愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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友情編

第一部最終話「どんな人にでも変化は訪れ、それは止めることはできない」②

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 由希と仲直りをしてから数日程が経過した。私は綺麗になった部屋の中で、1人呆然と過ごしていた。

 ……暇だ。最近まで、河野なり、由希なり、誰かしらが部屋にいたため、騒がしさに慣れて少し寂しさを感じるようになってしまった。

 一人の時間は確かに好きだ。だけれども、だからと言って誰かと関わるのが嫌いというわけではない。面倒臭いことに、私も人間なので、誰かと一緒にいたいだとかは当然思ってしまうのだ。


 ――はてさて。どうしようか。私はふと、スマホを手に取り、そして画面を開くと。

 ピコン、という音が鳴って、私の画面に河野の名前が表示された。


『ご飯行かない?』


 ――河野からの連絡だ。私はそうと思うと、パパパッと画面を操作して、河野に伝えた。


『おk。行こう』

『それじゃあ、どこがいい?』


 決めてないんかい。私は内心で河野に突っ込むと、「んー……」と呟いて、少し、考えた。


 ……まあ、河野とだったら――ここが一番だよな。私はそう思うと、画面をフリックして、自分の意思を伝えた。


『ごまふあざらし、行こう』


◇ ◇ ◇ ◇


 そういうわけで、私は河野とコンビニ前で待ち合わせをして、ラーメン屋の『ごまふあざらし』へとやって来ていた。

 今日も大盛況らしい。なかなかに脂っこい匂いが私の鼻腔をくすぐってくる。私は舌つづみを打って、隣にいる河野へ話しかけた。


「やっぱここだよね。重いけど、それがいいって言うか」

「……まあ、そうだね。僕も、結構好き」


 私は河野の方をふっと見つめる。

 ……なんか、今日コイツちょっとよそよそしいな。私は河野の様子になんとなくそう感じた。

 そうして店に入り、暑苦しい店員の声を聞き、机に座る。どうでもいい会話をあーだこーだと交わして、私たちは注文したラーメンをスルスルと食べた。

 そして、そろそろ会計に行こうかと机を立つ前。突然河野が、やけに声を詰まらせながら、こんな事を言ってきた。


「……きょ、今日は、僕が奢るから……」


 私は、いつもと趣向が違う河野に首を傾げた。

 何を考えているのだろうか。普段なら、自然と自分の分を払う流れになるのに。

 ……まさかって思うけど。


「……何言ってんの? いや、別にそんなことしなくていいわよ。私だって、自分の分くらいは自分で面倒を見るよ」


 いやいや、そんな訳無いだろ。そう思いながら、私は河野に自分の意思を伝える。

 と、河野はどうやら押し負けたようで、「あっ、う、うん……」と言ってすごすごと従ってしまった。

 いや、本当、何を考えてんだか。私は河野のことを何度か見ながら、そうして、会計を済ませ外に出た。

 そんな感じで、帰り道に。以前河野と話した公園に差し掛かったところ、河野は突然私にこう提案した。


「その、少し話が、したいのだけど……」


 やけによそよそしく気まずそうな態度に私はちょっとだけドキリとした。

 なんだ一体、何を話したいんだ。さっさと帰ってしまおうかとも思ったけれど、なんとなく話を聞こうと思って、「う、うん」と声を詰まらせて返事をした。

 そして前と同じくベンチに座り。河野は私の隣に座ったまま、何も言わずしきりに手を揉みこんでいた。

 ……なんだ、一体。なにを言いたいんだ、一体。私は迫る予感に、手足が冷たくなっていくのを感じてしまった。

 と。河野は「よしっ」と言うと、私の目を見て、そして意を決したように、


「……姫川」

「えっ……は、はいっ、」

「その……いわ、なきゃいけないことがあって……」

「は? ちょっ、まっ――」

「ごめんっ!」


 ――ん? 私は突然頭を下げた河野に、少しばかり虚を突かれてしまった。

 ……なんだ。なにか悪いことしたのか、コイツ? 私はなかなか思わない台詞回しに自分でも何を言っているんだと言う気持ちになった。


「……どゆことよ?」

「あ、いや、その……説明しないとわからないよな。その、なんというか……」


 河野はそう言うと、スマホの画面を取り出して、私がかつて送った漫画のネームを見せてきた。

 ……これが一体、どうしたって言うんだ?


「その……。実は、これ……。
 …………天音さんに、見せちゃった、んだよ……」


 ……。
 ………………。
 ……………………え?


