13 / 16
第13話 コンビネーション
しおりを挟む
死のイメージを振り払うように何度も首を振るう。
このまま何もせず大人しく食われるのを待つのか。
足掻け、もっと足掻け、俺。
頭が逆さまになりながらも、器用に上空でバランスをとりつつ、俺は五発目のローションボールの準備する。
それに残りの魔力を全て練りこんだ。
次の一発が俺の最後のローションボールだ。
撃つなら今しかないだろう。
余裕綽々に大口を開けている、この瞬間しか。
高速で落下する中で必死に照準を定めるが、どうしても腕がぶれる。
足場もなく安定することはないし、何より充分に集中できない。
たえず体が動き続ける状況で、当てられる自信がどうしても無い。
でも、やるしかない。
やらなければただ死を待つだけだ。
俺は祈るようにしてローションボールを放った。
「ローションボール!」
しかし結果はというと────そんなことは分かり切っていたが、無論あらぬ方へと飛んでいった。
俺の手元をぶれさせた最大の要因は、この落下し続ける環境というよりも、先程染み付いた底なしの恐怖の方が強かっただろう。
そしてわざわざ言うまでもなく、俺は失敗した。
五発分のローションボールを完全に撃ち終わり、残りの魔力も全て消費し切った。
俺の手札はもうない。
しかし後悔はない。
俺にやれることは全てやった。
戦って死ぬなら本望だ。
だけど、こうなるのなら四発目の時点でアリシアに合図を送っておけばよかったな。
地上にいる時なら合図はちゃんと届いていただろう。
五発目という欲を出す必要なんてなかった。
しかしそんな後悔も全ては後の祭りだ。
俺は諦念し、頭から落下して行く中で、視界の端に何かモゾモゾと蠢くものを捉えた気がした。
「……?」
モゾモゾと蠢くもの……というと。
俺の頭に一つ思い当たるものがあった。
今にも俺を呑み込まんとする大きな口が、途端に閉じられた。
「え?」
俺はその光景に目を見張った。
なんとタタリオロチのその目元には、俺の使い魔であるゲルちゃんが張り付いていたのだ。
「ゲルちゃん!?」
視界を奪われたタリオロチは不快そうに顔を何度も横に振る。
だがゲルちゃんはその挙動に一切動じることなく完璧に両目に張り付いており、簡単に離れそうになかった。
十中八九、タタリオロチの体を這ってここまでやって来たのだろうが、何故ゲルちゃんがこんな所にいるのか。
主人である俺の危機を敏感に感じ取ったのだろうか。
だけどゲルちゃんは、あの緩やかな速度で這うことしか出来ない。
頭部にまで這って進むには相当な時間がかかったのは目に見えている。
それでも俺を助けるためにここまで来てくれたのか。
俺の胸が熱くなるのが分かった。
その時、忽然と、遥か下の地上でバチッと何かが弾けるような音がここまで聞こえてきた。
俺は一度、その音を間近で聞いたことがある。
一度聞いたら中々忘れられそうにない、刺激的な響きだ。
アリシアが、上空にいる俺の異変を感じ取ったのだろう。
────ライトニングが、来る。
俺は瞬時にそう直覚した。
「駄目だゲルちゃん! 今すぐ離れろ!!」
全力で叫ぶが、その声がゲルちゃんに届いているのかは分からない。
このままではゲルちゃんまでライトニングに巻き込まれてしまう。
通常のとは違って、今回のライトニングを食らったらタダでは済まない事が俺には分かる。
何度もその名を呼び続けるが、しかし聞き入れてくれる感じはなかった。
ただこれは最初で最後に訪れた、タタリオロチを倒せる絶好の好機なのは間違いない。
この機会を逃してしまえば、次はないと断言できる。
もしかすると、ゲルちゃんは最初から俺のやりたいことを汲んで、自ら犠牲になるつもりでここへ臨んだのか。
だとしたらゲルちゃんの主人を救おうとする忠誠心を、俺は無碍にする事は出来ない。
思えばテイムしてからまだ数時間も経っていなかった。
なのにこんなに早い別れになるとは思わなかった。
これからもっと仲良くなれたかもしれないのに。
ごめん、ゲルちゃん。……そして、ありがとう。
俺はその想いと覚悟を汲み取り、叫んだ。
「今だ! やれ、アリシア────!」
俺を片手を上げ、大きく輪のようなものを作る。
