愛と友情は紙一重!~オタサーの姫と非モテ童貞陰キャオタクがパコパコするまでの物語~

オニオン太郎

文字の大きさ
20 / 117
友情編

第9話「陽キャとか陰キャとかいちいち言う奴が一番そういうのを気にしているし、男とか女とかいちいち言う奴が一番男女を分けてる」

しおりを挟む
 翌朝、私は部屋でYouTubeを見ながら買ってあった菓子パンを食べていた。

 ホラゲーをしている推しのVTuberが絶叫している様をゲラゲラ笑いながら見る。こんなことを言うとアレだが、部屋で1人でゲームをしながらここまで大声でリアクションを取れるのはある意味で才能だと思う。私が配信なんてことをしたら、終始無言になってまったく味気のない動画が作られてしまうだろう。

 まあ、ホラーゲームの配信なんて所詮対岸の火事だから笑えるのだ。実際にやる側になったらたまったもんじゃない(ホラゲー自体は結構やるのだが)。私はモフモフと菓子パンを食べ終えると、突然由希からLI○Eが飛んできた。


『今日暇?』


 お、これは遊びの連絡かな? 私は表示されたメッセージを読んでそう判断した。
 いつもなら由希の誘いには簡単に乗るのだが、今日はそうしたくても別に予定がある。流石に先に約束した河野を放っておいて誘いを受けるわけにもいかず、私は少し申し訳なく思いながら『ごめん、今日は無理』とだけ伝えた。


『なんか用事?』


 由希が尋ね返してくる。私は指をシュッシュと動かして由希に返信した。


『今日は河野とカラオケ行くことになってる』

『え、河野と?』

『うん。昨日仲直りできた。由希のおかげだよ、ありがとう』

『いやまあ私は何もしてないけど。
 まあわかった、それならいいよ』


 由希のメッセージが返ってくる。私はその時ふと少し考えた。

 ……カラオケ、由希も一緒に来ればいいんじゃないか? 私は指を動かして、その旨を彼女に伝えた。


『由希も一緒に来ていいか河野に聞いてみるよ』

『いや、悪いって』

『別に問題無いよ? 私はなにも思わないし、河野もきっと許してくれるとは思う。
 まあ聞かないとわからないけど』

『いや私が困るんだけど。知らない男と一緒とか』

『そっか。それならしかたない』


 ……まあそりゃそっか。私は由希の言葉を少し残念に思ったが、まあ、コイツの言っていることも当然だよなと納得していた。
 と。


『あ、待って。やっぱりお願い』


 少し経ってから、由希は突然手の平を返してきた。


『え? なんで?』

『いいから。とにかく、頼んでみて。お願い』


 ……? 意味わかんないな。なんでそんなにアイツのことが気になるんだろう。

 いや、これがもしも私が聞いてすぐに『お願い』って言ってたのなら話はそこで終わっていたのだ。だけど由希は一度断ってから、思い立ったように手の平を返した。だから余計に気になってしまうのだ。

 ……まさか、そういうことか? 私は少し由希の感情を訝しんだ。

 いやけど、いくらなんでも河野だぞ? 私だってアイツと仲良くはしているし、していたいとは思うが、それは友情的な意味であり恋愛的な意味ではない。男としての魅力は皆無じゃないか、アイツ。それとも由希の趣味がニッチなだけか……?

 ……いやいや、待てよ。私だって河野との関係をあれこれ詮索されたり勘違いされたりして迷惑なのに、それを他人にはするっておかしいだろ。私は自分の中に生まれた疑念を恥じて、それを心の中に封じ込めることにした。

 さすがにこういうの、口に出しては言えねーな。私はこもごもとした思いをため息で断ち、由希に『うい』と返信する。そして画面をシュッシュと動かし河野との個チャを開き、奴に今しがたの話の旨を伝えた。

 案の定、すぐに返信が送られてきた。答えも予想通り、『わたしは一向にかまわんッッ』というスタンプだ(いやこのスタンプが送られてきたこと自体は予測できなかったが)。私は河野からの肯定を受けると、由希に『いいってさ』とメッセージを送った。すると由希からはかわいらしいクマの『Thanks!』というスタンプが送られてきた。

