愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

文字の大きさ
149 / 151
Grand finale

Grand finale「結婚は人生の墓場だと言う」「それなら、共に、同じ土に還るまで」④

しおりを挟む
 挙式が終わった後、私たちは会場を移して、広いパーティー場で披露宴に参加していた。

 既にプログラムはいくつか進んでおり、現在は新郎側の友人スピーチの最中だ。私は心春と共に白いテーブルクロスのかけられた円卓に座り、新郎新婦の横で原稿を読む青山四郎を眺めていた。


「新郎様とは中学からの付き合いでした。出会った時、彼は迷子の子供を連れており――」


 スタンドマイクの前に立った青山四郎が、床にまでべろんと伸びた長い原稿を読み上げていく。私と心春はあまり緊張した様子のない四郎のスピーチを聞きながら、こそこそと言葉を交わしていた。


「由希。次、アンタでしょ? スピーチ」


 心春は笑みを浮かべながら私に問う。私は少しだけ肩を竦めながら、「ああ。ぶっちゃけしんどかったぜ、内容考えてくるの」と心春に受け答えた。

 ――そう。私が今日ここへ来たのは、2人の結婚を祝うためでもあるが――それ以上に、5年前に交わした約束を、果たすためなのだ。

 4か月ほど前に、詩子からスピーチの依頼が来た時。私は、「遂にか」と言う気持ちになった。

 5年前――詩子が私に、『友達』としてお願いした約束。私の想いを断ち切って、これからも関係を続けていくための、女々しくて、だけど絶対に必要だった儀式。
 5年と言う月日の中で、私はもう、詩子への未練は捨て去っているが――本当の意味で、この儀式が完了するのは、あの約束を果たし切ったその時なのだ。

 ――と。新郎側のスピーチが終わり、周りから拍手が上がる。私はそれにふっと意識を取り戻すと、周りに合わせるようにパチパチと手を打ち鳴らした。


「――それでは、新婦様の、高校時代からの友人である、天音由希さんからメッセージをちょうだいしたいと思います!」


 司会役のスタッフが、会場に声を響かせる。私はぼそりと、「――来たか」と呟くと、ガタリと椅子を引いて立ち上がった。


「頑張って」


 心春が私に笑いかける。私は彼女に笑顔を返すと、「ああ」と軽く手を挙げて答え、そのままゆっくりと、真白と詩子の並ぶ高砂席たかさごせきへと向かった。

 席の横に設けられたスタンドマイクの前に立ち、私は高砂の詩子へと目配せをする。

 視線が重なり合った瞬間、詩子は私ににこりと笑いかけてくれた。私もそれに応えて微笑むと、次いで私は、大きく息を吸いながら、ゆっくりと天井を仰いだ。

 ――この日のために。4ヶ月間、ずっと、何を言うかを考えて来た。

 忌み言葉だとか、重ね言葉だとか、そんなスピーチのマナーにも随分と頭を悩まされて来たが――一番大切なのは、私たちという間柄で、何を伝えて、そして、何が伝わるか、ということだ。

 吸い込んだ空気と共に、いくつもの思い出を胸に溜め込んだ私は。ゆっくりと息を吐いてから、折りたたんだ原稿を広げて、声を、出した。


「――まずは、新郎の真白さん。そして、新婦の詩子さん。……ご結婚、おめでとうございます」


 私は口火を切ってから、真白と詩子に頭を下げる。2人は同じく私に頭を下げると、私はそれを確認してから、またマイクに向き直る。


「……ご紹介にあずかりました、詩子の友人の、天音由希です。……本日は、このような晴れやかな日にお招きいただき、心より感謝致します」


 私の丁寧な口上に、詩子がくすくすと笑う。私は微笑みながら一度詩子へ目配せをすると、一度息を吐いてから、会場に声を響かせる。


「私と詩子の出会いは、高校生の頃でした。同じクラスで意気投合した私たちは、すぐに仲良くなり……ありがたいことに、今この瞬間まで、として、過ごさせて頂いています」


 会場が、和やかな空気に包まれる。真白の友人や、大学を卒業してから関係を結んだ参列者たちが、ふわりと、幸せそうな空気に包まれる。
 しかし――詩子や、私たちという関係を知っている人たちは、彼らに反して、わずかに表情を曇らせた気がした。


「――私は、詩子の親友です。……ですが。かつての私にとって、詩子は、親友以上に大切な存在でした」


 私は詩子たちの空気を察しながら、意を決して言葉を紡ぐ。それに会場がわずかにざわめいたが、それでも私は、自分の心を伝えるために、声を止めなかった。


「高校生の頃から、私は詩子に惹かれ――しかし、ずっと、想いを打ち明けずに、やがては大学生になりました。……詩子が真白と出会ったのは、そんな折でした」


 私はなお、声を紡ぐ。会場は私の真剣な声に気を利かせたのか、ざわめきは止み、全員が私のスピーチに集中しているような、そんな空気に包まれていた。


「真白はかつての私のように、詩子とすぐに仲良くなり――そして、彼女が高校時代から抱えていた心の問題を、乗り越えさせてくれました。……正直な事を言えば、私はあの時、悔しいと思っていました。……その役は、本来私が担うべきで、担いたかった役だったからです」


