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前口上 ~そして高座の幕が開き~
しおりを挟むふざけたタイトルである。
『笑う』怪談
声に出して言ってみましょう。「わらう、かいだん」
やっぱりふざけている。イヤハヤすみませぬ。
この怪談集は、だいたい2006年~2007年頃にメディアファクトリー様の『幽』誌の怪談賞に応募したもの、であると記憶している。この頃は自分的にもいろいろ一杯一杯だったこともあり、実は細かいところをかなり失念してしまっているのだ。
2000年代中頃。ラノベ作家を目指しつつもなかなか芽が出ず、一時は付いていた担当編集の方も離れていってしまった。
今に見ていろ、すごい小説を書いてやるんだからな・・・と意気込んで執筆に打ち込んではみたものの、「こんなんではイカン」「駄作を量産している」「オレは何てダメな人間だ・・・」と精神的に自分を追い詰め、正直言ってあまり良くない心の状態になっていた。
そんな時、『幽』誌で実話怪談(当時の京極夏彦先生の言葉を借りれば「実話系怪談)の一般応募記事を見つけたのである。
ともするとラノベ以上に怪談が好きだった私は、「遂に実話怪談を広く一般から募る時代が来たのだな」と欣喜雀躍。当時既にそこそこの数の怪談を蒐集していたこともあって、自らも執筆・応募することを固く決意したのである。
だが。この時、私は考えた。
考えなくてもいいことを考えてしまった。
――ふつうに怖い話、なんてのは怪談好きなら誰でも読み慣れている。
もう少し、何かこう、変化球を投げるような仕上がりを目指してみたい。
たとえば・・・思わずプッと吹き出すような怪談ばかりを集めるとか。
ネタスレスレみたいな話を、あえてチョイスし、収録するとか。
・・・ガチで怖い話をガツーンとぶつける、なんてストレートな発想が出来なくなってしまっていたのである。
変化球を求めたのは自分に「自信」が持てなくなってしまっていたから。正攻法をやっても自分は勝てないと「卑屈な思い込み」に走っていたからなのだが、そういうラビリンスに迷い込んでしまった人間というのは、事実にまったく気がつかないものなのである。
笑いと恐怖は、いわば合わせ鏡。
笑い話も怪談になり得るし、怪談もまた笑い話になり得る。
書き方次第、表現次第で怖い話がギャグになり、笑い話がホラーになる。
ならば、「これを聞いて笑って下さいよ」という前提で語られた怪談は、果たして『怪談』なのか、『笑い話』なのか??
よほど繊細な匙加減で話を紡がないと、どっち付かずの駄作になってしまう。
当時の私には、この微妙な論理がわからない―― 怪談をインプットすることだけに執心しアウトプットすることにおざなりだったので、わかりようがない。
書いてみてわかった。「これは難しいぞ」
そして送った。「いい結果が出ますように!」
いい結果は出なかった。
するとそこで、もともと健全なコンディションでなかった私の心は折れた。
もう怪談なんか書かない。オレはラノベ作家になる。ラノベだけ書く、と。 半ばいじけたように決意してしまったのだ。
・・・現在、カクヨム連載で大トリを飾らせた作品は既に取材していたのだから。とっととそれを形にし、結果はどうあれ応募してみれば良かったものを。
感情を引きずり、視野がおそろしく狭くなっていたのである。本気で書いたガチの怪談がもし落選したら立ち直れないのではないかという怖さも感じていた。あの頃は、「日々の時間が過ぎてゆく」のが切実に恐ろしかった。
ともあれ、今回 そんな昔の印刷原稿を奇跡的に発見した。
文章のデータ自体はフロッピーディスクと共にいつしか紛失してしまったのだが。当時私が怪談を書いたということを知った友人が「俺にも読ませて」と言ってきたので、プリンタで印刷してプレゼントしたのである。そしてその後、律儀にも私に返してくれたのだ。
帰ってきた怪談集は押し入れの奥深くに直し込まれ、そのまま忘れ去られて幾年月。ほぼ10年ぶりに、昔のゲーム雑誌のバックナンバーを漁っていた私が再発見した、という経緯なのである。
さっそく読んでみた。
げげ、当たり前だけれど――今と作風が全然違うぞ。
『真事の怪談』的に絶対あり得ないような表現も使っている。
わかってなかったんだなぁ、と しみじみした気分になった。
これは粗い仕上がりだったと今は思う。
だが、話の輪郭は仄かに光っている。チョイス自体は間違っていない。
だから。
今なら、読者諸兄の鑑賞へ足るものに書き直せると思う。
〝笑えて、しかも怖いお話〟という課題を本当にクリア出来るものになるかどうかは難しいが―― トライしてみようと思えるガッツが、少なくともいまの私にはある。
広義の『笑い』をテーマに据えて、新しいアプローチで過去の作品を書き直す。当時の自分を乗り越える為にもやらなければならない試みだろう。
やります。いや、やってやるぜ!!!
というわけで〝『笑う』怪談〟。
フリースタイルで書き始めた結果、熱血オチみたいな序文となってしまった。
その上で断らせて頂くが―― 当時の怪談提供者様の連絡先なども紛失しているものが多く、少なくとも当時執筆した10話のうち1話は、その後の人間関係の問題などもあって今回収録出来なくなってしまった。
知り合いのツテなども頼って、掲載許可の問題は地道に解決していこうと思うものの。ひとまず、発表が出来るものから ゆっくり一話一話、更新していくことにする。
もしかすると、『妖魅砂時計』のチョイスから外れたギャグ的な側面の強い怪談、シュールすぎてネタだと思われる恐れがあった怪談なども発掘し、新しく執筆して公開するかも知れない。その際、タイトルの前に『※』印をつけて区別をしていこうと思う。
そして・・・
♪ちゃらすっちゃんちゃん
♫てけすってんてん・・・
・・・あら?
ふむ。どうやら前口上に手間取りすぎて。もう出囃子が始まってしまったようで。
それでは気分を変えて――行ってみまするか。
前代未聞、『笑う』怪談の幕開けでおじゃります。
笑って、ゾックリきて。笑って、ゾックリきて・・・
さてさて、最後にあなたのお顔に浮かびます御表情は――
応援ありがとうございます!
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