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春の国
春の門
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黒い天使は、そのままあの扉へと向かった。移動しながら、先程ジャスから貰ったメモ用紙を確認した。
「春を制するは白の門…白の門を制さぬものは、青の宝玉取るべからず。桃青橙そして紫。桃は青を制し、青は橙を制す。橙は紫を制し、紫は然を制す。門、城、鳥居、塔を制するものは、天使に見えよう……。ふぅん」
そのメモを制服の胸ポケットに仕舞うと、扉のダイヤルを春に合わせ、扉を開いた。
変わらず、静けさと暖かさが身を包んだ。桜の花びらが絨毯を作り、人間が居ない静けさを強調していた。
あの人間の姿は見えないが、天使はさほど気にすることなく歩いてゆく。
桃色の絨毯を踏みしめながら、街の中央へと向かう。ビルや車の残骸が目立つ中心は、やはり人影もなく静まり返っていた。
探せば人はいるのかもしれないが、現状そんなことをしている場合ではない。
天使があたりを見回して歩いていると、先ほど見たパーカーが視界に入った。波留だ。だが、別にこちらから声をかける義理もない。
知らないふりをして通り過ぎようとするが、運悪く、波留が後ろを向いた。
「あ!天使さんだ!おかえりなさい!!」
「ちっ…。ああ、戻ったぞ」
「ん?いま舌打ちしませんでした?」
「気のせいだ」
天使はそのまま、目線を合わさず歩き続けた。何も言っていないのに、波留もその後ろをついてきた。
「天使さん、何か探してますか?」
「白の門を探している。私が通って来たところではない、他に白い門はないか?」
「えぇ?白い門…おとぎ話に出てくるやつとかでもアリですか?」
「なんでもいい、心当たりがあるなら聞かせてくれ」
天使が頼むと、波瑠は手を顎に当てる。おとぎ話を思い出しているようだ。
少しして、波瑠は天使に向き直る。
「じゃあ話しますね。昔、この国が出来上がるよりずっと前の話。整備も何もされてない、国造りの神様だけが居た頃に、春の神様がここには居たそうです」
「……春の神様、か。確かに、実際春の神は存在するな」
「あっ、居るんだ!へえぇ!あ、でね、春の神様は、この土地を春の国にしようって決めて、土地の探索を始めたそうです。雑多に木が生えていて、道という道もない所だったから、手当たり次第に歩いていくと、何かが動く音がしたそうです」
「ふむ…」
「音の方に行ってみると、そこには崩れたような真っ白い、観音開きの扉とその周りの装飾をもって門にしたようなものがあったそうです。それで、その観音開きの扉の間に、どこから来たのか分からない、人の子供が泣いてたそうです」
「人の……?」
「はい、おかしいですよね。その時にはまだ、少なくともこの土地には人間なんて居なかったのに。春の神様は変に思ったけど、ここに放置しておくわけにもいかなくてその子を拾ったそうです」
波瑠は記憶を頼りに話を続ける。
その子を拾った神は、その場に1度住処を構えそこで子育てしたと言う。
みるみる大きくなっていく日々、神は周りを着々と整備して行った。子供が怪我をしないように道を作ったり、この暖かい気候を利用して桜を至る所に植えたりして行った。
子供が成長すると、それは美しい女性に成長したと言う。
人間だと思っていたものは、小さいが故に気付かなかったが天使だった。
しかし全ての階級を無視した例外の存在。真っ白い髪に、先端の黒い翼、桃色の瞳をしていた。
その天使を、春の国の守護天使として、神の力を分けた国の象徴となる宝玉を護らせることにした。
この門が在る場所や、守護天使の居所は明かされては無い。
だが、確実に、それは「在る」と言われている。
「なるほど…。じゃあ、場所は分からないんだな?」
