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第14話 呪い付与
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それは一見すると、一匹の蛇のように思えた。
森に入ればいつでも遭遇するであろう通常サイズの小さな蛇だ。
「……なんだ?」
その蛇は全身をうねらせて俺の元まで近づいて来る。
「──っ!?」
それを見て俺はサッと身構える。
一度切れた緊張感を再び取り戻した。
なんせタタリオロチの口の中から出てきたものだ、ただの蛇であるはずがない。
「──まさか、こいつが本体か!?」
一つ頭に思い浮かんだことと言えば、その可能性だ。
あの巨体から想像できないほどの矮小さに拍子抜けするが、あり得ない事とも思えない。
俺の魔力はもう底を尽きたが、しかしこのサイズの相手なら素手でも何とかなる。
俺は迫り来る蛇をタイミングを見計らって両手で捕まえにいこうとしたが、しかし蛇は俺の手の包囲を器用に掻い潜り、開いた股をそのまま通り過ぎていった。
「え?」
その行動に俺は少し肩透かしを食らう。
奴からは攻撃の意思というものが感じられなかった。
それどころかタタリオロチはこのまま逃走を図る気配すら感じる。
確かに今の奴は以前までの驚異的な戦闘力を失った。
あの状態で戦った所で分が悪いと判断したか。
勝てないと分かった途端、即逃げようとするのは賢明な判断だと思うが、しかし、
「そう簡単に逃がすと思うのか!」
一体お前にどれほど苦しめられたと思ってる。
次の被害を出さない為にもここで確実に息の根を止めなければならないし、そうしないと俺の気が済まないというのもある。
俺はその細長い蛇の尾を慌てて追いかけるが、その行き先によって、奴の真の目的をすぐに理解することが出来た。
その蛇の行き先に居た存在、そこにはアリシアが立っていた。
「──そうか……まずいぞ!」
奴の目的は最初からアリシアだったのだ。
思えば最初からそうだったじゃないか。
彼女の命を奪うことが本来の目的なのか定かでないが、当初からずっとアリシアにだけ執着を抱いていた。
アリシアも俺同様に先の一撃で魔力を使い果たしており、ライトニングはもう使用出来ない。
つまるところ今の彼女にはどうすることも出来ない。
「うおおおおおおお!!」
俺はとっくにボロボロになっている体へ更に鞭を打ち、驚異的な速度で駆ける。
腕を精一杯に伸ばして尾の先をガッチリと掴み取り、力の限りこちらに引っ張っり込んだ。
しかしどれだけ手繰り寄せようと力を込めるが引っ張り込めず、無限にリーチが伸び続けているのかと錯覚するほどだ。
蛇は俺など意にも介さず、本来あり得ないほどの跳躍を果たした。
目を丸くするアリシアに向かって、口を限界まで大きく広げて歯を剥き出す。
「くそったれ!」
俺は辺りに撒かれているわずかなローションを思い切り蹴り上げる。
ローションを潤滑剤代わりに利用し、滑るように加速して勢いよく飛び込んだ。
そしてアリシアの肩にぶつかるようにして、思い切り彼女を突き飛ばす。
蛇は勢いそのまま、俺の右腕へと噛みついた。
「ぐぅっ!」
腕の痛みに呻き声を上げる。
二本の鋭利な歯が、深々と肉に突き刺さっているのが分かる。
小さな穴が二つ開き、そこから二筋の血がツーと垂れた。
蛇はがっしりと噛みつき中々離れそうにない。
そこで俺は体内に、どくどくと何かを流し込まれている感覚があった。
ぞくっという寒気が全身を駆け巡る。
「クソッ、離れろ!」
俺は首根っこを強引に掴み、そのまま締め殺す勢いで握りしめる。
しかし次の瞬間、俺はどこか嫌な予感めいたものが脳裏を掠め、咄嗟に手を離した。
すると蛇の全身が突如として、激しく音を立てて燃焼を始めたのだ。
己の役目を終えたとばかりに一気に頭から尾まで燃え広がり、──そうして瞬く間に灰となって、消えた。
「な、なんだったんだ……」
その一部始終を見届けて、俺は膝から崩れ落ちるように倒れる。
その時、脳裏にレベルアップの音が何重にも重なって鳴り響いた。
たった今莫大な経験値が入ったのだろう。
ああ、どうやら、これで本当に終わったんだな。
「コタロー!」
そこで目の前のアリシアが俺の肩を支えるようにして抱き抱えた。
「ごめんなさい! 私のことを庇って! こんな、こんなことに……」
アリシアの目の端には雫が滲んでいた。
「私、あの蛇と目があったら急に動けなくなって」
「無事ならいいんだ」
アリシアが狼狽している中、絞り出すようにぽつりと答える。
ひょっとしてタタリオロチの眼には、目が合った対象を硬直させる力でもあるのだろうか。
鑑定で見たときは、そんなスキルは無かったはずだがな。
傷口はそれほど痛むわけではないが、悪寒が止まらない。
俺は毒を打ち込まれたのか? だが奴は毒属性ではなかったはず。
たしか奴の属性は────
────もしかして、呪いを……?
