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Grand finale
Grand finale「結婚は人生の墓場だと言う」「それなら、共に、同じ土に還るまで」④
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挙式が終わった後、私たちは会場を移して、広いパーティー場で披露宴に参加していた。
既にプログラムはいくつか進んでおり、現在は新郎側の友人スピーチの最中だ。私は心春と共に白いテーブルクロスのかけられた円卓に座り、新郎新婦の横で原稿を読む青山四郎を眺めていた。
「新郎様とは中学からの付き合いでした。出会った時、彼は迷子の子供を連れており――」
スタンドマイクの前に立った青山四郎が、床にまでべろんと伸びた長い原稿を読み上げていく。私と心春はあまり緊張した様子のない四郎のスピーチを聞きながら、こそこそと言葉を交わしていた。
「由希。次、アンタでしょ? スピーチ」
心春は笑みを浮かべながら私に問う。私は少しだけ肩を竦めながら、「ああ。ぶっちゃけしんどかったぜ、内容考えてくるの」と心春に受け答えた。
――そう。私が今日ここへ来たのは、2人の結婚を祝うためでもあるが――それ以上に、5年前に交わした約束を、果たすためなのだ。
4か月ほど前に、詩子からスピーチの依頼が来た時。私は、「遂にか」と言う気持ちになった。
5年前――詩子が私に、『友達』としてお願いした約束。私の想いを断ち切って、これからも関係を続けていくための、女々しくて、だけど絶対に必要だった儀式。
5年と言う月日の中で、私はもう、詩子への未練は捨て去っているが――本当の意味で、この儀式が完了するのは、あの約束を果たし切ったその時なのだ。
――と。新郎側のスピーチが終わり、周りから拍手が上がる。私はそれにふっと意識を取り戻すと、周りに合わせるようにパチパチと手を打ち鳴らした。
「――それでは、新婦様の、高校時代からの友人である、天音由希さんからメッセージをちょうだいしたいと思います!」
司会役のスタッフが、会場に声を響かせる。私はぼそりと、「――来たか」と呟くと、ガタリと椅子を引いて立ち上がった。
「頑張って」
心春が私に笑いかける。私は彼女に笑顔を返すと、「ああ」と軽く手を挙げて答え、そのままゆっくりと、真白と詩子の並ぶ高砂席へと向かった。
席の横に設けられたスタンドマイクの前に立ち、私は高砂の詩子へと目配せをする。
視線が重なり合った瞬間、詩子は私ににこりと笑いかけてくれた。私もそれに応えて微笑むと、次いで私は、大きく息を吸いながら、ゆっくりと天井を仰いだ。
――この日のために。4ヶ月間、ずっと、何を言うかを考えて来た。
忌み言葉だとか、重ね言葉だとか、そんなスピーチのマナーにも随分と頭を悩まされて来たが――一番大切なのは、私たちという間柄で、何を伝えて、そして、何が伝わるか、ということだ。
吸い込んだ空気と共に、いくつもの思い出を胸に溜め込んだ私は。ゆっくりと息を吐いてから、折りたたんだ原稿を広げて、声を、出した。
「――まずは、新郎の真白さん。そして、新婦の詩子さん。……ご結婚、おめでとうございます」
私は口火を切ってから、真白と詩子に頭を下げる。2人は同じく私に頭を下げると、私はそれを確認してから、またマイクに向き直る。
「……ご紹介にあずかりました、詩子の友人の、天音由希です。……本日は、このような晴れやかな日にお招きいただき、心より感謝致します」
私の丁寧な口上に、詩子がくすくすと笑う。私は微笑みながら一度詩子へ目配せをすると、一度息を吐いてから、会場に声を響かせる。
「私と詩子の出会いは、高校生の頃でした。同じクラスで意気投合した私たちは、すぐに仲良くなり……ありがたいことに、今この瞬間まで、親友として、過ごさせて頂いています」
会場が、和やかな空気に包まれる。真白の友人や、大学を卒業してから関係を結んだ参列者たちが、ふわりと、幸せそうな空気に包まれる。
しかし――詩子や、私たちという関係を知っている人たちは、彼らに反して、わずかに表情を曇らせた気がした。
「――私は、詩子の親友です。……ですが。かつての私にとって、詩子は、親友以上に大切な存在でした」
私は詩子たちの空気を察しながら、意を決して言葉を紡ぐ。それに会場がわずかにざわめいたが、それでも私は、自分の心を伝えるために、声を止めなかった。
