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#077 『怒りの仏間』
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80年代も中期の話。
稲葉さんは、かなり破天荒な少年時代を過ごしていた。
髪は金色に染め、眉にはソリを入れ、服も見事なツッパリルックでバリバリに、いろいろとトバしまくっていたという。
※ ※ ※ ※
ある日、仲のいい友人・岸本くんの家に遊びに行った。
岸本くんもツッパリだったが、稲葉さんは彼と比べるとレベルが二桁ほど違う。
当然、彼の家族は露骨に厭な顔をして稲葉さんを迎えるわけだが、
「ウィーッス、お邪魔様ァーッス」
わざとガンつけて小馬鹿にしたような挨拶をし、粋がっていたそうだ。
岸本くんの家には、当時発売されて間もない8ビットのテレビゲーム機があった。
稲葉さんの目当てはそれである。今からすれば他愛もない、テニスやら野球やらの素朴なゲームを、ピコピコと飽きもせずに何時間もプレイしていた。
彼はド級のヤンキーだから、門限など無いのである。
そんなこんなで、夜の10時になった。
泡の入った苦いジュースの飲み過ぎで、尿意を催したという。
「ひゅーっ、ちょっとションベン、ションベン」
トイレは廊下の突き当たりだと聞き、小走りで向かった。
と、一室の障子が全開になっており、そこから光が洩れているのに気付く。
何だろう?通りがてら、横目で部屋の中を確認してみると、
(うわ、何じゃこりゃ)
脚が止まってしまった。
そこは仏間だった。
部屋の真ん中、奥の方に仏壇が設えてあるのは当たり前だが、それがあまりにも大きく、荘厳・立派に過ぎるのだ。「でっけぇぇぇ」「キンキラキンじゃねぇか」「金閣寺みてぇだ」と、よくわからない感想を当時の稲葉さんは抱いたという。
更に、仏間の天井近くの壁には、ずらりとご先祖様の遺影が掛けられている。
こういうスゲー仏間ってマジであるんだ?岸本ン家って本家か何かなのか?一瞬、呆気に取られてしまった稲葉さんだが、初めて見る光景に俄然、興味が湧いてしまったという。
他人の家の仏間に、ずかずかと上がり込んだ。
そして「金閣寺みたいな」仏壇をまじまじと眺め回した後、「へっ、そこそこイカしてんじゃん」と飾りを一つ二つ、指で弾き、
「うー、そうだった。ションベン、ションベン」 ゲフッと大きなゲップを残し、トイレへ向かった。
※ ※ ※ ※
「はー、スッキリしたぁ! ・・・ところで岸本ォ、あれスゲーなぁ仏壇よォ」
出すものを出して気分爽快の稲葉さんは、部屋に戻るなり岸本くんにそう切り出したという。
が、岸本くんは「仏壇?」と首を傾げる。
「確かにウチには仏間があるけど、そんな大した仏壇はねーよ・・・」
「いやいや、謙遜すんなよ。ありゃ立派だよ。俺みてーなヤツでも思ったよ」
「??? えっ、お前、もしかして仏間に入ったの?!!」
「だって、障子が全開で明かりもついてたし――」
岸本くんの顔色が変わった。
お前、今日はもう 帰った方がいいよ、と言う。
「あ?どーしてよ」
「あ、あのな・・・ウチの先祖、何てゆーかな。仏間の中で粗相したら、スゲー怒るんだ・・・そしたら、その、何だ。いろいろとヤバいことが起こるんだよ・・・」
「はっ?何それ、ユーレイの祟りってこと?バッカじゃねぇか、テレビでゲームが出来る時代なんだぞ、今は!」
とにかく帰ってくれ、家族に話して、もしかしたら坊さんを呼ばなくちゃならないかも知れない・・・ 岸本くんは、ほとんど泣きそうな声で懇願した。俺だって多少はツッパッてるけど、仏間の中に入る時には背筋を正して真面目にやってるくらいなんだ、と強く主張した。
「まさかお前が仏間に入るなんて思わなかったんだ!やばいよやばいよ、何てことしてくれたんだよ・・・」
しかし、それは稲葉さんの反骨精神に油を注ぐような結果になってしまったのである。