俺の右手の甲に、赤黒い痣のようなものがうっすらと浮かんでいた。
その異変にすぐ気付いたアリシアは俺の手を取り、考え込むようにまじまじと見て、その後、スッと表情が青ざめた。
「……間違いない。これは私の呪い付与だわ」
「……この右手のが、呪い付与のマークなのか?」
アリシアが縛られてある時にもこんな刻印が手の甲にあったような気がする。
あの小さな蛇、おそらくタタリオロチの本体は、最後に呪いを残して死んでいったらしい。
アリシアに対して何らかの呪いを付与することこそが、奴の当初の目的だったのだろう。
しかし俺がアリシアを庇ったことによって呪う対象が俺へと変わった。
それは相手も想定外の事態だったに違いない。
「ええ、これが呪いのマークよ。一口に言っても、呪いというのが全て相手の動きを封じるものではないわ。健康状態を著しく悪くさせるものや、スキルの使用を禁じさせるものなど……これ意外にも枚挙にいとまがないけどね」
かつての《呪い付与》所有者なだけあって、呪いについては精通しているようだ。
「じゃあ、俺の呪いは一体……」
「現状だとまだ分からないわ。呪いを受けた際に体調不良を訴える者が多いけど、それは前兆みたいなもので決して死に至るものではない。ただし皆その後、正式に呪いを付与されて、呪いの異常性を各々認識することになる」
「……なるほどな」
だったらと俺は朦朧とする意識の中で、己のステータスを表示することで手早く知ることは出来ないかと考える。
おちおち体調が良くなるまで待っていられるほど悠長な性格ではない。
それにレベルアップして上昇した自分のステータスにも興味があった。
タタリオロチという難敵との戦闘は、やはり経験値でいうと相当上手かったと推測できる。
「……ステータスオープン」
小声で囁くように唱える。
さっそく以前から更新された己のステータスが表示された。
名前 ヤマダ・コタロー
LV 28
種族 人間
体力 1200
魔力 1050
筋力 250
耐久 310
俊敏 220
属性 水
称号 ローション中級者
通常スキル
・鑑定
・アイテム収納
・テイム
オリジナルスキル 『ローションまみれ』
・ローションボール
・ローションブロー
・ローションボディ
スキル熟練度 D
テイムモンスター
・スライム
バッドスキル 能力暴走
おおっ、なんかズラリと項目が出て来た。
やはりレベルアップで色々と習得した模様だ。
格上との戦闘ばかりでレベルはとんとん拍子に上がっていくな。
まずレベルが大幅に上がったことで、基礎能力値も連動して上がっている。
そして、とうとうローションボール以外の技を俺は習得したらしい。
ローションブローと、ローションボディ。
名称の字面からして、到底強そうに思えないのが残念ではあるが、なんにせよ戦闘で手札が増えるのはいいことだ。
タタリオロチ戦で愚直にローションボールを連発したおかげか、ローション初心者を遂に脱し、俺はローション中級者となっていた。
それに比例してスキル熟練度もDに上がっている。
流石の俺もローションの扱いに長けてきたということだろう。
そして肝心の最後に追加されている項目だ。
聞いたことのないバッドスキルというのが新たに追加されている。
いわゆるこれが呪いと呼ばれる類なのだろうか。
俺はありのままアリシアに報告してみる。
