」

「そうだな。……無茶はしないといいが。それに……アンジュは無事だといいな?」

「あ!もう!……まぁ、それは本当にそうだね。祈るしかないよ」


 しばらくの沈黙の後、それを立ち上がることで破ったのはビオンだった。
 もう寝るよ、と、部屋へ戻る。
 リジェネも、1人でこれ以上考えても分からないことは明白だった。寝室に戻り、布団に潜り込む。

 自身の師匠の魔力を握りしめ、ただ、枕を濡らし眠るのだった。




 翌日、少し早い時間に起き身支度をする。
 セイカ、ビオン、マホ、そして妖精3匹はリジェネに挨拶をして、また来ることを約束した。
 リジェネの顔は、少しだけ目が赤かった。

 それを見て見ぬフリし、一行は星の街に赴く。

 前日に、サンへ向かうと綴った手紙の返事が来ていた。


「セイカー、はやくきてねぇー、待ってるよぉー。だとさ」

「はは、サンもかわらなさそうだね」

「ああ、あの気の抜けた顔が思い浮かぶな」


 街を出て、サンの街へ向かう道を歩く。
 その間、何故かセイカにマホがずっとくっついていた。
 一旦止まり、セイカはマホに視線を合わせる。


「どうしたマホ。怖いのは居ないぞ?」

「……でもさっきから、きこえる、怖いやつの声」

「……出てこないだけか……。……はぁ、仕方ねぇな。歩きづらいし……ほら」

「ぅ?」


 セイカは、マホを軽々持ち上げ歩き出した。


「これなら怖くないだろ」

「わ、わぁ……!!うん!こわくなーい!!たかーい!」

「そうだろうな。マホ、歩いてやるから、冷風の魔法掛けてくんないか」

「わかった!えーっとぉ……『ぶりーずるーむ』!」

「おー。涼しい、よくできました」

「わぁい!!」

『ビオン師ぃ……信じらんないよォ……』

「同感……」

『ふふ、親子か兄弟みたいね』

「セイカが親になったとしたって、あんな感じなんだろうなぁ~……」


 信じられない光景を眺めながら、先頭を行くセイカとマホについて行く。
 セイカの肩にいるマホは、とても楽しそうに歌を歌っていた。

 しかし、そうして呑気に歩いていると、目立つ魔力のセイカに魔獣が寄ってくる。


「うぁあ怖いの来たああっ」

「ふー。……マホ、今日のご飯、どっちの肉がいい」

「えっ?……えと、えと……ぶたさん!」

「分かった。『ホーリーヘイト』、『プラントセイラゼイン』『パーゴスレイン』」

「うわぁ……。セイカいたら僕ら戦わなくていいねぇララ」

『そうですね……。お見事な呪文捌きです、セイカ様』

「ビオンもできるし、お前の後ろにも五体居る」

「え?……わっ!?『パピルストメーシス』!」

「よーし、牛と豚げっと。ビオン今日の昼飯なにー」

「ん~、じゃあそこの、今めちゃくちゃ圧死してるバルトロメオピグで……ミルク煮かな?あとは全部保管しておくね」


 少し平坦になっている場所で、設営をしてビオンは昼食作りを始める。
 切断の呪文や炎の呪文などを駆使して料理をする姿は、普通は異様な光景だろう。
 だが、魔法使いはこんなものだ。


「なぁビオン、お前さ、パピルス系呪文とか得意だよな」

「うん?まぁそうだね。セイカは自然系が得意でしょ?」

「おー。どっからどうやって紙をあそこまで早く生成してんの……」

「あぁ!それね!世界図書の中身を全部データ化してるから紙が要らなくなって……余ったの出してるの。在庫だよ」

「お前しか出来ねぇ!それにほぼ無制限じゃねぇか!」

「えへへ……。ほら!出来たよーミルク煮!」


 高位魔法使いだという認識を再度確認するような会話を周りはドン引きで聞いていることなど、2人は気付いていない。
 完成したバルトロメオピグのミルク煮を全員に出し、昼食をすませる。
 お腹がいっぱいになって眠ってしまったマホをまた抱き抱え、一行は歩き出す。

 段々と、まだ時間帯は夕方にもなっていないのに、空が暗くなる。

 そして、空を埋め尽くすほどの美しい星空が広がり始めた。
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