愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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友情編

第8話「自分のやった事くらいは自分でケツをまくるべきだが正直しんどい。でもそんなことを言っているうちは大人になれない」②

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「ウソ、でしょ、それ」

「……は?」

「いや、違う。違う。アンタの言ってること、たぶん、ウソじゃない。
 アンタは私が見てきた人の中でもぶっちぎりで良い奴だ。だからアンタは、私との今回のこと、きっと、本当に水に流しちゃうんだと思う。
 けど、違う。違うんだ。それはなにかが、違うんだよ」


 私は混乱の渦中にいて、よくわからないままに言葉を紡いだ。けれど、なんでだろうか。今ここで、無理矢理でも何かを言わなければならないって、私はそう思ってしまったのだ。


「ねぇ、河野。アンタ、本当はどう思ってるの? 本当のこと言ってよ」

「本当のことって……今君、ウソじゃないって言ったじゃないか。
 僕はなんとも思ってないよ。だから今回のことは許す。というか、もはや許す許さないとかそんな次元の話ですらない。これが本当の――」

「ウソじゃないけど、ウソでしょ、それ!」


 私は河野の言葉に強く言い返した。


「た、確かに根拠はないけど! けど、なんか、アンタからはそんな感じがするんだ! 変だよ、とにかくおかしい!」

「……そりゃあまあ僕は変人って言われてるから」

「アンタは変わってるだけで常識人だろうが! それにそういう変じゃない! なんていうか、その、違和感というか……」

「……姫川」


 と、河野が私にスっと視線を合わせてきた。


「……もう、帰った方がいいよ。夜も遅いし、変な男に絡まれたら僕は君を守れないよ? だからここで解散にしよう」


 私は河野のその瞳に、動揺を隠し切れなかった。

 わかんないけど、わかってしまった。今のコイツは、めんどくさいだとか、鬱陶しいだとか、そんな感情を持っていない。

 ――ただ、隠そうとしている。私に見せていない何かを。根拠は確かに無かったけど、けど、私は、それでもそれを確信した。


「嫌だ」

「……姫川。子供じゃないんだから、聞き分けて欲しいのだけど」

「ダメに決まってんだろうが! ここで話をつけなきゃ、今度は一体いつになるんだよ! わ、わかってんだよ、今自分がどんだけメンドクセー奴になってるのかってことくらい! けど、何度も電話をかけて、ようやく掴んだチャンスなんだ、無駄にするわけには――」


 私はその瞬間に、ハッと、河野にあった違和感の正体に気が付いた。


「――LI○E、」

「え?」

「河野、アンタ、私のLI○E、ブロックしてるでしょ? だって、私がどんだけ電話しても、メッセ送っても、アンタ既読付けなかったじゃん」

「……」

「な、なにも思ってない奴がそんな手間なことするわけがない! だとしたら、やっぱしアンタなんか隠して……」

「ブロック、してないよ?」


 は? 私は河野の言葉に耳を疑った。


「うそ、まじで?」

「本当だよ。……ほら」


 そう言って河野は私にスマホの画面を見せつけてきた。

 そこには、私とのトーク画面と、送られてきたメッセや空電話の跡が大量に残っていた。


「…………え、ウソ?」

「ウソじゃないよ。見ればわかるじゃないか」


 私は河野の言葉に激しく動揺した。

 まさか、自分のやった奇行が全部アッチに筒抜けだったなんて。私は途端に羞恥心に駆られて、顔がかあっと熱くなった。

 いや、いくらなんでも恥ず過ぎる。こんなモン大量に送り付けておいて、それを見られてたなんて。あまつさえ堂々と指摘した所を間違いだと否定されたなんて。

 私の中の意識が揺らいだ。声が詰まり、何も言えなくなる。頭の中が無駄なことでぐるぐると回転しだす。氾濫した感情は濁流の如く脳を流れ、どうすれば良いのかがわからなくなる。

 ……だけど、瞬間。


「……だと、したら」


 私はまた、もう1つ、気が付いたことを、河野へと指摘した。


「なんでアンタ、見なかったの……?」

「……」

「……アンタって、既読付けるの異常に早かったじゃん。た、たぶん通知、オンにしてるんだと思う。そんなアンタが、なんで私からの大量のメッセを、一切読まなかったの……?」

