愛と友情は紙一重!~オタサーの姫と非モテ童貞陰キャオタクがパコパコするまでの物語~

オニオン太郎

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友情編

第2話「男女交われば即セッ○スは間違っているけど、オタク交われば即性癖語りは合っている気がする」③

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「うん、読み終えたよ」


 河野がスマホから顔を上げ、私の顔を見る。私はドキリとして、食い入るように彼の顔を見据えた。


「それで、ど、どうだった……?」

「――ハッキリと言えばいい?」

「う、うん。じゃないと、自分のためにならない」

「じゃあ、うん。……正直、評価としては、“微妙”かな」


 私の頭の中に、河野の評価がゴーンとこだました。
 微妙、微妙か。いやまあ、由希にも同じことを言われていたのだけど。私はため息を吐いて、机に突っ伏した。


「ごめん、傷つける意図はなかった」

「いいよ、すっごく言葉を選んでくれているのはわかるから。本当のところ、つまらないんでしょ?」

「いや、うーん。つまらなくはないって感じかな」

「気にしなくていいよ? もう、ごみでもカスでもなんでも言っちゃって」

「そこまでの言葉を浴びせるレベルじゃないよ。
 ……そうだね。じゃあ、うん。もうちょっと細かく言うとね」


 と。河野はそうして、もう一歩踏み込むような口ぶりをした。私は顔を上げ、彼の口元を、見つめる。


「まず評価点。すごく物語の内容が自然だ。ツッコミどころらしいツッコミどころがないし、強引な感じもしない。作品を客観的に見れている証拠だ、前後の流れを把握して手堅く攻めている。君の聡明さがにじみ出ているね」

「聡明って、それは過大評価だよ」

「一方で、物語としてはパンチが足りない。没個性的、ありがちとも言える。ある意味では基本的な基本に目が向いていないとも言える。本当に、ただ作った、という感じだ。これはつまり、物語に大きな波が無いということでもあり、そして、物語からテーマが見えてこないという意味でもある」


 ダン、と、チェスで王手を詰められたかのような感覚が私の中に巻き行った。
 そう、そうだ。足りない何かをポンと言い当てられたかのように、納得感が足の裏から脊椎を伝って脳にまで駆け巡る。


「そ、そう、そうかも。そういえば、なんか凄い地味だと思ってたし、それに……なにか、テーマがあるかって言われたら、なにもなかった」

「やっぱりか。さて、少し説明するけど。王道とありがちは、結局のところ、『よく使われている展開』という意味では同じ意味だ。しかしそこには天と地の差がある。これを分けるのは何かと問われるなら、僕はおそらくだけど、この『展開の波』にあると思っている」


 河野はまるで講義でも始めるかのようにとんとんと話しだした。私は「ふん、ふん」と鼻息を荒くして彼の言葉を必死に聞く。


「では展開の波って言うのは、結局のところなんだろうか。これも僕の中では答えがあって、それは『読者の感情の上下』だ」

「感情の上下――心揺さぶられるかってこと?」

「そう。いいね、凄く良い返しだ。やっぱり君は聡明だ」

「いや、そんなことないって」


 私はまたしても飛んできた褒め言葉に少し顔を赤くさせた。


「まあ話を戻そう。当然だが、作品を読む時、読者の心はその展開により揺れ動く。面白い作品というのはこの心の動きがある作品のことであり、逆に言えば、心の動きが全くない作品は『つまらない』という評価になる。君の場合は展開が地味ということだから、この心の動きが少ないってことだ」

「なる、ほど。――心揺さぶる、か。それって、どうやったら出せるのかな」

「基本的には、登場人物の心情を描けば、勝手に読者の心も揺さぶられるよ。漫画って十中八九回想シーンをやるけど、アレはキャラクターの内面を描く上で、極めて優秀だからだ。あとは言動や信念の補強にもなるしね」

「なるほど、なるほどなるほど」


 私は河野の言葉を取り出したスマホに素早くメモしていく。河野はそれを見て驚いたような表情をして、「やっぱり凄いな」とぼそりと呟いた。一体何がかはわからんが、とりあえず彼は彼なりに何かを感じているらしい。


「さて、この辺はまあ、後からまたLI〇Eにでも書いて送るよ。次に言うべきで、特に重要なのは、君の作品の個性と言っても良い部分、すなわち、テーマのことだ」

「テーマ……」


 私はその3文字を頭に浮かべ、頭が痛くなった。

 テーマと言えば、ぱっと思い浮かぶは「努力、友情、勝利」だ。そうした哲学的な何かが反復して、私はため息をついて机に突っ伏した。


「テーマかあ……うーん、あんまし人生ってなんだろうみたいなこと考えてこなかったからなあ。わかんないや、そんなの考え付かない」

「ああ、やっぱりそういうイメージがあるよね」


 ……? 違うのか?