「ステータスに表示されたバットスキルというのが呪いならば……」
「ステータス……? コタロー、何故それが自分で分かったの」
アリシアは不思議そうに尋ね返す。
そういえばまだ自分のステータスが見れることを話していなかったか。
これは鑑定のスキルの範疇を超えているのかもしれない。
「……俺はローションと鑑定の他に、自分のステータスも確認することができるんだ。あとアイテム収納といってアイテムを異次元に収納できるスキルもある」
俺は息も絶え絶えになりながら、なんとか説明する。
「あなた、実はローション以外にも色々とスキルを持ってるのね」
「……まあ、一応な」
神様にもらった特典のことは、一応伏せておいた方がいいか。
別に打ち明けてもいいが、なんとなくな。
「そしてだが、俺の呪いは能力暴走というものらしい」
「なるほど、能力暴走ね……厄介と言えば厄介な呪いなるかしら。能力暴走はその名の通り、自分の意思と反してスキルを使用してしまう呪いよ。発動条件は不明で、いつも突発的に起こるわ」
スキルを思い通りにコントロール出来ない呪いというわけか。
「自分に実害がない分、これでも比較的マシな部類の呪いであるけど、スキルをコントロール出来ないということは当然周りの人間を巻き込んでしまう」
「……まだ俺みたいな無力なスキルで良かったかもしれないな」
もしもアリシアに能力暴走の呪いが付与されていれば、ライトニングという強力なスキルが意思と反して暴発を繰り返し、周りの人に甚大な被害をもたらすだろう。
「とにかく、死に至るようなものじゃなくて安心したわ。あなたの容体も一日安静にしておけば治るわよ」
「……一日か」
俺にとっての一日の時間の長さと、アリシアにとっての一日の感覚とはまた話が違う。
「その呪いを解くには、やはり解呪のスキルを持つものに任せるしか無いわね」
「そうか……」
俺は力なく返事をする。
「コタローのローションに解呪の力があるかもと言ったけど、今回はコタローのスキル自身に呪いがかかってしまってるから、物理的に解呪は不可能ね」
能力暴走がどれだけ周りに被害を与えるかはまだ分からないものの、街に着いたら 一刻も早く解呪出来る人物を探さなければいけなくなったな。
正直、これから先アリシアと共に行動するのは難しくなった。
俺がいてもこの呪いの影響で足を引っ張ってしまう可能性がある。
「アリシア、俺のことはいい、先に進んでくれ」
あえぎあえぎの状態で、俺はそう提案した。
アリシアにはアリシアの目的がある。
まずそれを優先して欲しい。
「あなた、何を言っているの?」
しかしアリシアは簡単に頷かなかった。
「……時間がないんだろ、俺のことは置いて行け」
出会って間もない俺なんかに時間を割く必要なんてどこにもない。
アリシアには王座奪還という大事な目的があるのだから尚更だ。
「馬鹿なことを言わないでくれる? あなたをこんな状態で放っておけるわけないでしょう。私だってそこまで薄情ではないわ。ここに残るわよ。もちろん一日分のロスにはなるけどね」
「……本当にいいのか、アリシア?」
俺は再三確認する。
「だから良いと言ってるじゃない。しつこいわね、ぶん殴るわよ」
「……そうか」
「そういうわけで、今日は野宿にするわよ」
なんだかんだ情には熱い元魔王様だ。
