愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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恋人編

第19話「どれほど丈夫な物でも、粗末に扱えば壊れる」②

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 ――あれから、一晩が経った。私と真白はお母さんに連れられ、かなりの無理を言って、彼女の親戚……真白たちの従弟の家に泊めてもらうことになった。

 どうやら真白の家は、親戚付き合いはそこそこ良好だったらしく、今回のことは相手方の家をかなり驚かせたようだ。夜も遅いのに、私は真白との関係性を根掘り葉掘りと聞かれ、その受け答えに四苦八苦していた。



 ……夜が明け。私と真白は、スーツケースを置き、木造の駅舎のロータリーに立ち尽くしていた。


「ごめんね、色々と迷惑を掛けて」


 家庭用に買ったであろう大型の車に乗り、真白のお母さんは窓越しに私たちへそう声をかけた。

 私は「いえ、そんな! 駅まで送って頂いたんですし……」と、あたふたとしながら受け答える。真白のお母さんはくすくすと笑うと、「いいわよ。こんなところまで歩かせちゃったら、申し訳が立たないもの」と、すごく、すごく柔らかく目を細めた。


「……姫川さん、結構礼儀正しいのね。従弟の家に行った時も、ずっとションとしていて」

「いやあ……別に、当たり前のことなので……」

「そうね。誰でもできる、当たり前のこと。……なのに、なんでそんなことにも気が付かなかったのかしらね」


 真白のお母さんの表情が曇る。私はこれまで散々と苦しめられてきた女性のしおらしい態度に、胸元が締め付けられるような気持ちになった。

 こうして見ると、本当に、普通の良いお母さんにも思える。毎日お弁当を作ってくれて、毎日一生懸命働いて、子供のために全力を尽くせる、そんな、私のお母さんと変わらないくらいに、良いお母さんに。


「決めつけって、怖いわね。……ちゃんと話し合うことが出来たら、きっと、こんなことになんかならなかったんでしょうけど」


 真白のお母さんが肩を落とす。私は何か、とても大きな間違いを犯したような気がして、思わず喉を震わせて、「あの、」と声をかけた。


「……やり直せないんですか? ……り、離婚して、一家離散なんて……そんなこと、しない方がベストですし、」

「残念だけど――ここでもし、やっぱり離れない……ってなったら、あの2人はきっと、『ああ、結局なんだかんだで大丈夫なんだな』って思っちゃうわ。お兄ちゃんなんかは、私たちじゃあ絶対に自分を見捨てられないだろう――ってタカを括っていたところもあるから。……どれだけ好き合って、どれだけ血の繋がりがあっても……ちゃんと大事にできなかったら、どんな物でも壊れるんだって、そう理解しないと。それがきっと、あの子のタメにもなるわ」


 真白のお母さんはまたふわりと笑った。だけどその笑みは、私を労わるような柔らかいものではなく、どこか自嘲的な、寂しい笑顔だった。


「――真白、」


 と。お母さんが、愛息子へと話しかけた。真白は腹の底に傷を抱えてしまったかのような、痛々しい表情で母親を見つめると、真白のお母さんは、くしゃりと、また寂しい笑みを送った。


「大丈夫。もうアンタらには関わらせないから。……あとは、私たちで話し合うわ。
 ……今まで、ごめんね。色々な気持ちを、ずっと、我慢させすぎたみたい。……本当に、出来の悪いお母さんで、ごめんね」


 お母さんの声が震える。だけど必死に涙を堪えているようで、その悲痛な雰囲気が、かえって私たちの胸を刺したような気がした。


「――だけど、覚えておいて。……私も、お父さんも、お兄ちゃんも……みんな、みんなのことを愛していたの。それだけは――それだけは、本当だから……」


 懇願するような声に、真白はぎゅっと唇を結んでから、「……わかっているよ」とだけ返した。

 車の窓が閉まり、エンジンが回転数を上げ私たちの前から去る。ロータリーから消えていく車体を見送ると、私は真白に「……行こっか」と声を掛けた。

 隣同士で手を繋ぎ合いながら、私たちは駅舎へと入る。切符を買って、改札を過ぎ、そして既にホームに入っていた電車へ乗り込み、じっと、発射までの時間を待つ。

 アナウンスが鳴り、電車が走り出す。テーブルの付いた座席に座り、窓から差し込む日の光に目を細めながら、ガタン、ゴトンと、誰もいない車内で、虚しく響く音を聞く。


「……これで、よかったのかな」


 私はふと、窓際の席で外を眺めている真白に話しかけた。真白は少しだけ、間を空けてから、「……良くは、なかったよ」と答えて、私はそれ以上に何も言えなくなった。


「……良くは、なかったけど――きっと、あれ以上の答えも、出せなかったよ」


 と、しかし。真白は何も言えなくなった私の心情を察してか――いや、あるいは、ただ気持ちの赴くままにか、そう、言葉の続きを紡いだ。

 あまりにも、切ない答えだった。私はスッキリとしない結末に、眉根を寄せて、わずかに視線を下げる。
 ――と、その時。真白が鼻をすするような音を出したかと思えば、彼は突然、「――ねえ、詩子」と、私に声をかけて。


「……なに?」


 私はおそるおそる、真白に聞く。真白はもう一度、大きく鼻をすすると、ゆっくりと視線を窓の外から外し、そして、酷くくしゃくしゃになった泣き顔で、ぽつりと、私に尋ねた。


「……泣いても、いいかな」


 もう既に決壊しきった表情の真白に、私はただ、「……うん」とだけ答えて、その頼りない背中をさすってやった。

 真白はぐずぐずと鼻水を垂らして、「うぅ、うぅぅ……」と、情けなく、格好悪く、嗚咽を漏らし始めた。


 ――ああ、そうだ。きっと、そうなんだ。私はそこで、さっき感じた違和感の正体を察した。

 良いお母さんだったんだ。あの人は。真白にとって。同時に、きっと、お父さんも、お兄さんも。

 だけど――私たちに見せた、あの悪い姿も……真白にとっては、正しい姿だったんだ。私は真白がどうして泣いているのかを理解すると、もう二度、三度と、彼の背中を、さすってやった。
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