これがライトニング決行の合図だったが、上空からアリシアまで途方もなく距離は離れており、ちゃんと伝わっているのか判然としない。
しかし俺は喉が枯れんばかりに大声を張り上げる。
その合図を見たのか、声が届いたのか、アリシアは俺に対して、かの轟音をもって応えた。
────そして、
「────ライトニング!!」
その時、世界を震わせるほどの、けたましい音が一帯に響き渡った。
落雷が降ったかのような荒々しい破裂音が耳朶を激しく抉って、青き稲妻がうねり上げる。
その迫力を感じさせる轟音に腹の奥から震え上がった。
アリシアが全ての魔力を注ぎ込み、全身全霊をかけた渾身のライトニングを撃ち込んだのだ。
あらかじめアリシアに作戦の全貌を話しておいた際、たった一度のライトニングに己の全てを出し切るよう頼んでおいたのだ。
出し惜しみなしのアリシアの渾身の電撃砲弾は、一撃必殺と言わんばかりの最大火力を誇っていた。
当然その一撃を外してしまったら、俺たちは詰みだ。
他に打てる手はない。
だからこそ外さないためのお膳立てを俺はやったのだ。
実にそれこそが、タタリオロチが全身に浴びているローションだ。
アリシアの電撃が通電しやすいように体の至る所にローションを塗布した。
ローションが通電しやすいという発想に至ったのは、アリシアの全裸を見たときだ。
あの時、アリシアは自分の電撃で自滅し気絶した
もしかすると、と思ったがどうやらその通りだった。
その刹那の稲妻は、目にも留まらず速度でローションを伝い全身を駆け巡って行く。
タタリオロチはアリシアの雷撃の全てを余さずその身に受けた。
肉の焼ける音と激しい光が一帯を支配して、奴の絶叫がここまで聞こえてくるようだった。
まるでローションによって威力が倍増していると錯覚してしまうほど、けたましい音を立てて感電している。
そして一瞬にして、タタリオロチは白目を剥いて動かなくなり、全身は真っ黒に焼け焦げた。
そこにはゲルちゃんらしき面影もあり、思わず目を逸らす。
「ありがとう、ゲルちゃん」
俺は虚空に呟いた。
それにしても、素晴らしいコンビネーション技だ。
アリシアと俺にしか出来ない、ローションとライトニングを組み合わせた複合技。
ローションによって通電しやすくなった体に余すことなく雷撃を流し込み感電死させる究極の技だ。
俺が少しでも自分のローションを浴びてはいけない理由はこれだ。
感電の危険性があるため、浴びれば即刻中止にする予定だった。
改めてその攻撃に、俺は恐れ慄いていた。
そうして、俺たちはタタリオロチを撃退することが出来た。
しかし、
「……あれ、ちょっと待ってくれ」
タタリオロチを倒したのはいいが、その後、俺はどうなる。
当たり前の話だが奴を撃退したところで、俺の落下が止まることはない。
安堵する暇なんてどこにもない。
この距離だ、地面に当たれば即死だろう。
どのみちアリシアにはもう頼れない。
既に魔力も尽きてローションボールも使えない。
だがらといって使えたところでどうにかなるということもない。
これは、詰みか。
俺の豪運ももはやこれまでか。
そう何度も奇跡というものは起きないようで、どうやら俺の最期は、落下死という顛末らしい。
せっかく苦労して勝ったのにな。
「クソッ、こんなの死んでも死にきれねぇよ……」
そうこうしてる今にも、どんどん地面に近づいて行く。
思考を巡らす時間すらもう無い。
頭部から落下していき、もはやバランスを取ることすらままならない。
勢いを増す風圧に気を失いそうになる中、せめて一思いで死ねますようにと、目を瞑り心の中で祈った。
───そうして、
ぼよんっ、という間の抜けた音と共に、俺は大きく跳ねた。
「……は?」
咄嗟の事態に脳が理解できず、思わず呆けた声が出る。
流石に今回ばかりは死んだと思ったが、俺は今も生きている。
一瞬下にトランポリンが敷かれているのかと勘違いしたが、そんなものが異世界にあるわけがない。
俺は頭部に当たった柔らかい物体を見て驚愕する。
「ゲルちゃん、どうして!?」
そこにはゲルちゃんが居た。
しかし先程俺はタタリオロチと一緒にライトニングで焼かれたのを確かにこの目で見た。