こういう人情味ある心柄をしてるかこそ、魔族たちにも慕われていたんだろうな、と俺は胸中で思った。
「まず場所を移すわよ。ここだと目立ちすぎてモンスターに襲われる危険性がある。私の肩を貸すから、少し歩いてもらうわよ」
「……すまん」
俺が謝るとそこで、アリシアは、
「ひっ!」
小さな悲鳴のような声を出して、俺を支えていた手を急に離した。
「って、おい!」
俺はバランスを崩してつんのめる。
しかし前方に倒れかかった俺の体は、弾力性のある物体が受け止めた。
目の前にいたのはハーフサイズになったゲルちゃんだった。
みかねて俺の元へ寄ってきてくれたのだ。
「どうやら、ゲルちゃんが俺を運んでくれるみたいだ」
「……そ、そう。よかったわね」
しかしアリシアの反応は酷いものである。
相当ゲルちゃんのことが苦手らしい。
アリシアもいつか友達になれるといいんだがな。
俺はうつ伏せの体勢でゲルちゃんの体に掴まった。
そうしてゆっくりとだが、俺を運び出してくれた。
「ありがとう、ゲルちゃん」
向かったのは茂みがあり木々が立ち並んでいる日陰の方だ。
足が肌寒いと思ったら、既に両方の靴がどこにもなかった。
片方は戦闘中にどこかへ飛んでいき、片方はローションを踏んだせいで、靴底が溶けてそのまま消失していた。
回復したら裸足で歩くしかないか。
そうしてゲルちゃんに安全な場所にまで連れてきてもらったので、転がるように降りて大の字になって寝る。
大地がひんやりとしていて気持ちいい。
気づけば日が暮れかけていた。
世界が茜色に包まれている。
もうそんな時間になっていたんだな。
仰向けになって横になると、相当疲れていたようで、一気に眠気がやってきた。
俺はそれに逆らわず身を任せることにした。
少し眠ろう。
まだ異世界に来て一日目だというのに色んなことがありすぎた。
濃い一日だったな。
明日は出来るだけ穏やかに過ごしたいものだが、元魔王様が隣にいる時点で、それは無理な願いか。
しかし、そんな日々も悪くない。
そんなことをあれこれ考えながら、俺はすぅーっと意識を手放した。
森に入ればいつでも遭遇するであろう通常サイズの小さな蛇だ。
「……なんだ?」
その蛇は全身をうねらせて俺の元まで近づいて来る。
「──っ!?」
それを見て俺はサッと身構える。
一度切れた緊張感を再び取り戻した。
なんせタタリオロチの口の中から出てきたものだ、ただの蛇であるはずがない。
「──まさか、こいつが本体か!?」
一つ頭に思い浮かんだことと言えば、その可能性だ。
あの巨体から想像できないほどの矮小さに拍子抜けするが、あり得ない事とも思えない。
俺の魔力はもう底を尽きたが、しかしこのサイズの相手なら素手でも何とかなる。
俺は迫り来る蛇をタイミングを見計らって両手で捕まえにいこうとしたが、しかし蛇は俺の手の包囲を器用に掻い潜り、開いた股をそのまま通り過ぎていった。
「え?」
その行動に俺は少し肩透かしを食らう。
奴からは攻撃の意思というものが感じられなかった。
それどころかタタリオロチはこのまま逃走を図る気配すら感じる。
確かに今の奴は以前までの驚異的な戦闘力を失った。
あの状態で戦った所で分が悪いと判断したか。
勝てないと分かった途端、即逃げようとするのは賢明な判断だと思うが、しかし、
「そう簡単に逃がすと思うのか!」
一体お前にどれほど苦しめられたと思ってる。