「それは、だから、君との関わりがあると迷惑がかかると思って……」

「私とアンタだけのLI○Eなのに、周りにバレるわけないじゃん! んなことアンタだってわかってるはずでしょうが! 私らの周りには天才ハカーも文○砲もいやしないのよ?」

「それは、その……万が一っていうのが」

「億が一ねーよ! いやてか、だとしたらブロックしてない方がおかしいじゃん! 関わり断ちたかったらそっちの方が遥かに合理的だよ、違うか!?」


 私は河野に詰め寄っていく。その瞬間に、河野はバツが悪そうに私から目を逸らし、私はそれを見て、畳み掛けるのなら今しかないと直感した。


「……河野」


 私は河野の両肩を掴み、勢いに驚いてかこちらを向いた奴の目を、真っ直ぐに睨みつけた。


「私はね、許されに来たんじゃないの。 私は私のやらかしに、ケジメをつけるためにここに来たの。
 私はアンタと向き合いたい。それでアンタが私を心底嫌って、離れちゃうんなら、私だって諦める。けど、アンタの本心と向き合えてもいないのに、アンタとまた仲直りしたって、私は絶対納得できない。
 河野。どんだけ嫌なモン私にぶつけてきても構わない。怒鳴られたって文句を言わない。だって全部、私が悪いんだから。だから、河野。お願い。私にウソをつかないで。そうでなきゃ私、前に進めない!」


 鼻息を荒くして、私はなんとか自分の想いを言い切った。河野は私と目を合わせようとせず、悩むように首をあちらこちらへと動かして、表情を歪め、唸るように息を吐いた。

 何十秒かの間が空いて、やがて河野は、「……あー、」と無意味な声を出してから、観念したように口を開いた。


「……わかった、よ。本心、言えば、いいんだろ?」

「……うん。お願い」


 私はゴクリと唾を飲み込んだ。どんなこっ酷い台詞が飛んでくるのか怖くなって、手の先が冷たくなった。だけど私は、この場から動く訳には行かなかった。


「……正直、ショックだった。嫌われたのかと思ったし、動揺して、なんとか僕が悪いって言って気持ちをごまかしたけど、家に帰ってから、怒りが込み上げたよ」


 私は歯を食いしばって河野の言葉を聞いていった。


「……だって、正直、僕は悪くなかった。誰かを殴ったわけでもないし、物を盗ったわけでもない。ただ僕なりに生きて、僕なりに過ごしていただけで、それなのに周りが勝手に変な噂をして、それを聞いた君が僕を見捨てた。……本当に、僕は、今回の件については、何もしていないって思っていた。
 だけど同時に、僕がそれだけ気持ちの悪い存在だからって理由も、確かに、その通りだった」


 私は思わず「それはっ、」と声を出してしまった。だけど、今、私の話をするのは違うと思って、私は口を閉ざした。

 やがて、河野はゆっくりと更に続けた。


「……僕がキモイから、周りからそういう目で見られて、どこかで他人に見捨てられても仕方がないって、それも確かにそうだった。だって、ようは、僕がキモイから悪いのだから、僕がキモくなくなればいいんだって。
 もっと上手く話せるように練習して、もっとファッションも勉強して、しっかり運動もして、オタクを辞めて、みんなと話題が合う何かを趣味にして、それも勉強して、もっと努力して普通の人と同じように振る舞えるようになって。そうやってキモくなくなれば、そもそもこんなことにはならなかったんだって。
 けど、それはどうにも、僕の中では納得ができなかった」


