愛と友情は紙一重!~オタサーの姫と非モテ童貞陰キャオタクがパコパコするまでの物語~

オニオン太郎

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友情編

第1話「大人になっても運命の恋とか信じちゃう奴が心底気持ち悪い」②

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 大学の構内。金髪美女の友人、由希と話をしている私の横を、河野真白が通り過ぎた。

 アイツとコンビニでクソッタレた会合を果たしてから早2週間。私はあれ以来、奴のことを目で追うようになってしまった。
 なにも目と目が合った瞬間に好きだと気づいたわけではない。依然私の中でのアイツの評価は『変な奴』から変わっていないのだが、しかし、アイツは私の秘密を知っているのだ。

 よくよく、現実にはそういない、女を単なる性道具にしか見ていない金髪クソDQNに秘密を握られ体を許すNTR同人誌があるが。今の私なら、アレの女の気持ちがほんのちょっとだけではあるがわかる気がした。

 他人に……それもまったくもって関係を持っていない他人に秘密を握られるというのは、それほど恐ろしいのだ。私は河野が過ぎ去ったあとに、よくわからない疲れで盛大にため息を吐いた。


「詩子? どしたん?」


 と、私の隣に立つ友人、由希が、心配そうに私に話しかけてきた。

 相変わらず、お洒落な服を見事に着こなしている。青くスラリとしたデニムのパンツに、黒く体のラインを強調するようなトップス。ハリウッドアクションスターもびっくりな引き締まった体をしている彼女には、どことなくクールな印象が漂っていた。

 ちくしょう、私にもその超絶モデル体型を寄越せと言いたい。私は若干スカートに乗り上げた腹をむにゅりと摘みながら、奴のくびれ辺りを睨み付けた。


「……詩子?」


 由希が少し顔を赤くさせて再度問いかけた。どうやら視線に気付いたらしい、私はハッと顔を上げてしどろもどろになりながら受け答えた。


「べ、べつに~? 詩子、昨日ゲームやりすぎちゃって~」

「うーん、私しかいないんだし普通に話したら? ねえ詩子、あんたなんかあったでしょ?」

「い、いや別になんでもないよ! 詩子だって~、ずっと元気なわけじゃないし?」

「あ、そういえばさっき河野のこと見てたよね。……アイツとなんかあったの?」


 げえ、いきなりドンピシャかよ。私は体を冷や汗が伝うのを感じた。

 由希とは高校の頃からの付き合いだけれど、この子本当に人のことよく見てるんだよな。今までもパッと気持ちを把握されたことあったし。私は彼女に気持ちを悟られないため目線をゆっくり逸らした。


「な、なんにもないよ……」

「当たりっぽいね。んー、だとすると……あっ」


 由希が思い至ったように呟いた。


「……えっと、詩子。1つ言っとくけど、アレはやめたほうがいいよ? 髪チン毛みたいだし、いつも1人だし、なんかキモイし……」

「違うわよバカ! ……はあ。いや、ね。ちょっと前にコンビニにお酒とツマミを買いに行ったら、私のズボラ姿をアイツに見られたってだけの話よ」

「あー……あんた学校以外だとズボラだもんね」

「もう最悪! ただでさえ女子連中から白い目で見られてるのに、いつバラされるかって考えたらひやっひやだわ! いつかこれを出汁にエロ同人みたいにされたらどうしようかと……」

「は?」


 途端、由希の雰囲気がガラッと変わった。あ、まずい。


「アイツ見た目あんなだけど意外とクソ野郎だったか。詩子、もしもなんかあったら私に言ってよ? ふざけたことしやがったら金玉ぶっ潰してやるから」

「ちょ、冗談だからやめてって! ていうかアンタがガチるとマジで最凶死刑囚もボッコボコにしちゃうからマジでやめて! 親友が投獄されて『敗北を知りたい』とか言い出すルートはごめんよ!」

「う、うん? ……まあ確かに、なにもなってないのに熱くなってもしかたないか」


 由希から憤怒のオーラが消えた。私はふう、と思わずため息を吐いた。

 天音由希あまねゆきとはこんな感じの人間だ。見た目は女子女子しているのだが、その強さは、今からでも全米総合格闘技で男女の壁を突破して優勝をもぎ取ってしまいそうなくらいには強い。以前は密かに乱ねーちゃんと呼んでいたのだが、それでは彼女の強さに合わないと悟り、今では勇○郎、もしくはサ○○マと呼び方を変えている。