 私はクスリと笑い、LI〇Eを閉じる。「さて」と言いながら立ち上がると、散乱した服やら化粧道具やらを踏まないよう気を付けながら部屋を移動し、荷物の用意や外に出るための化粧など、出掛ける準備をした。


◇ ◇ ◇ ◇


 薄ぼんやりとした電灯の着いた少し広めの個室内。ソファに座り込んだ私はマイクを握りしめて気分よく歌を歌っていた。

 某幻〇郷の素敵な巫女が活躍する弾幕ゲーの歌を歌い終えた後、マイクの電源を切り机にゆっくりと置く。そして机に置きっぱなしにしていた氷がたくさん入ったコーラを飲み一息をつく。


「相変わらず上手いな、姫川。僕〇〇泉の歌なんて歌える気がしないよ?」

「まー練習したからね。お、得点出た。89……惜しい」


 私は小さく舌打ちをした。机を挟んで私や由希の対面に座っている河野が苦笑いを浮かべながら、テレビのモニターを見つめて「惜しいもなにも、かなり高いだろ」と呟いた。

 ふと、端末を持った由希が「ねえ、コレって何の曲? ボカロじゃないでしょ」と尋ねてきた。私は「〇方」と受け答えるが、由希は「わかんねぇ」と返した。まあ、そりゃそうか。


「……なあ、姫川。薄々感じてたけど、もしかして天音さんってオタクじゃない?」

「ん? ああ、そっか知らないか。由希は非オタだよ?」

「……漫研にいるから意外と僕たちと同じなんだと思ってた」


 河野が由希の方を見ながら言う。由希は「ん、決めた」と言いながら端末をぴぴぴっと操作し、カラオケの機材に向けて曲目を送信した。そうしてマイクを手に取りながら立ち上がり(コイツは歌う時立ち上がる癖がある)、カチリと電源をオンにする。


「……なんか、私だけアニソンとかあんまり知らないから、場違い感あるな」

「別に気にしなくてよくない? 知らない曲歌うなんて私らの間じゃ普通だよ?」

「いや、やっぱなんか、みんなが知らない曲って歌いづらいって言うかさ。ていうか、アンタらが異常って言うか。みんな知ってる曲知らないんだもん」

「まあ、外向性の高い陽キャの集団と内向性の高いオタクの集団とじゃそれくらいに傾向に違いがあってもおかしくないよな……」


 突然河野がなんか難しそうなことを呟いた。私と由希は「?」となって、思わず河野の方を見つめる。

 河野が「ごめん」と言いながら静かに目を逸らした。なんとなくだけど、コイツなりに緊張しているのであろうことが見て取れた気がした。

 と、由希の入れた曲が流れ始める。由希は「みんなが知らない曲」とは言っていたが、聞こえてきた曲は明らかに米〇〇〇こと〇チの物で、私は『まあこの状況でみんな知ってる曲って言ったらこの人のだよなー』なんてことを思っていた。

 後で〇の惑〇でも入れようか。そんなことを考えていると、私は突然、お腹の辺りがキリキリと痛くなるのを感じた。

 ――まずい。冷たい物を飲み過ぎたか。あとアイス食べ過ぎたか。私は自分の心の中で、奇妙な後悔が広がっていくのを感じた。

 やべぇ。いくら河野とは言ったものの、男がいるという空間でおいそれと「うんこ行ってきます!」とは言い辛い。私はしばらく笑顔を引きつらせて、腹の辺りを抑えていた。


「……えっと、姫川」


 と、河野が私から目を逸らしながら話しかけてきた。


「その、無理しない方がいいよ。いや、その、僕が話しかけるべきじゃないのだろうけど、ほら。別にそういうの、気にしなくていいし……」


 河野はどことなく凄く申し訳なさそうだ。どうやら、迷いはあったものの、事態を重く見て話しかけることにしたらしい。私は些か気恥ずかしくなりながらも、なんとか苦笑して「すまん」と奴に受け答えた。


「ごめんちょっと、行ってくる」

「うん」


 私は立ち上がり、由希の前を身を屈めて通り、そして個室のドアを開けて外へと出た。そしてシャキッと立って平静を装い、そのままトイレへと駆けこんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...