次の被害を出さない為にもここで確実に息の根を止めなければならないし、そうしないと俺の気が済まないというのもある。
俺はその細長い蛇の尾を慌てて追いかけるが、その行き先によって、奴の真の目的をすぐに理解することが出来た。
その蛇の行き先に居た存在、そこにはアリシアが立っていた。
「──そうか……まずいぞ!」
奴の目的は最初からアリシアだったのだ。
思えば最初からそうだったじゃないか。
彼女の命を奪うことが本来の目的なのか定かでないが、当初からずっとアリシアにだけ執着を抱いていた。
アリシアも俺同様に先の一撃で魔力を使い果たしており、ライトニングはもう使用出来ない。
つまるところ今の彼女にはどうすることも出来ない。
「うおおおおおおお!!」
俺はとっくにボロボロになっている体へ更に鞭を打ち、驚異的な速度で駆ける。
腕を精一杯に伸ばして尾の先をガッチリと掴み取り、力の限りこちらに引っ張っり込んだ。
しかしどれだけ手繰り寄せようと力を込めるが引っ張り込めず、無限にリーチが伸び続けているのかと錯覚するほどだ。
蛇は俺など意にも介さず、本来あり得ないほどの跳躍を果たした。
目を丸くするアリシアに向かって、口を限界まで大きく広げて歯を剥き出す。
「くそったれ!」
俺は辺りに撒かれているわずかなローションを思い切り蹴り上げる。
ローションを潤滑剤代わりに利用し、滑るように加速して勢いよく飛び込んだ。
そしてアリシアの肩にぶつかるようにして、思い切り彼女を突き飛ばす。
蛇は勢いそのまま、俺の右腕へと噛みついた。
「ぐぅっ!」
腕の痛みに呻き声を上げる。
二本の鋭利な歯が、深々と肉に突き刺さっているのが分かる。
小さな穴が二つ開き、そこから二筋の血がツーと垂れた。
蛇はがっしりと噛みつき中々離れそうにない。
そこで俺は体内に、どくどくと何かを流し込まれている感覚があった。
ぞくっという寒気が全身を駆け巡る。
「クソッ、離れろ!」
俺は首根っこを強引に掴み、そのまま締め殺す勢いで握りしめる。
しかし次の瞬間、俺はどこか嫌な予感めいたものが脳裏を掠め、咄嗟に手を離した。
すると蛇の全身が突如として、激しく音を立てて燃焼を始めたのだ。
己の役目を終えたとばかりに一気に頭から尾まで燃え広がり、──そうして瞬く間に灰となって、消えた。
「な、なんだったんだ……」
その一部始終を見届けて、俺は膝から崩れ落ちるように倒れる。
その時、脳裏にレベルアップの音が何重にも重なって鳴り響いた。
たった今莫大な経験値が入ったのだろう。
ああ、どうやら、これで本当に終わったんだな。
「コタロー!」
そこで目の前のアリシアが俺の肩を支えるようにして抱き抱えた。
「ごめんなさい! 私のことを庇って! こんな、こんなことに……」
アリシアの目の端には雫が滲んでいた。
「私、あの蛇と目があったら急に動けなくなって」
「無事ならいいんだ」
アリシアが狼狽している中、絞り出すようにぽつりと答える。
ひょっとしてタタリオロチの眼には、目が合った対象を硬直させる力でもあるのだろうか。
鑑定で見たときは、そんなスキルは無かったはずだがな。
傷口はそれほど痛むわけではないが、悪寒が止まらない。
俺は毒を打ち込まれたのか? だが奴は毒属性ではなかったはず。
たしか奴の属性は────
────もしかして、呪いを……?
