真事の怪談～魔性黒電話 通話25件～

第14報『パチンコ』

　40年ほども昔の話である。

　当時、蝶や蛾の標本をコレクションすることにハマっていた内原さんは、地元の固有品種をコンプリートするという野望に燃えており、ある日　野歩きに詳しい友人と共に近所の山へと昆虫採集に繰り出した。

　お昼時、山中の大岩に背を預ける形で休憩していると、友人が如何にも楽しそうな顔で近くの草むらを指さした。さてはお目当ての蝶か、と思って指先を追うと、何とそこにはパチンコの台がひとつ、無造作に転がっているではないか。

　――え、何だこれ！パチンコ台?!不法投棄??!

　などと考えているうち、何処からかチーン、チーンという仏壇のお鈴りんのような音が聞こえてきた。よくよく見てみると、台の中に打たれた釘も　まるでイソギンチャクの触手のように、不気味なうごめきを見せている。

　何だか不安になってしまい、ツレの顔色を伺う内原さん。しかし友人はそんなこと何処吹く風と言った風情でニヤニヤ笑いを浮かべ、


「タヌキのバーカ！そんなパチンコあるもんかい!!」


　囃すように、大声を出した。

　パチンコ台が、ムクッと歪んで茶色い塊となった。
　そしてそれは、素早く藪の中を掻き分け　消えていった。


「ハハハ、驚いたか。畜生の悲しさだよ。モノの形はわかってるらしいが、実物を見たことがないから仕上がりがあの通りだぜ」

　友人はそう言って呵々大笑し、ポカンと大口を開けた内原さんに煙草をせびってきたという。