アホスキル【ローションまみれ】のせいで異世界無双は諦めました。

猫飼いたい

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第4話 ローションまみれの真価

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 俺は命懸けの戦闘で精神的にも肉体的にも疲弊していた。
 服は土と砂埃にまみれ、汗もたくさんかいている。
 魔力も半分近く消費してしまっただろう。

 だがいつまでもここに居ると、食事を終えたレッドモンキーに襲われる危険性があるので、俺は再び道に出ててきた。
 どこか安全に休めるところはないだろうか。
 辺りを見回していると、

「ん?」

 遠方に黒い点が見えた。
 それはこちらに近づくにつれ、輪郭がハッキリとしてくる。
 馬車のように見えた。
 少しづつこちらへと向かってきているのが分かる。
 遠目でちゃんと認識できないが、深くローブを被っている人物が馬の手綱を握っている。

「あれには、人が乗っているんだよな?」

 人。
 人がいる。
 馬の手綱を握っているのは、人間以外いない。
 やっと人と喋る事が出来るんだ。
 まず街がどこにあるか聞こう、もしかすると近くまで乗せて行ってくれるかもしれない。
 食料だって分けてくれるかも。
 ようやく訪れた吉報に、俺は少し明るい気持ちになる。

「お~い! お~い!」

 俺はグッと背を伸ばし、大袈裟に左右に手を振って己を主張する。

 その馬車は、砂埃を巻き上げ、猛然とした勢いで駆けてくる。
 みるみる接近してきてはいるが、何か様子が変だ。

「え?」

 俺に気付く素振りがなかった。
 馬は速度を緩めない。
 止まる気配は全くない。
 やがて蹄が土を蹴り上げる音が、ここまで聞こえてくる。
 このまま直立していれば、俺は轢かれてしまう。

「おいおい、マジかよ!」

 やがて目の前まで接近して──

──そうして、馬が大きく横転したのだ。

 激しい音と共に、派手に馬車ごとひっくり返り、荷台に乗っていた人物は、勢いよく外へと投げ飛ばされる。

 その光景に俺は固唾を飲んだ。
 馬車は粉々に大破した。

「う、嘘だろ……」

 俺は唖然として、立ち尽くしかなかった。
 すぐに転倒の原因が分かった。
 俺のローションだった。
 レッドモンキーとの死闘で連発したローションがここら一帯の地面をぬめらせ、滑りやすくしていたのだ。
 馬車は猛スピードで突っ込んできたため、余計に被害は甚大だった。

 俺は顔面蒼白となる中、投げ飛ばされた人の安否を急いで確認しにいく。

「あ、あの、本当にすみませんでした! 大丈夫ですか!?」

 全力で駆け寄り、精一杯の謝罪をする。
 必要なら土下座する準備は出来ている。
 異世界人に土下座の意味が通じるのかは不明であるが、俺は取り返しのつかないことをやってしまったのかもしれない。
 初めて会った人を、あやうく殺しかけたんだ。

「あ、が、うぐぅ」

「な、なんだクソッ!」

ローブを深く着こみ、容貌が隠れてみえないが、男たちが呻き声を上げながら横たわっている。
とりあえず生きているようで、ひとまず安堵した。

 一瞬のことだったので見間違いがなければだが、馬車から投げ飛ばされたのは、おそらく四人だ。
 馬の手綱を握っていた人物が一人と、荷台には三人乗っていたように見える。
 横たわっている男たちとは別に、女がおもむろに立ち上がる。

「畜生、何が起きた……クソッ! あのガキはいるか!?」

 そこで、スラリとした長身の女が苛立ち混じりの言葉を吐く。
 顔に蛇のタトゥーを彫っているのが印象的だった。
 闇のように深い漆黒の長髪、切れ長の目と、ひょろりとした痩躯が、なおさら蛇を連想させる。

 俺はその女の態度を見て、一気に不信感に似たものを抱き始める。
 もしかして、人攫いじゃないだろうな?
 そう俺の直感が告げている。
 彼女たちの怪しい雰囲気や台詞から推測するに、盗賊か何かの類かもしれない。

 俺の視界の端に、女の子が横たわっていた。
 プラチナブロンドの美しく長い髪をツーサイドアップにしている。
 女の子は両腕を縄でキツく縛られているように見えた。
 うつ伏せのため、顔をちゃんと視認できないが、体格からして10代半ば程の若い少女だろうか。
そして彼女は、何故この場にいるのか不釣り合いなくらいに豪奢な服を着ている。
 俗っぽくなく、気品がある出で立ちだ。
 良いとこのお嬢様なのだろう。
 一目見て、高貴な階級の身分だと俺は推察した。