ゲルちゃんは己の命を投げ打って、タタリオロチの目を塞いでくれたのだから当然だ。
全身黒焦げになって面影も無く、見るに耐えない姿になっていたはずだ。
だというのに、目の前にはゲルちゃん居る。
ただ、以前よりは何となく一回りほど小さい気がした。
そこで俺は疑問の正体に思い当たる。
「もしかして、分裂したのか……!」
思い返すと、ゲルちゃんには二つのスキルがあった。
毒キノコなどの毒素を抜く『解毒』のスキルと、もう一つ所有していたスキル『分裂』だ。
どのような状況で使用するスキルなのか、いささか疑問に思っていたが、ゲルちゃんはここしかないという絶好のタイミングで使ってくれた。
ゲルちゃんはあらかじめ体を二つに分裂させていたのどろう。
一方をタタリオロチを食い止める為に行動させ、一方を空高く吹き飛んだ俺をキャッチする為に別れた。
そうしてここで俺の落下地点を予測して、ずっと待ち構えてくれていたのだ。
半分のサイズになってしまったが、なんにせよゲルちゃんは生きていた。
俺は何度か弾んだ後、反発が弱まってきた辺りで、うまく地面に足をつけて着地した。
「ゲルちゃんっ! ありがとうっ!」
そして俺は小さくなったゲルちゃんを力強く抱きしめ、何度もキスの雨を降らす。
なんて賢明で素晴らしい使い魔なんだ。
主人のピンチを二度も救ってくれた。
あの時テイムしていなければ、俺は今頃どうなっていたか。
隣には、タタリオロチが口を限界ギリギリまで開き、黒焦げになって死んでいた。
もはやあの赤黒い鱗は見る影もなく燻んでいた。
その鱗が焼け焦げた独特な異臭が辺りを充満して、思わず咽せ返りそうだった。
タタリオロチは横たわったまま、ピクリとも動かない。
「終わったのか」
こうして決着は着いた。
────かのように思われた。
その時、タタリオロチの大きく開口した喉の奥から、ひゅっ、と細長い何かが飛び出した。
このまま何もせず大人しく食われるのを待つのか。
足掻け、もっと足掻け、俺。
頭が逆さまになりながらも、器用に上空でバランスをとりつつ、俺は五発目のローションボールの準備する。
それに残りの魔力を全て練りこんだ。
次の一発が俺の最後のローションボールだ。
撃つなら今しかないだろう。
余裕綽々に大口を開けている、この瞬間しか。
高速で落下する中で必死に照準を定めるが、どうしても腕がぶれる。
足場もなく安定することはないし、何より充分に集中できない。
たえず体が動き続ける状況で、当てられる自信がどうしても無い。
でも、やるしかない。
やらなければただ死を待つだけだ。
俺は祈るようにしてローションボールを放った。
「ローションボール!」
しかし結果はというと────そんなことは分かり切っていたが、無論あらぬ方へと飛んでいった。
俺の手元をぶれさせた最大の要因は、この落下し続ける環境というよりも、先程染み付いた底なしの恐怖の方が強かっただろう。
そしてわざわざ言うまでもなく、俺は失敗した。
五発分のローションボールを完全に撃ち終わり、残りの魔力も全て消費し切った。
俺の手札はもうない。
しかし後悔はない。
俺にやれることは全てやった。
戦って死ぬなら本望だ。
だけど、こうなるのなら四発目の時点でアリシアに合図を送っておけばよかったな。
地上にいる時なら合図はちゃんと届いていただろう。
五発目という欲を出す必要なんてなかった。
しかしそんな後悔も全ては後の祭りだ。
俺は諦念し、頭から落下して行く中で、視界の端に何かモゾモゾと蠢くものを捉えた気がした。
「……?」
モゾモゾと蠢くもの……というと。
俺の頭に一つ思い当たるものがあった。
今にも俺を呑み込まんとする大きな口が、途端に閉じられた。
「え?」
俺はその光景に目を見張った。
なんとタタリオロチのその目元には、俺の使い魔であるゲルちゃんが張り付いていたのだ。
「ゲルちゃん!?」
視界を奪われたタリオロチは不快そうに顔を何度も横に振る。
だがゲルちゃんはその挙動に一切動じることなく完璧に両目に張り付いており、簡単に離れそうになかった。
十中八九、タタリオロチの体を這ってここまでやって来たのだろうが、何故ゲルちゃんがこんな所にいるのか。
主人である俺の危機を敏感に感じ取ったのだろうか。
