愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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友情編

第20話「どんな人にでも変化は訪れ、それは止めることはできない」

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「……お、お前、突然なんだよ、本当。は、廃墟に連れてかれてボコボコにされるとかないよな?」

「僕にそんな野蛮な人脈はない」

「本当になんだよ。や、やっぱり前のことだろ? それで僕をまたバカにするんだろ?」

「前のことについては、うん。アレはお互いが悪い。だから僕はこれ以上何も言わないよ」


 僕と吉田は、歩きながらそんな会話を繰り広げていた。
 吉田はどうやら、僕の行動が甚だ疑問だったようだ。

 当然だろう。この前突き飛ばした相手が突然話しかけてきたわけなのだから。些か変に思われないだろうか、などとは僕も考えたし、躊躇もしたのだけれど、彼と話しをすることは大事なように思えて、なんとか心を落ち着かせて話しかけるにいたった次第だ。


「……お前、コミュ障じゃないんだな……」

「コミュ障ではあるよ。なんていうか、自然な関わりと言うのが苦手でね。特にこういう、こちらから話しかけるって時には。それで、いつも変な奴ってバカにされるよ。まあ諦めてるけど」


 吉田は「どういうことだよ」と肩を落とした。僕はそれに対し、「コミュ障にもタイプがあるってことだよ」と受け答えた。


「……それよりも。僕が話したかったことは、あの後の経過についてだよ」

「……経過って……なんだよ。お前、やっぱり僕のことバカにしに来たんだろ? ひ、姫川との関係、自慢したいって……」

「だから、僕はアイツの恋人でもなんでもないって。そうじゃなくて……あー、なんだろう……」


 僕はうまく言葉がまとまらなくて、頭をガリガリとかいた。勢いで行動したことを、少しずつ後悔し始めてきた。

 とはいえ、コミュ障の大半は、気にしなくてもいいことを気にして話しができなくなるだけということが多い。僕は色々と考えてから、「んー……」と呟きながら、まとまらない質問を呟いた。


「……なんていうかさ。姫川のこと、どう思ってるの? 今」

「……やっぱり、ひ、姫川のことじゃないか」

「あいや、そういう意味じゃないって言うか。なんていうか、アレだよ。その、上手く言えないな。恋とかそう言うのじゃなくて、なんていうか、純粋に君の気持ちが聞きたいと言うか……」

「な、なんだよ、それ。やっぱりお前、僕のこと……」

「だから、違うよ。以前君のことで陰口を言ったのは悪かったって思ってる。そういうの諸々含めて、今精算しないと、なんか、色々不都合でさ。だから、こうやって話しかけた」

「…………。
 ……わかったよ」


 吉田は甚だ疑念を感じているように、しかし僕の質問に答える気になってくれた(やっぱり結構押せばいけるタイプだな)。


「……。姫川には、正直失望したよ。だって、あんなにも清楚な感じだったのに、いきなり男がいたなんて」

「……ふむ」

「……それで、ネットでそのこと呟いてたら、頭おかしい奴に絡まれて、口論になった。ていうか、本当、自分に関係ないのに、なんでいきなり絡んで来るんだよ。意味わかんないな」

「……えっと、それで、その後どうなったの?」

「……まあ、でも、ネットじゃあ基本的に、僕がキモイって話になって。ムカついてさ、もう本当……。他人のことバカにしかしない癖に、偉そうに意見するなよって」

「…………ふむ」


 大分拗れてるな、コイツ。僕は少し冷めた視線で吉田のことを見てしまった。


「……まあ、そんな感じだよ。……お前も僕のことキモイって思ってるんだろ、どうせ?」


 僕は吉田に質問をされて、少し焦ってしまった。

 ここでおいそれと「はい」と言えば、間違いなく拗れてしまうだろう。かと言って何も言わなければ、それはそれで、こいつのことだから、イエスと捉えるだろう。僕はしばし「ん~」と声を出してから、必死で頭を捻って、なんとかその場を誤魔化そうとした。