 女の子はぐったりとしたまま、ピクリとも動かない。
 まさか死んでないよな……。
 投げ飛ばされた衝撃で気絶しているだけだと思いたい。

「お前たち! 無事なのか!? 返事しな!」 

「へ、へい。なんとか……」

 タトゥーの女が大声をあげて、黒衣の男たちに語りかける。
 そこで俺はタトゥーの女を注意深く見て、鑑定のスキルを発動させてみた。

名前 グレイリー
LV 26
種族 人間族
体力 1030
魔力 1040
筋力 380
耐久 280
俊敏 350
属性 毒
称号 盗賊団の頭
スキル 
ポイズンサリヴァ

 レベルは26で俺よりもはるかに格上。
 属性は毒、そして……称号が、盗賊団の頭か。
 やはりな、と俺は一人納得した。
 あの女の子は、この盗賊たちによって攫われたのだ。
 彼女がどこぞのお嬢様なのだとしたら、盗賊に誘拐されていることに合点がいく。  

 そこでタトゥーの女が俺の存在に気付いた。

「なんだ、そこの貴様は」

 俺はまず、一応相手の容体の心配をしてみることにした。

「え、えっと、怪我とかないですか? 先ほどのは確実に俺のローションが招いた事故です。本当に申し訳ございませんでした!」
 
 俺は全力で頭を下げてみるポーズをするが、内心、この事故が悪党相手で良かったとホッとしている自分がいた。

「まさか貴様、アリシア派の者か!?」

「あ、アリシア派って……?」
 
 何か勘違いしているようだ。
 彼女が言うアリシア派とは、何かの派閥の事だろうか。

「とぼけるな、貴様が何者なのかは分かっている! 奴を取り返しに来たんだろ!? なぜ我々の居場所が分かった!?」

「え、えっーと、何が何やら……」

 盗賊団の頭が一体なにと勘違いしているのかか分からなかったが、その女は激昂し、どうも俺の話は聞き入れそうにない。

 手下である男が、ふらふらとした足取りで立ち上がる。

「姐さん、こいつどうします?」

「迷うまでもない、殺すぞ」

「え、ちょっ」 

 盗賊団の頭、グレイリーは問答無用で言い放った。
 どうも先程から話し合いの余地は無さそうだ。
 グレイリーは懐から一本のナイフを取り出した。
 銀のナイフの刃が妖しく濡れている。
 太陽の光を反射して、刀身がてかてかと光っていた。
 どうやら得意の毒がたっぷり塗り込まれているようだ。

 一難去って、また一難だな。
 ほんと次から次へと……。

 レッドモンキーとの戦闘で俺の魔力はもう半分以下だ。
 たとえ魔力が満タンあっとしても、あのスキルじゃ俺にできることなんて何一つ無いと言っても過言じゃない。
 相手とのレベル差は、またも結構開いている。
 だからといって訳アリの女の子を放って逃げ出すのも男らしくない。
 これが万事休す、って奴なのか。

「むっ、なんだこの、ねばねばしたものは! 気持ちが悪いな!」

 そこでグレイリーは自身の足元に不快感を表した。
 グレイリーの靴底には、俺のローションがべったり張り付き、糸を引いていた。
 ローションが付着した靴底から、シュウ~と白い煙が吹き始めている。

「オイ何が起きてるんだ、これは!!」

 慌てふためいている間にもグレイリーの靴底からは謎の白い煙が発生している。
 次の瞬間、俺は大きく目を見張った。
 ややもすると、なんとみるみる靴の革が溶けていくではないか。
 そして、あっという間に靴底は消えてなくなりグレイリーの足裏が露出する。

 それを見て俺は、これは、と閃くものがあった。
 まさか、これもローションの効果だったりするのか……?
 俺の脳裏に、ある一つの仮説が生まれる。
 一度、試して見る価値はあるな。

 すかさず魔力を右手に集中させてる。
 相手がローションに気を取らているうちに、瞬時に撃つ!