だけどゲルちゃんは、あの緩やかな速度で這うことしか出来ない。
頭部にまで這って進むには相当な時間がかかったのは目に見えている。
それでも俺を助けるためにここまで来てくれたのか。
俺の胸が熱くなるのが分かった。
その時、忽然と、遥か下の地上でバチッと何かが弾けるような音がここまで聞こえてきた。
俺は一度、その音を間近で聞いたことがある。
一度聞いたら中々忘れられそうにない、刺激的な響きだ。
アリシアが、上空にいる俺の異変を感じ取ったのだろう。
────ライトニングが、来る。
俺は瞬時にそう直覚した。
「駄目だゲルちゃん! 今すぐ離れろ!!」
全力で叫ぶが、その声がゲルちゃんに届いているのかは分からない。
このままではゲルちゃんまでライトニングに巻き込まれてしまう。
通常のとは違って、今回のライトニングを食らったらタダでは済まない事が俺には分かる。
何度もその名を呼び続けるが、しかし聞き入れてくれる感じはなかった。
ただこれは最初で最後に訪れた、タタリオロチを倒せる絶好の好機なのは間違いない。
この機会を逃してしまえば、次はないと断言できる。
もしかすると、ゲルちゃんは最初から俺のやりたいことを汲んで、自ら犠牲になるつもりでここへ臨んだのか。
だとしたらゲルちゃんの主人を救おうとする忠誠心を、俺は無碍にする事は出来ない。
思えばテイムしてからまだ数時間も経っていなかった。
なのにこんなに早い別れになるとは思わなかった。
これからもっと仲良くなれたかもしれないのに。
ごめん、ゲルちゃん。……そして、ありがとう。
俺はその想いと覚悟を汲み取り、叫んだ。
「今だ! やれ、アリシア────!」
俺を片手を上げ、大きく輪のようなものを作る。
これがライトニング決行の合図だったが、上空からアリシアまで途方もなく距離は離れており、ちゃんと伝わっているのか判然としない。
しかし俺は喉が枯れんばかりに大声を張り上げる。
その合図を見たのか、声が届いたのか、アリシアは俺に対して、かの轟音をもって応えた。
────そして、
「────ライトニング!!」
その時、世界を震わせるほどの、けたましい音が一帯に響き渡った。
落雷が降ったかのような荒々しい破裂音が耳朶を激しく抉って、青き稲妻がうねり上げる。
その迫力を感じさせる轟音に腹の奥から震え上がった。
アリシアが全ての魔力を注ぎ込み、全身全霊をかけた渾身のライトニングを撃ち込んだのだ。
あらかじめアリシアに作戦の全貌を話しておいた際、たった一度のライトニングに己の全てを出し切るよう頼んでおいたのだ。
出し惜しみなしのアリシアの渾身の電撃砲弾は、一撃必殺と言わんばかりの最大火力を誇っていた。
当然その一撃を外してしまったら、俺たちは詰みだ。
他に打てる手はない。
だからこそ外さないためのお膳立てを俺はやったのだ。
実にそれこそが、タタリオロチが全身に浴びているローションだ。
アリシアの電撃が通電しやすいように体の至る所にローションを塗布した。
ローションが通電しやすいという発想に至ったのは、アリシアの全裸を見たときだ。
あの時、アリシアは自分の電撃で自滅し気絶した
もしかすると、と思ったがどうやらその通りだった。
その刹那の稲妻は、目にも留まらず速度でローションを伝い全身を駆け巡って行く。
タタリオロチはアリシアの雷撃の全てを余さずその身に受けた。
肉の焼ける音と激しい光が一帯を支配して、奴の絶叫がここまで聞こえてくるようだった。
まるでローションによって威力が倍増していると錯覚してしまうほど、けたましい音を立てて感電している。
そして一瞬にして、タタリオロチは白目を剥いて動かなくなり、全身は真っ黒に焼け焦げた。
そこにはゲルちゃんらしき面影もあり、思わず目を逸らす。
「ありがとう、ゲルちゃん」
俺は虚空に呟いた。
それにしても、素晴らしいコンビネーション技だ。
アリシアと俺にしか出来ない、ローションとライトニングを組み合わせた複合技。
ローションによって通電しやすくなった体に余すことなく雷撃を流し込み感電死させる究極の技だ。
俺が少しでも自分のローションを浴びてはいけない理由はこれだ。
感電の危険性があるため、浴びれば即刻中止にする予定だった。