「そう。でも、一つだけ心当たりが有るんです」
「というと?」
「誰も入ったらいけないよと幼い頃全員が教わる、所謂禁足地と言うやつがあります。昔からずっと言われてるんで、僕も入ったことはないんですけどね」
「ふむ…もう誰もおらん、それに、人では無い私が居る。お前も桜が操れると聞いている。ならばそこに行ってみよう。案内してくれるか」
「わかりました!着いてきてください!」
波瑠は意気揚々と先頭を歩き出した。天使もそれに素直についていく。
進むにつれ、ビル群は次第に無くなっていき、桜のみが視界を埋めるようになった。
花の香りが強い。
桜の絨毯が出迎えてくれるようになると、波瑠がそこで立ち止まった。
「この先です。ほら、ここ、立て看板あるでしょ」
指し示す場所に、桜に隠れてはいるが立て看板が施してある。
「禁足地につき、入るべからず」
そう記載された、木の立て看板だ。
「ちなみにだが、なぜ禁足地なんだ?」
「うーんと、たしか、この森の中に入ると迷って出られなくなるだとか、異界に繋がってるだとか、容姿が良い人が入るとこの中に潜んでる女の霊に監禁されて二度と出て来れない……とか?」
「やけに限定的なのがひとつあるな…。容姿の善し悪しについて私は知らんが、少なくとも、お前はいい方なのだろうな。気を付けろ」
「え!僕かっこいいって事ですか!?」
「……どちらかと言えば、可愛いという方ではないだろうか」
「む…ま、まぁいいか……褒められてんだし……」
そう言って、波瑠と天使は禁足地へと足を踏み入れる。
何ら変わらない景色だが、桜が茂っていて、木々の隙間から零れる木漏れ日が幻想的だった。
道らしい道もなく、めぼしい目印になるものも特に無い。
「おい波瑠、なにか目印になるものは無いか?」
「え?うーん…なにかあるかな…。あ!有りますよ!紙幣!」
「お前はいいのかそれで」
「だってもうお金使わないし~」
「お前がいいならそれでいいが……どこかの木に、それを括りつけろ」
「はーい!」
波瑠は言われた通り、手近な木の枝に紙幣を突き刺し、穴の裏と表に面している部分に太めの草を巻き付け滑り止めにした。
「これでよし!これで迷ってても気付けますね!」
「ああ。進むぞ」
天使と波瑠は、また歩を進めた。禁足地とは言われているが、それらしい道のようなものは見える。それに従い歩いていく。
「……ん。おい波瑠」
「はぁい?」
「あれ、さっきの紙幣だ。迷っている」
「あ~…まぁまぁまぁ、想定内ですよ」
「そのまま真っ直ぐに進んでも同じだろうな。道では無い道を行くとするか…。としても、どこに向かう?」
「そ~ですね……うーん、闇雲に歩いてもダメな気がするからなあ…」
2人は首を傾げる。周りを見渡しても特にこれといった違和感や違いは無い。
「…飛んでみるか」
「え、ああ!上から見るってことですか?」
「そうだ。出られるかは知らんが、やってみても損は無いだろう」
「じゃ!よろしくお願いします!!」
波瑠の声はほぼ無視をし、天使は自身の髪を翼に変えて真上に飛んだ。
波瑠は下から見上げている。
天使の予想では、中々抜けられないだろうと思っていた。だが、予想とは違い、案外簡単に上空に出ることが出来た。
柔らかい青空と、眼下一面に広がる桃色。
先程通ってきたと思われる方向を見てみるが、あのビル群ですら見えなくなっていた。
よくよく見渡してみると、ある一角に開けた部分が見えた。そこだけ、人為的に広げられているような印象だった。
位置と方向を確認し、波瑠の元へと真っ直ぐに降りる。
と、いるものだとばかり思っていた波瑠が居なくなっていた。
木には紙幣が括りつけてある。ということは、場所自体は変わっていないはずだ。
ならば、波瑠はどこに行ったのだろうか。と思案しているが、現状ここ以外にはあの開けた場所しかめぼしい所も分かる場所もない。
