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恋愛編
第5話「やっぱり男と女は違う①」
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ある休日。私こと姫川詩子は、友人の河野真白と共に映画館へ出掛けていた。
先日は由希と映画を見に行ったわけだが、それとは違う作品を見に来た。別にまた気になる映画があったので河野を誘ってみたところ、彼は割と乗り気でやって来てくれたのだ。
そして私たちは、いざと言う感じでアニメの映画を見に行ったのだが。とんでもないことに、これがまた外れだった。
なんと言うか、前回とは違い物語が破綻していた訳ではなかった。多少SFの知識が問われる内容ではあったが、オタクの私たちにはそれほど難しい内容ではなかったし、最初から最後まで内容は全て理解できた。
しかし、とにかく物語が薄味だったのだ。なんかとにかく淡々としていたというか、最初こそ凄まじい戦闘シーンで「おおお」と思ったけど、段々と刺激に慣れてきて、なんとも思わなくなったというか。そんな物語だったのだ。
私と河野は映画を見終えて、近所のファミレスで昼食をとりながら作品の感想を言い合っていた。
「なんか、つまらなくはなかったけど面白くもなかったって言うか。ハズレかどうかで言えばハズレだけど。なんか本当に物語の起伏が少なかったって言う感想ね」
「僕も似たような印象だ。とは言え、戦闘シーンの作画は凄く綺麗だったし、何となくこだわりを感じた。動きが武道的だったと言うか。ハマる人はハマるタイプの作品だな」
「あー、それはわかる。戦闘描写は本当凄かった。まあ、そういう意味では面白いのかな?」
「なんでつまらなくはなかったけど面白くもない、と言う感想になったかは、ストーリー性の問題だね。端的に言うと。あの作品、キャラクターの背景だとか、心理描写だとか、凄く少なかったんだ。戦闘の激しさだけで魅せようとした感じだね」
「それそれそれ! 本当に戦ってるだけでさ。なんか、味気なかったって言うか」
「物語はキャラクターの心理を見せる場でもあるわけだから。1時間半以上を殴り合ってるだけの映画って言うのは、僕らからすればつまらないよ」
「好きな人は好きなんだろうけどね。けど、変わり映えしないと飽きちゃうんだよね~」
「そうそう、僕も同じだ」
私は河野と共にケラケラと笑いながら話をする。
やっぱり、コイツと映画を見に行くと楽しい。自分が見た作品の感想を言い合えるというのは、オタクにとってこの上ない娯楽なのだ。
特に河野は1度作品を見ればそれだけでかなり深いところまで理解する。この描写にどんな意味があってだとか、こういうシーンにはこんな解釈が出来てだとか、そう言うのを読み解くのが非常に上手いのだ。
「そう言えば、作画が良かったアニメって言えばやっぱ○の錬金術師よね」
「アレは動きがカッコイイだけじゃなくて、そこに至るまでのシチュエーションだとかも最高だから。これは僕も気を付けているのだけど、戦闘シーンって言うのは、シチュエーションがセットになってようやく機能する物なんだよ。RPGゲームなんかはわかりやすい。ザコ敵と戦うより、ボスと戦う方が熱くなれる」
「確かに。本当さ、あと○ガレンはキャラクターも良いよね。コイツとコイツが戦うんか~って言う感じがマジで好き!」
「わかる。良いキャラクターがいるから戦闘が活きているというか。戦闘によりキャラクターが深まるところもあると言うか」
「それそれ!」
そんな感じで、私たちは、しばらくファミレスでどうでもいいオタトークに花を咲かせ続けた。
◇ ◇ ◇ ◇
「いや~、今日は楽しかったよ。ありがとう!」
帰り道、私は隣を歩く河野にそうと言った。河野は笑いながら、「僕も楽しかったし、わざわざ言わなくても大丈夫だよ」と答えた。
あの後、私たちはゲーセンでゾンビを撃ち殺すゲームをしたり、書店で本を見たりとそれなりに楽しく過ごした。正直なところ、私にはこういう遊びの方が向いている。
