愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

文字の大きさ
53 / 151
恋愛編

第9話「女には、負けるとわかっていても挑まねばならない戦いがある。②」

しおりを挟む
「……それで、話ってなによ」


 帰り道。心春が口を尖らせ私に話しかけてくる。私はしばらく目線をあちこちに動かしてから、やがて意を決して彼女に自身の気持ちを明かした。


「……。その、実は、アンタ呼んだのには理由があってさ」

「いや、そらそうだろうけど。それで、なに?」

「えっと。……その。私、なんって言うか……好きな人が、いる……ってか……」


 私が酷く遠回しに言うと、心春は「えっ、まさかやっぱり河野が……?」と不安そうな表情を浮かべた。私は即座に「違う」と言い返し、観念して、単刀直入に意味を伝えた。


「その。好きな人ってのは……まあ、詩子……のことで……」

「…………ん? え、え? もっかい言って?」

「いや、だから。私…………。……詩子のことが、好きで……」


 心春は私の言葉を聞いて、困ったように眉端を下げた。しばらくぽくぽくと考えてから、「その好きって、友達としてって意味じゃないよね?」と尋ね返してくる。私はそれを聞き、「んん……違う」と小さく返事をした。


「え、ええ? じゃあ、由希さんって……」


 心春がギョッとした表情でこちらを見てくる。私は彼女の言わんとしていることを把握し、小さく首を縦に振った。

 心春は私の返答を見て、「うわ……えっ、え~……マジかぁ……」と、若干引き気味の反応を示した。


「その……キモいのはわかってるけど、えっと……」

「あー、ごめん。そういうことじゃなくて……。……いや、そ、そう言うことだよね。……なんて言うか、ごめん……」

「あ、う、うん。いや、慣れてるし、いいけど……」

「慣れるもんじゃ無いんだけどね。……あー、あ~……そっか。てなると、そういうことかぁ……」


 心春は額を押さえ、どうやら色々な物を察したらしい表情で唸りをあげた。


「……いや。だとしたら、それめっちゃ辛いじゃん」


 と。心春は私の予想と違って、至極真っ当な返事をした。


「……引かないの?」

「え? あ、いや。……ぶっちゃけ引いてるけどさ。そういうことじゃなくて。ようは、失恋なわけでしょ? あ、いや、そうと決まったわけじゃないけど。だったらやっぱりさぁ」

