愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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恋人編

第15話「共に歩むとは、共に変わり行くことである」

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 由希との会話を終えて、私は駅に向かっての道路を歩いていた。

 由希は溜飲が下がったようで、心なしか表情が明るくなっている。澄んだ薄紫色の空を見上げながら、きぃきぃと遠くから響く鳥の鳴き声を私たちは聞いていた。

 と。やがて私たちは、古めかしい駅舎へと戻って来た。私が「おっ、」と声を出すと、建物の前では真白と清水の二人が立ち尽くしており、その様子はどことなく気まずそうだった。


「真白! 来ていたんだ!」


 私は真白の姿を発見すると、ととと、と小走りで彼に近づく。真白は「う……うん」とやや引きつったような笑みを浮かべると、私にひらひらと手を振った。

 ――なんか、少し様子が怪しい気がする。私は「んん?」と眉を吊り上げながら真白の顔をじろじろと見ると、真白は私から一瞬目を反らすと、すぐに肩を落として、観念するように私に打ち明けた。


「……ごめん。その、彼女と話してた」

「……別に、話すくらい普通じゃん?」

「いや……その……なんだろう……。……えぇっと、」


 真白はさながら空で粘土でもこねまわすように難しそうな表情を浮かべた。私が視線をじとっと変えると、隣に立っている清水が、「私と抱き合ってたんだよ」と笑みを浮かべた。


「は?」


 私はそれを聞いて反射的に清水を睨みつけてしまう。すぐに真白の方へと目を向けると、明らかに図星だとでも言わんばかりに体を硬直させて、きょろきょろと眼球を動かしている彼の姿が映った。

 清水は途端に「アハハハ、ウソだって。私が一方的に抱き着いたんだよ」と笑った。私は「ハァ!?」と思わず大声を出してしまい、それを見た清水は楽しそうにくすくすと笑っていた。


「良いじゃん。ちょっとくらい分けてくれたって。取ったわけじゃないんだからさ」


 私は清水の意味のわからない理屈に歯ぎしりをする。と、由希が「おい」と私たちに声を掛けて来た。


「……もういいんだろ?」


 由希が清水に笑いかける。清水は一瞬だけ間を空けると、「……うん」と、少し歯切れが悪そうな雰囲気で呟いた。


「……そんじゃあね、真白。それと、姫川」

「ちょっと待てや。私の話は終わってねぇぞ? なんだよ、抱き着いたって」

「細かいことは気にすんなって。結構私は本気でアンタらを応援してるんだぞ?」

「意味わかんねぇって!」


 私はぎゃあぎゃあと清水に食い下がったが、清水はそれをするりとかわすように、そそくさと由希の隣へと移動してしまった。私は肩を竦めてから、「後で教えろよ、真白」と、真白の脇腹を肘で突く。


「おい、詩子」


 と。由希が私に向かって声をあげる。私は由希の方を見遣り、由希はポケットに手を突っ込んで、ほのかに私に笑いかけていた。


「……またな」


 私は彼女の声に、一瞬だけ、下唇を噛んだ。だけどすぐに笑いかけて、「……うん! またね!」と言うと、隣にいる真白の手を引っ掴んで歩き出した。

 由希が清水の背中を叩き、「ほら、戻るぞ」と呟く。私は困惑したままの真白を強引に引っ張って、2人の横をすり抜ける。

 それから私たちは、振り返ることもなく、夜の港町を宿に向かって歩き続けた。


◇ ◇ ◇ ◇


「……つまりはあくまでもあの子を元気づけたかったからで、決してやましい訳があったわけじゃなく、浮気とかそう言うのは誓って何もしていなくてね……」


 私と真白は宿に戻って来てから、共に予約していた部屋で休みを取っていた。

 互いに用意された浴衣に着替えて、もうこのまま完全に寝られるような状態になっている。

 真白は部屋に戻って来てからずっとこんな調子でくどくどとしていた。

 別に、うまくごまかせばいいのに、『君のことも好きだった』なんて事を言っていたらしいことまで正直に話しやがって。私は真白のくどくどを黙って聞いていたが、まあ、なんと言うか、こういう嘘やごまかしが下手な所がコイツらしいなと、怒る気にもなれずに呆れ果てていた。