やっぱり、河野といるのは楽しい。気が楽だし、お互いに気の使い方を弁えてる感じがして、距離感が絶妙だ。
私たちの関係性は、まさにこの距離感だから成り立っていると思う。もしもここから近付たり、遠ざかってしまうと、おそらく、私たちの関係性は一気に瓦解してしまうだろう。
いつか、周りがやれカップルだの彼氏彼女だのうるさく騒いでいたが(今も噂はされている)。私たちは、友達だから良い関係が築けているのだ。
「ね、河野。明後日時間ある? もしよかったらなんだけど……」
「あ、ごめん。その日は予定ある」
「あ~、なら仕方ないか。それなら、今度の土曜日……」
「……あ、ちょっと待って」
私が話しかけると、河野はそう言って、スマホをポケットから取り出して私から離れてしまった。
そして彼は、何やら誰かと電話で話しをしているようだった。
……まあ、そういうこともあるよな。私はとりあえず、河野の電話が終わるのを待つことにした。
「……まあ、うん。……土曜日……は、ちょっと難しい……。えっと、まあ、うん。分かった」
何やら予定を立ててるようだった。友達だろうか。
そうして電話を切った後、河野は私のところに戻って来て、「ごめん、ありがとう」といった。
「別に。……ね、土曜日予定あるの?」
「いや、ないけど。……ああ、えっと、聞こえてた?」
「ちょっとだけ」
「あー。いや、その、予定があるから断ったわけじゃないって言うか。その、まあ、君が土曜日って言ってたからっていうか……」
なるほど。私は河野の言葉に大きく頷いた。
「ちなみに、今の誰から?」
「あー……友達だよ」
「そっか」
私は頷いて、この話はここで終えておくことにした。
「……あ、そろそろ家ね。……そんじゃ、ありがとう」
「うん。また明日、学校で」
河野がそう言って軽く手を挙げる。私はそれに応じてから、遠くなっていく河野の背中をしばらく見続けた。
◇ ◇ ◇ ◇
「ええええ、彼女できたの!?」
部長の言葉に私はビクリと体を震わせた。なんだなんだと視線を彼に向けると、漫研の部室内で顔を赤くさせた田中が部長にごにょごにょと何かを言っていた。
「う、うん。いや、俺もちょっとびっくりしてて……」
「え、どこで会ったの!?」
「その……一緒にゲームよくしてて……それでオフ会したら、相手女の子で。色々話してたら、昨日好きって言われて……」
「おおお、オタクの理想の出会い方みたいな感じだね……」
「俺もまさかあんなことになるなんて思ってなかった……」
「あ、あんなこと?」
「あいや……その、これ以上は……」
なにやら香しいな。私はまさか田中が彼女を作ってしまうとは思わず、妙な感心をしていた。
……本当に、人の出会いってよくわかんないわね。まあ、私には関係ないけど。私は少し離れた位置で漫画を読み進めることにした。
「そういえば、彼女と言えば、最近河野君も誰かと連絡取り合ってるよね」
え? 私は漫画を読む手を止め、2人の会話に耳をそばだてた。
「部長も気になってたんだ」
「いや、まあ、だって、こんなことを言うとあれだけど、河野君だし」
「恋愛に興味無いって感じは確かにするけどさ。でも、アイツだって男だし、大体女っ気はあるじゃん」
「姫川さんは彼女じゃないって言ってるけど?」
「女の子と話せないわけじゃないってこと。前スマホの画面見ちゃったことあったけど、名前どう考えても女の子だったし」
「知ってる人?」
「いや、全然」
田中と部長の言葉を聞きながら、私は大きく鼻息を吐いた。
――いやいや。まあ、私だって友達なわけだし、アイツに女友達がいてもおかしくはないでしょ。私は思案を巡らせた。
河野真白は良い奴だ。確かに初見でこそ『変な奴』だとか『気持ち悪い』だとかをよく言われるけど、付き合ってみると楽しく過ごせる。だから一人や二人程度の異性の友人がいてもおかしくはない(実際、由希もアイツの友達だし)。
そうだ。きっと友達だ。大体、アイツは女子連中からモテないんだ。私だって、付き合うってなったらちょっとアレだし。
