北の大地で君と

高松忠史

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幸福の方角

幸福の方角

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洋介は行ってみたい場所が一つあった。

その場所は

「幸福」

という名の駅

既に廃線となっており鉄道は走っていない。

田園地帯の中にそれはあった。
木造のかわいらしい駅舎は時代が止まったままの状態で現存していた。

幸福…

愛蘭は呟いた。

ああ、少し前にブームになったんだけどこの駅は廃線後も幸福を願う人たちが今でも訪れる場所なんだ。
洋介は応えた。

素敵な駅名ですね…

駅舎の外にも中にも様々な人が想いをこめ願い事や感謝の言葉の紙が壁一面に貼り付けてあった。

洋介は売店の方に行ってみることにした。
愛蘭は貼られた紙を立ち止まって見ていた。

売店には数人のお客さんがいた。
洋介が入るとエプロン姿の髪を茶色くした派手目の店員さんに声をかけられた。

お客さんお土産買っていきませんか⁈
店員のお姉さんはこの駅の所以を一生懸命説明しだした。
どうです記念に!
今これ売れてますよ!

そのお姉さんの食いつきに洋介は苦笑したが結局お土産を購入した。 

ありがとうございましたー

お姉さんは洋介がお土産を買った直後に他のお客さんに同じように営業していた。

たくましいな…
洋介は思った。

ホームに愛蘭と出てみた。
かつて鉄道を利用する人々の夢や希望、悲しみや苦しみ、そして出会いと別れをこの駅は見続けていた。

洋介は愛蘭にお土産で購入した透明なケースに入った記念切符のキーホルダーを渡した。

これ愛蘭さんに…

愛国から幸福ゆき

と切符には印刷されていた。

愛の国
から
幸福ゆき…

愛蘭は呟いた。

洋介は
お互いこれからの人生幸福行きの列車に乗れたらいいね…
と微笑んだ。

愛蘭は洋介に感謝して早速バッグの持ち手に取り付けた。

他の観光客が鳴らしたのであろう隣の愛の鐘が透き通る音で鳴り響いていた。



車は山の中に入った。
洋介は峠の途中でふと湧水地まで徒歩10分の看板を見つけ車を停めた。

ちょっと寄ってみないか?
洋介は愛蘭を誘った。
肩掛けバッグに水筒を入れた。

美味しいお水ならお茶やコーヒーにしてもきっと美味しいはずだよ。
洋介は期待した。

人が一人通れるくらいの狭い幅の林道を二人は入っていった。
洋介が前を歩き愛蘭はその後を歩いた。

周囲の森には色々な鳥の鳴き声が聞こえてくる。
木漏れ日が森の中に入りマイナスイオンに満ちた気持ちの良い空気を吸いこむことができた。

暫く歩くと清流が現れた。
水はどこまでも透明でサラサラと緑の木々の中を音をたてて流れていった。

愛蘭は水の綺麗さに感動した。
歩いていると木の枝の上に青い鳥がとまっているのが見えた。

南波さん、あの木の上の枝に青い鳥…が

あ!

愛蘭は足元の石につまずいて転びかけた。

瞬間洋介は倒れかかる愛蘭を正面から受け止めた。
愛蘭の華奢な肩を両腕で抱えた。

あ…

愛蘭は洋介の胸に顔を埋める形で受け止められた。

愛蘭の胸が急に高鳴った。
本当は一瞬だったが愛蘭には数秒に感じた。

洋介は
大丈夫?
転ばないように気をつけて

微笑みまた先を歩きだした。

愛蘭は少しの間その場所で固まった。

その後も段差があると転ばないように洋介は愛蘭の手をとってくれた。
愛蘭はドキドキしていた。

後ろを歩きながら洋介の大きな背中をじっと見つめた。

どうしたんだろう、私…

頰に残る洋介の胸の温もりに身体が熱くなるのを感じた。

湧水地で水を汲んだ二人は
その日は早めに休むことにした。

洋介はシングルふた部屋を取ろうとしたが愛蘭は勿体無いとツインを希望した。

愛蘭曰くこの間の車よりツインの部屋の方が広いでしょう。

確かに。
洋介は納得した。











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