「……まあ、その、なんだ。キモイかどうかは、一旦置いておこう」

「……なんだよ、それ」

「ただ、ひとつだけわかったことがあるのは……。君、結構、その、冷静に物を見ることができてるんだね」


 僕は努めて言葉を選び、何となく感じたことを吉田に伝えた。吉田は「は?」と言って、僕に少し怒ったような表情を向けた。


「それ、結局そう思ってるってことだろ? なんでちょっと遠回しなの? やっぱりおちょくってるだろ、お前」

「……まあ、そう捉えられても仕方ないか。
 なんで僕がそう思ったかって言うと、誰よりも君自身が、やたらと自分のことを気にしているからだよ」

「……どういうことだよ」

「ハッキリと言うね。やっぱり、君のしていることは、良いか悪いかで言えば間違いなく悪いと思う」

「それってキモイって……」

「最後まで、聞いて。君がなんで怒るかって言えば、君自身が自分のことを、そうだって思っているからだ」

「っ、そん……」

「他人に敏感な人って言うのは、得てして自分の中に気になる所があるからだよ。ニキビができると、やけに顔が気になるだろ? アレと同じ」


 僕は吉田の言葉を遮って、とにかく臨界点まで喋り通すことにした。たぶん、吉田に何かを言わせれば、単なる口論にしかならないって思ったからだ。


「けど、自信家な人間ってのは自分が見えていないだけって場合がある。結果的にそっちの方が変な動きは減るけれど、僕的にはこちらの方が厄介だ。ようは無知ってことだからね」

「……何が言いたいんだよ」

「君は確かに悪いかもだが、そんなに問題にならないってことだよ。それこそ、他人の事にわざわざ突っ込んでバカにする方がよほど阿呆だと僕は思うよ。ネットってそういう人多いだろ?」


 僕の言葉を聞いて、吉田は少しムスッとしたまま「まあ」と同調した。

 よし、まあ取り返しがつかないわけではないな。僕はなんとか会話が続いたことに少し胸をなで下ろした。


「君が怒るのは、おそらく、君の中に君自身を責める気持ちがあるからだよ。ようは自覚があるんだ。これは心理学の話なのだけど、自覚のない人間ってのは、自覚がある奴より知能が低いって研究がある。そういう意味では、君は決して悪い方ではないよ」

「……」

「きっと心当たりがあると思うんだよ。……正直、思ってたところもあると思う。姫川に裏があるかどうかって言うの」


 大概、ネットの世界でヒメというのは醜い女の塊みたいなイメージがある。そう言われているのなら、どこかでその疑いが彼女に向いていてもおかしくは無いはずだ。

 僕がそう思って吉田に問うてみると、吉田は「……正直、わかってはいたよ」と、ビンゴな回答をした。


「……そりゃあ、その……姫川だって女子だしさ。そう言う汚い面があってもおかしくはないって、そう思ってはいたよ。けど、なんていうか……」

「……信じたくなかった?」

「う、うん。けど、やっぱり、そうだよなって。それに、何よりも、そんなことを信じていた自分がすごい気持ち悪いって、わかってはいたんだよ。でも、なんだろう。……それを認めると、なんか、凄い……負けた気がするって言うか」

「……確かに、ね」

「……なんか、言ってて死にたくなってきた。こんなんだから、僕は未だに童貞なんだよな……」

「……」


 僕は少しだけ会話に溜めを作った。言葉を選ばなければならないと、そう思ったからだ。

 ……自分の内面に視点が向いている今なら、まあ、なんとか言えるかもしれない。僕はそう判断すると、努めて平静になりながら、彼にゆっくりと意思を伝えた。


「……自分の悪さを自覚できる人間は、成長していけるよ。完璧な人間はどこにもいないのだから、僕らは足掻くんだよ」

「…………そう、なの、かな……。………………。
 ……河野」


 吉田が僕に顔を向ける。僕は彼を見詰めて、その先の言葉を待つ。


「……変われるかな、僕」

「……そりゃあ、ね。変わらない人間なんて、どこにもいないよ。であれば、君だって変わっていくさ。あとは、それをどうコントロールするかだと思う。
 とりあえず、できることをめちゃくちゃにやってみるのがいいと思う。それこそ、食べる物だとか、知識だとか」

「……なるほど。……わかった。……そうだよな。自分が気持ち悪いのなら、なんとかするしかないんだよな」


 吉田はそう言うと立ち上がり、「なんか、ご、ごめんね。変な相談しちゃって」と言った。


「まあ、僕から始めたことだけどね。別に、気にしなくてもいいよ」

「い、いや、そんな……。
 そ、そうだ。よ、よかったら、その、姫川に、ちょっと、伝えておいて欲しいのだけど」

「……なんだい?」

「えっと……。ちょっと、この前のアレは、流石にやり過ぎたから。だから、あ、謝って、欲しいというか。ちょ、ちょっと、会いづらくって、さ、避けてたからさ。僕。か、顔、合わせられないし。だから、君が、おね、がい」

「……わかったよ。僕から伝えておく」

「あ、あり、ありがとう。それじゃあ、また」


 吉田はそう言うと、すてすてと僕の前から歩き去っていった。

 ……ちょっと無計画が過ぎたか。あのままだったら、当初の目的を達成できなかったかもしれない。

 けど、とりあえず、なんとかアイツの動向は把握できた。僕は吉田が去った後に小さくため息を吐いた。


「……これで、姫川の家に泊まらなくて済むな」


 僕はそうして、スマホを取り出し、姫川に吉田と話した旨を伝えた。
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