 兎にも角にも洒落にならないレベルの強さなのだ。高校の頃由希と街を歩いていたら、チャラいナンパ師に声をかけられ、あっと言う頃にはナンパ師が地面にめり込んでいたのは記憶に新しい(未だに夢だったかもと疑ってるが)。


「……あ、今のもしかして刃○?」

「あ、もしかして知らなかった?」

「いや詩子があんな雄々しい漫画読むって思わなかったから」

「女の子だって刃○読むわよ。面白いじゃん。
 ていうかさ、あんたって真面目にどこであんだけ強くなったの? 亀○〇でも習った?」

「いやふつーにお兄ちゃんと組手してただけだけど」

「ええ……それでそこまでなるかよ普通。男じゃないけど地上最強に憧れたりしたのか?」

「まあ体作りだよ。詩子もやってみたら? 痩せるぞ」

「あー! あー! キキタクナーイキキタクナーイ!」


 私はそう言って耳を塞ぐ。突然の爆撃投下にはバカになるのが一番だっておばあちゃんが言っていた。なんか泣きたくなるけど。

 まあ、そりゃあ痩せたいよ。けど、これだけは言わせて欲しい。私の言う痩せたいは、『背脂マシマシ豚骨醤油ラーメン大盛りを貪り食って特に疲れる運動をすることも無くいい感じに痩せたい』であって、『頑張って痩せたい』ではないのだ。嗚呼、この世界のどこかに肉と油を食らいまくってシュッと痩せられる怪しくないダイエット法はないだろうか。

「そんなもんあったら誰も苦労しないよ」

「なんで思ってることわかったの?」

「なんかそういう顔してたから」


 どんな顔だそりゃ。けどこれは全女子の、否、全人類の願いだと私は思うんだ。大体、原始以来怠惰の罪を積極的に受け入れてきたのが人間という生物なのだ、ならば怠惰を極めて一体何が悪いというのだろうか。


「まあでも詩子、とりあえず、河野のことは今は放っておくしかないよ。気にしたってしょうがないし」

「……うーん。うん。そうなんだけどさあ」


 私は由希の言葉に小さく頷きながら、手応えのない返事をした。

 ……わかってる。わかってんのよ。こんなもの、所詮私の問題なんだってことくらい。

 そして私たちは、その後も他愛のない会話をしながら漫研へと向かった。



◇ ◇ ◇ ◇



「あ」


 深夜のコンビニ。私はダウンジャケットを着た男を見て、思わず声を漏らした。

 言わずもがな、出会ってしまったのは河野真白だ。奴は100円の麦茶と期間限定のスイーツを手に持ち、こちらを見て「ん?」と首を傾げている。寝巻き着姿でまたしても奴と鉢合わせた私はため息をついて、「うわぁ」と呟いた。


