アホスキル【ローションまみれ】のせいで異世界無双は諦めました。

猫飼いたい

文字の大きさ
3 / 16

第3話 レッドモンキーvsローション

しおりを挟む
 俺は浜辺を後にしてから、舗装されていない道をひたすら歩いていた。
 先を見通そうとしても、まるで水平線のように果てしなく気が遠くなりそうだ。
 あれからどれほどの時間が経過しただろう。
 優に三時間はずっとこのままな気がする。
 何処にあるのかも目星がつかないが、人が栄える街があると信じ、道なき道を愚直に進み続けた。

 依然、人っこ一人見当たらず、この世界の住人にはまだ遭遇できていない。
 まるでこの世界に俺一人しか存在していないような孤独感が胸を占める。
 体力的にも精神的にも疲弊していて、ぼーっとしていると不安なことばかり考えてしまう。

 それにしても喉が渇いたな、腹だって結構減っている。
 転生を果たしてからというもの、俺はまだ何も口にしていない。
 空腹は多少我慢できるが、喉の渇きを耐えるのは、やはり相当苦痛を感じる。 
 そういえば人間の体内は、水分を2%失っただけで喉の渇きを訴えるらしい。
 10%失えば脱水症状で死に至るのだとか。

 このまま水分を確保できなければ、俺は死ぬ危険性もでてくる。
 せっかく転生したと言うのに、このまま何も成し遂げることなく干からびて死ぬのはごめんだ。 
 そうだ。いっちょローションでも飲んでみようか?
 あれも一応水だし大丈夫だよな? 
 喉に詰まって窒息するだろうか。
 そんな莫迦げたことを考えていると──

「そういえば」 

 俺は腰バックに詰め込んでいた三体あるバナナの妖精のうち一体を取り出す。
 それを両手で鷲掴みにし、力の限り、グッと絞ってみる。
 すると、ポトポトとバナナのエキスが垂れてきた。 
 舌を出し、それを舐めとる。
 果汁100パーセントのバナナジュースだ。

「まっず!」

 あまりの不味さに顔をしかめる。
 味が薄くて喉に異物感が残るが、しかし文句など言ってられる状況ではない。
 ボロ雑巾のように限界まで絞り尽くしてエキスを抽出し、俺はなんとか当面の水分を確保した。
 とりあえず危機的状況は脱したとみていいだろう。  

「ふぅー、なんとかなったな」

 持っていても仕方がないので、からっからっになったバナナの妖精の搾りカスを茂みに投げ捨てる。
 蟻か何かの餌にでもなって役に立ってくれ。
 俺は心の中で合掌し、再び歩を進める。

 後は空腹の方なんだが、どこかで食料を調達できないものか。
 バナナの妖精みたいなモンスターの死骸は論外として、木の実でもいいから、
どこかに実ってないだろうか。
 でも今度は木の実型のモンスターとか出てきたら面倒だなぁ。
 色々と思案していると、そこで。

「ん?」

 サササ、と草が不自然に揺れる音がした。
 今、風は吹いていなかったはずだ。
 俺は直感的にそこに何かが居る気配を感じ取る。
 果たして気配の正体は人なのか? それとも──

 草をかきわけるようにして現れたのは、猿のように見えた。
 目の前に現れたのはモンスターだと俺は確信した。
 その猿は、燃え盛るような真っ赤な毛並みをしていて、鋭い犬歯を剥き出しにしていた。
 俺の方を見て、涎がぼとぼとと地面に数滴ほど落ちる。
 目を凝らして、赤い猿をよく見てみる。

名前 レッドモンキー
LV     39
種族 モンスター
体力     2800
魔力     1580
筋力 1650
耐久 980
俊敏 1450
属性 火
スキル 
・ファイヤーボール
・火炎タックル

「レベル39だって!?」

 思わず驚愕のあまり声を張り上げてしまった。
 このモンスターがかなりの強敵であることは火を見るより明らかだ。
 現時点で8レベルの俺に対して、このレッドモンキーというモンスターは39。おおよそ30レベルの差がある。
 流石にローション一本で勝負するのは厳しい。
 いや、なんだよ、ローション一本で勝負するって。

 少なくとも序盤で遭遇していい敵じゃないのは確かだ。
 俺は反射的に背を向け、来た道を思い切り引き返す。
 思考よりも先に足は動き出していた。
 逃げる途中で更に方向転換し、舗装されていない道を外れ、草むらに頭から飛び込む。
 しかしこの俊敏そうなモンスターから俺は逃げられるのか。
 いや、今は全力で逃げることだけを考えろ。

「キィーッ! キィーッ!」

 レッドモンキーの興奮した鳴き声が響き渡る。
 案の定、分かってはいたが奴は追いかけてきた。
 凄まじい速度で追従してくる。俊敏のステータスの差が異常だ。
 俺が背を向け、即座に逃げた事で余計に火に油を注いだのかもしれない。
 しかし戦う選択肢など最初からありはしない。

「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイッ!」

 俺は命の危機を感じ、脱兎のごとく逃走する。
 レッドモンキーに追従される中、なぜか突然、後ろで足音がピタリと止まった。
 全力疾走の最中であるが、俺は嫌な予感がし、ちらりと背後を振り返る。
 するとレッドモンキーは立ち止まり、口の端から煙をくゆらせていた。
 今から何をする気か、俺は本能的に察知した。

 ファイヤーボールが来る。

「うわあっ!」

 予感した通り、レッドモンキーの口から大火球が俺目掛けて飛んできた。
 ギリギリで躱したものの、腕の袖が焼け焦げて一瞬で灰になる。
 俺は回避した動きでバランスを崩し、思い切り転倒して砂埃を巻き起こす。

「ま、まずい......」

 その隙にレッドモンキーは恐るべき速度で迫り来て、俺との距離をあっという間に縮める。

 どうする、どうする、どうする!?

