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恋愛編
第9話「女には、負けるとわかっていても挑まねばならない戦いがある。②」
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「……それで、話ってなによ」
帰り道。心春が口を尖らせ私に話しかけてくる。私はしばらく目線をあちこちに動かしてから、やがて意を決して彼女に自身の気持ちを明かした。
「……。その、実は、アンタ呼んだのには理由があってさ」
「いや、そらそうだろうけど。それで、なに?」
「えっと。……その。私、なんって言うか……好きな人が、いる……ってか……」
私が酷く遠回しに言うと、心春は「えっ、まさかやっぱり河野が……?」と不安そうな表情を浮かべた。私は即座に「違う」と言い返し、観念して、単刀直入に意味を伝えた。
「その。好きな人ってのは……まあ、詩子……のことで……」
「…………ん? え、え? もっかい言って?」
「いや、だから。私…………。……詩子のことが、好きで……」
心春は私の言葉を聞いて、困ったように眉端を下げた。しばらくぽくぽくと考えてから、「その好きって、友達としてって意味じゃないよね?」と尋ね返してくる。私はそれを聞き、「んん……違う」と小さく返事をした。
「え、ええ? じゃあ、由希さんって……」
心春がギョッとした表情でこちらを見てくる。私は彼女の言わんとしていることを把握し、小さく首を縦に振った。
心春は私の返答を見て、「うわ……えっ、え~……マジかぁ……」と、若干引き気味の反応を示した。
「その……キモいのはわかってるけど、えっと……」
「あー、ごめん。そういうことじゃなくて……。……いや、そ、そう言うことだよね。……なんて言うか、ごめん……」
「あ、う、うん。いや、慣れてるし、いいけど……」
「慣れるもんじゃ無いんだけどね。……あー、あ~……そっか。てなると、そういうことかぁ……」
心春は額を押さえ、どうやら色々な物を察したらしい表情で唸りをあげた。
「……いや。だとしたら、それめっちゃ辛いじゃん」
と。心春は私の予想と違って、至極真っ当な返事をした。
「……引かないの?」
「え? あ、いや。……ぶっちゃけ引いてるけどさ。そういうことじゃなくて。ようは、失恋なわけでしょ? あ、いや、そうと決まったわけじゃないけど。だったらやっぱりさぁ」
「……自分もそういう目で見てたのって思わないの?」
「ちょっとは思ったけど。いやでも、私だって男だったら誰でも好きになるわけじゃないし。それと同じでしょ?」
心春はそうと言ってやや首を傾げた。どうにも、彼女は私のこの特異性を理解してくれているようだった。
「とにかく、う、う~ん……。その、なんて言うか……。……げ、元気出しなよ」
「あ、あはは……ありがと」
私は心春の下手なフォローに作り笑いを返した。とは言え、慰めてくれようとしてくれたのは嬉しかった。
けれど、どうやら彼女はあまり快く思っていないようで。しばらく「う~ん……」と唸っていたかと思えば、私の目を見つめて、ぽつりと尋ねた。
「……今から暇?」
「え? ま、まあ、予定はないけど」
「じゃあさ、カラオケ行こ! あとどっか飲み行こ!」
「はァ!? え、なんでいきなり!?」
「だってさ、嫌なことあったらとりあえず発散しようよ。そうしないとやってらんなくなるしさ。だから、ほら。行こ!」
そう言って心春は私に手を差し出してきた。
……なんと言うか。私はぽかんとして、彼女の手を見つめた。
凄く複雑な気分だ。目の前の女は、私の好きな人の恋敵なわけで。もしも彼女がただのクソ野郎なら、私はキッパリと彼女を切り捨てられたのに。
しかしどうやら、心春は良い奴みたいだ。そうなってくると、私はどこか、彼女を応援したくなってしまう。
