愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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恋愛編

第3話「『オタクちゃんみんなが興味ないことやけに喋りまくるよね』って言われたって、だってオタクなんだから仕方ない」

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 私こと姫川詩子は、友人である天音由希を引き連れて、ファミレスでランチを食べていた。

 午前中は最寄りの映画館で映画を見ていた。少し気になるアニメ映画があったので、1人で見に行こうかとも思ったが、せっかくなのでと友人を誘ってみた次第である。

 しかしとは言え、見た映画の内容は正直酷かった。最初こそエモエモのエモな世界観と絵柄で『あ……素敵……』と思わせて来たものの、ストーリーが進めば進むほど何が何だかわからなくなり、結末ではもはや抽象画の域になっていた。

 間違いなく外れだ。最近はなんか、ちょっと前に2人の男女が入れ替わってわちゃわちゃする作品が鬼流行りしたせいか、劣化型のそれみたいな作品が増えた気がする。私はカルボナーラを口に入れながら、由希に映画の感想を伝えた。


「なんていうか、本当に描写の意味がわからなかったって言うか。もしかしたら2度3度見ればストーリーもわかるのかもだけど、でも正直、アレにそう何度もお金をかけたくないっていうのが本音と言うか。序盤の展開と雰囲気は良かったんだけど、中盤辺りから設定もあやふやになってきてたし」

「あー、まあ、うん。なんかビミョかったよね」

「うん。微妙……って言うか、作品としては正直下の下って言うか。……あー、ごめんね? せっかく遊びに来てるのに、盛り下がることばっか言っちゃって」

「まあ、私は詩子と過ごせるだけで楽しいから十分だよ」


 由希がそうと言って笑った。

 ……彼女の言う楽しい、は、きっと、友達としてと言う意味ではない。由希は私を、明確に1人の恋愛対象としてそう言っている。

 天音由希は、正真正銘のレズビアンだ。そして何より、彼女は私に好意を抱いている。

 意識するとどうにも妙な気分になるが。しかしそれでも、私はこいつと友達としての関係を望んでいる。由希は現状、私のその想いに合わせてくれている感じなのだが。

 正直、少し過ごしにくいと思わなくはない。だけれどまあ、私と由希の関係性は不思議なことに、いい具合にいい感じの距離感で収まっている。


「なんかさ、上手く言えないんだけど……やりたかったことはわかるのよね。親子の繋がりというか、そういうのをテーマにしてたんだろうな~って。ただ、それだとしても幼馴染の男の子がこれみよがしにストーリーに関わる雰囲気で出てきた割に、大して活躍しなかったし。アイツいなくても話が成立したって言うか」

「あー、まあ、確かに」

「あとさ、なんか……仮想のネット世界と現実がリンクし始める、って予告だった癖に、そうでもなかったし。私、よくわかんなかったわ。どの辺がリンクしてんの、って。いや微妙に繋がりはあるんだけど、ガッツリじゃないって言うか。かすってる程度って言うか」

「あー、それもなー」

「なんか、アレよね。エモいの作れって言われて作りましたって感じってか。結局、前流行った映画の二番煎じで、しかもあれの何がよかったのかを全く理解してないで雰囲気だけ真似たってか。まあでも、世界観は良かったし、絵の雰囲気も好きだった。あとは内容よね~、本当」


 私はくどくどと映画の感想を語っていく。由希は笑ってはいるが、「うん」とか「あー、」とか、そういう反応ばかりで、私の言葉に頷いたり納得するだけだ。

 ……んー、まあ。由希に感想言えってのは、そりゃあ難しいだろうけど。私は由希の反応に少しだけ満たされない感じを抱きつつ、ひとまず、彼女も楽しめるように話題を切り替えた。


「……次、服見に行くんよね?」

「あ、うん。なんかいい感じのないかな~って」

「ん、オケ。そういや、私も新しいコスメとか見に行きたいんだけど、いい?」

「いいよいいよ。行こう」


 由希はさっきよりも心のこもった笑顔で私を見つめてきた。

 私はそれに、さっきの由希みたいな笑顔を返して、ひとまず映画の話は置いておくことにした。


◇ ◇ ◇ ◇


 前回のカラオケは微妙な感じで終わった。だからもう清水からは遊びに誘われないものだと思っていたが、不思議なことに、彼女は僕をゲームセンターへと誘ってくれた。

 そうして今、僕は夜のゲームセンターへと来ている。
 隣では、清水が真剣な目でクレーンゲームの景品を睨みつけている。白いくまのようなぬいぐるみが欲しいらしく、もう既に500円ほどつぎ込んでいる。


「……っだァーっ! また取れなかった!」


 アームが一度掴んだぬいぐるみをぽろりと落としたのを見て、清水が頭を抱えた。僕は彼女の様子に些か苦笑いをしてしまった。


「……クレーンゲームは難しいよね」

「本当。どうやったらこんなの取れるんだろう。やっぱり、こういうのって店側が儲かるようにできてるのよね」


 清水がため息を吐きながら言う。僕は彼女が少し暗い顔をしたのを見て、無性にいてもたってもいられなくなった。


「……ちょっと、やってみるよ」


 僕はそう言って財布を取り出し、100円玉を入れながらボタンの前に構えた。

 清水が「あっ……」と言って少し僕から距離を取る。一瞬しまった、と考えたが、とにかく目の前のクレーンゲームに集中することにした。

 クレーンゲームは、直接景品を取ろうとしても中々取れない。いくらかお金をかけて、少しずつ穴へと誘導することが必要だ。

 とは言え、僕はクレーンゲームに慣れている訳では無い。正直なところ、取れるかどうかも分からないが……。

 僕はそうして計算をしながら、ボタンを押してアームを動かした。

 くまのぬいぐるみは、頭が大きく、小さな丸太のような手足が胴体から伸びているようなデザインをしている。無論一番重たいのは頭であり、とりあえずこれを穴のところにはみ出させればそれだけで落ちそうだ。

