真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事

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#035 『カトウ様』

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 トゥルルルル・・・ トゥルルルル・・・
 かちゃっ。


「はい、もしもし。こちら○○マート××支店でございます」

『うぇれれれれれれれれれれれれ!!!』

「! ――ああ、カトウ様でいらっしゃいますね。いつもお世話になっております」

『アフ――――――、うぅっふ、うぅっふ、うぅっふ・・・』

「恐縮でございますが、ただいまこちらには ヤマモトヒロタダ様はご不在です。どうかお掛け直しの程、お願い致します」

『ぶるぁぁ? えぅぅぅぅ・・・・・・』

「繰り返させて頂きます。ヤマモトヒロタダ様は、こちらとは違う場所においでです。どうかお掛け直しの程を」

「ひぅ、ひぅ、ひぅ・・・ グぇぇぇぇ・・・!!」

 かちゃっ。
 ツ――――――。


「・・・ふぅ・・・」


  ※   ※   ※   ※

 ――柴本さんが昔、北海道に住んでいた時。
 彼の勤めるコンビニには2週間に一回ほどの割合で このような奇妙な電話がかかってきたという。

 必ず非通知なので、向こうの電話番号はわからない。

 男の人の声ではあったが、理性をなくした獣のような唸り声ばかりだった為、年齢その他は 受話器越しにまったく想像しようがなかった。

 そして。
 この〝カトウ様からの電話〟には 必ず上記のような受け答えをしなければならない。
 そして、掛かってきたら直ぐ、店長に連絡を入れなければならない。

「店長。あの、さっき〝カトウ様〟したっすけど・・・」
「ええっ?! この間の電話からまだ○○日目じゃないか・・・わかった、ありがとう」

 店長は、いつも携帯している手帳に、電話があった日と その時間とを、細かくメモしていた。それでもって、決まったようにこう質問してくる。

「応対は間違わなかっただろうね?」
「は、はい。それはもちろん・・・」
「・・・くれぐれもお願いするよ、くれぐれも、だよ?もし一言でも間違ったら、とんでもない事になるんだからね。頼むよ?わかった?!」

 いつも口を酸っぱくして そう念を押してきたという。
 シクッたらどうなるんすか、と聞いても、「知らない方がいい」の一点張り。
 柴本さんは それが苦痛になって、結局そこには一年ほど勤めて辞めてしまった。


「もし応対を間違えたら・・・どうなっちゃったんでしょうね・・・ 辞める時、無理言って聞いときゃ良かったかな」


 ――他店舗より、時給の方は かなり良かったそうである。
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