だって、私の秘密を知って、それでもこうやって手を差し伸べるなんて。そんなの、幸せになって欲しいじゃないか。
でもそれは、同時に詩子の不幸を願うことにもなる。私は彼女の手を取る事が出来ず、
「遅い! ほら、行くよ!」
心春はしかし、私の手を無理矢理取ってグイグイと引っ張り出した。私は「うぇっ!? ちょ、ちょっと!」とギョッとしてしまった。
「なに?」
「あ、いや。…………まあ、いっか」
私がそう言うと、心春は「ヨシっ!」と言ってまた歩き始めた。私は心春の隣に並び、「別に、歩けるから」と答えて手を放した。
そうしてこの日は、カラオケに行ったり、心春のオススメのバーに行ったりをして過ごした。
◇ ◇ ◇ ◇
「いやぁ、飲んだね」
心春は少し顔を赤くさせながら、べろんべろんにそう言った。私もややフラフラとしながら、「ウイ」と彼女に行った。
時間はもう深夜だ。散々飲み騒ぎをしたせいで、喉に若干来ている。私は大きくため息を吐いて、心春の横をゆっくりと歩いた。
「どうだった、由希?」
「え? あ、うん……楽しかったけど」
「ならよかったぁ~。疲れさせてたらどうしよっかなぁ~って!」
そう言いながら心春はケラケラと笑った。酔ったせいもあるのだろうが、声が大きいし、やけに楽しそうだ。
「……なんか、ごめんね。気を遣わせちゃって」
「いいんだよ、私がそうしたかっただけだし~。それに~、由希ちゃん楽しいから、一緒にいても全然平気~」
「あ、アハハハ……」
大分酷く酔っ払っているな。どうやら、よく飲む割にはそこまで強くはないみたいだ。いや、と言うか、ウォッカをストレートで一気に行ったりしたのがまずかったのだと思うが。
けれどまあ、まだゲロを吐くほどでないから大丈夫だ。私は心春が気持ち良さそうに笑っているところを見て、なぜかよくわからない安心感を覚えた。
「……あ、そう言えばだけどさぁ」
と。心春は突然私の方を見ながら、そうと呟いた。
「由希ちゃんさ。姫川さんのこと、好きなんだよね?」
「そ、そう言ったじゃん。なに、一体」
「じゃあさ~。よかったらさ、私と組もうよ」
私は心春の言葉に驚いてしまった。
組もうって言うのは、どういうことだろうか。いや、言っている意味は、恐らく予想出来ている。ただ、まさか彼女の口から、そんな提案が浮かぶとは思わなかったのだ。
「……組むって言うのは?」
「だからぁ。私は、河野が好き。姫川さんは、私のライバル。んで、由希ちゃんは、姫川さんが好き。ならさ、どうにかして、姫川さん、河野とくっ付かないようにできないかなぁって。そしたら、由希ちゃんも、姫川さん取られずに済む! みんなハッピーエンドだよ?」
「……」
私は一瞬、彼女の提案に呆然とした。
信じられなかった――からではない。彼女の提案に、私は思わず、飛び付きそうになったのだ。
なにせ、そんな都合のいいことはない。姫川が私に振り向くかはさておき、少なくとも、彼氏ができると言うその状況を回避することはできる。ほとんどないかもしれないけど、チャンスがゼロになるわけではないということだ。
――だけど。だからこそ、私は、そんな邪な感情が生まれた私自身に、どうにも嫌気が差してしまった。
「……ごめん、心春。私、そういうことできない」
「……そっか。まそうだよねぇ。ごめんね、突然変なこと聞いて」
心春はへらへらとしながらも、どこか申し訳なさそうにしゅんとした。どうやら、彼女自身、あまり良くないことを言ったという自覚はあるようだ。
――そう。そんなことはできない。自分のために、詩子の心を裏で操るなんて。
仮に私が、それで詩子と付き合ったとしても、私はもう、二度と詩子に向き合えなくなってしまうだろう。もう、アイツの友人でいる資格でさえも無くなってしまうのだ。
「……そういえば、そろそろクリスマスか」
「そろそろぉ? まだ2週間も先だよ。コンビニとかはさあ、気が早いからねぇ」
私は歩きながらぽつりと呟く。
