愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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友情編

第2話「男女交われば即セッ○スは間違っているけど、オタク交われば即性癖語りは合っている気がする」②

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「人間は時折意味の分からない行動を取るものだって理解はしているけど、それにしたって、君の今日の行動は意味が分からない。突然息も絶え絶えに走り寄ってきたと思えば、こうして放課後ティータイムにお誘いするなんて。これがそれなりに好感度の高い出会い方をした同士ならともかく、よりにもよって大学内の変人枠の僕に対してだ。君は男に対する警戒心が薄いわけではないと思っていたのだが――」

「台詞が長い! わかってんのよそんなことは!」


 私はくどくどと疑問をぶつけてくる河野にそう押し返した。

 その後私たちは、(どうやら友人と話していたらしい河野を無理矢理引きはがし)ファミレスへと来ていた。河野は未だに「んんんんん」と唸りながら頬をしきりにつねっているが、私としては現在極めて重要な局面に居るため、月の表と裏並みの温度差に違和感を覚えざるを得なかった。


「――結構イケるな、コレ」


 河野はとりあえずで頼んだエスカルゴを食べて呟いた。私はそのふざけた態度に声が出せずにいた。

 ――いや。河野が如何にこの状況を軽くとらえていようと、それは別段、彼に否のある話ではない。

 そもそも、彼にとってはこれは予定にないイベントで、更に言えば半ば無理強引に連れ込まれたわけでもあるのだ。むしろ露骨に怒りを態度に表していないだけでも極めて温情的とも言えるだろう。

 つまりは、声が出せないでいるのは、私の決心が鈍いからだ。
 だって、突然連れ込み言おうとしているのが「物語の作り方を教えてくれ」なのだ。いくらなんでも不自然すぎる。

 ――だけど、そういうのも全部全部、覚悟してコイツを連れ出したんだ。私は心の中で『よし』と呟いて、大きく息を吸い、勢いに任せて口走った。


「――あんたの小説、読んだ」


 河野の表情がわかりやすく変わる。一瞬ぽかんと口を開けて止まったかと思うと、それが見る見るうちに喜びの笑みに変わり、かと思えば照れを隠すように目を伏せ、口元を押さえて笑いを隠そうとしていた。なんだコイツ面白いな。


「えっ、あ、ああ……えっと、何を読んだの?」

「スプラッター×ゴースト」

「あ、ああアレか。珍しいね、あのサイトだともっとこう、『追放された俺は新たなパーティーで成り上がる』的なのを読む人が多いのだけど」

「なんか流行ってたね。いや、まあ、そういうのも嫌いじゃないけど、なんかこう、グロそうだから読もうって思った」

「なんか意外だ。君は明るい話を好むと思っていたが」

「私は人が死ぬ作品の方が好き。人間はもっと死ぬべき」

「ヤバい発言にしか思えないな。まあ僕も同じだが。えっと、なんだろう。とにかく、その、読んでくれてありがとう。……まさか本当にそうしてくれるとは……」

「そ、それでね!」


 私は話がズレていきそうだったのを声を張り上げ無理矢理戻す。河野が「あっ、ハイ」とやけにかしこまった声を出した。


「えっと、その……。アンタの作品、すっっっごく面白かった」

「うぇっ!?」

「いやもう、お世辞とかじゃなく! なんというか、暗くて重たい話なのに、その割にはしっかり明るい要素もあって、なんかこう、内容の割に読後感はスッキリしていたというか。とにかく、凄かった!」

「あ……えっと、その……」


 河野が顔を赤くしどうすれば良いのかと言いたげに体をモジモジさせた。なんだコイツちょっとかわいいぞ。これで風体がショタっ子だったら襲っていたかもしれない。


「……そ、それほどまでに、好きになって貰えたのは……なんというか、その、感謝の極みだ。ちょ、ちょっと恥ずかしいな……」

「そ、それで! その……えっ、と……」


 私は続きの言葉を言おうと、口を動かした。

 ……しかし、


「……あの、んっ、と。なん……て、言えば……」


 出てきたのは、無意味な言葉ばかりだった。

 やっぱり、どうしても言えない。『物語の書き方を教えてくれ』なんて、それも、ただの知り合いでしかない男に言うなんて、できない。

 だって変じゃん。おかしいじゃん。意味がわからない。どうせ『何言ってんだこいつ』って顔をされて、なんだかんだとすげなく断られるだけだ。それで、翌日にはコイツの友達とやらの間で、笑い話にされるだけだ。

 ……無理だ、言えない。私はそして、とうとう、声さえ出せなくなった。

 ――と。


「……言い難いことがあるのかい?」


 河野が、少し前のめりになって、私に話しかけた。


「そうか。……なにが言いたいのかはわからない。だけど無理に言え、とも言わない。そこは君の判断だし、別になにも今日じゃなくてもいい。気持ちの整理がしっかりとついてからで僕は全然構わない。
 ただ、これだけは言わせて欲しい。君が例え、どんなに突飛なことを言おうと、僕は話を聞く。頷くし、肯定するし、時には自分の意見も言わせて貰う。だから差し支えがないのなら、ゆっくりと、話して貰えたらありがたい」


 河野は私の目をしっかりと見据え、どうやら、その言葉に嘘偽りは無いのだと言うのが伺い知れた。

 ――だから、だろうか。私は不思議と安心して、いつの間にか……


「……私に、ストーリーの作り方を教えて欲しい」


 自分でも驚くほど自然に、そう声を出していた。

 言ってから、途端に顔が熱くなった。
 いや何言ってんだ自分、いくらなんでもおかしすぎるだろ。うわ、言わなきゃよかった。クソ。私の中で後悔の念が溢れて、思わず目を伏せる。

 しかしふと河野に目を向けると、奴はぽかんとした表情で、しかし嘲笑するような雰囲気は感じ取れず、ただただ予想外のことに困惑しているだけと言った風な――少なくとも、一切悪意の無い顔で私を見ていた。


「えっ……と、それは、その――僕に、物語の指導をしてほしいってことかい?」

「そ、そう。いや、意味わかんないこと言ってるってのはわかってるけど、でも、私はそれだけ――」

「ま、まいったな……。いや、あの、嫌だとかじゃなく。その、そう思ってもらえるほどに気に入って貰えただなんて……。嬉しいけど、ちょっと、まずい。死にそうだ」


 河野はそう言って天井を見上げた。

 死にそうって、お前。こうも眼鏡をクイクイさせながら謎データを使って未来を読んでそうな話し方をする割に、語彙力もクソもない表現をするんだな。私は河野の意外な発言に思わず笑いそうになった。


「それで、返事は?」

「えう、えっと……。……なんか頼まれてる側なのに主導権を握られてるな」

「どうでもいいでしょ。それで、その――どう?」

「――返答に困るな」

「やっぱダメか……」

「そ、そういう意味じゃない。いや、なんというか。その、僕としては大丈夫。むしろ、僕が紡いだ創作理論を、別の誰かに話すことができるとなれば、有り余る承認欲求を満たせるという意味でも、願ったりかなったりだよ。
 だけど問題は、僕が教えられるかっていうところだ。そも、君に理解できる表現ができるかわからない。どうしても感覚的な面も含まれるから」

「その辺は頑張る」

「あとは、そうだな。そうなると、君はこんな頭のおかしい腐れ陰キャに付き合わなきゃならなくなるが。それでもいいかい?」

「漫研のオタクくんどもに比べたらかわいいもんよ。いや、ていうか、もう、全部全部大丈夫よ。それで私は夢への活路が拓けるんだから。――ダメ?」


 私はダメ押しに上目遣いをする。河野は露骨に私から目線を逸らし(意識してやがるなコイツ)、少し唸り声をあげてから、大きくため息をついて答えた。


「いいよ。こうも真剣に言われて、断るのもなんか気が引ける」

「っしゃ! ……どうでもいいけどさっきの『全部全部大丈夫』って、エロ同人だとまずい展開になるよね」

「残念だけどここは現実だ。というか思ったけど言わなかったことを言うな」

「あ、意識してやがったんだ」

「うぐ……あのだ。一応言うけど僕も男だからな。ある一定の警戒心は持っておいた方が良い。それこそ本当にエロ同人みたいにしたらどうする?」

「スタンガンをちん〇にぶっ刺す」

「臆面なく物騒なことを言うな!」


 河野が結構ガチな感じのツッコミを入れた。私はそれを聞き「うはは」と笑った。


「くそ、完全に玩具扱いだ」

「ごめん、なんか『あ、いじれそう』って思っちゃってさ」

「……オタクのくせに陽キャのような距離の詰め方をするね」

「陰キャだけど陽キャグループにいたしね、私」

「たまにいるねそういう奴。いや、まあ、どうでもいい。……とりあえず、君の現状が知りたい。なにか、作品はないかい?」


 私は河野の言葉を聞いて「あ、あるよ」と答えた。

 とりあえずスマホを開き、アルバムアプリを開く。

 すると流れてくる流れてくる、大量の自作BLの数々。私はアプリを閉じて引きつった笑みを河野に向けた。


「アッハハ、あんましアルバムの中見られたくないしさ、LI〇E交換しない? そしたら画像送ってあげられるからさ」

「いきなりLI〇E交換か」

「いいじゃん、言うて会ってから2週間以上経ってるし」

「んー……君は本当にオタク側の人間か?」

「だから陰キャだけど陽キャの中にいたんだって。コミュ力は上がったけど、大変だったのよ? 興味もないお笑い芸人とか人気俳優の情報を追うのは」

「僕なら3日と持たず飽きる」

「好きでもないテレビを見続けるのはキツかった。いやまあ、そんなのはどうでもいいから」


 そう言って私はスマホを取り出しLI〇EのQRコードを河野に見せつける。河野はやれやれと一度ため息を吐くと、スマホを取り出し、同じくLI〇Eを開き、私のQRコードを読み取った。


「ん、おっけ。……『いつかハゲるところ』……なんっつー名前だ」

「また髪の話している」

「〇Fファンにぶっ殺されるわよ」

「そういう君は普通に姫川詩子、か」

「陽キャの本名率と陰キャのペンネーム率異常よね。いやまあいいけど。んじゃあ今画像送るわ」

「うん」


 そう言って私はシュッシュッポンと(いやこれはLI〇Eじゃないな)私が描いた漫画の画像を送り付けた。

 河野は届いたのを確認すると、「ん、オッケーだ。それじゃあ読んでいくから、待ってて」と私に言った。


「お、おう、どんとこい」


 ……今更ながらに怖くなってきた。私は少し青ざめながら、精一杯の虚勢を張った。
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