愛と友情は紙一重!~オタサーの姫と非モテ童貞陰キャオタクがパコパコするまでの物語~

オニオン太郎

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恋愛編

第14話「女集まれば姦しい」②

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「……落ち着いてくれた?」


 夜道を歩きながら、隣の河野が、私にそうと話しかけてきた。

 私はまだ少しだけ眉間に力を込めながらも、小さく「うん」と呟いた。


「……ごめん、河野。いきなり、あんな、わけわかんないことして」

「……まあ、そういうこともあるよ。ただ、これからは、できれば無くして欲しい」

「ん。気を付ける」


 河野はやや呆れていながらも、それでもどこか冷静さと優しさを残してくれていた。

 私は夜道を歩きながら、大きくため息を吐く。河野がこちらをちらちらと見ながら、「大丈夫?」と尋ねてくる。私はそれを受けて、「大丈夫」と小さく彼に返した。


「……。河野」

「――どうしたの?」

「あのさ。……明日、アイツとデートって、本当?」


 私はそして、気になっていることを彼に尋ねる。河野はしばらく黙していたが、やがて深くため息を吐いてから、肩を落として、重たい口を開いた。


「……本当。僕は、清水と明日、遊びに行く」

「……デートってことは、少なからず、そう言う目で見ているってこと?」

「……難しい所だよ。見ていないと言えばウソになるし、かと言って、アイツと付き合えるかで言えば、それもできない。……最近の悩みの種は、そればかりだよ」


 河野はそうと言うと殊更にため息を吐き、心底疲れているかのように背筋をだらりと曲げた。

 ……付き合ってはいない、か。私は河野の言葉に、心の内でそう呟いた。

 そうだ。河野は別に、清水とも、そして、私とも、付き合ってはいない。お互いに、あくまで「友人」の関係を、続けているだけだ。

 だとしたら、あの時の私の怒りは、決して、正当な物ではない。つい、あの女が目の前に現れた瞬間、「取られたくない」だとか、「コイツは河野を狙っているんだ」とか思って、強く当たってしまったけれど。だけどそれは、私が未熟で、何より、弁えていなかったが故に出た、言わば理不尽だ。

 確かに、清水だって付き合ってはいないのだから、その範疇に当てはまるかもしれない。だけど、私と彼女とでは、決定的に違う所がある。

 それは、清水には付き合う気があって、私には無い、ということだ。

 告白をしたか否かは、まさにその象徴とも言えるだろう。清水は明確に、河野に「好き」と言っていて、私はそれを、いつも、ずっと、はぐらかしている。

 だとしたら、どちらにあの怒りの正当性があるかは、明白だろう。そもそも、本来であれば、喧嘩に発展すること自体がおこがましくて、おかしいことだと言える。

 ――だとしたら。私は目を閉じて、大きく、大きく、ため息を吐いた。


「……あのさ、河野」

「――どうしたの、姫川」

「行ってきなよ。明日のデート」


 私は声を震わせながら、河野にそうと言った。


「いや、まあ。変な言葉だっては、わかってるよ。私がさ、そんなの、言う意味、わかんないし」

「あ、いや。そ、それはまあ、確かに、そうだけど」

「うん。……アンタ、アイツから、『好き』って、言われたんでしょ?」

「……うん」

「ならさ、ちゃんと、それにあげなよ。アンタはさ、ちょっと、こういう時、ごまかしガチだから。だけど、こういう時くらいは、『男』であってやりなよ。ハッキリと、自分の気持ち、伝えなよ」


 目頭に、涙が浮かびそうだった。吐く息は全て震えていて、油断したら噛んでしまいそうで、その瞬間に、私の中の全てが決壊しそうで――私はただ、自分の感情を誤魔化すことに必死だった。

 私は河野に、笑顔を向けた。不安で、怖くて、しんどいって思わされたけど――だけど、私はそれでも、その感情を、表に出すわけにはいかなかった。

 ――そうだ。これでいいんだ。そもそも、私は、河野と――誰かと恋愛関係になるとか、そんなことは、望んでいない。
 単純な話。付き合いたいとか、付き合いたくないとか、そんな前提に、そもそも、私と言う人間は、乗りたくないんだ。
 自分が望んでいることなんだ。だったら、自分の尻くらいは、自分で拭うべきだろう。私は、自分の感情と、自分の選択を、必死に、必死に、必死に、肯定した。

 顔は、歪んでないだろうか。ちゃんと、明るく笑っていられるだろうか。そんなことばかりが、頭の中を、駆け巡っていると。


「――うん。ちゃんと、よ」


 河野は一度、私を一瞥すると。ハッキリとした声で、そう返した。


「ごめんね、姫川」

「なんで、アンタが謝るんだよ」

「いや。こればかりは、どう考えても、僕が悪い。……ずっと、わかってたんだ。曖昧なままでいるのが、一番ダメなんだって。四郎からも、そう忠告されていたのに。……清水も、君も、怒るに決まっている。本当、僕は、最低だ」