「……自分もそういう目で見てたのって思わないの?」

「ちょっとは思ったけど。いやでも、私だって男だったら誰でも好きになるわけじゃないし。それと同じでしょ?」


 心春はそうと言ってやや首を傾げた。どうにも、彼女は私のこの特異性を理解してくれているようだった。


「とにかく、う、う~ん……。その、なんて言うか……。……げ、元気出しなよ」

「あ、あはは……ありがと」


 私は心春の下手なフォローに作り笑いを返した。とは言え、慰めてくれようとしてくれたのは嬉しかった。

 けれど、どうやら彼女はあまり快く思っていないようで。しばらく「う~ん……」と唸っていたかと思えば、私の目を見つめて、ぽつりと尋ねた。


「……今から暇?」

「え? ま、まあ、予定はないけど」

「じゃあさ、カラオケ行こ! あとどっか飲み行こ!」

「はァ!? え、なんでいきなり!?」

「だってさ、嫌なことあったらとりあえず発散しようよ。そうしないとやってらんなくなるしさ。だから、ほら。行こ!」


 そう言って心春は私に手を差し出してきた。

 ……なんと言うか。私はぽかんとして、彼女の手を見つめた。

 凄く複雑な気分だ。目の前の女は、私の好きな人の恋敵なわけで。もしも彼女がただのクソ野郎なら、私はキッパリと彼女を切り捨てられたのに。

 しかしどうやら、心春は良い奴みたいだ。そうなってくると、私はどこか、彼女を応援したくなってしまう。

 だって、私の秘密を知って、それでもこうやって手を差し伸べるなんて。そんなの、幸せになって欲しいじゃないか。

 でもそれは、同時に詩子の不幸を願うことにもなる。私は彼女の手を取る事が出来ず、


「遅い! ほら、行くよ!」


 心春はしかし、私の手を無理矢理取ってグイグイと引っ張り出した。私は「うぇっ!? ちょ、ちょっと!」とギョッとしてしまった。


「なに?」

「あ、いや。…………まあ、いっか」


 私がそう言うと、心春は「ヨシっ!」と言ってまた歩き始めた。私は心春の隣に並び、「別に、歩けるから」と答えて手を放した。

 そうしてこの日は、カラオケに行ったり、心春のオススメのバーに行ったりをして過ごした。


◇ ◇ ◇ ◇


「いやぁ、飲んだね」


 心春は少し顔を赤くさせながら、べろんべろんにそう言った。私もややフラフラとしながら、「ウイ」と彼女に行った。

 時間はもう深夜だ。散々飲み騒ぎをしたせいで、喉に若干来ている。私は大きくため息を吐いて、心春の横をゆっくりと歩いた。


「どうだった、由希?」

「え? あ、うん……楽しかったけど」

「ならよかったぁ~。疲れさせてたらどうしよっかなぁ~って!」


 そう言いながら心春はケラケラと笑った。酔ったせいもあるのだろうが、声が大きいし、やけに楽しそうだ。


「……なんか、ごめんね。気を遣わせちゃって」

「いいんだよ、私がそうしたかっただけだし~。それに~、由希ちゃん楽しいから、一緒にいても全然平気~」

「あ、アハハハ……」


 大分酷く酔っ払っているな。どうやら、よく飲む割にはそこまで強くはないみたいだ。いや、と言うか、ウォッカをストレートで一気に行ったりしたのがまずかったのだと思うが。

 けれどまあ、まだゲロを吐くほどでないから大丈夫だ。私は心春が気持ち良さそうに笑っているところを見て、なぜかよくわからない安心感を覚えた。


「……あ、そう言えばだけどさぁ」


 と。心春は突然私の方を見ながら、そうと呟いた。


「由希ちゃんさ。姫川さんのこと、好きなんだよね?」

「そ、そう言ったじゃん。なに、一体」

「じゃあさ~。よかったらさ、私と組もうよ」


 私は心春の言葉に驚いてしまった。

 組もうって言うのは、どういうことだろうか。いや、言っている意味は、恐らく予想出来ている。ただ、まさか彼女の口から、そんな提案が浮かぶとは思わなかったのだ。


「……組むって言うのは?」

「だからぁ。私は、河野が好き。姫川さんは、私のライバル。んで、由希ちゃんは、姫川さんが好き。ならさ、どうにかして、姫川さん、河野とくっ付かないようにできないかなぁって。そしたら、由希ちゃんも、姫川さん取られずに済む! みんなハッピーエンドだよ?」

「……」


 私は一瞬、彼女の提案に呆然とした。

 信じられなかった――からではない。彼女の提案に、私は思わず、飛び付きそうになったのだ。

 なにせ、そんな都合のいいことはない。姫川が私に振り向くかはさておき、少なくとも、彼氏ができると言うその状況を回避することはできる。ほとんどないかもしれないけど、チャンスがゼロになるわけではないということだ。

 ――だけど。だからこそ、私は、そんな邪な感情が生まれた私自身に、どうにも嫌気が差してしまった。


「……ごめん、心春。私、そういうことできない」

「……そっか。まそうだよねぇ。ごめんね、突然変なこと聞いて」


 心春はへらへらとしながらも、どこか申し訳なさそうにしゅんとした。どうやら、彼女自身、あまり良くないことを言ったという自覚はあるようだ。

 ――そう。そんなことはできない。自分のために、詩子の心を裏で操るなんて。

 仮に私が、それで詩子と付き合ったとしても、私はもう、二度と詩子に向き合えなくなってしまうだろう。もう、アイツの友人でいる資格でさえも無くなってしまうのだ。


「……そういえば、そろそろクリスマスか」

「そろそろぉ? まだ2週間も先だよ。コンビニとかはさあ、気が早いからねぇ」


 私は歩きながらぽつりと呟く。

 ……そう。そろそろ、クリスマス。カップルが恋人と過ごす、特別な日。

 ――ああ、だとしたら。その日までに、私は、ケジメをつけなきゃいけない。私は誰のためというわけでもなく、自分の心の中で、勝手にそうと決意を固めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...