俺の右手の甲に、赤黒い痣のようなものがうっすらと浮かんでいた。
その異変にすぐ気付いたアリシアは俺の手を取り、考え込むようにまじまじと見て、その後、スッと表情が青ざめた。
「……間違いない。これは私の呪い付与だわ」
「……この右手のが、呪い付与のマークなのか?」
アリシアが縛られてある時にもこんな刻印が手の甲にあったような気がする。
あの小さな蛇、おそらくタタリオロチの本体は、最後に呪いを残して死んでいったらしい。
アリシアに対して何らかの呪いを付与することこそが、奴の当初の目的だったのだろう。
しかし俺がアリシアを庇ったことによって呪う対象が俺へと変わった。
それは相手も想定外の事態だったに違いない。
「ええ、これが呪いのマークよ。一口に言っても、呪いというのが全て相手の動きを封じるものではないわ。健康状態を著しく悪くさせるものや、スキルの使用を禁じさせるものなど……これ意外にも枚挙にいとまがないけどね」
かつての《呪い付与》所有者なだけあって、呪いについては精通しているようだ。
「じゃあ、俺の呪いは一体……」
「現状だとまだ分からないわ。呪いを受けた際に体調不良を訴える者が多いけど、それは前兆みたいなもので決して死に至るものではない。ただし皆その後、正式に呪いを付与されて、呪いの異常性を各々認識することになる」
「……なるほどな」
だったらと俺は朦朧とする意識の中で、己のステータスを表示することで手早く知ることは出来ないかと考える。
おちおち体調が良くなるまで待っていられるほど悠長な性格ではない。
それにレベルアップして上昇した自分のステータスにも興味があった。
タタリオロチという難敵との戦闘は、やはり経験値でいうと相当上手かったと推測できる。
「……ステータスオープン」
小声で囁くように唱える。
さっそく以前から更新された己のステータスが表示された。
名前 ヤマダ・コタロー
LV 28
種族 人間
体力 1200
魔力 1050
筋力 250
耐久 310
俊敏 220
属性 水
称号 ローション中級者
通常スキル
・鑑定
・アイテム収納
・テイム
オリジナルスキル 『ローションまみれ』
・ローションボール
・ローションブロー
・ローションボディ
スキル熟練度 D
テイムモンスター
・スライム
バッドスキル 能力暴走
おおっ、なんかズラリと項目が出て来た。
やはりレベルアップで色々と習得した模様だ。
格上との戦闘ばかりでレベルはとんとん拍子に上がっていくな。
まずレベルが大幅に上がったことで、基礎能力値も連動して上がっている。
そして、とうとうローションボール以外の技を俺は習得したらしい。
ローションブローと、ローションボディ。
名称の字面からして、到底強そうに思えないのが残念ではあるが、なんにせよ戦闘で手札が増えるのはいいことだ。
タタリオロチ戦で愚直にローションボールを連発したおかげか、ローション初心者を遂に脱し、俺はローション中級者となっていた。
それに比例してスキル熟練度もDに上がっている。
流石の俺もローションの扱いに長けてきたということだろう。
そして肝心の最後に追加されている項目だ。
聞いたことのないバッドスキルというのが新たに追加されている。
いわゆるこれが呪いと呼ばれる類なのだろうか。
俺はありのままアリシアに報告してみる。
「ステータスに表示されたバットスキルというのが呪いならば……」
「ステータス……? コタロー、何故それが自分で分かったの」
アリシアは不思議そうに尋ね返す。
そういえばまだ自分のステータスが見れることを話していなかったか。
これは鑑定のスキルの範疇を超えているのかもしれない。
「……俺はローションと鑑定の他に、自分のステータスも確認することができるんだ。あとアイテム収納といってアイテムを異次元に収納できるスキルもある」
俺は息も絶え絶えになりながら、なんとか説明する。
「あなた、実はローション以外にも色々とスキルを持ってるのね」
「……まあ、一応な」
神様にもらった特典のことは、一応伏せておいた方がいいか。
別に打ち明けてもいいが、なんとなくな。
「そしてだが、俺の呪いは能力暴走というものらしい」
「なるほど、能力暴走ね……厄介と言えば厄介な呪いなるかしら。能力暴走はその名の通り、自分の意思と反してスキルを使用してしまう呪いよ。発動条件は不明で、いつも突発的に起こるわ」
スキルを思い通りにコントロール出来ない呪いというわけか。
