北の大地で君と

高松忠史

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白いトウキビ

白いトウキビ

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お花畑を後にした二人は再び目的地を決めないまま走り出した。

ずっと愛蘭が静かにしている様子なので洋介は愛蘭が眠ってしまったのかなと思って横を見たら愛蘭は本を読んでいた。

ん? 
ことわざ辞典?
本の表紙が目に入った。

愛蘭は洋介の視線に気が付いた。

あ、ごめんなさい、運転して貰っているのに。

ことわざ勉強しているの?
洋介は尋ねた。

はい、やっぱり日本語は難しいですね。

でも、この二階から目薬っておかしいですね。
そんなの絶対無理。

ハハハ、だからもどかしいさまを言ったことわざなんだよ。

なるほど…

これはどうですか?
あめふってちがたまる

ん? 
雨降って血が溜まる?
洋介は直ぐに頭の中で変換出来なかった。

日本のことわざ怖いです。
雨降ると血が溜まるんですか?

あ、雨降って地固まるか…
そうじゃなくて、例えば喧嘩している人同士が仲直りしたあと、前よりもっと仲良しになるっていう意味かな。

ふぅーん、そういう意味だったんですね…

洋介は可笑しなことを真剣に言う愛蘭を可愛く思った。


見通しの良い幹線道路を洋介の運転する車が走っていると先の交差する左手の農道に白い軽トラックが停まっているのが見えた。
外に人の姿も見える。
車の周りをウロウロしているようだった。
何だろうとよく見て見ると右の後ろのタイヤが畔に脱輪していた。
どうやら動けなくなってしまったらしい。

洋介は農道に入り車を近づけた。

あのー大丈夫ですか?
洋介は声をかけた。

愛蘭も心配そうに見ている。

そこに居たのはゆうに80を超えていると思われる腰の曲がったおばあさんだった。他に誰もいないようだ。
おばあさんは頭に手ぬぐいをほっかぶりし、農作業用の割烹着を着ていた。

洋介は
え?このおばあさんが車を運転していたのか?
とびっくりした。

おばあさんはしわくちゃな顔を洋介に向けると

落っこっちゃって動けなくなっちゃったんです。
もう直ぐそこが家なのに私ったらもうやだ-

おばあさんは歯の抜けた口を隠そうともせずに陽気に笑った。

この車で引っ張ってみましょうか?

洋介は自分の車を指差した。

そうかい、なんだかお兄ちゃん悪いじゃない。

そんなこといいんですよ。

それじゃあ、やってみますからおばあちゃん下がっていてくださいね。

洋介はおばあさんと愛蘭を下がらせ緊急キットの中から牽引ロープを取り出すとそれぞれの車のフックに取り付けた。
エンジンをかけるとゆっくりアクセルを踏み込み後退した。
軽い車なので難なく脱輪したタイヤは道に戻った。