「高校生の頃から、私は詩子に惹かれ――しかし、ずっと、想いを打ち明けずに、やがては大学生になりました。……詩子が真白と出会ったのは、そんな折でした」
私はなお、声を紡ぐ。会場は私の真剣な声に気を利かせたのか、ざわめきは止み、全員が私のスピーチに集中しているような、そんな空気に包まれていた。
「真白はかつての私のように、詩子とすぐに仲良くなり――そして、彼女が高校時代から抱えていた心の問題を、乗り越えさせてくれました。……正直な事を言えば、私はあの時、悔しいと思っていました。……その役は、本来私が担うべきで、担いたかった役だったからです」
会場に静けさが満ちる。晴れやかな日に冷や水をかけるかのように曇りが立ち込め、会場の空気が一気に物々しくなる。しかし私は、「――ですが、」と続け、曇天に穴を空けるかのように声色を切り替えた。
「私は、彼が今、詩子の隣にいることに納得しています。……彼は同時に、私の心の問題も、乗り越えさせてくれたからです」
私の声に呼応してか、会場が再び静かにざわめき始めた。それはしかし、不穏さ故ではなく、私のスピーチに対する、純然な興味が故に巻き起こったざわめきだったかのように思えた。
「結局の所、私が勇気をもって踏み出せなかったことが原因で――しかし詩子は、私のそうした一面を知ってなお、私と手を取り合いたいと言ってくれました。……私が今、詩子の親友としてこの場にいるのは、私に勇気を与えてくれた、真白さんのおかげです。だから私は、彼に心の底から感謝しております」
私はそう言うと、体を真白の方へと向け、深々とお辞儀をした。真白は何も言わず、ただ真剣な顔で、私のスピーチをじっと聞き続けてくれた。
「――あれから5年が経ち。……知っている人もいるとは思いますが、私は今、新しい恋をして、あの頃、詩子と結ばれなかった未練を断ち切っております。……新しい恋をして、2人の親友の恋を見守る中で――私は改めて、恋とは、愛とは何かと考えました」
私の言葉に、再び会場がざわつく。私はしかし、一切それに構うことなく、これからの2人に送るべきであろう言葉を紡ぎ続けた。
「私は今、新たな恋をしています。しかし――詩子への愛情が失くなったのかと言えば、そうではありません。もしも彼女が何かトラブルを抱えたのなら、行って何かの役に立ちたいと思っています。しかし、それは恋ではなく……むしろ、友情に近い感情なのだと思います」
私が紡ぐスピーチに、再び会場が静けさを取り戻す。それは私の言葉を後押しするかのようで、私はみんなからの無言のエールを受け、威風堂々と更に語りを続ける。
「私が思うに、誰かを愛することと、誰かに愛という感情――愛情を持つことは、まったく違うことなのです。……きっと愛情とは、誰かを思いやる気持ちそのものであり――だからこそ、私たちは、それが誰であっても、愛情という物を持ちます。
……では、愛とは――誰かを愛するということは、一体、どういうことなのでしょうか」
私は目を閉じ、大きく息を吸う。再び空気で肺を満たすと、私はそのまま、真剣な眼差しとなり、ゆっくりと自身が投げた問いかけの答えを言った。
「愛とは――きっと、愛とは。その、思いやる誰かのために、成長しようと足掻き、そして成長していく行為を言うのです。
私と詩子が、お互いのために、お互いの問題を乗り越えて行ったように。……そして、真白と詩子が、お互いのために、悩み、戦い、成長してきたように。……誰かを愛するということは、愛した人と向き合い、時には衝突しながらも、それでも互いの手を取り合って、お互いが望む道へと歩くことを言うのです」
私は投げた問いに答え切ると、「詩子」と大好きな人の名前を呼び、彼女がこちらを向くのに合わせて、柔らかな視線を送る。
「お前は、ただ漫然と誰かを好きになったんじゃなく……その誰かと向き合って、愛し合って、今、その場に立っている。
これから先も、きっと苦しいことは待ち受けている。だけど、アンタたちなら、きっと大丈夫だ。病める時も、健やかなる時も、互いに手を取り合う道を選び続けたアンタたちなら、これから先も、きっと乗り越えていける。それが、アンタたちが示し続けた“愛”なのだから」
私がエールを送ると、詩子はぱっと明るく笑って、「うん!」と強く頷いた。私はその笑顔に頼もしさを覚えると、心の底からの笑顔を向けて、2人に祝辞を送った。
「――改めて、真白、そして詩子。結婚、おめでとう。……アンタたちの行く先が、幸福で満ちている事を願う。
以上で、私のスピーチを終わらせて頂こうと思います。……皆様もどうか、心強い2人に、祝福の拍手をお願い致します!」