「……まあ、アンタにもアンタなりの気持ちがあったってわけだから、別にいいよ。別に浮気ってわけでもないし」

「う、うん。別に、君を裏切りたかったわけじゃあ……」

「明日帰りになんか奢って」

「あ、はい。わかりました。奢らせていただきます」


 真白は私の要求を聞くと、油の切れた歯車のようなぎこちない動きで深々と頭を下げた。


「……まあ、でも、話せてよかったわ。これでやっと、本当の意味でケジメ付けられた感じがするし」


 私はため息を吐きつつ、部屋の中央に敷かれた布団に寝転がる。


「やっと、『男女』って関係から降りられた気がする。……アンタと結婚するって腹決めてから、ようやく、もう手を放さなきゃってラインに立てた気がする。……本当なら、付き合った時点でそうしてなくっちゃいけなかったんだけどね」


 私は板張りの天井を見上げ、等間隔に並んだ筋を上から下へとなぞり見て行く。その間も、部屋に設置された時計がカチコチと秒針を鳴らしていて、私はぼんやりとした沈黙が私たちを包んでいた。


「……人間って、よくわかんないなぁ。……ずっと前に進んで来たって思っていたのに、実際はそんなことなくて……。……なんでもスカッと決まればいいのに、ずっと歯の裏になんかがくっついてる」


 私は板張りの天井を見上げながら、誰に言うわけでもなく真白に聞かせる。真白は私の声を受け取ると、「――うん。そうだね」と、隣に敷かれた布団の上で、自分の足の裏を見つめながら呟いた。


「……どれだけ『こうする』って決めても……結局、僕たちは昨日からの地続きの人生を送っているから……何かをきっかけに急激に変わるなんて、そんなことは滅多にないのだと思う。……毎日毎日、一瞬一瞬を、ずっと何かの想いに浸っていられるわけじゃないから……」


 ぽつり、ぽつりと、真白の声は降りかけの雨のようだった。言葉はしとしとと冷たく私の胸に染み入り、私はそれに思わず顔をしかめてしまう。

 ――そう。人はそう簡単に変わらない。変わらないからこそ、人は悩み、苦しみ続ける。
 今の私も、その変化のない葛藤の一部に過ぎない。今日ここで強く悩んでも、明日、明後日には、また同じことで悶々と悩み、そしてやはり、何も変わらない。

 ――結局、私たちは変われないのか。頭の中にそんな問いが生まれて、ふと私は、隣に座る真白の顔を見上げた。

 相も変わらず、貧相な男のオタクって言う感じの見た目と雰囲気だ。兄貴の方は割と爽やかなちょいイケメンって感じだったのに、どうして兄弟でこうも違うのだろう。

 ……やっぱり、背丈と体型、あと、この地味で何も考えていない黒縁メガネのせいだろうか。髪の毛もちょっとモジャっとしているし。
 見た目とは、顔も含めた身体全体の印象のことだ。顔が微妙でも、肉体がガッシリしていたらカッコよく見えるし、逆に顔が良くても、ゼルダ○伝説のリーデッドかって感じの体型だったら、ソイツはイケメンとは思えない。

