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友情編
第11話「オタクとかオタクじゃないとか関係なく何かしら拗らせた奴は度し難く面倒くさい」②
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医務室。白衣を着た中年位の女性がベッドに横たわる河野を見て、「うん、大丈夫」と声を出した。
「まあ頭から血は出てたけど、そんなに大したこともないよ。まあちょっと切ったくらいでしょ。頭って血管が多いから、出血しやすいんだよ。気を付けて」
「あ、は、はい……ありがとうございます……」
私は目の前のおばちゃんにそう言って頭を下げた。河野はどうも特に体調が悪いと言ったことはないようだが、ひとまず様子見ということで、しばらくはこうして横にしておくという話になった。
「あ、でも結構強く打ったみたいだから、絶対に油断しないで。最悪後から脳梗塞とかになる可能性もあるから。そうなると、下手をすれば麻痺が残るからね」
「こ、怖いこと言いますね……」
ベッドで横たわる河野が嫌そうな顔で返事をする。保険医のおばちゃんが「とにかく気分が悪いとか、意識が変だとかになったらすぐ救急車呼ぶからね。あと今日は家に友達を呼んでおきなさい」と付け加えた。
「それにしても話は聞いたけど、なんでそんなに酷いことになったの? 投げ飛ばされるって相当だけど?」
「……まあ今回は僕にも非はあります。ちょっと、影口を言ってしまって……」
「いや、お前、確かに私らも色々言ってたけどいくらなんでもアレは無いだろ。キレるにしたってマシなやり方があっただろ」
私はすごすごと申し訳なさそうにしている河野に思わずそう言ってしまった。
まあ、確かに河野の言葉もわかるが、それにしたってアイツはやり過ぎだ。大体、そもそもアイツの人格が未熟なのが悪いのだし。私は内心でぶーぶーと口を尖らせていた。
と、しかし河野は、「いや、まあ、確かにここまでしたのはダメだけど、聞こえた時点で悪口は言った方が悪いよ」と反論した。
……なんか、アイツが悪いで良いのに妙にこの辺りこだわるな。
「お前さ、そういうところであんな奴の肩持たない方がいいぞ? 大体、あんな程度で人投げ飛ばすんならどんな理由があろうと私らはキレていいよ。下手したら死んでるんだぞお前」
由希がため息混じりで河野に言う。確かに、大袈裟な表現だが、由希の発言はもっともだ。河野は頭を強くぶつけたのだ、いくら自分にも非があるとは言ったものの、吉田の暴力の罪が軽くなるわけじゃない。
「ん……まあ、うん。そういうことにしておこう」
河野がそう言って話を打ち切る。なんか、釈然としない言い回しだ。私は彼の態度に少しモヤモヤした。
「それよりも、姫川。今後一番気を付けた方がいいのは君だよ」
私は突然河野から話を振られてビクリとしてしまった。え、な、なんで?
「その…………またなんか良くないことを言ってしまうけど、吉田くんは結構、暴走しがちな人だってことが分かったからさ」
「あ……う、うん」
「こんなことを言うのはアレだけど、あの手の手合いは関わると一番厄介だ。ああいうのはマジで行動の予測がつかない。しかも、自分の攻撃性に無自覚な節があるから、自分のあらゆる言動を正当化する傾向があると思う。
まあ何が言いたいかと言うと、アイツ、その、ストーカーとかになる可能性がある。特に姫川は好かれてたから、逆にめちゃくちゃ憎まれて、変なことをされる可能性がある」
私は河野にそれを言われてゾッと背筋が凍ってしまった。
ええ……や、ヤバいじゃんそれ。最悪私、あのクソキモオタ暴漢に襲われる可能性もあるの? ちょっと、嫌なんだけど。
私は大きくため息をついた。もう、なんでこんなことになったんだよ。本当に勘弁してくれよお。
「とにかく、しばらくは姫川に僕らが付いた方がいいと思う。まだ何もされてない段階だけど、事が起きてからでは遅いからね」
河野が言うと、一緒に来ていた部長が「そうだね」と言ってため息を吐いた。