私が場を盛り上げるように声を張り上げると、途端に会場は盛大な拍手に包まれた。
私は、大好きな2人に、そして2人を祝福する大勢の人々に深く頭を下げると、高砂から自分のテーブル席へと戻っていった。
既にプログラムはいくつか進んでおり、現在は新郎側の友人スピーチの最中だ。私は心春と共に白いテーブルクロスのかけられた円卓に座り、新郎新婦の横で原稿を読む青山四郎を眺めていた。
「新郎様とは中学からの付き合いでした。出会った時、彼は迷子の子供を連れており――」
スタンドマイクの前に立った青山四郎が、床にまでべろんと伸びた長い原稿を読み上げていく。私と心春はあまり緊張した様子のない四郎のスピーチを聞きながら、こそこそと言葉を交わしていた。
「由希。次、アンタでしょ? スピーチ」
心春は笑みを浮かべながら私に問う。私は少しだけ肩を竦めながら、「ああ。ぶっちゃけしんどかったぜ、内容考えてくるの」と心春に受け答えた。
――そう。私が今日ここへ来たのは、2人の結婚を祝うためでもあるが――それ以上に、5年前に交わした約束を、果たすためなのだ。
4か月ほど前に、詩子からスピーチの依頼が来た時。私は、「遂にか」と言う気持ちになった。
5年前――詩子が私に、『友達』としてお願いした約束。私の想いを断ち切って、これからも関係を続けていくための、女々しくて、だけど絶対に必要だった儀式。
5年と言う月日の中で、私はもう、詩子への未練は捨て去っているが――本当の意味で、この儀式が完了するのは、あの約束を果たし切ったその時なのだ。
――と。新郎側のスピーチが終わり、周りから拍手が上がる。私はそれにふっと意識を取り戻すと、周りに合わせるようにパチパチと手を打ち鳴らした。
「――それでは、新婦様の、高校時代からの友人である、天音由希さんからメッセージをちょうだいしたいと思います!」
司会役のスタッフが、会場に声を響かせる。私はぼそりと、「――来たか」と呟くと、ガタリと椅子を引いて立ち上がった。
「頑張って」
心春が私に笑いかける。私は彼女に笑顔を返すと、「ああ」と軽く手を挙げて答え、そのままゆっくりと、真白と詩子の並ぶ高砂席へと向かった。
席の横に設けられたスタンドマイクの前に立ち、私は高砂の詩子へと目配せをする。
視線が重なり合った瞬間、詩子は私ににこりと笑いかけてくれた。私もそれに応えて微笑むと、次いで私は、大きく息を吸いながら、ゆっくりと天井を仰いだ。
――この日のために。4ヶ月間、ずっと、何を言うかを考えて来た。
忌み言葉だとか、重ね言葉だとか、そんなスピーチのマナーにも随分と頭を悩まされて来たが――一番大切なのは、私たちという間柄で、何を伝えて、そして、何が伝わるか、ということだ。
吸い込んだ空気と共に、いくつもの思い出を胸に溜め込んだ私は。ゆっくりと息を吐いてから、折りたたんだ原稿を広げて、声を、出した。
「――まずは、新郎の真白さん。そして、新婦の詩子さん。……ご結婚、おめでとうございます」
私は口火を切ってから、真白と詩子に頭を下げる。2人は同じく私に頭を下げると、私はそれを確認してから、またマイクに向き直る。
「……ご紹介にあずかりました、詩子の友人の、天音由希です。……本日は、このような晴れやかな日にお招きいただき、心より感謝致します」
私の丁寧な口上に、詩子がくすくすと笑う。私は微笑みながら一度詩子へ目配せをすると、一度息を吐いてから、会場に声を響かせる。
「私と詩子の出会いは、高校生の頃でした。同じクラスで意気投合した私たちは、すぐに仲良くなり……ありがたいことに、今この瞬間まで、親友として、過ごさせて頂いています」
会場が、和やかな空気に包まれる。真白の友人や、大学を卒業してから関係を結んだ参列者たちが、ふわりと、幸せそうな空気に包まれる。
しかし――詩子や、私たちという関係を知っている人たちは、彼らに反して、わずかに表情を曇らせた気がした。
「――私は、詩子の親友です。……ですが。かつての私にとって、詩子は、親友以上に大切な存在でした」
私は詩子たちの空気を察しながら、意を決して言葉を紡ぐ。それに会場がわずかにざわめいたが、それでも私は、自分の心を伝えるために、声を止めなかった。
「高校生の頃から、私は詩子に惹かれ――しかし、ずっと、想いを打ち明けずに、やがては大学生になりました。……詩子が真白と出会ったのは、そんな折でした」
私はなお、声を紡ぐ。会場は私の真剣な声に気を利かせたのか、ざわめきは止み、全員が私のスピーチに集中しているような、そんな空気に包まれていた。