愛蘭は笑って手を叩いていた。

おばあさんは
どうもすみません。
助かりました。歳とると眼の調子がよくなくてね。
でも車乗らないとここら辺では不便で…

洋介は
後片付けをしながら
いいんですよ。
おばあちゃん、気を付けて運転してくださいね。
と優しく声をかけた。

あなたたち、ちょっと家に寄って行きなさいな。
お茶でも飲んで行きなさい。
さあついておいで。

洋介は遠慮しようとしたがおばあさんは有無を言わせずスタスタと軽トラに乗り込むと走り出してしまった。

断るタイミングを逃してしまいこのまま立ち去るわけにもいかなくなってしまった洋介は愛蘭とおばあさんの後を追った。

少し行ったところにおばあさんの家があった。

旧家のようで木造二階建ての立派な佇まいの家だった。
垣根を超え広い間口から入ると古い感じはしたが古さの中に歴史を感じさせる重厚な家屋だ。

広い敷地には大きな納屋もあった。

軽トラにすでにおばあさんの姿はなく洋介は取り敢えず車を軽トラの隣に停め愛蘭と車を降りた。

玄関引き戸の上には

吉田 トキ

と錆びたアルミの表札に名前が書いてあった。

ごめんください

洋介は開けっ放しの玄関の外から声をかけた。

すると中から
さあ入って-
とおばあさんの声がかかった。

入ると土間になっていて涼しく感じた。

おばあさんが顔を出し

今お湯を沸かしているからそこの座敷で待っていてちょうだい

と畳敷きの日本間に通された。既にちゃぶ台の周りには人数分の座布団が敷かれていて二人はおばあさんに促され座布団に腰を下ろした。

いまトウキビを蒸しているからちょっと待っておいで

おばあさんはそう言い残すと座敷を出て行った。

愛蘭はトウキビをサトウキビだと勘違しているようで

トウキビを蒸すって砂糖にするってことですか?

と素っ頓狂なことを言い出した。

洋介はニコニコして答えなかった。

開け放された襖の向こうにももう一間あり、大きな仏壇と白黒のご先祖様の写真が座敷の上側に並んでかけられていた。

黒ずんだ柱や梁も立派で座敷には時代を感じさせる茶色い箪笥が置かれ壁には古い壁掛け時計がかけられ時を刻む音をたてていた。

洋介は漂う線香の香りに洋介が幼かったころ遊びに行った今は亡き祖母の家を思い出した。

愛蘭は初めて見たのであろう古い日本の家をキョロキョロ見回していた。

縁側の先には畑の畝に植わった様々な野菜が見えた。

暫くしておばあさんがお茶と漬け物と山盛りに置かれたトウモロコシをお盆にのせて座敷に帰ってきた。

愛蘭はああ、トウキビってトウモロコシのことだったんですね-
と疑問が解けたようだった。

おばあさんは
最近人気の品種で色が白く甘いのがこのトウキビの特徴なんだと説明してくれた。

外は暑いから若い者は冷たい飲み物がいいんだろうけど、私みたいに歳をとると冷たい飲み物は飲めなくてね、あったかいお茶しかなくてごめんなさいね。

としわくちゃな顔をぺこりと下げた。

洋介は
いえ、とんでもありません。お礼なんてよかったのにこんなにしてもらって…

と恐縮した。

さあ、トウキビ食べてみて。今年のはなかなか良くできたんだよ。

じゃあすみません、
いただきます。

洋介と愛蘭は真っ白なトウキビにかぶりついた。

すごく甘いです!
私こんなに甘いトウモロコシ初めて食べました!

愛蘭は感動していた。

このトウキビは生でそのままでも食べられるんだよ。
とおばあさんは愛蘭に話してくれた。

愛蘭は夢中にトウキビを食べ2本目に手をつけていた。

その間おばあさんはニコニコしながら嬉しそうに愛蘭の顔を見ていた。

洋介にも
このお漬け物私が漬けたんだけど味みてみて
と勧めた。

茄子と人参と胡瓜の漬け物が小皿に綺麗に並べられていた。

洋介は楊枝で茄子の漬け物を食べてみた。
味がよく入っていてとても美味しい漬け物だった。

これは美味しいですよ!

洋介は家作りで手作りのお漬け物を食べるなんて何年ぶりのことだった。
コンビニで買うことはあってもこんなに良い味はしない。

洋介の食べっぷりにおばあさんは顔をくしゃくしゃにして喜んだ。

おばあさんは自身の身の上を語りだした。
おばあさんは吉田トキといい、この家は昭和の中頃に建て替えられたということだった。
当初ご主人のご先祖様が明治の初めにこの地に入植し自然の猛威と闘いながら血の滲む努力で農地を拡大していった。 
自身もここに嫁ぎ若いころはご主人と一緒に大規模な農家を営んでいた。
その時分は機械もなく全て手作業の過酷なものであったそうだ。
そのご主人も二十数年前に亡くなり今は余った土地は人に貸し自分が作れる範囲で一人で農業をしている。
息子が一人いて地元の農業高校を卒業したあと東京にある食品会社に就職して今では開発部長を任されている。
東京で出会った女性と結婚し今では中学生と小学生の男の子二人の父親になっている。
お正月とお盆には毎年家族でこの家に帰ってくる。