 俺は最悪の事態を想定し、冷や汗が一気に噴き出た。
 もう、戦うしかないのか。
 しかし俺に何ができるって言うんだ。
 バナナの妖精みたいに、物理攻撃でどうにかなる相手ではないことは重々承知だ。
 俺にはローションボールしかないんだぞ。

「いや......」

 今のファイヤーボールで一つ確信出来ることがあった。
 それは奴が火属性のモンスターであること。
 対する俺は、火と相性が良さそうな水属性。
 この世界に属性という概念が存在するんだから、火は水に弱いはずだ。
 だったら、ローションボールが唯一効く相手なのかもしれない。
 イチかバチかやってみるしかない。
 少なくともバナナの妖精より試してみる価値はある。
 俺は全神経をかけて、魔力を右手に集中させる。
 手のひらからローションの水球を生み出し、そして放出した。

「ローションボール!」

 ローションの水球は、レッドモンキー目掛けて一直線に飛んでいく。
 しかしレッドモンキーは俊敏な動きで、難なくそれを躱わす。

「くっ!」

 まだだ!

「ローションボール! ローションボール! ローションボール!」

 俺は残りの魔力が許す限り何十発とローションボールを放つ。
 両手を使ってヤケクソのように連続して撃ち続けた。
 一発でも当たりさえすれば活路はあるんだ。
 何も俺は正面から戦おうとは思っていない、本来の狙いは足止めであり、多少の時間が稼げればそれで充分だ。
 相手がローションを身に浴びて、べとべと状態になり身動きが取れ辛くなったその隙に、全力で逃げればいい。
 しかし俺の思惑とは裏腹に、レッドモンキーはその全弾すべてを、まるで踊るように軽やかな動きで回避する。

「は、速ぇ!」

 ローションがただ辺りに撒き散らされただけで、全て不発に終わった。
 はは、どうやら駄目そうだ。
 速すぎてそもそも一発も当たりゃしない。

 必死にどうすればいいか頭を働かせてみるも、あっという間にレッドモンキーは俺の懐までやってきて、勢いそのままにショルダータックルを腹部に打ち込まれる。

「お、ぐはぁッ!」

 肺の空気を一気に吐き出し、俺は面白いくらい吹き飛ばされ、そのまま岩石へと激突した。

「あ、がっ、いってぇ......」 

 目眩で頭がくらくらする中、  俺はさっと自分のステータスを見て、愕然した。
 マジかよ、今の一撃で300あった俺の体力が150近く持っていかれた。
 次また同じ攻撃をくらったら、俺はどうなる? 
 やはり死ぬのか?
 ──死、か。

 途端に迫り来る死への恐怖に呼吸が浅くなり、目の前が歪んでいく感じがした。

「く、そおぉ……」

 なんで序盤からこんな強敵と戦わねばならないんだ。
 なにかの設定ミスだろ。
 このスキルもそうだ。全てがアホらしい。
 勝てるわけないだろう。

 レッドモンキーは、唾液をだらだらと垂らしながら、ゆっくりと俺の方に向かってくる。
 俺は腰バックから気休め程度の調理用のナイフを取り出し、構える。
 見苦しい悪あがきだと言うのは百も承知だ。
 でも、何もしないまま死を待つよりは何倍もマシだ。
 俺はナイフの刀身を見た時、黄色い液体が付着していること気づいた。

 これは.......。

 俺は腰バックから瀕死状態のバナナの妖精を一体取り出し、遠方へと力の限り全力で投擲する。

 レッドモンキーは、それに釣られるように、人間離れした跳躍を経て、思い切り食らいついた。

「……そういうことか」

 奴も空腹だったのだ。
 もう俺のことなど気にかける様子もなく、むしゃむしゃとバナナを貪り続けている。
 今のうちに逃げようとも考えたが、別に逃げなくてもいいと思い至った。
 今このチャンスを逃せば、俺はもっと危険になるかもしれない。

「ローションボール!」

 食事中の無防備な背中に、俺は容赦なくローションボールをぶち込む。
 レッドモンキーは最初、驚くような素振りをしたが、よっぽど飢餓状態だったのか、それでも夢中で食べ続けていた。

「しばらくそこで大人しくとけ」

 とりあえずレッドモンキーはローションまみれになった。
 全身べとべと状態でしばらく満足には動けないだろう。
 これである程度の時間は稼げた。
 しかしバナナがまた役に立ったな、こんなんでも残しておいて良かった。

 死の危機を間近で実感した初めての戦闘。 
 これが異世界で生きていくという過酷さなのか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...