 僕はそうして、アームを下ろして、くまの胴体を掴ませた。するとくまのぬいぐるみが少し浮き上がり、ちょっとだけ穴へと動いて、僕は小さく「よしっ」と呟いた。

 しかし、ここから僕は見事に沼にハマってしまった。計算した通りにぬいぐるみは動かず、その後500円をつぎ込んだがそれでも取れなかった。


「……えっと、別にいいよ、河野?」


 清水が僕に声をかけてくる。僕は「まあ、うん」と空返事をしながら、しかしやけにムキになってしまって、更に100円玉を投入した。

 そこから2度、3度とキャッチに失敗してから。合計1000円を投入した頃合いに、ようやくくまのぬいぐるみは手に入った。

 僕はぬいぐるみをクレーンゲームから取り出すと、「ん」と言って清水にそれを渡した。


「え?」

「あ、いや……欲しかったんでしょ? あげる」


 僕はそう言って、押し付けるように清水にぬいぐるみを渡した。

 渡した後から、少し羞恥心のようなものが僕の中で芽生え始めた。
 なんと言うか、これでは完全に、彼女の欲しがった景品を取ってあげた彼氏のようじゃないか。僕がそんな感じで、少し甘酸っぱいような感情を呈していると、清水は小さく笑って、僕に受け答えた。


「なにそれ」


 清水のそれは、純粋におかしいと思った上での笑みだった……と、僕は感じた。

 少なくとも、彼女は喜んでくれたようだ。僕はそれがちょっとだけ嬉しく思った。


「ありがと。てか、私のために取ってくれたん?」

「……まあ、正直僕いらないし……」

「へぇ。河野、やっぱ優しいね」


 僕は彼女の言葉が少しむず痒く思った。

 ……ああ、クソ。やっぱり、意識してしまうな。僕は心の中でそうと呟く。

 彼女の笑みは、決して好意からではない。正直、僕からしても、彼女の行動は一切合切が謎で仕方がない。
 何よりも、彼女はかつて、僕にあんなことをしたのだ。それなのに好意があるなんて、僕には到底思えない。

 一体、どういう風の吹き回しなのか。僕がそんな感じで、清水について思い悩んでいると。


「あれ、心春じゃん」


 突然、清水の向こう側から、何人かの男たちが現れて、そのうちの一人が彼女に話しかけた。

 清水はビクリと身を震わせ、後ろを振り向く。途端、僕は彼女に違和感を覚えてしまった。

 怯えていたのだ。全体的に動きが固くなって、なにか気まずさを感じているような、そんな雰囲気があった。


「あ……ま、誠……」


 話しかけてきた男は誠と言うらしい。僕は突然よくわからない雰囲気になった両者に疑問符を浮かべた。


「久しぶりじゃん。そっちの男だれ? 彼氏?」

「あ……いや、そんなんじゃないけど。て、ていうか、話しかけてくんなって言ったじゃん」

「なんで、酷くない?」

「あ、アンタがそれ言える立場じゃねぇだろ!」


 清水は酷く狼狽しているようだった。僕はよくわからなかったが、とにかく、どんどんと気持ちが追い詰められているようにも見える清水に不安だけが募っていった。


「あ~、まさか、まだあの時のこと気にしてんの?」

「は……?」

「いやまあ、俺も悪かったけどさ。でもさ、お前だって流されてそのままやっちゃったのがまずかったんじゃん。だから、あん時のことは、お互い様ってことで……」

「――ッ、ふざけんな!」


 清水が目を見開いて、牙を剥き出しにするように吠えた。

 ゲームセンター内に、清水の金切り声とも言える音が響く。僕は途端に心が一気にヒヤリとするのを感じた。


「お前、あれでどんだけ私が傷付いたと思ってんだよ! なのにそんな、そんな簡単に……」

「ちょっ、マジになんなって。雰囲気悪くなるし、抑えろって」

「全部お前のせいだろ!」

「あーめんどい。ちょっ、もう俺ら行くわ」

「待てよ、まだ話は……!」


 ――まずいな。僕はそう判断すると、清水の腕を思わず掴んでいた。


「――清水、落ち着こう」


 僕がそう声をかけると、清水はしばらく鼻息を荒くした。
 声を必死に抑えているのが伝わってくる。僕は彼女が冷静でいてくれたことに内心で感謝しつつ、彼女の前に一歩出て、前のよくわからない男に小さく言った。


「ごめんなさい。……僕ら、行きますんで」


 努めて誠実に言ったが、内心では、この男を刺すような気持ちだった。事情はよくわからなかったが、僕の本能と言える何かが、この男を毛嫌いしていたのだ。

 そうして僕は、清水の手を引いて、そそくさとその場から立ち去った。
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