箪笥の上には家族写真が飾ってあった。
トキさんを真ん中に両脇には麦わら帽子を被ってピースをしている小学校低学年の男の子、サッカーのジャージをきた中学生の男の子、後ろには優しい笑みを浮かべる白髪交じりのトキさんの息子さんと奥さんが写っていた。
真ん中のトキさんは嬉しそうに笑っている。

トキさんは丹精込めて作った野菜を時々東京へ送っているそうだ。

おばあちゃんはこんな大きなお家で一人っきりで寂しくないの?
愛蘭が聞いた。

寂しくなることもあるけど帰ってくる孫たちのことを考えると耐えられます。
それに私がこの家を守らなきゃならないからね。
トキさんは呟いた。

お嬢ちゃんは何て名前なの?

愛蘭と言います。
中国から来ました。

あいらんちゃん?

あら-可愛い名前だね
じゃあ愛ちゃんだね-

愛蘭は恥ずかしそうに頷いた。

洋介も名乗っていなかったことに気づき

僕は南波といいます。

と名乗った。

南波さんたちは旅行中かね?

トキさんが尋ねてきた。

ええ、まあ、

これからどこに行くんだね?

勝手気ままな車旅って感じで行き当たりばったりの目的地は決めてない旅なんですよ。

はあ…
じゃあ今夜泊まるところも決めてないのかい?

ええこれから決めるところです。

それならウチに泊まっていきなさい。

いや、そんなことまでお願い出来ませんよ…
洋介は慌てて断わった。

部屋も空いているし遠慮しなくていいから。

しかし…

洋介は困った

それに私も一人でいるより騒がしいほうが好きなんだよ。

洋介は愛蘭と顔を見合わせたが結局トキさんのご厚意に甘えることにした。

トキさんは嬉しそうに笑った。

では何でも言ってください。僕らにできることは何でもしますから。
洋介は申し訳なさそうに言った。

あ、じゃあ夕ご飯作るの手伝ってもらえるかい?

何をすればいいですか?
洋介は聞いた。

材料は畑に植わっているでね。
トキさんは立ち上がると二人を外へ誘った。

太陽が傾き広大な空は夕焼けがはじまりつつあった。

トキさんに軍手を渡され畑の中へ入って行った。

そこの畝の人参を2、3本取ってくれないかい?
洋介は人参を担当することになった。

愛蘭は横の畝の茄子をトキさんの手ほどきで収穫することとなった。

洋介は畑に入るのは初めてではなかった。
小学生の頃夏休みに祖母の家に遊びに行ったときに祖母の畑で野菜を収穫した経験があった。

一方の愛蘭は町育ちでしかも机の前で勉強一筋だったため土に触れるのさえ初めてだった。
トキさんに教えてもらいながら恐々茄子を取っていった。

洋介は土の匂いに懐かしさを感じていた。

洋介は土の上に丸まっている大きな団子虫を見つけた。
愛蘭に声をかけた。

こんなに大きいのいたよ-

手のひらに乗せた団子虫を愛蘭に見せた。

その瞬間愛蘭は

キャー!

と叫び逃げ出した。

もうー南波さん!
意地悪!

