愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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恋愛編

第2話「運命とは都合の良いものでは無い」①

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 僕が思うに、恋心とは性欲の一種だ。

 正しく言えば、単なる性欲とはまた違っている。だからこれは大いに語弊を孕んだ言い回しなのだけど、案外的を射ていると僕は思っている。

 男は性欲と恋を度々勘違いする。某アフロの男がそんなことを言っていたが、これは事実だ。
 そしてなぜ勘違いするのかと言えば、恐らく、実際問題恋と性欲は実に似通った感情だからであろう。この点については、おそらく女性も変わりない。

 そも、恋愛とは一体何か。それは、子孫繁栄のための行為に他ならない。
 何も性的なことを指すわけではない。しかし、恋愛という行動はもちろんそうした行いと繋がってはおり、僕から言わせれば、プラトニックなラブというのは所詮幻想だ。

 実現可能かどうかで言えば、可能だろう。しかしこういう場合、一部の例外を取り上げ『可能』とすることは、例えるなら、この人生でTASをするようなものだと言えるだろう。生憎と、僕たちは理論値の通りに動くことはできない。

 そも、恋をした時点でそこには肉欲が関係してしまっているのだ。少し下品な話をするなら、例えば、手を握るか握らないかでドキドキをするラブコメがあるだろう。もしくはそう言う経験をしたことがある人もいるだろうが、その時、特に男性は、大概下半身が反応してしまっている。

 そう。僕たちは体感的に、知らず知らずに先の事を経験しているのだ。恋愛とは、全く持って健全なポルノと呼んでも遠からずとも近からず、なのだ。

 だから、男女に関わらず恋愛の物語は人気だ。そして特に言えることだが、恋愛は特に、例えばセッ○スやそのプレイ内容ではなく、より情緒やシチュエーションを重視した内容となる。だからこの手のエロスは女性からの支持を集めやすい。

 女性は男性に精神的な繋がりを求める。この心理を裏付けるような面白いデータがあり、男は女性が女性と浮気をしても許す傾向があり、しかし女性は男が男と浮気をすると許さない傾向がある。子を孕ませたい男と守ってもらいたい女と言う違いが明確に出ている。

 シチュエーションはエロスにおいて重要な要素だ。男であっても、例えば合意か非合意か、どちらが責めでどちらが受けか、そもそも2人の関係性はどんなものなのか、ということで、性の趣向が大きく異なってくる。

 そういうわけで、僕はやはり、恋心とは、男女関わらず性欲の一種だと思っている。とは言え、あくまで個人の見解であり、決してどこそこの大学で証明されたというわけでは無いのだが。


 ところでだが。どうして僕が、このような小難しい考察を巡らせているのか。それは、僕は現在、そうしたことを考えさせられる現場にいるからだ。


「河野、次何歌う?」


 僕の隣で、明るい茶髪の女性が語り掛けてくる。僕は隣から香ってくる彼女の匂いと、あまりに近しい距離感とに些かの葛藤を覚えた。

 彼女は白いニットの服を着ており、足元まで覆った柔らかなスカートが動く度にふわりとした。女性的で可愛らしい印象を受けるそれに、僕はわずかばかり心を刺激され。


「……えっと、清水(しみず)、近いよ……」

「えー? 気にしすぎじゃない?」


 隣の女性はそう言って僕の肩を軽く小突いてくる。思わぬボディタッチに僕の精神は余計に掻き乱される。

 彼女の名前は、清水心春(しみずみはる)――僕の幼馴染であり、そして何より、僕の、初恋の人だ。


◇ ◇ ◇ ◇


 清水との出会いは、2週間ほど前に遡る。

 本屋で好きなラノベの新刊が出たということで買いに行ったところ、偶然にも彼女と鉢合わせたのだ。

 彼女を見つけた途端に、僕は驚きで身が竦むのを感じた。僕にとって彼女との思い出は、正直、あまり良いものではなかったからだ。

 すぐに隠れてやり過ごそうと思ったのだが、しかし清水は、僕を見つけると「あっ!」と言って話しかけて来たのだ。


「河野じゃん、久しぶり!」


 僕はそれに殊更ビックリして、思わず口ごもってしまったのを覚えている。しかし彼女は、僕のそれを「あはは、なにそれ!」と笑い飛ばしながら、それでも尚僕に話しかけてきた。


「なにやってんの? 何の本買ってんの?」
「相変わらずオタクだね、河野」
「へぇー、それ面白いんだ~」


 そんな感じで、清水は僕の想像と違ってやたらと僕に興味を持っていた。

 訳が分からなかった。あんなことがあったのに。僕はそう思いながらも、彼女と言う人間を拒むことが出来ず、そして、やがては彼女からの提案を流されるままに受けてしまった。


「今暇? よかったらご飯食べに行かない?」


 益々持ってわからなかった。わからなかったけど、自分の中の欲求に抗うことができなかった。

 そうして僕は、彼女と食事へ行き、なぜかLI○Eを交換し、それからこうして、度々と遊ぶ関係になっている。

 姫川や他の友人と遊ぶ間に挟まるような感じで、正直自分の時間というのはかなりすり減ったのだが。他方、僕はあまりそれを気にしていなかった。なぜなら、僕はそれ以上に、彼女のことに興味があったからだ。