「ケッッ!!祟りが何だ、それでも男か!上等じゃんかヨォ。先祖が怒ってるってんなら、俺が も一度行って、黙らせて来てやるぜ!!」
足音も高く、再び仏間へと向かった。
何故か障子は閉まっていたそうだが、明かりはついていたので 容赦なく侵入した。
ここには書けないような言葉で岸本くんのご先祖様を罵倒し、高い位置に並んだ遺影群に向かって、キッと睨みつけるようにガンを飛ばした。
と。
そのまま、固まってしまった。
遺影が。遺影に映った人物らが、
全員、後ろを向いている。
――何故――
あんぐりと口を開けつつ、あの荘厳華美な仏壇へと視線を向けてみると、
「・・・・・・・・・!!!」
そこに、仏壇は無かった。
代わりに、金色の大きな人間の後ろ姿があった。
男か女か、どんな服を着ていたか、不思議と思い出せないという。
ただ、ぷるぷると、全身を小刻みに震わせていた。
その頭は、もうほとんど、天井にくっつく。
あ、これは2m以上はあるな。
そう思った瞬間、脱兎の如く逃げ出していた。
※ ※ ※ ※
お邪魔しました、を言ったおぼえは無いという。
ただし、気付いた時には家の外をほうほうの体で走っており、息も切れ切れ。靴すら履き忘れていた。
生まれて初めて、心の底から「怖い、怖い」と泣いていた。
「・・・・・・あの頃はバカだった。ほんとうにバカだった」
岸本にはどんなにお詫びを言っても言い足りない―― 年齢を重ね、自分の家庭を持ち、落ち着いた中年男性となった稲葉さんは言う。
「あの後、直ぐに岸本の家、不審火で焼けちまった・・・!」
俺が 先祖を本気で怒らせちゃったせいでしょうかねぇ――
顔をテーブルに伏せるようにして、稲葉さんは絞り出した。
「・・・いや。あれ、先祖とかじゃなかったかも知れない。怒ったら自分を供養する仏間まで一緒に燃やしちまうなんて、そんな先祖、居ないと思う」
もし 居るとしたら。
本当に、恐ろしい――
岸本さん自身はご存命だというが、あの時 彼の家を飛び出してから、一度も顔を合わせてはいないという。
稲葉さんは、かなり破天荒な少年時代を過ごしていた。
髪は金色に染め、眉にはソリを入れ、服も見事なツッパリルックでバリバリに、いろいろとトバしまくっていたという。
※ ※ ※ ※
ある日、仲のいい友人・岸本くんの家に遊びに行った。
岸本くんもツッパリだったが、稲葉さんは彼と比べるとレベルが二桁ほど違う。
当然、彼の家族は露骨に厭な顔をして稲葉さんを迎えるわけだが、
「ウィーッス、お邪魔様ァーッス」
わざとガンつけて小馬鹿にしたような挨拶をし、粋がっていたそうだ。
岸本くんの家には、当時発売されて間もない8ビットのテレビゲーム機があった。
稲葉さんの目当てはそれである。今からすれば他愛もない、テニスやら野球やらの素朴なゲームを、ピコピコと飽きもせずに何時間もプレイしていた。
彼はド級のヤンキーだから、門限など無いのである。
そんなこんなで、夜の10時になった。
泡の入った苦いジュースの飲み過ぎで、尿意を催したという。
「ひゅーっ、ちょっとションベン、ションベン」
トイレは廊下の突き当たりだと聞き、小走りで向かった。
と、一室の障子が全開になっており、そこから光が洩れているのに気付く。
何だろう?通りがてら、横目で部屋の中を確認してみると、
(うわ、何じゃこりゃ)
脚が止まってしまった。
そこは仏間だった。
部屋の真ん中、奥の方に仏壇が設えてあるのは当たり前だが、それがあまりにも大きく、荘厳・立派に過ぎるのだ。「でっけぇぇぇ」「キンキラキンじゃねぇか」「金閣寺みてぇだ」と、よくわからない感想を当時の稲葉さんは抱いたという。
更に、仏間の天井近くの壁には、ずらりとご先祖様の遺影が掛けられている。
こういうスゲー仏間ってマジであるんだ?岸本ン家って本家か何かなのか?一瞬、呆気に取られてしまった稲葉さんだが、初めて見る光景に俄然、興味が湧いてしまったという。