「テーマって言うのは、言い換えるなら作品の方向性のことだ。この作品はどんな読者に向けて書いているのか、どんなことをメインに描いていくのか、どんな世界観なのか、どんなメッセージを込めるのか。そうした様々なことを統合したのがテーマだ。まあ別にメッセージ性は要らないのだけどね」

「……? となると?」

「わかりにくいよね。まあ言うなら、『自分はどんな作品が書きたくて』、『読者にどんな印象を持たれたいか』ということだ。いやこれ以外にもあるのだけれど。
 テーマは作品の根幹だ。だから、できるだけ具体的に、しっかりと定めなきゃいけない。これがざっくりとしてしまうと、方向性がまるきり違う内容を入れまくって、挙句にまとまりがなくなる。テーマは展開や内容を取捨選択する上でも重要なんだ」

「なるほど、なるほどなるほど」

「あとは、このテーマは作品の個性を決めると言っても過言じゃない。J○○Oは見た事ある?」

「大好き。最新刊追ってるよ」

「そうか。ならわかると思うけど、あの漫画は共通したテーマや個性こそあるけれど、しかし、部によって雰囲気とか描き方だとかがまるっきり違うだろう? アレは『J○○O』って言う共通したテーマ、つまりは根幹がある中で、同時に部ごとに違うテーマを設けているからだ。それこそ、4部と5部は全く違うよね。アニメのOPの雰囲気もまったく違うし」

「ああ、なるほど、確かに!」


 私は納得して大きく頷き、河野の言葉をスマホにメモしていった。


「……そう言えばだけど、アンタの書いた作品のテーマはなんなの?」

「ん? スプラッター×ゴーストのことかい?」

「そうそう、それそれ」

「ふむ……。そうだな……」


 河野はそう言うと、天井を見上げて大きく息を吐いた。


「……あの作品のテーマは、まあ、簡単に言えば、人間とは何か、だな」

「人間とは何か……?」

「うん。人間の残酷さと言うか、醜さと言うか。それを描きたかった。あの作品では、幽霊と人間を、両方人のように扱っているだろう?」

「ん、確かに」

「けど、多くの人はそう思わない。そう思わないからこそ、人の側が霊に害を与える。これは、逆も然りだ。
 つまり、僕が言いたいのは、どんな人間も、所詮人間でしかないってことさ。老若男女人種環境生まれた国家、趣味趣向性癖経験……なにもかもが違っても、ソイツに人の魂と言える物があるなら、それはもう、人間として扱うしかない、と言うか」

「あ~、なるほど」


 私は河野の話を聞いて合点がいった。

 だから主人公には、『霊も人間も同じ』と言う思想があったのか。言われてみれば、幽霊とは言え、元は人間なのだから、そりゃあ、人間と同じと言っても別におかしくはないよな。私は黙々と考察に耽ってしまった。


「まあ、とにかく、テーマはこうして、作品に個性を与えるんだ。……姫川?」


 私は河野に呼びかけられ、「あ、うん、ごめん」と意識を取り戻した。


「なるほど。……テーマ、テーマかぁ。結局、テーマってどう作ればいいの?」

「まあ、言葉の割に簡単に作ればいいと思うよ? 僕なんかは、それこそ、女の子に襲われたいって理由でえっちな……待った。ごめん、今のは無し」


 河野はそう言って口元を押さえた。


「……ダメだろ流石に。女の子の前で下ネタは……」

「……ああ。え、なに? アンタ、エロい小説書いてるの?」

「あ、いや……それは……」


 河野が露骨に恥ずかしがる。私はそれを見て、やけに楽しくなって、「へ~」とニヤニヤしながら河野を見た。


「アンタ、朴念仁みたいな顔してる癖に、意外とそう言うところあるんだ」

「あの。いや、そりゃ。……僕だって男だし」

「はは、草。まーまー、私は割と下ネタには寛容な女だから。気にしなくていいんとちゃう?」


 私がガハガハと笑いながら言うと、河野は「いやでも、君僕から前逃げたじゃん」と返した。私はそれを聞いて、「んー」と顎の辺りに手を当て、自分の中のニュアンスと言う物を言語化した。


「なんっつーか、下ネタを言うのと、こう、露骨にち○ぽ振り回してるのとは違うんだよ。わかんないかな、こういうの。うんこち○こま○こはオッケー。けど、俺とホテルでシャレこもうは私的にはアウト」