改めてその攻撃に、俺は恐れ慄いていた。
そうして、俺たちはタタリオロチを撃退することが出来た。
しかし、
「……あれ、ちょっと待ってくれ」
タタリオロチを倒したのはいいが、その後、俺はどうなる。
当たり前の話だが奴を撃退したところで、俺の落下が止まることはない。
安堵する暇なんてどこにもない。
この距離だ、地面に当たれば即死だろう。
どのみちアリシアにはもう頼れない。
既に魔力も尽きてローションボールも使えない。
だがらといって使えたところでどうにかなるということもない。
これは、詰みか。
俺の豪運ももはやこれまでか。
そう何度も奇跡というものは起きないようで、どうやら俺の最期は、落下死という顛末らしい。
せっかく苦労して勝ったのにな。
「クソッ、こんなの死んでも死にきれねぇよ……」
そうこうしてる今にも、どんどん地面に近づいて行く。
思考を巡らす時間すらもう無い。
頭部から落下していき、もはやバランスを取ることすらままならない。
勢いを増す風圧に気を失いそうになる中、せめて一思いで死ねますようにと、目を瞑り心の中で祈った。
───そうして、
ぼよんっ、という間の抜けた音と共に、俺は大きく跳ねた。
「……は?」
咄嗟の事態に脳が理解できず、思わず呆けた声が出る。
流石に今回ばかりは死んだと思ったが、俺は今も生きている。
一瞬下にトランポリンが敷かれているのかと勘違いしたが、そんなものが異世界にあるわけがない。
俺は頭部に当たった柔らかい物体を見て驚愕する。
「ゲルちゃん、どうして!?」
そこにはゲルちゃんが居た。
しかし先程俺はタタリオロチと一緒にライトニングで焼かれたのを確かにこの目で見た。
ゲルちゃんは己の命を投げ打って、タタリオロチの目を塞いでくれたのだから当然だ。
全身黒焦げになって面影も無く、見るに耐えない姿になっていたはずだ。
だというのに、目の前にはゲルちゃん居る。
ただ、以前よりは何となく一回りほど小さい気がした。
そこで俺は疑問の正体に思い当たる。
「もしかして、分裂したのか……!」
思い返すと、ゲルちゃんには二つのスキルがあった。
毒キノコなどの毒素を抜く『解毒』のスキルと、もう一つ所有していたスキル『分裂』だ。
どのような状況で使用するスキルなのか、いささか疑問に思っていたが、ゲルちゃんはここしかないという絶好のタイミングで使ってくれた。
ゲルちゃんはあらかじめ体を二つに分裂させていたのどろう。
一方をタタリオロチを食い止める為に行動させ、一方を空高く吹き飛んだ俺をキャッチする為に別れた。
そうしてここで俺の落下地点を予測して、ずっと待ち構えてくれていたのだ。
半分のサイズになってしまったが、なんにせよゲルちゃんは生きていた。
俺は何度か弾んだ後、反発が弱まってきた辺りで、うまく地面に足をつけて着地した。
「ゲルちゃんっ! ありがとうっ!」
そして俺は小さくなったゲルちゃんを力強く抱きしめ、何度もキスの雨を降らす。
なんて賢明で素晴らしい使い魔なんだ。
主人のピンチを二度も救ってくれた。
あの時テイムしていなければ、俺は今頃どうなっていたか。
隣には、タタリオロチが口を限界ギリギリまで開き、黒焦げになって死んでいた。
もはやあの赤黒い鱗は見る影もなく燻んでいた。
その鱗が焼け焦げた独特な異臭が辺りを充満して、思わず咽せ返りそうだった。
タタリオロチは横たわったまま、ピクリとも動かない。
「終わったのか」
こうして決着は着いた。
────かのように思われた。
その時、タタリオロチの大きく開口した喉の奥から、ひゅっ、と細長い何かが飛び出した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!
霜月雹花
ファンタジー
神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。
神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。
書籍8巻11月24日発売します。
漫画版2巻まで発売中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる