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23話

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 あれから15分ほど経ったかな。
 メリーが作ってくれた食事に夢中で忘れかけていたが、手に付けた何かを確認する。
 見た感じ腫れなんかはなくいつも通りである。
 「どうやら害があるものではなさそうだな。」
 「そのようですね。」
 「それじゃ。」
 ペロッ。
 ………
 「んじゃこれ!」
 とっさにスタンバイしていた水で舌を洗う。
 「だ、大丈夫ですか!」
 舌を気遣いつつ俺は頷いた。
 「なんというか、めちゃくちゃ濃い塩だなこれは…」
 「やっぱり岩塩だったのしょうか?」
 「いや、そんなレベルじゃない辛さだ。未知な味だこれ。」
 塩の塊、そんな言葉で片付く代物じゃない。
 これを食べ物に少量でもかけようなんて気は起きない…そんな食事はソースをふりかけのように使う関西人だって拒絶するだろう。
 「とても何かに使えるとは思えないが、一応採取しておこうか。いや、もしかすると毒とかに調合できるかもな。」
 これにデ〇ソースでも混ぜて売ったらインフルエンサーたちがくいついてくるんじゃないか?
 「そんなに!?ちょっとどんな味か気になってきました…」
 「いっとく?」
 米粒よりも小さく割った塊を若干ニヤつきながら手に乗せて見せる。
 「ううう…」
 こういうときすでに経験した側にいる者はなんか楽しい。
 腕を組んでどうしようか困ってるヒヨリを見てこの後どうなるか考えるとわくわくが止まらない♪
 俺ってSっ気あるのかも!
 そんなことを考えている間にヒヨリは決心したらしく、おそるおそる手を伸ばす。
 ぐっと力を込めて一度頷くと口にイン!
 「ンキュッ!」
 小動物のような声を上げたかと思うと口を手で覆い、目をぎゅっと閉める。
 目尻からはかすかに水滴がこぼれている。
 ちょっとこのまま見ていたい気持ちもあったが、さすがに辛そうと判断しヒヨリの水を渡してあげた。
 やっぱり俺はノーマルなのかも。普通がいいよ。うん。
 渡された水を思いっきり流し込みコホッコホと可愛くえづく。
 しばらくすると落ち着いたようで、見ていたこっちまでなぜか安心してしまう。
 「どうだ?」
 「たしかに、塩というもので収まる味ではありませんね…。」
 満足そうに俺は頷き、その岩塩・強をさらに壁面から削りだし持ってきていた袋に詰める。
 塊なためそれなりにずっしりしており、とりあえず野球ボールほどの体積になるくらい採取した。
 袋をポーチに詰め終わるころにはヒヨリも落ち着いていた。
 「さあ、結構休憩できたし湖までもう少し頑張ろう。」
 声をかけるとヒヨリは座っていた岩から立ち上がって軽くお尻をはらい、手早く出発の準備を済ませる。
 「行きましょう!」  
 「おう!」
 幸い、まだこれといって強そうな生物と遭遇していない。
 しかしここは森の中、ギルドで名前を聞かされた狂暴そうな奴らにいつ出会うか分からない。
 もう一度しっかりと装備を見直し、俺たちは湖の方へと歩みを再開する。
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