「単語の羅列ならまだいいけど、冗談めかした誘いや生々しいのは嫌ってこと?」

「そゆこと」


 私はそう言いながら、机の上のコップを手に取り、中身を飲み込んだ。


「ていうか、気にしなくていいよ。女の子の前だからち○こ禁止、とか。私らってさ、そう言うの気にする間柄じゃないじゃん。友達でいようよ、友達で」


 私が酒に酔ったように適当に言うと、河野は「え?」と言って、キョトンとした目でこちらを見つめて来た。


「……君は、僕と友達になりたいのかい?」


 呆然と、私を捉えて問いかける河野。私は「ああ……」と首の後ろを触ると、少しだけバツが悪い感じがして、口元を緩めた。


「結構ノリで言っちゃったわね。……まあ、けど、私はアリだと思ってるよ?」

「言っておくけど、僕は大学内での変人枠だよ? 特に君が一緒にいるのは、まずいと思うけど」

「んー……。んー、でもね。なんて言うか。あのさ、私の周りの男ってさ、なんっかこう……違うのよね」

「……いきなり何の話?」

「いや、なんて言うかさぁ」


 私はそう言って、少しだけ前のめりになった。


「なんとなくわかんだけどさ。私のこと、女として意識しすぎなのよね。漫研の男共。
 いやまあ、そりゃあ、私もそこそこかわいい自信があるし? 別に、男の性欲を悪く言う気もないけどさ。ただ、なんっつーか、セ○クスしたいの見え見え」

「臆面もなくそう言うこと言うんだな」

「まあね。そりゃ、仕方がないもんは仕方がない。おっぱいへの視線もまあ許す。こんだけでかいと女も見るし。けどさ、そう言うの前面に出してくる奴って、やっぱ私、嫌なのよね。ま、こんなヒメヒメファッションしてんのも悪いけどさ」

「……別に、格好は好きにすればよくないか?」

「そういう目線もあるね。けど、服装ってやっぱり大事よ? 見た目で寄ってくる人間って、結構変わるし。ウェーイのある所オタクなしってことよ」


 私がつらつらと喋ると、真白は「……まあ、価値観の違いか」とボソリと呟いた。


「んで、その点! アンタはそう言うの、見せてこない。だから、大丈夫」

「……一応言わせてもらうけど、そう言うのを見せないのはマナーだからであって、その、僕だって男なのだから、目の前に女性がいたら、それなりに意識はするよ?」

「ん、わかってる。アンタもさっきおっぱい見てた」

「……」

「けど、なんかそう言うのじゃないの。とかく、もう、恋愛とか、勘弁してくれって。高校の頃さ、クラスでも人気のイケメン君と付き合ったことがあるけど。もう、マジで面倒。デートデートデートデート、隙あらばまたデートよ。あん時は陽キャのフリしてたけど、私は陰キャよ。生憎、外でお洒落なカフェを巡るんなら、私は家でゴロゴロして、腹減ったらパンケーキじゃなくてカップ麺を食べてたいタイプなの」

「――ふむ」

「ま、だからさ。アンタは、私のこと、恋愛って目で見てないでしょ? そこが違うのよ」

「さっきも言ったけど、僕だって男だし――」

「そういうとこ。口説きにかかる男はね、こういう時、そんなことは言わないものよ」

「……まあ」

「だから、アンタとは相性が合う。……と、私は思う。あくまで友達として、ね」

「んん。まあ、僕も、君とは仲良くなれそうだっては思ってたけどさ」

「へぇ、思ってたんだ。なら、やっぱり正解なんだよ」


 私はそう言って、背もたれにどすりと体を預けた。
 しかし、しばらくして。私は自分が、何をつらつら語っていたかを理解して、居心地が悪くなってしまい、机に突っ伏して頭を抱えた。


「ぬあ。ごめん。なんか、変な愚痴言っちゃった。
 ぐおあああ……。いやいや、いくらなんでも、めんどくさ過ぎだろ、私」

「ん、まあ、面倒臭くない人なんてただの都合がいい人だし。気にしなくていいよ」


 河野がそうと言うのを聞いて、私は思わず、ハッと顔を上げてしまった。

 河野は何とも思っていないように頭を掻きながら、目の前にあるエスカルゴをつまみ食べている。私は、どうやら、本当に、彼が何も思っていないのだなと言うことを悟ると。

 ――やっぱ、スゲーな、こいつ。そんな感心が、自分の中から沸き起こった。

 作品を読んでる時も思ったけど、考えている量が尋常じゃない。今の言葉だって、きっと、こいつにとっては、もう当たり前過ぎて、疑問にさえ思わないことなのだろう。
 だけど、今の言葉は――私の脳裏に深く刻み付けられて、心の中に浸透していくような。そんな気持ちに、させられてしまった。


「まあ、僕だって面倒臭いよ? 今君に友達って言われて、真っ先に浮かんだのが『友達の定義』だし……って、姫川?」

「ん……あ、ああ。うん、そうね。
 まあ、じゃ、答えは簡単。アンタは、私と友達になりたい? YESかNOで」

「変な問答だな。……うん、でも、答えはYESかな。正直、君と話すと楽しい」

「決まり。これからよろしくね、河野」


 私はそう言って河野に手を差し出した。河野はしばらく私の手を見つめると、「距離の詰め方が微妙に陽キャだよな」と呟いてから、私の手をいそいそと取った。
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