「面倒だな…とりあえずあいつも自衛くらいできるだろう」
そう呟き、天使はまた上空に飛び上がる。
そこから開けた場所に向け飛ぶのだった。
「春を制するは白の門…白の門を制さぬものは、青の宝玉取るべからず。桃青橙そして紫。桃は青を制し、青は橙を制す。橙は紫を制し、紫は然を制す。門、城、鳥居、塔を制するものは、天使に見えよう……。ふぅん」
そのメモを制服の胸ポケットに仕舞うと、扉のダイヤルを春に合わせ、扉を開いた。
変わらず、静けさと暖かさが身を包んだ。桜の花びらが絨毯を作り、人間が居ない静けさを強調していた。
あの人間の姿は見えないが、天使はさほど気にすることなく歩いてゆく。
桃色の絨毯を踏みしめながら、街の中央へと向かう。ビルや車の残骸が目立つ中心は、やはり人影もなく静まり返っていた。
探せば人はいるのかもしれないが、現状そんなことをしている場合ではない。
天使があたりを見回して歩いていると、先ほど見たパーカーが視界に入った。波留だ。だが、別にこちらから声をかける義理もない。
知らないふりをして通り過ぎようとするが、運悪く、波留が後ろを向いた。
「あ!天使さんだ!おかえりなさい!!」
「ちっ…。ああ、戻ったぞ」
「ん?いま舌打ちしませんでした?」
「気のせいだ」
天使はそのまま、目線を合わさず歩き続けた。何も言っていないのに、波留もその後ろをついてきた。
「天使さん、何か探してますか?」
「白の門を探している。私が通って来たところではない、他に白い門はないか?」
「えぇ?白い門…おとぎ話に出てくるやつとかでもアリですか?」
「なんでもいい、心当たりがあるなら聞かせてくれ」
天使が頼むと、波瑠は手を顎に当てる。おとぎ話を思い出しているようだ。
少しして、波瑠は天使に向き直る。
「じゃあ話しますね。昔、この国が出来上がるよりずっと前の話。整備も何もされてない、国造りの神様だけが居た頃に、春の神様がここには居たそうです」
「……春の神様、か。確かに、実際春の神は存在するな」
「あっ、居るんだ!へえぇ!あ、でね、春の神様は、この土地を春の国にしようって決めて、土地の探索を始めたそうです。雑多に木が生えていて、道という道もない所だったから、手当たり次第に歩いていくと、何かが動く音がしたそうです」
「ふむ…」
「音の方に行ってみると、そこには崩れたような真っ白い、観音開きの扉とその周りの装飾をもって門にしたようなものがあったそうです。それで、その観音開きの扉の間に、どこから来たのか分からない、人の子供が泣いてたそうです」
「人の……?」
「はい、おかしいですよね。その時にはまだ、少なくともこの土地には人間なんて居なかったのに。春の神様は変に思ったけど、ここに放置しておくわけにもいかなくてその子を拾ったそうです」
波瑠は記憶を頼りに話を続ける。
その子を拾った神は、その場に1度住処を構えそこで子育てしたと言う。
みるみる大きくなっていく日々、神は周りを着々と整備して行った。子供が怪我をしないように道を作ったり、この暖かい気候を利用して桜を至る所に植えたりして行った。
子供が成長すると、それは美しい女性に成長したと言う。
人間だと思っていたものは、小さいが故に気付かなかったが天使だった。
しかし全ての階級を無視した例外の存在。真っ白い髪に、先端の黒い翼、桃色の瞳をしていた。
その天使を、春の国の守護天使として、神の力を分けた国の象徴となる宝玉を護らせることにした。
この門が在る場所や、守護天使の居所は明かされては無い。
だが、確実に、それは「在る」と言われている。
「なるほど…。じゃあ、場所は分からないんだな?」
「そう。でも、一つだけ心当たりが有るんです」
「というと?」
「誰も入ったらいけないよと幼い頃全員が教わる、所謂禁足地と言うやつがあります。昔からずっと言われてるんで、僕も入ったことはないんですけどね」