洋介には全く悪意はなく単純に大きな団子虫を見てもらいたかっただけなのだが
愛蘭には刺激が強すぎたようだ。

洋介はあんなに愛蘭が驚くとは思わなかった。

ごめんね
洋介は愛蘭に謝った。

トキさんも
虫ぐらいになぁ…
と同情してくれた。

愛蘭は洋介がまるで子供みたいと呆れた。

でも初めて体験する土の上での農家の作業はすごく楽しかった。

収穫が終わり家の台所に入って野菜を洗った。
洋介はトキさんに男は邪魔だからと台所を追い出されてしまった。

どうやらメニューは野菜カレーに決まったようだ。
トキさんはお米を洗い、愛蘭には野菜を切ってもらうようお願いした。

洋介は一人で居てもやる事もなくそわそわしているだけだったのでこっそり台所の後ろから料理する二人の姿を覗いていた。

愛ちゃん包丁捌き上手だねぇ
トキさんは愛蘭の野菜を手際良く切るのを横で見て褒めた。

うち母が亡くなって料理は私がやる事が多かったんで…
愛蘭は照れながら茄子を切っていた。

そうかね、愛ちゃんそんなにべっぴんさんで料理上手じゃ男が放って置かないね?
トキさんはくしゃと笑った。

洋介は仲良く並んで台所に立つ二人を微笑ましく思った。
そして愛蘭のエプロン姿で楽しそうに料理をする姿を親しみを持って眺めた。

愛蘭も家の台所に立つのはいつも一人だったし、もし母が生きていたら一緒に料理をしたかったという思いがずっとあったので、今こうしてトキおばあちゃんと料理が出来ることが心から嬉しかった。

暫くするとカレーの匂いが漂ってきた。

グー
洋介のお腹は大きな音で鳴った。


三人ちゃぶ台を囲んで特製野菜カレーを食べた。
新鮮で採れたて野菜の味は格別だったしトキさんの味付けも最高に美味しかった。
洋介はお代わりをした。

おばあちゃんカレー美味しかったです。
ご馳走さまでした。
洋介はトキさんに礼を言った。

トキさんは
愛ちゃんが手伝ってくれたからだよ。
このカレーには愛ちゃんの愛情も入っているからね。

愛蘭の顔を見て笑った。

愛蘭も
そんな…
と顔を赤くして照れていた。

夕食の後トキさんの提案でトランプのババ抜きを三人でした。
洋介はポーカーフェイスになり切れず顔に直ぐ出てしまうので負けてばかりだった。

愛ちゃん中国語でありがとうってどう書くんだい?
トキさんは愛蘭に尋ねた。
ありがとうは

笑いの絶えない時間を三人は過ごした。

良かったらお風呂入りなさい。
とトキさんに勧められた。

愛蘭が先に入りその後洋介が入った。
トキさんは最初のお風呂は寒いから嫌なんだと最後に入ると言った。

お風呂は今は珍しい木の樽で出来た浴槽だった。
洋介も子供のころ入ったことがある懐かしいお風呂だった。

洋介はお風呂から上がると別の座敷から愛蘭とトキさんの楽しげな声が聞こえてきた。
座敷を覗いて見るとトキさんが愛蘭に布団の敷き方を教えながらふた組布団を敷いているところだった。

洋介は
すみません、お布団まで…

恐縮して加わろうとしたがトキさんは

男がこんなことやっちゃダメだよ。

と昔ながらの考えで洋介を制した。

洋介はトキさんの中に男を立てる昭和初期の精神が未だに息づいていることに感動した。

愛蘭は愛蘭で嫌でやっているというふうもなく、トキさんに教えてもらいながら初めてする布団敷きを楽しんでやっていた。


さあゆっくりおやすみ。
言い残してトキさんは座敷を後にした。

部屋の電気を豆電球にして二人はそれぞれの床に入った。
少しだけ開けた窓から網戸を通して夏の心地よい風が入ってくる。

今日は楽しかったです。
愛蘭は言った。

ほんと楽しかったね。
洋介は答えた。
それにトキさんもとても良い笑顔で楽しそうだった。

はい…

トキおばあちゃんは息子さんたちが帰ってくるの楽しみなんでしょうね…

愛蘭は自分がこれから家を離れてしまったときの父親の姿を考えていた。
子供を案じ一人きりで暮らす親の気持ちがトキさんを通して少しだけ理解できたような気がした。

息子さんはここを離れるときどんな気持ちだったんでしょうね?

…そうだね。

黒板五郎と純みたいなのかなぁ…
洋介はまたボソっと独り言を言った。

あのー、昼間もそんなこと言ってましたけど、黒板さんて一体どなたですか?

