真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事

文字の大きさ
19 / 102

#018 『罪状』

しおりを挟む
 20代半ばの鳶職、袴田くんの趣味は 数人の仲間と連れ立っていわくのある廃墟を巡る〝肝試し〟だったそうだが、最近、それをやめようかと思っているという。

「だって、実際、何も無いんスもん。がっかりばっかですって」

 最初は悪友らと、噂のある幽霊屋敷の中を徘徊するだけで面白かったらしいが、一向にお化けも出ないし祟りも呪いもない。正直、飽きてきたという。

「ムチャクチャなことやれば、霊も怒って何かやってくるかなーとは思って、いろいろやったんですわ。スプレーで悪戯書きしたりとか、おしっこしたりとか。あ、レイプ殺人があったっていう現場で、オナニーして赤黒い染みの付いた壁にぶっかけたこともあったけど」

 ・・・そんなことしたの?と私が問うと、
 やりましたよ。もう大ウケ。 袴田くんはニヤニヤと言ってのける。

「でも、何もないんです。たぶん霊感のない俺らには、霊は祟りようもないんでしょうよ。でも、霊だけに無敵っていうのもなー。誰にも威張れないし。だからもう、廃墟巡りも卒業の季節かな~って。何かいろいろだるくなってきたし」

 本当に何もなかったのか、と聞くと、「うーん」と唸って遠くを見るような目になった廃墟荒らし・袴田くん。やがて「あっ」と何かを思い出した顔になり、

「そう言えば、スマホがヘンになった時があったな」

  ※   ※   ※   ※

 今から半年ほど前。
 朝早くに起床した袴田くんが、「よし仕事行くべぇか」と忘れないようにスマホを手に取った瞬間、不意にそれがヴヴヴヴヴ、とバイブした。
 あら?マナーモードにでもしてたっけ?と思いつつ画面を見てみると、そこにビッシリと文字が表示されている。

 2014年 8月6日 ○○町 ××丁目□□
 2014年 9月1日 ◇◇町 **丁目◎◎
 ・・・・・・・・・・・・といった具合。
 どうやら、何かの住所だなぁと感じた瞬間、彼は閃く。

「あっ、なっつかし-。これ、俺らが回った廃墟のリストか」

 住所の後には、「いたずら書き」「暴言」「器物損壊」などと、彼らが行った悪行が余すところなく記述されていた。
 袴田くんは、ひとり爆笑したという。
 何だこれ、メール?仲間の誰かが、今までの廃墟巡りの記録でもまとめて送ってくれたのか。うっわ、マジ暇。マジ引く。几帳面すぎだっつの。
 一番最後まで取りあえず目を通してみたが、ラストの一文を読んだ瞬間、スマホは待ち受け画面に戻ってしまった。
 ン?と思ってメールを呼び出してみるが、さきほどの文章が入ったメールは、誰からも送信されていない。

 ヘンなの。これって怪奇現象?ショボ!と笑い飛ばし、仕事に向かった。
 後で確認してみたが、誰もそんなメールは送ってなどいない、と言い張った。

  ※   ※   ※   ※

「袴田くん的には、それは怪奇現象とかではないの?」
「あー、怖くなかったんで。ノーカンしてました。忘れてました。でも良かったスね松岡さん。これで書くネタになりましたよ。へへっ」

 前述の〝罪状リスト〟の一番最後には、何か難しい文字が一言、記されていたという。
 だが、「読めなかったし興味も無かったんで」字面すら忘れてしまったそうだ。

「まぁこんなわけで。昼メシ、ありあとした。じゃ、ここらへんで――」

 と、ファミレスのテーブルから立ち上がろうとして・・・
 袴田くんは、大きくグラリ、とよろけた。
 「あっ!」と思わず私が身体を支えようとすると、「ありゃっ、大丈夫、大丈夫」と彼はへらへら、笑って体勢を整える。

「最近、どうも貧血気味なんですよ・・・さっきも言ったけど、身体重いし、スゲーだるいし。仕事がキツイからかな? ひとつは こんな調子だから、廃墟巡りをやめようって思い立ったんですけどね・・・」

 聞けば、彼の廃墟巡りの仲間も同じ症状を呈しているという。
 おい、それはやっぱり祟られてるんじゃないか、と私が言うと、

「いやいやいや、無い無い無い」

 だって、怖いことなんか 何も起こってないんですから――



 ――彼がふらふらと店を出て行った後、私はテーブルに運ばれてきたカルボナーラを口に運びながら、ぼんやりと 今回の怪談提供者のことなどを思い出していた。
 何と言っても初対面、特徴的な袴田くんのボサボサ銀髪に私は度肝を抜かれたものだ。
 しかし直ぐに、「ああ。最近映画化された あの有名漫画の主人公の真似でもしてるのか」と合点して 互いに軽く挨拶を交わしたものだが・・・

 いや違う。あの頭は、何か超常的な力によって不自然に老化した彼自身の地毛なのかも知れない。

 ――何となく そんな想像を逞しくしながらパスタを食べ終え、私はお会計の為 さっさと席を立ったのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...