「ふむ…もう誰もおらん、それに、人では無い私が居る。お前も桜が操れると聞いている。ならばそこに行ってみよう。案内してくれるか」
「わかりました!着いてきてください!」
波瑠は意気揚々と先頭を歩き出した。天使もそれに素直についていく。
進むにつれ、ビル群は次第に無くなっていき、桜のみが視界を埋めるようになった。
花の香りが強い。
桜の絨毯が出迎えてくれるようになると、波瑠がそこで立ち止まった。
「この先です。ほら、ここ、立て看板あるでしょ」
指し示す場所に、桜に隠れてはいるが立て看板が施してある。
「禁足地につき、入るべからず」
そう記載された、木の立て看板だ。
「ちなみにだが、なぜ禁足地なんだ?」
「うーんと、たしか、この森の中に入ると迷って出られなくなるだとか、異界に繋がってるだとか、容姿が良い人が入るとこの中に潜んでる女の霊に監禁されて二度と出て来れない……とか?」
「やけに限定的なのがひとつあるな…。容姿の善し悪しについて私は知らんが、少なくとも、お前はいい方なのだろうな。気を付けろ」
「え!僕かっこいいって事ですか!?」
「……どちらかと言えば、可愛いという方ではないだろうか」
「む…ま、まぁいいか……褒められてんだし……」
そう言って、波瑠と天使は禁足地へと足を踏み入れる。
何ら変わらない景色だが、桜が茂っていて、木々の隙間から零れる木漏れ日が幻想的だった。
道らしい道もなく、めぼしい目印になるものも特に無い。
「おい波瑠、なにか目印になるものは無いか?」
「え?うーん…なにかあるかな…。あ!有りますよ!紙幣!」
「お前はいいのかそれで」
「だってもうお金使わないし~」
「お前がいいならそれでいいが……どこかの木に、それを括りつけろ」
「はーい!」
波瑠は言われた通り、手近な木の枝に紙幣を突き刺し、穴の裏と表に面している部分に太めの草を巻き付け滑り止めにした。
「これでよし!これで迷ってても気付けますね!」
「ああ。進むぞ」
天使と波瑠は、また歩を進めた。禁足地とは言われているが、それらしい道のようなものは見える。それに従い歩いていく。
「……ん。おい波瑠」
「はぁい?」
「あれ、さっきの紙幣だ。迷っている」
「あ~…まぁまぁまぁ、想定内ですよ」
「そのまま真っ直ぐに進んでも同じだろうな。道では無い道を行くとするか…。としても、どこに向かう?」
「そ~ですね……うーん、闇雲に歩いてもダメな気がするからなあ…」
2人は首を傾げる。周りを見渡しても特にこれといった違和感や違いは無い。
「…飛んでみるか」
「え、ああ!上から見るってことですか?」
「そうだ。出られるかは知らんが、やってみても損は無いだろう」
「じゃ!よろしくお願いします!!」
波瑠の声はほぼ無視をし、天使は自身の髪を翼に変えて真上に飛んだ。
波瑠は下から見上げている。
天使の予想では、中々抜けられないだろうと思っていた。だが、予想とは違い、案外簡単に上空に出ることが出来た。
柔らかい青空と、眼下一面に広がる桃色。
先程通ってきたと思われる方向を見てみるが、あのビル群ですら見えなくなっていた。
よくよく見渡してみると、ある一角に開けた部分が見えた。そこだけ、人為的に広げられているような印象だった。
位置と方向を確認し、波瑠の元へと真っ直ぐに降りる。
と、いるものだとばかり思っていた波瑠が居なくなっていた。
木には紙幣が括りつけてある。ということは、場所自体は変わっていないはずだ。
ならば、波瑠はどこに行ったのだろうか。と思案しているが、現状ここ以外にはあの開けた場所しかめぼしい所も分かる場所もない。
「面倒だな…とりあえずあいつも自衛くらいできるだろう」
そう呟き、天使はまた上空に飛び上がる。
そこから開けた場所に向け飛ぶのだった。
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