「真白はかつての私のように、詩子とすぐに仲良くなり――そして、彼女が高校時代から抱えていた心の問題を、乗り越えさせてくれました。……正直な事を言えば、私はあの時、悔しいと思っていました。……その役は、本来私が担うべきで、担いたかった役だったからです」
会場に静けさが満ちる。晴れやかな日に冷や水をかけるかのように曇りが立ち込め、会場の空気が一気に物々しくなる。しかし私は、「――ですが、」と続け、曇天に穴を空けるかのように声色を切り替えた。
「私は、彼が今、詩子の隣にいることに納得しています。……彼は同時に、私の心の問題も、乗り越えさせてくれたからです」
私の声に呼応してか、会場が再び静かにざわめき始めた。それはしかし、不穏さ故ではなく、私のスピーチに対する、純然な興味が故に巻き起こったざわめきだったかのように思えた。
「結局の所、私が勇気をもって踏み出せなかったことが原因で――しかし詩子は、私のそうした一面を知ってなお、私と手を取り合いたいと言ってくれました。……私が今、詩子の親友としてこの場にいるのは、私に勇気を与えてくれた、真白さんのおかげです。だから私は、彼に心の底から感謝しております」
私はそう言うと、体を真白の方へと向け、深々とお辞儀をした。真白は何も言わず、ただ真剣な顔で、私のスピーチをじっと聞き続けてくれた。
「――あれから5年が経ち。……知っている人もいるとは思いますが、私は今、新しい恋をして、あの頃、詩子と結ばれなかった未練を断ち切っております。……新しい恋をして、2人の親友の恋を見守る中で――私は改めて、恋とは、愛とは何かと考えました」
私の言葉に、再び会場がざわつく。私はしかし、一切それに構うことなく、これからの2人に送るべきであろう言葉を紡ぎ続けた。
「私は今、新たな恋をしています。しかし――詩子への愛情が失くなったのかと言えば、そうではありません。もしも彼女が何かトラブルを抱えたのなら、行って何かの役に立ちたいと思っています。しかし、それは恋ではなく……むしろ、友情に近い感情なのだと思います」
私が紡ぐスピーチに、再び会場が静けさを取り戻す。それは私の言葉を後押しするかのようで、私はみんなからの無言のエールを受け、威風堂々と更に語りを続ける。
「私が思うに、誰かを愛することと、誰かに愛という感情――愛情を持つことは、まったく違うことなのです。……きっと愛情とは、誰かを思いやる気持ちそのものであり――だからこそ、私たちは、それが誰であっても、愛情という物を持ちます。
……では、愛とは――誰かを愛するということは、一体、どういうことなのでしょうか」
私は目を閉じ、大きく息を吸う。再び空気で肺を満たすと、私はそのまま、真剣な眼差しとなり、ゆっくりと自身が投げた問いかけの答えを言った。
「愛とは――きっと、愛とは。その、思いやる誰かのために、成長しようと足掻き、そして成長していく行為を言うのです。
私と詩子が、お互いのために、お互いの問題を乗り越えて行ったように。……そして、真白と詩子が、お互いのために、悩み、戦い、成長してきたように。……誰かを愛するということは、愛した人と向き合い、時には衝突しながらも、それでも互いの手を取り合って、お互いが望む道へと歩くことを言うのです」
私は投げた問いに答え切ると、「詩子」と大好きな人の名前を呼び、彼女がこちらを向くのに合わせて、柔らかな視線を送る。
「お前は、ただ漫然と誰かを好きになったんじゃなく……その誰かと向き合って、愛し合って、今、その場に立っている。
これから先も、きっと苦しいことは待ち受けている。だけど、アンタたちなら、きっと大丈夫だ。病める時も、健やかなる時も、互いに手を取り合う道を選び続けたアンタたちなら、これから先も、きっと乗り越えていける。それが、アンタたちが示し続けた“愛”なのだから」
私がエールを送ると、詩子はぱっと明るく笑って、「うん!」と強く頷いた。私はその笑顔に頼もしさを覚えると、心の底からの笑顔を向けて、2人に祝辞を送った。
「――改めて、真白、そして詩子。結婚、おめでとう。……アンタたちの行く先が、幸福で満ちている事を願う。
以上で、私のスピーチを終わらせて頂こうと思います。……皆様もどうか、心強い2人に、祝福の拍手をお願い致します!」
私が場を盛り上げるように声を張り上げると、途端に会場は盛大な拍手に包まれた。
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