他人の家の仏間に、ずかずかと上がり込んだ。
そして「金閣寺みたいな」仏壇をまじまじと眺め回した後、「へっ、そこそこイカしてんじゃん」と飾りを一つ二つ、指で弾き、
「うー、そうだった。ションベン、ションベン」 ゲフッと大きなゲップを残し、トイレへ向かった。
※ ※ ※ ※
「はー、スッキリしたぁ! ・・・ところで岸本ォ、あれスゲーなぁ仏壇よォ」
出すものを出して気分爽快の稲葉さんは、部屋に戻るなり岸本くんにそう切り出したという。
が、岸本くんは「仏壇?」と首を傾げる。
「確かにウチには仏間があるけど、そんな大した仏壇はねーよ・・・」
「いやいや、謙遜すんなよ。ありゃ立派だよ。俺みてーなヤツでも思ったよ」
「??? えっ、お前、もしかして仏間に入ったの?!!」
「だって、障子が全開で明かりもついてたし――」
岸本くんの顔色が変わった。
お前、今日はもう 帰った方がいいよ、と言う。
「あ?どーしてよ」
「あ、あのな・・・ウチの先祖、何てゆーかな。仏間の中で粗相したら、スゲー怒るんだ・・・そしたら、その、何だ。いろいろとヤバいことが起こるんだよ・・・」
「はっ?何それ、ユーレイの祟りってこと?バッカじゃねぇか、テレビでゲームが出来る時代なんだぞ、今は!」
とにかく帰ってくれ、家族に話して、もしかしたら坊さんを呼ばなくちゃならないかも知れない・・・ 岸本くんは、ほとんど泣きそうな声で懇願した。俺だって多少はツッパッてるけど、仏間の中に入る時には背筋を正して真面目にやってるくらいなんだ、と強く主張した。
「まさかお前が仏間に入るなんて思わなかったんだ!やばいよやばいよ、何てことしてくれたんだよ・・・」
しかし、それは稲葉さんの反骨精神に油を注ぐような結果になってしまったのである。
「ケッッ!!祟りが何だ、それでも男か!上等じゃんかヨォ。先祖が怒ってるってんなら、俺が も一度行って、黙らせて来てやるぜ!!」
足音も高く、再び仏間へと向かった。
何故か障子は閉まっていたそうだが、明かりはついていたので 容赦なく侵入した。
ここには書けないような言葉で岸本くんのご先祖様を罵倒し、高い位置に並んだ遺影群に向かって、キッと睨みつけるようにガンを飛ばした。
と。
そのまま、固まってしまった。
遺影が。遺影に映った人物らが、
全員、後ろを向いている。
――何故――
あんぐりと口を開けつつ、あの荘厳華美な仏壇へと視線を向けてみると、
「・・・・・・・・・!!!」
そこに、仏壇は無かった。
代わりに、金色の大きな人間の後ろ姿があった。
男か女か、どんな服を着ていたか、不思議と思い出せないという。
ただ、ぷるぷると、全身を小刻みに震わせていた。
その頭は、もうほとんど、天井にくっつく。
あ、これは2m以上はあるな。
そう思った瞬間、脱兎の如く逃げ出していた。
※ ※ ※ ※
お邪魔しました、を言ったおぼえは無いという。
ただし、気付いた時には家の外をほうほうの体で走っており、息も切れ切れ。靴すら履き忘れていた。
生まれて初めて、心の底から「怖い、怖い」と泣いていた。
「・・・・・・あの頃はバカだった。ほんとうにバカだった」
岸本にはどんなにお詫びを言っても言い足りない―― 年齢を重ね、自分の家庭を持ち、落ち着いた中年男性となった稲葉さんは言う。
「あの後、直ぐに岸本の家、不審火で焼けちまった・・・!」
俺が 先祖を本気で怒らせちゃったせいでしょうかねぇ――
顔をテーブルに伏せるようにして、稲葉さんは絞り出した。
「・・・いや。あれ、先祖とかじゃなかったかも知れない。怒ったら自分を供養する仏間まで一緒に燃やしちまうなんて、そんな先祖、居ないと思う」
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本当に、恐ろしい――
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