「普通ならバカらしいって一蹴できるのだけど、相手が相手だからなあ。田中くんも、いい?」
「…………まさか、本当にオタサーの姫を守る騎士になるとは思わなかった」
田中がやれやれと肩を落とす。と、部長が「でも、河野くん。そうなると僕たちはなにをすればいいの?」と河野に尋ねた。
「うーん、そうだね。とにかく一番は、姫川を一人にしないことだ。こんなことを言うとあれだけど、姫川は女で、つまりは腕っ節が弱い。まあこの場に一人例外がいるけど。となると、何かあったときに彼女は自分の身を守れない。だから誰かが彼女を守った方がいい」
「……でもそうなると、結局僕たちってあまり何もできなくない? 帰り道も違うし……」
「そういう意味では、結局主導になるのは僕や天音さんだろうね。特に天音さんは頼もしい。僕よりよっぽど有能だ」
由希が河野の講評を聞いて「褒めてもなにも出ないぞ」と少し顔を赤くした。微妙にわかりやすい奴だな。
「だからまあ、特に帰る際は基本的に僕か天音さんと帰ること。あと人気のないところは行かないとか、徹底的な防犯意識が重要だ」
「……うう、クソ。あの野郎のせいでとんだ面倒な事態になっちまったわ。ていうかなんでコッチが気を付けなきゃならないんだよ」
「んー。姫川、2つ言っておくけど。まず、別に吉田君がストーカー化するかはわからないよ。これは比較的現実的且つ最悪の事態ってだけでしかないから」
「うぐ……確かに」
「もう1つだけど、こういう時は基本的に被害にあう側が気を付けなきゃならなくなるんだよ。話の通じない奴っていうのは本当に問答無用だからね。相手に気を付けろだとか倫理観がどうとか言っても絶対聞いちゃくれないから。頭の悪い獣に近寄ったら噛まれちゃうから、近付かないようにしようってことだよ。まあ人間社会のこの手の事象は噛んだ方を責めるべきだけど」
「……アンタたまに辛辣だよね」
私は河野のくどくどとした言い回しに少しばかり肩を落とした。まあ、こういう奴だとはわかっているけどね。
「……とりま、わかった。しばらくは由希と一緒に帰ればいいってことね」
「そうしてくれるとありがたい。天音さんは、問題ない?」
「別に私はいいけど……」
「じゃあ、決まり。
もう一度伝えておくけど、これはあくまで最悪の事態を想定した予防措置でしかない。今回の吉田君のキレ方は確かに問題があるけど、それはあくまで僕らが陰口を言っていたから起きたものだ。今の会話も聞かれてたらまずいけど。つまるところ、何もされなかったら何もしてこない可能性もあるわけだ。ストーカー化自体が僕の妄言にしかならない事も考えられる」
「……アイツならやりかねないよ?」
「だからこうしてる。けど、いくらなんでもそこまではしないだろってラインでもあるから、しない可能性だって十分に高いよ。
話が長くなってごめんね。でも、これは吉田君の名誉のためには言っておかなくちゃならないことだから。やってないことで騒ぐのは絶対にやっちゃダメだからね」
私はふと、その言葉で、私のことで騒ぎ立てた女子たちを思い出した。
……なるほど。コイツ、ここまで事細かに言及しているけど、これは決してただ単に『面倒臭い』で終わらせるべき内容じゃないのだ。
コイツがここまで細かいのは、何よりも賢いからだ。至るところでふとした視点に立ち返ることができるから、自然と細かくなってしまうだけなのだ。
ようは、アイツらとは真逆と言うだけだ。私はなにも、河野とは付き合ってないし、少女漫画の王子様が好きな訳でもない。それを自分たちの中にある私というイメージ像で、私が『やりそう』なことを、ある種の前提にしていたのだ。言葉ではきっとこの辺はわかってるはずだけど。
……そうなると、コイツの面倒臭い所は、良い所の反転にしかならないのかもしれない。私は少し、河野のくどくどを見直すことにした。
「いやめんどくさいからさ、とりまもうこの辺でいいよ。私が詩子を守ればいいんだよね?」
「うん。お願い」
「わかった。それじゃあ詩子、今日はもう帰ろう。ここにいても、別に河野の状態が良くなるわけじゃないし」