「ちょっ――えっ、これ見せたの!? うわ、おま、な、なんてことを!」

「ごめん! い、言い訳はしないから! それで、お、お詫びに晩御飯くらい奢ろうかって思って……」

「説明がないから何から何まで意味わかんなかったわ! ま、まじ、マジかぁ……! うわ、恥ず! えっ、ちょっ、うわぁ……本当、なにを……こんな……」


 私は顔を抑えて、ため息を吐きながら項垂れた。河野はただ「ごめん、本当にごめん!」と謝り続けるだけで、それ以上に何かを言おうとはしなかった。

 なんだよ。こんなことかよ。私はてっきり…………。

 ……いや。それよりもだ。私はふと、疑問が浮かんだ。

 なんでコイツは、由希にわざわざこんな漫画を見せたのだろうか。

 そうだよ。大体、コイツは口が堅い人間だ。そんなおいそれと他人の秘密を漏らすほど、不誠実な人間ではない。

 ……だとしたら。私は落ち着いて、息をゆっくりと吸ってから、河野に話しかけた。


「……なんか、事情があるんでしょ?」

「え……」

「アンタが他人の漫画おいそれと他の奴に見せるほど、軽率な人間じゃないってことは知ってるよ。てことはなんか、そうしなきゃって思った理由があるんでしょ? いやもしかしたらLI○Eで聞かれたとかかもしれないけど……」

「あう……そ、そういうのじゃないのだけど……」


 河野はやけに汗ばんで、私から目を逸らそうとしていた。

 ……なんだよ、一体。私は私の知らないうちに河野と由希が妙な秘密を抱えていることが気に入らなくて、口を尖らせて河野に質問した。


「なによ、一体。どういう理由で教えたの?」

「……その……」

「教えろって。なんか、言えないことなの?」

「そういう訳じゃないけど」

「じゃあいいじゃん。教えろって。なあ、私とアンタの仲でしょ?」


 私が詰め寄ると、河野はやがて大きくため息を吐き、「うん、それじゃあ……」と言って理由を語り始めた。


「……その、天音さんと、この前……君に会いに来るってLI○Eした時の……あの時、実は彼女と話したのだけど」

「……ふむ」

「それで、その……君との関係が変わって壊れるのが嫌だって。だから、この漫画見せて……君がどれだけ、天音さんを大切にしているかを、その、伝えた……というか……」


 ……なるほど。私は河野の言葉を聞き、色々合点がいった。

 だからあの時、由希が急に私の前に来たのか。いきなりのテンションの変わりようだな、とは少し思ったのだが、まさかそう言う事情があるとは。


「ごめん。その、それでも君の漫画を勝手に他人にみせたことは変わりないよ。約束してたのに、破ってごめん」

「……うーん。そう言う事情なら仕方ないっていうか……って、あれ? 私、いつあんたに漫画を他人に見せないでって約束したっけ?」

「えっと、ここでだよ。最初に来た時。彼女には見せないって言って、君がありがとうって……」


 私は心当たりがなく、ゆっくりと河野の発言を思い出す。

 ………………。
 ……そう言えば……なんか、あざますって言った覚えは、無くはないような。私はため息を吐いて、呆れて河野に言った。


「……なんか、思い出しはしたけどさ。アレって、約束ってことになるの?」

「僕はそのつもりだったけど……」

「いや、まあ、うん。てか、どうでもいいこと覚えてんのね、アンタ」

「だって、君に関わることだし……」


 河野はもごもごとしながら私にそうと言った。

 ……なんだよ、本当に。私ははぁ、とまたため息を吐いて、ベンチから立ち上がった。


「どうでもいいよ、そんなの。まあ、恥ずかしいかどうかでいえばそうだけど。けど、そのおかげで、由希と仲直りできたし」

「……え? いいのかい?」

「いいって。私がそうと決めたんだから」


 私は1歩、2歩と前に進んだ。しかし河野は、「でも、それだと僕の気が晴れないよ」とやけに食い下がった。


「えー。いいって言ってんのに。めんどくさいぞお前」

「……ごめん」

「別に謝らんでいい。……まあ、それならでも、そうだな……」


 私は少し考えてから、やがて案を思い付き、河野に言う。


「……そんじゃあ、明日一緒にカラオケ行こうよ」

「い、いいけど……でも、その、お金は僕が……」

「うるせぇ。そんなもんはいいんだよ、別に。私はアンタの予定を使う。それで十分。大体、女子だからって奢るのが正解だって思うな」

「……いや、その、これしか思いつかなかったっていうかさ」

「ああもう、本当に面倒臭い」


 私は呆れて肩を落とした。河野がまた「うぐ」と黙り込んだのを見て、私は笑顔をコイツに向ける。


「明日もよろしく、河野」


 私がそう言うと、河野はぽかんと私を見つめてから、「うん……」と小さく呟いた。
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