 河野はそう言って、小さくため息を吐いた。私はその言葉に、胸が、キュッと締め付けられるような気がして。


「……頑張りなよ」

「うん。……心配しないで。ハッキリと、言ってみせるから」


 河野はそうと言って、夜の空を見上げた。

 寒風がざわざわと吹く。私は河野の、どことなく胸を張ったような姿勢に、自分の感情が、せわしなくさざめくのを感じた。


◇ ◇ ◇ ◇


 ――夜。ベッドの上で、いつか真白が取ってくれたシロクマのぬいぐるみを、私は強く抱きしめていた。

 襲い掛かって来たのは、強い不安。私は自分の中に浮かんだ考えを、ぬいぐるみの温かみでごまかしていた。


「……真白、」


 呟き、顔をぬいぐるみの頭に押し付ける。少しだけ呼吸がし辛くて、か細い息を、ゆっくり、ゆっくりと吐く。

 そんなはずはない。ただの思い込みだ。私は縋りつくように心の声を大きくするが、しかし、その感情を否定すればするほど、かえって嫌な予感が胸の内に鳴り響いた。

 ダメだ。このままだと、不安に押し潰されてしまう。私は歯を食いしばり、自分の感情に耐えようとしたが、瞬間、まるでそんな私に追い打ちをかけるように、机に置いたスマートフォンが鳴り響いた。

 ハッとして顔を上げ、画面を見る。と、そこには、真白の名前が浮かんでいた。私は即座にスマホを手に取って、「もしもし」と彼に声をかけた。


『――僕だよ、清水。ごめんね、さっきのことは』


 私はその声を聞いて、「あっ、」と声を漏らした。


「……いや、本当……。……真白、」


 私は彼に、あの女のことをどう思っているのかを聞きそうになった。

 だけど、その瞬間、声が止まった。それを尋ねてしまうと、この瞬間に何もかもが終わってしまう気がしたからだ。


「――次から気を付けて。あのさ、女の子はさ、ああいうことされると、本気で傷付くから」


 私は彼を刺すように声をあげる。すると真白は、また『ごめん、本当。いくらなんでも、不誠実過ぎた』と、自分のやってしまったことを認めるように声をあげた。

 ふと、あの女の言っていた言葉を思い出した。

 なにを彼女面してるんだ、と。その言葉は、ぐうの音も出ない正論で、つまりは、私は真白と、恋人になったわけではないということだ。

 その事実が、私の心を殊更に締め付けた。私は歯を食いしばり、しかし、その事実から目を背けるように、頭を左右へと振った。

 そうだ。私は好意を伝えた。好きって言ったんだ。だから――。そう内心で強く言い聞かせると、次いで、電話の向こう側から、真白の声が、聞こえてきた。


『……話したいことがあるんだ』


 改まった言い方に、ドクンと、心臓が跳ねた。それはだけど、決して、ときめきからではなかった。


『明日――君とまた、会うだろう? その時に、直接会って、伝えたい。だから、』

「ま、待って、真白!」


 私は慌てて彼の声を止めに入った。真白は焦った私の声に、どうやら喋るのを、止めてくれたようだ。


「……その。さ、さっきの今だから。正直、聞きたくない。あ、明日のデートも、い、行きたく、ない」


 私は不機嫌を露わにして、言う。真白が『えっ』と呟き、私は途端、ハッと突き動かされるように声を出した。


「えっと、土曜日! 今週の土曜日! その日、行こう。デート。それなら、お、落ち着いているしさ」

『――その、清水。僕、できればなるべく……』

「いいから! 土曜日ね! 約束、約束だから! 今日の代わり! 絶対、絶対、お願い!」


 私はそう言うと、一方的に真白からの電話を切った。

 大きくため息を吐くと、またしても、スマホの電話が鳴った。私はびくりと身を震わせると、そこには、やはり、真白の電話が映っていた。

 ――ダメだ。これを手に取ったら。私はすぐに彼の電話を消して、そして、機内モードをオンにした。

 これで電話は届かない。私への連絡手段が消えたのなら、真白も、話をするわけにもいかなくなる。

 そして、アイツはやっぱり、誠実だ。アレだけ約束を強調すれば、きっと彼は、私の望むとおりに動いてくれるはず。私は大きく息を吸ってから、目を閉じて、体のざわつきを、ため息と共に吐き出した。

 ――時間が無い。私は絶対に、アイツを手に入れる。

 そのためなら、どんなことでも――。私は、来たるべき土曜日のために、計画を練り始めた。
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