 会場に静けさが満ちる。晴れやかな日に冷や水をかけるかのように曇りが立ち込め、会場の空気が一気に物々しくなる。しかし私は、「――ですが、」と続け、曇天に穴を空けるかのように声色を切り替えた。


「私は、彼が今、詩子の隣にいることに納得しています。……彼は同時に、私の心の問題も、乗り越えさせてくれたからです」


 私の声に呼応してか、会場が再び静かにざわめき始めた。それはしかし、不穏さ故ではなく、私のスピーチに対する、純然な興味が故に巻き起こったざわめきだったかのように思えた。


「結局の所、私が勇気をもって踏み出せなかったことが原因で――しかし詩子は、私のそうした一面を知ってなお、私と手を取り合いたいと言ってくれました。……私が今、詩子の親友としてこの場にいるのは、私に勇気を与えてくれた、真白さんのおかげです。だから私は、彼に心の底から感謝しております」


 私はそう言うと、体を真白の方へと向け、深々とお辞儀をした。真白は何も言わず、ただ真剣な顔で、私のスピーチをじっと聞き続けてくれた。


「――あれから5年が経ち。……知っている人もいるとは思いますが、私は今、新しい恋をして、あの頃、詩子と結ばれなかった未練を断ち切っております。……新しい恋をして、2人の親友の恋を見守る中で――私は改めて、恋とは、愛とは何かと考えました」


 私の言葉に、再び会場がざわつく。私はしかし、一切それに構うことなく、これからの2人に送るべきであろう言葉を紡ぎ続けた。


「私は今、新たな恋をしています。しかし――詩子への愛情が失くなったのかと言えば、そうではありません。もしも彼女が何かトラブルを抱えたのなら、行って何かの役に立ちたいと思っています。しかし、それは恋ではなく……むしろ、友情に近い感情なのだと思います」


 私が紡ぐスピーチに、再び会場が静けさを取り戻す。それは私の言葉を後押しするかのようで、私はみんなからの無言のエールを受け、威風堂々と更に語りを続ける。


「私が思うに、誰かを愛することと、誰かに愛という感情――愛情を持つことは、まったく違うことなのです。……きっと愛情とは、誰かを思いやる気持ちそのものであり――だからこそ、私たちは、それが誰であっても、愛情という物を持ちます。
 ……では、愛とは――誰かを愛するということは、一体、どういうことなのでしょうか」


 私は目を閉じ、大きく息を吸う。再び空気で肺を満たすと、私はそのまま、真剣な眼差しとなり、ゆっくりと自身が投げた問いかけの答えを言った。


「愛とは――きっと、愛とは。その、思いやる誰かのために、成長しようと足掻き、そして成長していく行為を言うのです。
 私と詩子が、お互いのために、お互いの問題を乗り越えて行ったように。……そして、真白と詩子が、お互いのために、悩み、戦い、成長してきたように。……誰かを愛するということは、愛した人と向き合い、時には衝突しながらも、それでも互いの手を取り合って、お互いが望む道へと歩くことを言うのです」


 私は投げた問いに答え切ると、「詩子」と大好きな人の名前を呼び、彼女がこちらを向くのに合わせて、柔らかな視線を送る。


「お前は、ただ漫然と誰かを好きになったんじゃなく……その誰かと向き合って、愛し合って、今、その場に立っている。
 これから先も、きっと苦しいことは待ち受けている。だけど、アンタたちなら、きっと大丈夫だ。病める時も、健やかなる時も、互いに手を取り合う道を選び続けたアンタたちなら、これから先も、きっと乗り越えていける。それが、アンタたちが示し続けた“愛”なのだから」


 私がエールを送ると、詩子はぱっと明るく笑って、「うん!」と強く頷いた。私はその笑顔に頼もしさを覚えると、心の底からの笑顔を向けて、2人に祝辞を送った。


「――改めて、真白、そして詩子。結婚、おめでとう。……アンタたちの行く先が、幸福で満ちている事を願う。
 以上で、私のスピーチを終わらせて頂こうと思います。……皆様もどうか、心強い2人に、祝福の拍手をお願い致します!」


 私が場を盛り上げるように声を張り上げると、途端に会場は盛大な拍手に包まれた。

 私は、大好きな2人に、そして2人を祝福する大勢の人々に深く頭を下げると、高砂から自分のテーブル席へと戻っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...