 私は思わず拳を握り込んでしまった。河野の放った一言一言が、私の胸に刺さって、それがどうしようもなく痛く感じたからだ。


「……僕が一番、嫌いな状況だった。
 自分が悪いって言い切れないこと。自分は悪くないって、言い切れないこと。どちらかであれば僕は納得する。納得すれば、対処もする。
 けど僕は、どうしても自分が悪いって思えなくて、でも、自分が悪いかもしれないって思ってしまって。……一番嫌だったのは、その怒りの矛先が、君に向いていたことだ。
 腹が立った。憎たらしかった。あの時自分が悪いって言ったことを後悔した。だって、正直、アレは僕じゃなくて君が悪いことだったから。けどそれだって僕の私見でしかなくて、それに、君っていう友達を、僕は憎み切りたくなかった。だから余計に腹が立ってしまった。
 ……だから、君からの連絡があったことも、全部理解して、敢えて全部スルーしてた。君と顔を合わせると何を言い出すかわからなかったし、下手をしたらそれで関係が切れてしまうって思ってしまった。
 それは嫌だ。君は僕の友達で、僕は友達との縁を否が応でも切りたくないんだ。家族よりもよっぽどみんなの方が大切だ。そのみんなの中に君がいるから、たまらなく苦しかった」

「……ごめん、本当に。本当に、ごめん」


 私は奥歯を噛み締めて、真剣に、後悔を呟いた。

 本当に、自分が嫌になる。目の前の河野は、すごく苦しそうに、こうして本心を打ち明けている。おそらく、私に対して申し訳が立たないのだろう。それが私の自業自得だとしても、コイツはそう思ってしまう奴なのだ。


「……すまない、姫川。正直、言いたくなかった。だって、こんなの、聞いていて気分のいい話じゃない」

「アンタが謝る必要はないよ。むしろ私が謝りたい。アンタにそんな気持ちを抱かせたんだから。
 ――ねえ、河野」


 私はありったけの意志を込めて顔を上げた。河野は私の呼びかけに応えてくれて、こちらを、何も言わず、まっすぐ見つめた。

 ――そう。全部、全部、私が悪いのだ。だとしたら。私は声を震わせながら、目に涙が浮かびそうになるのを必死に堪えながら、彼に言葉を投げた。


「もしも、その――あ、アンタが、いいって……ふざけんなって、思わなでいてくれるなら……。
 また、もう一度――仲直り、しようよ。わ、わかってる。すっげー都合がいいっていうか、自分勝手だって。でも、その……私は正直、アンタが、友達としていてくれたら、楽しいって思うし。どう、かな……?」


 しどろもどろになって、最後の方はもう相手に声が聞こえているのかさえわからなかった。自分が中学生の頃に戻ってしまったような気がして、途端に恥ずかしくなる。

 一抹の恐怖と気まずさを感じながら河野の顔を見ると、彼は少し驚いたような顔をしていて、だけど、一度肩を小さくすくめたかと思えば、「いいよ」と、至極簡単な返事をしてみせた。


「ちょ、そ、そんなに軽く!?」

「だって同意見なんだもの」

「え~!? わ、私すっげぇ覚悟したんだぞ? 縁切られたらどうしようとか、本当に色々!」

「そんなこと言われてもな。ふむ。じゃあ、少しおもたらしく理由も言っておこうか。
 ……君は、簡単に僕と仲直りすることじゃなくて、僕と向き合うことを選んでくれた。たとえこうじゃなくても、僕は君と仲直りをしただろうけど――そうしたら、きっと、僕は君との間に何かしらの境界線を引いていたと思う。だから、そうじゃない道を、自分から選んだ君には、ああ、やっぱりコイツ、すげぇなって言う気持ちと、そうしてくれたことへの――」

「ストップ! もういい、もういいから!」


 私は河野の発言を声を張り上げて打ち切った。なんか知らんが、そうまで褒め殺されたら顔が熱くなるだろうが。

 私は苦笑いを浮かべて河野から顔を背け、ごまかすように歩き出す。河野はそれにゆっくりとついてきて、私の隣に並んだ。


「あ、河野。それだったらさ、明日暇?」

「それってなんだ。まあ、大学も休みだし暇だが」

「だったらさ、前私がブッタしたカラオケ行かない?」

「……まあ、いいよ」

「おっしゃ!」


 私は茫然と前を見ている河野に笑いかける。河野はあまり表情を動かさなかったが、私はなんとなく、それが拒否ではないことを理解した。

 ――よかった、本当に。私は心の中で呟いて、その後、自分のアパートの前で河野と分かれた。
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