アイツに恋人ができるなんて言うのは、絶対にありえない。私は念仏でも唱えるように、頭の中で何度も繰り返した。
先日は由希と映画を見に行ったわけだが、それとは違う作品を見に来た。別にまた気になる映画があったので河野を誘ってみたところ、彼は割と乗り気でやって来てくれたのだ。
そして私たちは、いざと言う感じでアニメの映画を見に行ったのだが。とんでもないことに、これがまた外れだった。
なんと言うか、前回とは違い物語が破綻していた訳ではなかった。多少SFの知識が問われる内容ではあったが、オタクの私たちにはそれほど難しい内容ではなかったし、最初から最後まで内容は全て理解できた。
しかし、とにかく物語が薄味だったのだ。なんかとにかく淡々としていたというか、最初こそ凄まじい戦闘シーンで「おおお」と思ったけど、段々と刺激に慣れてきて、なんとも思わなくなったというか。そんな物語だったのだ。
私と河野は映画を見終えて、近所のファミレスで昼食をとりながら作品の感想を言い合っていた。
「なんか、つまらなくはなかったけど面白くもなかったって言うか。ハズレかどうかで言えばハズレだけど。なんか本当に物語の起伏が少なかったって言う感想ね」
「僕も似たような印象だ。とは言え、戦闘シーンの作画は凄く綺麗だったし、何となくこだわりを感じた。動きが武道的だったと言うか。ハマる人はハマるタイプの作品だな」
「あー、それはわかる。戦闘描写は本当凄かった。まあ、そういう意味では面白いのかな?」
「なんでつまらなくはなかったけど面白くもない、と言う感想になったかは、ストーリー性の問題だね。端的に言うと。あの作品、キャラクターの背景だとか、心理描写だとか、凄く少なかったんだ。戦闘の激しさだけで魅せようとした感じだね」
「それそれそれ! 本当に戦ってるだけでさ。なんか、味気なかったって言うか」
「物語はキャラクターの心理を見せる場でもあるわけだから。1時間半以上を殴り合ってるだけの映画って言うのは、僕らからすればつまらないよ」
「好きな人は好きなんだろうけどね。けど、変わり映えしないと飽きちゃうんだよね~」
「そうそう、僕も同じだ」
私は河野と共にケラケラと笑いながら話をする。
やっぱり、コイツと映画を見に行くと楽しい。自分が見た作品の感想を言い合えるというのは、オタクにとってこの上ない娯楽なのだ。
特に河野は1度作品を見ればそれだけでかなり深いところまで理解する。この描写にどんな意味があってだとか、こういうシーンにはこんな解釈が出来てだとか、そう言うのを読み解くのが非常に上手いのだ。
「そう言えば、作画が良かったアニメって言えばやっぱ○の錬金術師よね」
「アレは動きがカッコイイだけじゃなくて、そこに至るまでのシチュエーションだとかも最高だから。これは僕も気を付けているのだけど、戦闘シーンって言うのは、シチュエーションがセットになってようやく機能する物なんだよ。RPGゲームなんかはわかりやすい。ザコ敵と戦うより、ボスと戦う方が熱くなれる」
「確かに。本当さ、あと○ガレンはキャラクターも良いよね。コイツとコイツが戦うんか~って言う感じがマジで好き!」
「わかる。良いキャラクターがいるから戦闘が活きているというか。戦闘によりキャラクターが深まるところもあると言うか」
「それそれ!」
そんな感じで、私たちは、しばらくファミレスでどうでもいいオタトークに花を咲かせ続けた。
◇ ◇ ◇ ◇
「いや~、今日は楽しかったよ。ありがとう!」
帰り道、私は隣を歩く河野にそうと言った。河野は笑いながら、「僕も楽しかったし、わざわざ言わなくても大丈夫だよ」と答えた。
あの後、私たちはゲーセンでゾンビを撃ち殺すゲームをしたり、書店で本を見たりとそれなりに楽しく過ごした。正直なところ、私にはこういう遊びの方が向いている。
やっぱり、河野といるのは楽しい。気が楽だし、お互いに気の使い方を弁えてる感じがして、距離感が絶妙だ。
私たちの関係性は、まさにこの距離感だから成り立っていると思う。もしもここから近付たり、遠ざかってしまうと、おそらく、私たちの関係性は一気に瓦解してしまうだろう。
