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其ノ七『しろばんば』
しおりを挟む私の話。
2014年の12月初頭頃、自宅の庭と勤務先の割烹の店先にて、小さな〝何か〟が群れをなして蟠り、飛んでいるのを見た。
容易に捕まえられるので見てみれば、チョウバエの腹に白毛の生えたような、とてもとても小さな昆虫である。
この寒空の下に変な虫も居るもんだと思ってその場は済ませた。
同年12月8日。
夜中、酒を飲みながら寛いでいた際に、いきなりハッとなった。
何日か前に見たあの虫――もしかして〝しろばんば〟じゃないか?
〝しろばんば〟とは井上靖氏の同名小説の冒頭に少しだけ登場する、寒い時節に姿を現す雪国の小虫のことである。私は氏の小説を小学生の頃に少し読んでいたのだが、何故かあの奇虫を見た時にはまったくその存在を思い出さず、数日経って今更ながら閃いたのだ。
慌ててスマホを起動させ、調べた。画像を呼び出した。
間違いない。あの、チョウバエに似た虫だ。
しろばんば。正しくは、カメムシ目 腹吻亜目 アブラムシ科 トドノネオオワタムシ。
だが、この虫が九州長崎で発見されたという記録は何処にもない。
いろいろ調べてみたが、神奈川県以南では目撃例すら無いのだ。
とても奇妙な気持ちになった。
言葉には言い表せないが、何だか幽霊を見たような心境である。
仕事中、もしくは通勤途中だった為、写真に撮る余裕も無かった。
本当に悔やまれる。
特殊な姿をしたツノトンボや、長い尾のような針を風に靡かせて飛ぶウマノオバチを見た時も仕事中だった。撮りたかったが、撮れなかった。
――もし本当に幽霊を目撃したとしても、たぶん仕事中だな。忙しくて、記録には残せないだろうな・・・
蟲とお化けが好きな私は、諦め半分にそう思っている。
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