「ローションボール!!!」

 俺はグレイリーただ一人に標的を絞り、三発連続でローションボールを放った。
 足元に注意が向いていたグレイリーはこちらに気付く素振りもなく、あっけなく全弾的中する。

「ぶふぉっ! な、なんだそこの男! 貴様だな! 先程から私に何をしている!?」

 すると、ローションでべとべとになったグレイリーの全身に、大量の煙が体を包み込む。
 そして、シュウ~という音と共に、あっという間にローションによって衣服は溶かされていき──

──なんと、グレイリーは丸裸となった。

 俺のローションが彼女の肢体に絡みついて、艶かしい光沢を放っている。
 濡れそぼつ異性の体に、俺は思わず情欲を掻き立てられそうになるが、必死に押さえ込んだ。
 それは盗賊団の頭が聞いて呆れる、見るも無惨な姿であった。
 一瞬、グレイリーは事態を受け入れられず、目をパチクリとして呆然としていたが、俺が気まずくなって視線を逸らした事により、彼女は我に帰った。

「み、見るなぁ!」

 顔を赤らめ涙目になりながら、必死に局部を隠す。
 グレイリーは羞恥で顔を歪めていた。 

「クソッ、こ、こんな辱めを受けたのは生まれて初めてだ……!」

 グレイリーは目の両端に涙を浮かべながら、俺のことを恨めし気に睨みつける。

 ガッツリ女の裸を見てしまった。
 見てはいけないものを見てしまった感覚。
 こんな時、俺はどういう表情をしていいのか分からなかった。

「姐さん!? これは一体!?」

 突然の事態に動揺を隠せない手下の男たちが、グレイリーに急いで駆け寄る。
 しかし大量に撒き散らされている俺のローションに簡単に足を絡め取られ、二人とも派手にすっ転んだ。

「あがっ!」

「ぬわっ!」

 すると、男だろうが問答無用で一気に服が溶け出し、誰しも赤ん坊だった頃の姿になる。

「う、うわああああ!」

「み、見ないでください姐さん!」

 目の前には裸体の男女が三人。
 今にも泣きそうな顔で局部を隠しながらモゾモゾしていた。
 その酸鼻を極める光景に、俺は戦慄する。

「なんておぞましい能力なんだ……」

 俺の仮説は実証された。
 俺のローションには衣服を溶かすという隠し効果があったのだ。
 ローションまみれの真の力に、喜んで良いのか悲しんで良いのか正直分からない。
 いや、今は形だけでも喜んでおくか……。

 この力は衣服を着用しないモンスターにはあまり効果が見られそうにないが、対人戦でとんでもない力を発揮するのではないか。
 必中すれば、敵前にて強制的に裸にされ無防備の状態になる。
 それに加えてローションによって身動きが取りずらくなるし、なにより全裸という羞恥心は絶大だ。

 このスキル、アホスキルという認識のまま変わらないが、使い用によっては化けるかもしれない。

「ウッ、キィー!!」

 裸体の男女をよそ目にあれこれ考え込んでいると、後方からそんな声が聞こえてきた。
 その鳴き声を聞いて、俺の全身に再び緊張感が走る。
 レッドモンキーだ。
 バナナの妖精を食い終えたのだろう、先程の食事を終え再びここに現れた。
 奴はまだ空腹で、食料を追い求めているのかもしれない。
 だが、バナナの妖精の最後のストックを残していたので、何とか切り抜けられると言えば切り抜けられる。

 やはり俺のローションは、モンスターにはほとんど見込みが無いと思った方がいいかもしれない。
 あっても、ほんの少しの時間稼ぎぐらいだろう。
 何よりモンスターには羞恥心というものがない。
 これが人間との一番の違いだ。
 レッドモンキーの毛並みはわずかに濡れているように見えるが、ローションなんて関係なしに身軽そうに小走りで駆けてくる。

「姐さん! あれはレッドモンキーです!」

「なんでこんなとこに、あのモンスターが!? レッドモンキーは群れで行動するのじゃないのか!」

「群れからはぐれた一匹なのかもしれません!」

「ええい、逃げるぞ!」

 全裸の盗賊たちはの判断は迅速だった。
 即座に背を向け、逃走をはかる。
 盗賊たちもレッドモンキーのヤバさを知っているようだ。
 グレイリーのレベルは26、対するレッドモンキーは38。
 俺より幾分とマシだが、やはりレベル差は開いている。
 盗賊側に分が悪いのは一目瞭然だ。

 レッドモンキーはそれを見て、長い両手で胸を何度か激しく叩く。
 俺には目もくれず、興奮した様子で盗賊を追いかけ始めた。

「い、行っちまった……」

 今回もどうやら、なんとか難を逃れられたようだ。
 先程からの騒々しさから一変、辺りは静寂に包まれる。
 俺は嘆息をつき、その場で足元から崩れ落るように座り込んだ。
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