 真白の見た目は、まあ汚くはないけど、清潔感があるか……って聞かれたら、まあ微妙だよな……と言うくらいの、典型的なオタクくんの見た目をしている。

 ――最初は、こんな奴を好きになるなんて思わなかったのに。私は真白を見つめながら、ふと、そんな気持ちになり。

 ――だけど、すっかり変わってしまったよな。ふと、コイツと知り合ってからこれまでのことを思い出していた。

 最初のコイツへの印象は『キモイ』だった。そこから『友達』に変わり、今では『恋人』になり、そしてこれからは、『夫婦』に……『家族』になろうとしている。


「……そうだよね」


 私は自然と、そう言葉をこぼしていた。真白は私へと視線を落とし、私のその先の言葉をじっと待つ。


「人は変わらない……って言うけれど。変わろうとしたから、私たちは一緒になったんだよ」


 私は、自然とこぼれた言葉に自分でも驚いて――その瞬間に、部屋の電灯が、一層白く輝き出した気がした。


「今もきっと、途中なんだよ。……いや、これからも、ずっと。……私たちはずっと悩み続けて……だからこそ、変わり続けられるのだと思う」


 私はそのまま、天井からの光にゆっくりと手を伸ばして、


「私……アンタとなら、変わり続けられると思う。……だって、私たちは……私たちのために、色々な物を変えてきたから。今ここに私たちが一緒にいるのが、その何よりの証明なんだと思う。
 ――私、アンタを好きになって良かったって思うよ。だって、こんな関係になれる奴、きっと、アンタくらいしかいないから」


 私はそして、真白に向かって笑顔を向ける。真白は少し目を大きくして、「詩子……」と呟いた。


「……って、何臭いこと言ってるんだろうな、私」


 私は気恥しさに口角を吊り上げると、電灯の眩しさに腕で視界を覆った。


「あー、疲れてるから、ちょっと変なテンションになってるわ。……今のは、ちょっと、忘れ――」

「……僕も、君を好きになって良かったって思うよ。……そんな凄い言葉を言えるなんて……君はやっぱり、賢くて、かっこいい人間だよ」


 真白は私を見つめながら笑う。私は彼が予想以上に真剣に言葉を返したのを受けて、思わず頬を紅潮させて、彼に背中を向ける。


 ――ぬ、ぬおおお。なんだ、コイツ。いきなり殺人級の胸きゅん仕草しやがって。

 あ、アレ? なんかこれ、凄くいい雰囲気じゃない? これ、ひょっとすると、ひょっとしたら……

 ――セックスが始まってしまうのではないか?

 私の目がぐるぐると回り出す。視線がアイツの方を向こうとして、気恥しさにあっちへこっちへと定まらなくなる。

 そういえば予約したのって優花里だったよな。部屋の配分を見た時は『まあそうだよな』くらいにしか思っていなかったが……

 私と真白を同部屋にしたのって……冷静に考えたら、そう言うことだよね!?

 これ、ようするに……このままここで、おっぱじめろってことよね!?

 や、やばい。テンション上がって来た(?)。

 いや、待て。そもそもゴムあったっけ? いや、あるんだコレが。別に期待してたわけじゃないし他意があったわけではないが、こっそり持ち込んでるんだなコレが。

 つまり、つまりですよ。これはもう、ここでエロ同人みたいな展開になるのは、確定的に明らかだ。

 さようなら小説家になろう。これからよろしくノクターンノベル。私は処女膜R15の壁をぶち抜いて、非処女R18へと至る。

 勇気を出せ、姫川詩子。持ち前の爆乳を活かして、彼氏を誘惑しろ。


「……ま、真白さぁ。ところでなんだけど……」


 言葉選びを早速間違えた気がするが、私は適当に口喋りながら真白の方を向く。

 ――が、しかし。


「それじゃあ、詩子……僕、走って疲れたから……もう寝るね……」


 真白はそう言いながら眼鏡を外し、私に背を向け布団に潜り込んでいた。私は『ズコーッ!』とすっ転ぶようなテンションで地面に頭をぶつける。


「い、いや、アンタねぇ! この流れで――」


 と、声を発しようとした瞬間。突然ぐわんと、私の視界が揺れた。

 いや、揺れた――と言うより、意識が途切れ始めた。さながら、回線が悪い時の配信のように。ぷつり、ぷつりと途切れて微睡む視界に、私は強く焦りだし――


 ――ま、待て。まだだ。ここで寝てしまったら、次はいつになる。

 耐えろ、姫川詩子。モン○ンで一徹かましてテストに臨んだ経験のあるお前なら、きっと大丈夫なはずだ――

 ――だが、しかし。海で散々に遊んで、さらには駅までの距離を走って移動していた疲れには抗えず。

 気付けば私は、そのまま布団の中で死体のように転がってしまっていた。
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