由希はそう言って医務室の出入口にまで歩いた。私が河野を見ると、河野は「行った方がいいよ。天音さんが正しい」と私に帰ることを促した。
そしてこの日、私は由希と共に、学校から家までの道を歩いていった。
「まあ頭から血は出てたけど、そんなに大したこともないよ。まあちょっと切ったくらいでしょ。頭って血管が多いから、出血しやすいんだよ。気を付けて」
「あ、は、はい……ありがとうございます……」
私は目の前のおばちゃんにそう言って頭を下げた。河野はどうも特に体調が悪いと言ったことはないようだが、ひとまず様子見ということで、しばらくはこうして横にしておくという話になった。
「あ、でも結構強く打ったみたいだから、絶対に油断しないで。最悪後から脳梗塞とかになる可能性もあるから。そうなると、下手をすれば麻痺が残るからね」
「こ、怖いこと言いますね……」
ベッドで横たわる河野が嫌そうな顔で返事をする。保険医のおばちゃんが「とにかく気分が悪いとか、意識が変だとかになったらすぐ救急車呼ぶからね。あと今日は家に友達を呼んでおきなさい」と付け加えた。
「それにしても話は聞いたけど、なんでそんなに酷いことになったの? 投げ飛ばされるって相当だけど?」
「……まあ今回は僕にも非はあります。ちょっと、影口を言ってしまって……」
「いや、お前、確かに私らも色々言ってたけどいくらなんでもアレは無いだろ。キレるにしたってマシなやり方があっただろ」
私はすごすごと申し訳なさそうにしている河野に思わずそう言ってしまった。
まあ、確かに河野の言葉もわかるが、それにしたってアイツはやり過ぎだ。大体、そもそもアイツの人格が未熟なのが悪いのだし。私は内心でぶーぶーと口を尖らせていた。
と、しかし河野は、「いや、まあ、確かにここまでしたのはダメだけど、聞こえた時点で悪口は言った方が悪いよ」と反論した。
……なんか、アイツが悪いで良いのに妙にこの辺りこだわるな。
「お前さ、そういうところであんな奴の肩持たない方がいいぞ? 大体、あんな程度で人投げ飛ばすんならどんな理由があろうと私らはキレていいよ。下手したら死んでるんだぞお前」
由希がため息混じりで河野に言う。確かに、大袈裟な表現だが、由希の発言はもっともだ。河野は頭を強くぶつけたのだ、いくら自分にも非があるとは言ったものの、吉田の暴力の罪が軽くなるわけじゃない。
「ん……まあ、うん。そういうことにしておこう」
河野がそう言って話を打ち切る。なんか、釈然としない言い回しだ。私は彼の態度に少しモヤモヤした。
「それよりも、姫川。今後一番気を付けた方がいいのは君だよ」
私は突然河野から話を振られてビクリとしてしまった。え、な、なんで?
「その…………またなんか良くないことを言ってしまうけど、吉田くんは結構、暴走しがちな人だってことが分かったからさ」
「あ……う、うん」
「こんなことを言うのはアレだけど、あの手の手合いは関わると一番厄介だ。ああいうのはマジで行動の予測がつかない。しかも、自分の攻撃性に無自覚な節があるから、自分のあらゆる言動を正当化する傾向があると思う。
まあ何が言いたいかと言うと、アイツ、その、ストーカーとかになる可能性がある。特に姫川は好かれてたから、逆にめちゃくちゃ憎まれて、変なことをされる可能性がある」
私は河野にそれを言われてゾッと背筋が凍ってしまった。
ええ……や、ヤバいじゃんそれ。最悪私、あのクソキモオタ暴漢に襲われる可能性もあるの? ちょっと、嫌なんだけど。
私は大きくため息をついた。もう、なんでこんなことになったんだよ。本当に勘弁してくれよお。
「とにかく、しばらくは姫川に僕らが付いた方がいいと思う。まだ何もされてない段階だけど、事が起きてからでは遅いからね」
河野が言うと、一緒に来ていた部長が「そうだね」と言ってため息を吐いた。
「普通ならバカらしいって一蹴できるのだけど、相手が相手だからなあ。田中くんも、いい?」
「…………まさか、本当にオタサーの姫を守る騎士になるとは思わなかった」