「うわあ、って、君は失礼だな」


 河野が呆れた様子で私の前で肩を落とす。私は確かに顔を見た瞬間に露骨に嫌がるのは失礼だと思い、目線を若干逸らしながら言った。


「いや、ごめん。でもまさかまた会うとは思わなくてさ。てゆーかまた見られたし」

「別に僕だって会いたいわけじゃないし、見たいわけでもない。まあかと言って、会いたくなかったわけでもないけど」

「うえっ」

「ごめん流石に今のはキモかった。いやとにかく、僕は君のことをなんとも思ってないってことだよ。好きでもないし嫌いでもない」

「……なんか急に距離を詰められた感じがする。あーあ、まあいいや。もう今日は焼き鳥買って帰る」

「あ……そうだ、ちょっと話したいことがあったんだ。……外で待ってるから、よかったら付き合ってくれない?」


 なんなのよ、一体。私は少し不満がありながらも、「まあいいよ別に」と言ってコンビニから出ていく河野を見送った。

 その後しばらくして、私はお目当ての焼き鳥とお酒を買って外へと出た。

 なんともまあ、河野は律儀に外で私を待っていた。100円の麦茶を飲みながら。


「……思ったんだけどさ、この時期にダウンは暑くない? まだ早いよ?」

「僕もそう思ったけど、かと言って着ないのは寒くてね」

「え、それしか上着ないの?」

「うん」

「オタクあるあるかよ。服に頓着がない」

「僕は季節に合った服もあんまり持ってないから特殊枠だと思うな」

「いやもっとダメでしょ」


 せめて季節ごとの着やすい服くらい持っておきなさい。私は河野に心の中でアドバイスを送った(当たり前のことなのだが)。


「まあいいや。それで、話ってなに?」


 私はやれやれだぜと河野に尋ねた。


「いや、話って言うのは、単に君が僕をずっとジロジロ見てくることについてだよ」


 ああ、なるほど。私は肩を落として、「あー」と唸りをあげた。


「ごめん、本当、それは私がどう考えても悪いわ。そうだよね、あんまし見ちゃうのは失礼だよね」

「いやまあそれもあるけど……。うーん、なんて言うのかな。そんなに僕のことが信用ならないかい?」

「まあ言うてあんたのことよく知らないし。別にあんただから特別信頼できないわけじゃないのよ。これがイケメン王子だろうがロリコンキモオタだろうが反応は変わってないわ」

「…………なんで、そんなに私生活の姿を見られるのが嫌なの?」

「大変なのよ~、拗らせまくったモテないキモオタどもの夢の中にしか存在しないようなクッッソキモイ女の子演じ続けるのも」

「……まあ、いいや。けどそれなら、余計に君は僕のことを見ないようにした方がいいんじゃないかい?」

「え?」

「いやその、なんて言うのかな。正直なこと言うとね、最近、仲間内でいじられることが増えてさ。君とのことで」

「え、アンタ友達いたの?」

「そりゃあいるよ。君は僕をなんだと思ってるんだ?」

「あ、ごめん。その、オタクってでもそんな感じじゃん?」

「君のオタク像には多様性がないな」

「……なんか、そう言われると本当に申し訳ないな」

「まあいいけど。とにかく、最近、なんだろう。まあその、僕の友人が、『おいあれたぶんイけるぞ』『ワンチャンあるって』って言ってくるんだよ」

「……私とのことで?」

「……うん。とにかく、君からしてもそれはまずいでしょ? 特に君は、姫を演じてるわけだからさ」

「……あー。なるほど。言いたいことはわかった。
 でもさあ、わかってはいるのよ、その辺。けどなんか、見ないようにすればするほど見ちゃうって言うかさぁ」

「あー……なるほど、シロクマ実験か」


 なんだそれ。私は河野から聞こえた謎単語に首を傾げた。


「んー……だとしたらまあ仕方ないよな。けどだからと言って見られるのはあんまり良くないし、何か手があればいいんだけど……」


 なんか独り言呟いてる。

 ……やっぱり、こいつは周りが言うように変な性格だ。私は首筋をポリポリと掻く。

 本当に調子を狂わせる奴だ。普通、こんなことにここまで考えることなんてしないのに。やっぱりコイツ、なんかどことなく取っ付き辛いんだよな。

 ――でも、なんか、違和感もあるんだよな。取っ付き辛いっていうだけじゃなくて。私はそして、ため息を吐いて河野に話しかけた。


「いいよ、気にしなくて。こんなの、少し時間が経てばなんともなく終わることなんだから。ま、それまでちょっと我慢してって言うしかないわ」

「……それでいいのかい?」

「いーに決まってんでしょ、だって仕方ないもん。まー私があんたの弱みでも握れたら脅しあえるかもだけどさー。はは、そーいう漫画あったわねそういや」

「弱み……」

「つーわけで、私家帰るわ。すまんね、こんなことに付き合わせて」

「家……」


 と、河野が思いついたように呟いた。


「僕の家に来れば、何か弱みが見つかるかもしれな……」


 私は河野がそう言った途端に思わず固まってしまった。

 体中を怖気が走る。なに、今こいつ家来いって言ったの?


「あっ……あ、い、いや、今のはその……」


 ――き、

 キッッッッッッッッッッッッショ。私は思わず心の中で叫んでしまった。


「ごめん、流石にこれは……」


 河野が私に近寄る、私は反射的に飛び退いた。


「あっ……」


 河野が固まった。私は奴の引きつった表情を見ると、そのまま全速力で部屋まで戻り、鍵をいつもより厳重に閉めた。
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