いつか、周りがやれカップルだの彼氏彼女だのうるさく騒いでいたが(今も噂はされている)。私たちは、友達だから良い関係が築けているのだ。
「ね、河野。明後日時間ある? もしよかったらなんだけど……」
「あ、ごめん。その日は予定ある」
「あ~、なら仕方ないか。それなら、今度の土曜日……」
「……あ、ちょっと待って」
私が話しかけると、河野はそう言って、スマホをポケットから取り出して私から離れてしまった。
そして彼は、何やら誰かと電話で話しをしているようだった。
……まあ、そういうこともあるよな。私はとりあえず、河野の電話が終わるのを待つことにした。
「……まあ、うん。……土曜日……は、ちょっと難しい……。えっと、まあ、うん。分かった」
何やら予定を立ててるようだった。友達だろうか。
そうして電話を切った後、河野は私のところに戻って来て、「ごめん、ありがとう」といった。
「別に。……ね、土曜日予定あるの?」
「いや、ないけど。……ああ、えっと、聞こえてた?」
「ちょっとだけ」
「あー。いや、その、予定があるから断ったわけじゃないって言うか。その、まあ、君が土曜日って言ってたからっていうか……」
なるほど。私は河野の言葉に大きく頷いた。
「ちなみに、今の誰から?」
「あー……友達だよ」
「そっか」
私は頷いて、この話はここで終えておくことにした。
「……あ、そろそろ家ね。……そんじゃ、ありがとう」
「うん。また明日、学校で」
河野がそう言って軽く手を挙げる。私はそれに応じてから、遠くなっていく河野の背中をしばらく見続けた。
◇ ◇ ◇ ◇
「ええええ、彼女できたの!?」
部長の言葉に私はビクリと体を震わせた。なんだなんだと視線を彼に向けると、漫研の部室内で顔を赤くさせた田中が部長にごにょごにょと何かを言っていた。
「う、うん。いや、俺もちょっとびっくりしてて……」
「え、どこで会ったの!?」
「その……一緒にゲームよくしてて……それでオフ会したら、相手女の子で。色々話してたら、昨日好きって言われて……」
「おおお、オタクの理想の出会い方みたいな感じだね……」
「俺もまさかあんなことになるなんて思ってなかった……」
「あ、あんなこと?」
「あいや……その、これ以上は……」
なにやら香しいな。私はまさか田中が彼女を作ってしまうとは思わず、妙な感心をしていた。
……本当に、人の出会いってよくわかんないわね。まあ、私には関係ないけど。私は少し離れた位置で漫画を読み進めることにした。
「そういえば、彼女と言えば、最近河野君も誰かと連絡取り合ってるよね」
え? 私は漫画を読む手を止め、2人の会話に耳をそばだてた。
「部長も気になってたんだ」
「いや、まあ、だって、こんなことを言うとあれだけど、河野君だし」
「恋愛に興味無いって感じは確かにするけどさ。でも、アイツだって男だし、大体女っ気はあるじゃん」
「姫川さんは彼女じゃないって言ってるけど?」
「女の子と話せないわけじゃないってこと。前スマホの画面見ちゃったことあったけど、名前どう考えても女の子だったし」
「知ってる人?」
「いや、全然」
田中と部長の言葉を聞きながら、私は大きく鼻息を吐いた。
――いやいや。まあ、私だって友達なわけだし、アイツに女友達がいてもおかしくはないでしょ。私は思案を巡らせた。
河野真白は良い奴だ。確かに初見でこそ『変な奴』だとか『気持ち悪い』だとかをよく言われるけど、付き合ってみると楽しく過ごせる。だから一人や二人程度の異性の友人がいてもおかしくはない(実際、由希もアイツの友達だし)。
そうだ。きっと友達だ。大体、アイツは女子連中からモテないんだ。私だって、付き合うってなったらちょっとアレだし。
アイツに恋人ができるなんて言うのは、絶対にありえない。私は念仏でも唱えるように、頭の中で何度も繰り返した。
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