田中がやれやれと肩を落とす。と、部長が「でも、河野くん。そうなると僕たちはなにをすればいいの?」と河野に尋ねた。
「うーん、そうだね。とにかく一番は、姫川を一人にしないことだ。こんなことを言うとあれだけど、姫川は女で、つまりは腕っ節が弱い。まあこの場に一人例外がいるけど。となると、何かあったときに彼女は自分の身を守れない。だから誰かが彼女を守った方がいい」
「……でもそうなると、結局僕たちってあまり何もできなくない? 帰り道も違うし……」
「そういう意味では、結局主導になるのは僕や天音さんだろうね。特に天音さんは頼もしい。僕よりよっぽど有能だ」
由希が河野の講評を聞いて「褒めてもなにも出ないぞ」と少し顔を赤くした。微妙にわかりやすい奴だな。
「だからまあ、特に帰る際は基本的に僕か天音さんと帰ること。あと人気のないところは行かないとか、徹底的な防犯意識が重要だ」
「……うう、クソ。あの野郎のせいでとんだ面倒な事態になっちまったわ。ていうかなんでコッチが気を付けなきゃならないんだよ」
「んー。姫川、2つ言っておくけど。まず、別に吉田君がストーカー化するかはわからないよ。これは比較的現実的且つ最悪の事態ってだけでしかないから」
「うぐ……確かに」
「もう1つだけど、こういう時は基本的に被害にあう側が気を付けなきゃならなくなるんだよ。話の通じない奴っていうのは本当に問答無用だからね。相手に気を付けろだとか倫理観がどうとか言っても絶対聞いちゃくれないから。頭の悪い獣に近寄ったら噛まれちゃうから、近付かないようにしようってことだよ。まあ人間社会のこの手の事象は噛んだ方を責めるべきだけど」
「……アンタたまに辛辣だよね」
私は河野のくどくどとした言い回しに少しばかり肩を落とした。まあ、こういう奴だとはわかっているけどね。
「……とりま、わかった。しばらくは由希と一緒に帰ればいいってことね」
「そうしてくれるとありがたい。天音さんは、問題ない?」
「別に私はいいけど……」
「じゃあ、決まり。
もう一度伝えておくけど、これはあくまで最悪の事態を想定した予防措置でしかない。今回の吉田君のキレ方は確かに問題があるけど、それはあくまで僕らが陰口を言っていたから起きたものだ。今の会話も聞かれてたらまずいけど。つまるところ、何もされなかったら何もしてこない可能性もあるわけだ。ストーカー化自体が僕の妄言にしかならない事も考えられる」
「……アイツならやりかねないよ?」
「だからこうしてる。けど、いくらなんでもそこまではしないだろってラインでもあるから、しない可能性だって十分に高いよ。
話が長くなってごめんね。でも、これは吉田君の名誉のためには言っておかなくちゃならないことだから。やってないことで騒ぐのは絶対にやっちゃダメだからね」
私はふと、その言葉で、私のことで騒ぎ立てた女子たちを思い出した。
……なるほど。コイツ、ここまで事細かに言及しているけど、これは決してただ単に『面倒臭い』で終わらせるべき内容じゃないのだ。
コイツがここまで細かいのは、何よりも賢いからだ。至るところでふとした視点に立ち返ることができるから、自然と細かくなってしまうだけなのだ。
ようは、アイツらとは真逆と言うだけだ。私はなにも、河野とは付き合ってないし、少女漫画の王子様が好きな訳でもない。それを自分たちの中にある私というイメージ像で、私が『やりそう』なことを、ある種の前提にしていたのだ。言葉ではきっとこの辺はわかってるはずだけど。
……そうなると、コイツの面倒臭い所は、良い所の反転にしかならないのかもしれない。私は少し、河野のくどくどを見直すことにした。
「いやめんどくさいからさ、とりまもうこの辺でいいよ。私が詩子を守ればいいんだよね?」
「うん。お願い」
「わかった。それじゃあ詩子、今日はもう帰ろう。ここにいても、別に河野の状態が良くなるわけじゃないし」
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