 なぜ、清水は僕にやたらと絡むのか。少なくとも僕達の関係は、そんな仲睦まじい物では無かったはずなのに。

 しかしその正体を突き止められないまま、僕は清水と今の今までをズルズルと過ごし続けている。

 ――心当たりが無かった訳では無いが。とは言え、その程度でこうまで彼女が熱烈な興味を持つとは考えづらい。僕は自分の頭に浮かぶ妄想を打ち消すのに必死だった。


「……河野が歌う曲ってさ、なんか、正直わかんないの多いよね」


 Vtuberが発表した歌を歌い終えると(お世辞にも上手くはない)、清水は僕にそんなことを尋ねて来た。僕は彼女から目を逸らして、小さく口ごもりながら受け答えた。


「……まあ、僕オタクだし……」

「あーね~。……うーん、アニメの曲かぁ。なんか、知ってるのあったっけなぁ」


 清水はそうと言いながら、ポチポチとカラオケ端末を操作し始めた。しばらくして、彼女は某名探偵の映画の主題歌を入れ、それを歌い始めた。

 少し前に話題になった曲だ。選出も一般向けのアニメで、まあ、そうなるよなと言う感じだ。とは言え、僕は映画を見ていないし、主題歌もあまり聞いたことが無いのだが。

 ……清水は明らかに僕に気を使っている。お互いに知っている曲でカラオケを盛り上げようと言う意思が伝わって、僕はかえって居心地が悪い気がした。


「……清水」

「ん?」


 僕は曲が終わったタイミングで話しかけ、彼女がこちらを見るのに合わせて続きの言葉を言う。


「その、好きな曲、歌えばいいよ。…………。なんて言うか、僕はいつも、そうしてるし……盛り上がりとか、気にしなくていいから」

「……ん~。まあ、いいけどさ」


 清水は少し納得していないような素振りだった。

 ……失敗だったか。僕はどう答えれば良かったかわからなくなり、頭をガリガリと掻いた。

 話を聞くことならできるのだが、自分から話題を振ったり、話を盛り上げたりと言うのはどうにも苦手だ。僕は自分のコミュ障ぶりにため息を吐くと、途端、僕のスマートフォンが音を立てて震え出した。

 スマホを取りだし、画面を見ると、姫川からLI○Eでの通話がかかってきたようだった。僕は「ごめん、清水」と言って、カラオケの個室から出て電話をかけた。


「――どうしたの、姫川?」


 僕が受け応えると、姫川が、『やっほー、河野』と言って、矢継ぎ早に『ねぇ、聞いて!』と続けた。


『今日さ、合コン行ったんよ!』

「えっ、合コン?」

『あっ、いや数合わせの飾りだけどさ。そこでさ、ちょっと、あれ。わかんないと思うけど、元カレに会っちゃってさ!』

「……ふむ、元カレ……」

『いやまあもう付き合いも無いしぶっちゃけ好きじゃなかったんだけど。そんなのは良くてさ、とにかく、すっごい腹立って……』


 と、姫川はそこまで言った瞬間に、突然喋るのをやめて、『ん?』と小さく呟いた。


『……河野。もしかして、友達と遊んでる?』

「あ……まあ、うん。カラオケに来てる」

『あー、ごめん。悪いことした。……ね、後でまた電話できる?』

「ん、いいよ。愚痴りたいんだね」

『そーそー。まあ、じゃあ、ごめん。突然電話かけて。切るね』

「うん、わかった」


 僕はそう言うと電話を切り、そして小さくため息を吐いてから個室にへと戻った。


「……ごめん、ちょっと電話があって」


 もう既知の事であろうに、僕は清水にそうと言った。清水はしばらく僕を見つめると、「ねぇ」と話しかけてきた。


「ちょっと笑ってるけど、なんかあったん?」

「え? ……ああ、まあ、友達から電話」

「友達かぁ。河野、もしかしてだけどさ。
 その友達、女の子?」


 僕は清水の言い回しにドキリとしてしまった。

 なんでそんなことを聞くのだろうか。彼女からしたら、僕が誰と話そうと興味ないだろうに。

 それとも――。僕は少し邪な思考が浮かんだが、即座にそれを打ち捨てて、彼女にその思いが悟られないように取り繕った。


「……まあ、女の子だけど」


 僕は清水を見つめながら言う。すると、清水は「へぇ」と言ってくすくすと笑い、やけに珍しいものでも見たかのように僕の方を見つめた。


「アンタが女友達とか、やるじゃん。変わってないなあって思ったけど、変わったんだね、河野」


 清水はそう言うと、「ほら、次アンタ」と僕に端末を渡してきた。

 ――どうやら、僕に女友達がいることには興味が無いようだ。僕は彼女の中に、僕が思ったような物はないだろうと理解して、少し、モヤモヤとするような気持ちで端末を操作した。
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