「自分に実害がない分、これでも比較的マシな部類の呪いであるけど、スキルをコントロール出来ないということは当然周りの人間を巻き込んでしまう」
「……まだ俺みたいな無力なスキルで良かったかもしれないな」
もしもアリシアに能力暴走の呪いが付与されていれば、ライトニングという強力なスキルが意思と反して暴発を繰り返し、周りの人に甚大な被害をもたらすだろう。
「とにかく、死に至るようなものじゃなくて安心したわ。あなたの容体も一日安静にしておけば治るわよ」
「……一日か」
俺にとっての一日の時間の長さと、アリシアにとっての一日の感覚とはまた話が違う。
「その呪いを解くには、やはり解呪のスキルを持つものに任せるしか無いわね」
「そうか……」
俺は力なく返事をする。
「コタローのローションに解呪の力があるかもと言ったけど、今回はコタローのスキル自身に呪いがかかってしまってるから、物理的に解呪は不可能ね」
能力暴走がどれだけ周りに被害を与えるかはまだ分からないものの、街に着いたら 一刻も早く解呪出来る人物を探さなければいけなくなったな。
正直、これから先アリシアと共に行動するのは難しくなった。
俺がいてもこの呪いの影響で足を引っ張ってしまう可能性がある。
「アリシア、俺のことはいい、先に進んでくれ」
あえぎあえぎの状態で、俺はそう提案した。
アリシアにはアリシアの目的がある。
まずそれを優先して欲しい。
「あなた、何を言っているの?」
しかしアリシアは簡単に頷かなかった。
「……時間がないんだろ、俺のことは置いて行け」
出会って間もない俺なんかに時間を割く必要なんてどこにもない。
アリシアには王座奪還という大事な目的があるのだから尚更だ。
「馬鹿なことを言わないでくれる? あなたをこんな状態で放っておけるわけないでしょう。私だってそこまで薄情ではないわ。ここに残るわよ。もちろん一日分のロスにはなるけどね」
「……本当にいいのか、アリシア?」
俺は再三確認する。
「だから良いと言ってるじゃない。しつこいわね、ぶん殴るわよ」
「……そうか」
「そういうわけで、今日は野宿にするわよ」
なんだかんだ情には熱い元魔王様だ。
こういう人情味ある心柄をしてるかこそ、魔族たちにも慕われていたんだろうな、と俺は胸中で思った。
「まず場所を移すわよ。ここだと目立ちすぎてモンスターに襲われる危険性がある。私の肩を貸すから、少し歩いてもらうわよ」
「……すまん」
俺が謝るとそこで、アリシアは、
「ひっ!」
小さな悲鳴のような声を出して、俺を支えていた手を急に離した。
「って、おい!」
俺はバランスを崩してつんのめる。
しかし前方に倒れかかった俺の体は、弾力性のある物体が受け止めた。
目の前にいたのはハーフサイズになったゲルちゃんだった。
みかねて俺の元へ寄ってきてくれたのだ。
「どうやら、ゲルちゃんが俺を運んでくれるみたいだ」
「……そ、そう。よかったわね」
しかしアリシアの反応は酷いものである。
相当ゲルちゃんのことが苦手らしい。
アリシアもいつか友達になれるといいんだがな。
俺はうつ伏せの体勢でゲルちゃんの体に掴まった。
そうしてゆっくりとだが、俺を運び出してくれた。
「ありがとう、ゲルちゃん」
向かったのは茂みがあり木々が立ち並んでいる日陰の方だ。
足が肌寒いと思ったら、既に両方の靴がどこにもなかった。
片方は戦闘中にどこかへ飛んでいき、片方はローションを踏んだせいで、靴底が溶けてそのまま消失していた。
回復したら裸足で歩くしかないか。
そうしてゲルちゃんに安全な場所にまで連れてきてもらったので、転がるように降りて大の字になって寝る。
大地がひんやりとしていて気持ちいい。
気づけば日が暮れかけていた。
世界が茜色に包まれている。
もうそんな時間になっていたんだな。
仰向けになって横になると、相当疲れていたようで、一気に眠気がやってきた。
俺はそれに逆らわず身を任せることにした。
少し眠ろう。
まだ異世界に来て一日目だというのに色んなことがありすぎた。
濃い一日だったな。
明日は出来るだけ穏やかに過ごしたいものだが、元魔王様が隣にいる時点で、それは無理な願いか。
しかし、そんな日々も悪くない。
そんなことをあれこれ考えながら、俺はすぅーっと意識を手放した。
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