……そう。そろそろ、クリスマス。カップルが恋人と過ごす、特別な日。
――ああ、だとしたら。その日までに、私は、ケジメをつけなきゃいけない。私は誰のためというわけでもなく、自分の心の中で、勝手にそうと決意を固めた。
帰り道。心春が口を尖らせ私に話しかけてくる。私はしばらく目線をあちこちに動かしてから、やがて意を決して彼女に自身の気持ちを明かした。
「……。その、実は、アンタ呼んだのには理由があってさ」
「いや、そらそうだろうけど。それで、なに?」
「えっと。……その。私、なんって言うか……好きな人が、いる……ってか……」
私が酷く遠回しに言うと、心春は「えっ、まさかやっぱり河野が……?」と不安そうな表情を浮かべた。私は即座に「違う」と言い返し、観念して、単刀直入に意味を伝えた。
「その。好きな人ってのは……まあ、詩子……のことで……」
「…………ん? え、え? もっかい言って?」
「いや、だから。私…………。……詩子のことが、好きで……」
心春は私の言葉を聞いて、困ったように眉端を下げた。しばらくぽくぽくと考えてから、「その好きって、友達としてって意味じゃないよね?」と尋ね返してくる。私はそれを聞き、「んん……違う」と小さく返事をした。
「え、ええ? じゃあ、由希さんって……」
心春がギョッとした表情でこちらを見てくる。私は彼女の言わんとしていることを把握し、小さく首を縦に振った。
心春は私の返答を見て、「うわ……えっ、え~……マジかぁ……」と、若干引き気味の反応を示した。
「その……キモいのはわかってるけど、えっと……」
「あー、ごめん。そういうことじゃなくて……。……いや、そ、そう言うことだよね。……なんて言うか、ごめん……」
「あ、う、うん。いや、慣れてるし、いいけど……」
「慣れるもんじゃ無いんだけどね。……あー、あ~……そっか。てなると、そういうことかぁ……」
心春は額を押さえ、どうやら色々な物を察したらしい表情で唸りをあげた。
「……いや。だとしたら、それめっちゃ辛いじゃん」
と。心春は私の予想と違って、至極真っ当な返事をした。
「……引かないの?」
「え? あ、いや。……ぶっちゃけ引いてるけどさ。そういうことじゃなくて。ようは、失恋なわけでしょ? あ、いや、そうと決まったわけじゃないけど。だったらやっぱりさぁ」
「……自分もそういう目で見てたのって思わないの?」
「ちょっとは思ったけど。いやでも、私だって男だったら誰でも好きになるわけじゃないし。それと同じでしょ?」
心春はそうと言ってやや首を傾げた。どうにも、彼女は私のこの特異性を理解してくれているようだった。
「とにかく、う、う~ん……。その、なんて言うか……。……げ、元気出しなよ」
「あ、あはは……ありがと」
私は心春の下手なフォローに作り笑いを返した。とは言え、慰めてくれようとしてくれたのは嬉しかった。
けれど、どうやら彼女はあまり快く思っていないようで。しばらく「う~ん……」と唸っていたかと思えば、私の目を見つめて、ぽつりと尋ねた。
「……今から暇?」
「え? ま、まあ、予定はないけど」
「じゃあさ、カラオケ行こ! あとどっか飲み行こ!」
「はァ!? え、なんでいきなり!?」
「だってさ、嫌なことあったらとりあえず発散しようよ。そうしないとやってらんなくなるしさ。だから、ほら。行こ!」
そう言って心春は私に手を差し出してきた。
……なんと言うか。私はぽかんとして、彼女の手を見つめた。
凄く複雑な気分だ。目の前の女は、私の好きな人の恋敵なわけで。もしも彼女がただのクソ野郎なら、私はキッパリと彼女を切り捨てられたのに。
しかしどうやら、心春は良い奴みたいだ。そうなってくると、私はどこか、彼女を応援したくなってしまう。
だって、私の秘密を知って、それでもこうやって手を差し伸べるなんて。そんなの、幸せになって欲しいじゃないか。