洋介の頭はドラマの中に入っていた。
愛蘭の問いかけで現実に戻ってきた。

ああ、ごめん。
昔テレビで放送されていた「北の国から」
ていうドラマの主人公なんだけどね。
ここ北海道が舞台で主人公の黒板五郎さんと息子の純と娘の蛍がメインキャストで純と蛍が子供から大人へ成長するまでにさまざまなことが起こる感動の人間ドラマなんだ。

俺が一番好きなシーンで成長した息子の純が父親の五郎さんの元を離れ独立しようと東京に向かう回があるんだけど、五郎さんは男手一つで苦労をしながら農業や色々な力仕事をして子供達を育ててきたんだ。
純が旅立ちの日、五郎さんの知り合いのトラックの運転手に純を託すんだけどトラックが純を乗せて出発した後、その運転手が五郎さんから手間賃を預かったんだけど、運転手は純にこれは受け取れない、中を見てみろって渡すんだ。
封筒に入ったお金を見て純は泣きだすんだ。
紙幣の端には土がついていたんだ。五郎さんの指の後として。

それで…
愛蘭は昼に語った父からの餞別の話しを思い出した。

俺あのシーンが好きでね。
五郎さんは苦労して育てた息子をどんな想いで送り出したんだろうって思うと泣けちゃうんだよ。



愛蘭は自分に重ねて聞いていた。

トキさんの息子さんは成功して家族もつくって元気にやっている…
トキさんも年にたった二回だけど息子さん夫婦やお孫さんに会えることをとても楽しみにしている…
そしてトキさんはいま一人だけど幸せにここで野菜を作っている…

遠く離れていてもいつも心は繋がっているんだなと思うんだ

親子って…

愛蘭は洋介に背を向けて布団を被って泣いた。

外からオケラの鳴き声が聞こえてきた…



洋介はぐっすり寝た。
こんなに気持ちよく寝たのはいつぶりだろう。

隣に寝ていたはずの愛蘭の姿はなくすでに布団が畳まれてあった。

洋介は布団を畳むと楽しそうな話し声が聞こえる台所へ向かった。

トキさんと愛蘭は朝食の準備をしている最中だった。

洋介は
おはようございます。
すみません、
気持ちよく
寝過ぎてしまいました。
と台所に入って行くと

トキさんと愛蘭は顔を見合わせて笑い出した。

もうお寝坊さん
と愛蘭は洋介を揶揄った。

さあ早く顔を洗ってきなさい。
もうすぐ朝ご飯だよ。
トキさんに促されて洋介は台所を出ていった。

洋介は家庭の暖かみを感じて幸せな気分だった。

洋介が立ち去ると二人はまた笑い出した。

愛蘭はトキさんに味噌汁の作り方を教えてもらっていた。
愛蘭にとっても心が温かくなる幸せな朝だった。

家の中に味噌汁のいい匂いが漂っていた。

三人は昨夜と同じようにちゃぶ台を囲んで朝食をとった。
質素な献立ではあったが人と一緒に食べる食事は格別美味しく感じた。
それはトキさんにとっても同様なんじゃないかと洋介は思った。

忘れられない幸せな朝を三人が共に迎える事ができた。

…そして出発のときを迎える時間がやってきた。

玄関の外まで腰の曲がったトキさんはきてくれた。
目には涙を浮かべている。

愛蘭はトキさんに抱きつくと号泣していた。

おばあちゃん…

トキさんは愛蘭の頭を撫でながら

またおいで…

と愛蘭に伝えていた。

愛蘭は喋ることもできずコクコクとトキさんの肩に顔を埋め泣きながら頷いた。

洋介も感無量のあまり目を潤ませた。

トキさんいつまでもお元気で
洋介は挨拶をした。

ああ、またいつでも寄っていってね
トキさんは声を震わせてしわだらけの顔に笑顔で応えた。

車が立ち去るときトキさんは車が見えなくなるまで手を振ってくれた。


愛蘭は暫く涙が止まらなかった。


一抹の寂しさと優しい気持ちで満たされた二人を乗せて車は再び走り出した。































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