でもそれは、同時に詩子の不幸を願うことにもなる。私は彼女の手を取る事が出来ず、
「遅い! ほら、行くよ!」
心春はしかし、私の手を無理矢理取ってグイグイと引っ張り出した。私は「うぇっ!? ちょ、ちょっと!」とギョッとしてしまった。
「なに?」
「あ、いや。…………まあ、いっか」
私がそう言うと、心春は「ヨシっ!」と言ってまた歩き始めた。私は心春の隣に並び、「別に、歩けるから」と答えて手を放した。
そうしてこの日は、カラオケに行ったり、心春のオススメのバーに行ったりをして過ごした。
◇ ◇ ◇ ◇
「いやぁ、飲んだね」
心春は少し顔を赤くさせながら、べろんべろんにそう言った。私もややフラフラとしながら、「ウイ」と彼女に行った。
時間はもう深夜だ。散々飲み騒ぎをしたせいで、喉に若干来ている。私は大きくため息を吐いて、心春の横をゆっくりと歩いた。
「どうだった、由希?」
「え? あ、うん……楽しかったけど」
「ならよかったぁ~。疲れさせてたらどうしよっかなぁ~って!」
そう言いながら心春はケラケラと笑った。酔ったせいもあるのだろうが、声が大きいし、やけに楽しそうだ。
「……なんか、ごめんね。気を遣わせちゃって」
「いいんだよ、私がそうしたかっただけだし~。それに~、由希ちゃん楽しいから、一緒にいても全然平気~」
「あ、アハハハ……」
大分酷く酔っ払っているな。どうやら、よく飲む割にはそこまで強くはないみたいだ。いや、と言うか、ウォッカをストレートで一気に行ったりしたのがまずかったのだと思うが。
けれどまあ、まだゲロを吐くほどでないから大丈夫だ。私は心春が気持ち良さそうに笑っているところを見て、なぜかよくわからない安心感を覚えた。
「……あ、そう言えばだけどさぁ」
と。心春は突然私の方を見ながら、そうと呟いた。
「由希ちゃんさ。姫川さんのこと、好きなんだよね?」
「そ、そう言ったじゃん。なに、一体」
「じゃあさ~。よかったらさ、私と組もうよ」
私は心春の言葉に驚いてしまった。
組もうって言うのは、どういうことだろうか。いや、言っている意味は、恐らく予想出来ている。ただ、まさか彼女の口から、そんな提案が浮かぶとは思わなかったのだ。
「……組むって言うのは?」
「だからぁ。私は、河野が好き。姫川さんは、私のライバル。んで、由希ちゃんは、姫川さんが好き。ならさ、どうにかして、姫川さん、河野とくっ付かないようにできないかなぁって。そしたら、由希ちゃんも、姫川さん取られずに済む! みんなハッピーエンドだよ?」
「……」
私は一瞬、彼女の提案に呆然とした。
信じられなかった――からではない。彼女の提案に、私は思わず、飛び付きそうになったのだ。
なにせ、そんな都合のいいことはない。姫川が私に振り向くかはさておき、少なくとも、彼氏ができると言うその状況を回避することはできる。ほとんどないかもしれないけど、チャンスがゼロになるわけではないということだ。
――だけど。だからこそ、私は、そんな邪な感情が生まれた私自身に、どうにも嫌気が差してしまった。
「……ごめん、心春。私、そういうことできない」
「……そっか。まそうだよねぇ。ごめんね、突然変なこと聞いて」
心春はへらへらとしながらも、どこか申し訳なさそうにしゅんとした。どうやら、彼女自身、あまり良くないことを言ったという自覚はあるようだ。
――そう。そんなことはできない。自分のために、詩子の心を裏で操るなんて。
仮に私が、それで詩子と付き合ったとしても、私はもう、二度と詩子に向き合えなくなってしまうだろう。もう、アイツの友人でいる資格でさえも無くなってしまうのだ。
「……そういえば、そろそろクリスマスか」
「そろそろぉ? まだ2週間も先だよ。コンビニとかはさあ、気が早いからねぇ」
私は歩きながらぽつりと呟く。
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