愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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恋愛編

第14話「女集まれば姦しい」①

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「――ちょっ、と。は? え、どういうこと? なんでアンタが、真白と一緒にいるのよ」


 清水はそう言って、わなわなと震えながら私に声をかけた。私は驚き、動揺してしまって、しかし、彼女の物言いがやけに攻撃的だったから、思わずと言った感じで食ってかかってしまった。


「な、なに? 私が、河野といるのがそんなに不自然?」

「アンタには聞いてない!」


 途端、清水は目を怒らせて、私にそうと叫んで来た。私は突然の怒声にビクリと身を震わせて、あまりの恐怖に声を出せなくなった。


「ちょっと、真白! どういうこと、アンタ今日は『一人でいる』って言ってたじゃない! なのになんで、別の女の子と遊んでんのよ!」

「あっ……いや、えっと……これ、は……」


 私は清水の口ぶりに、ますますどういうことなのかがわからなくなった。


「アンタさ、私とデートの予定あるってのに、その前日に別の女とお出かけって、どういう神経してんのよ!」

「ひ、姫川とは、久しぶりだったし。それに、きゅ、急遽決まってさ……」

「そういう問題じゃないでしょ! 本当、最低……! アンタは絶対、こういうことしないって思ってたのに!」


 険悪な雰囲気が膨れ上がっていく。私は少しずつどういう事情なのかを把握していき、そして、清水の怒りに呑まれるように、私も強い不快感が胸の内から沸き上がって来た。


「ちょっと、なに、その言いがかり」


 私はそうして、河野に詰め寄る清水に勢いよく迫った。

 息がかかるほどに距離を詰め、圧をかける。清水が私の剣幕に気圧されてか、後ろによたよたと下がる。私はそれを見て更に一歩足を踏み出し、額がぶつかりそうになるほどに清水に顔を近づけた。


「アンタさ、いくらなんでも失礼だろ。別に、私が河野と一緒にいたって何も問題ないじゃない」

「私は、明日コイツと出かける予定があんのよ? だったら普通さ、別の女の子と出かけるとか避けるもんじゃん! しかもよりにもよって前日よ?」

「な~に彼女面してんのよ。別に、河野はお前の恋人じゃあない。それかもしかして、その、河野に告って、付き合い始めたりでもしたの?」

「あ……」


 清水は私の言葉にたじろぐと、一瞬足を後ろへ下げた。しかし、すると彼女は、無理矢理勢いをつけるかのように私に再度強く詰め寄った。


「す、好きっては伝えてるから! 後は、アッチの返事待ち!」

「だ、だったら付き合ってないってことじゃん。なに、なんでそんな立場の癖に、そうやってぎゃんぎゃん騒いでるの? ヒステリーな女ってモテないんだぞ?」

「だ、だからって、普通はそこ、配慮するモンでしょ!」


 清水は私の言葉にまたキィキィと返した。私は同じくキィキィと叫びながら、清水の眼力に気圧されないよう強く彼女を睨み返した。


「え、えっと。2人とも、落ち着いて……」

「「お前は黙ってろ!」」


 河野が会話に割って入り、私はつい怒りに任せて、清水とともに叫んだ。河野はどうやら私たちの剣幕に圧されたらしく、「は、はい……」とつぶやいてしゅんと小さくうつむいた。


「だ、大体、彼女面とか、そんなこと言ったら、アンタの方こそそうじゃないの?」


 と、清水が腕を組んで私に言い返す。私は痛い所を突かれてしまい、「ぐっ」と声を詰まらせてしまった。


「ほら。アンタだってさ、手前の立場弁えてないくせに、そうやってさ、アホみたいにギャンギレしてさ」

「う、うるせぇ! 別に、私が怒ってんのは、アンタがやけにこう、生意気だから!」

「は~? そんな理由なら、話に入ってくんじゃねぇよ! 私はね、今コイツに用があって話ししてんの! 邪魔しないでくれない?」

「そ、それはそれで、これはこれでしょうが!」


 私は更に清水に詰め寄り、清水も私に押し返してくる。自分の中の煮えたぎる感情が止められなくなっていき、私はもはや、ひたすらに清水に負けたくない一心で言葉を繋いでいた。


「本当、マジで迷惑だから、どっか行けよこの性悪女!」

「あぁ!? 言うじゃんかこのデブ! ちょっとは腹押さえろよ、一体それ何か月目の腹だよこのメタボ女!」

「アンタより乳がデカいからそう見えてるだけですぅ! 悔しかったら豊胸でもしてみろよぺちゃぱい野郎!」

「なっ……! ひ、貧乳じゃないし! Cはあるし! つーか、アンタが異常なだけだわ! 脂肪が多いから本来のサイズよりデカくなってるだけだろ!」

「残念だけど遺伝ですゥ! お母さんもHあるし、妹もFあるし!」

「はぁ!? お、お前の遺伝子どうなってんのよ!?」


 私と清水が声を張り上げ続けていると、やがて、レジの方から「お、お客様」と小さな声が聞こえた。


「あの。その、ここでは他のお客様に迷惑ですので、ど、どうか、その、お納めくださいませんでしょうか……?」


 気の弱そうな男の店員さんが、必死に怒りを抑え込んでいるかのような表情で私たちの方を見つめて来ていた。私はそこでようやく自分の声の大きさに気が付き、ハッと辺りを見回した。

 私たちの叫び声に反応してか、色々なお客さんがこちらをジッと見ている。私は途端にサーッと血の気が引いていき、恥ずかしさと罪悪感とで逃げ帰りたくなった。


「ひ、姫川。清水。その、えっと、ひとまず、ここは一旦収めよう。ね?」


 河野があたふたと私たちに話しかけてくる。私は河野を一度睨みつけてから、グイッと首を清水の方へと向ける。

 彼女もどうやら私と全く同じ動作をしていたようで、導火線のような視線が互いにぶつかり合った。不思議とバチバチと音がする感触がして、私は「ッチ」と、傍らのクソ女と共に舌打ちをした。


「ほら、行こう、真白。こんな奴ほっといて。話しあるからさ」

「おい、ちょっと待てよ」


 清水が真白の手を取ろうとしたその瞬間、私はガシリと彼女のその手を握り絞めた。


「な、なに?」

「なに二人で行こうとしてんだよ。話し、まだ終わってないんだけど?」

「はぁ~、ホンット、めんどくさいから、アンタさ。私はさ、明日のデートの話をコイツとつけなきゃあならないのよ。ただの友達なんでしょ、だったらもうこれ以上関わらないで、一人で家、帰ってよ」

「あ? 別にいいだろ、私に聞かれちゃあまずいの?」

「当たり前だろ。横に別の女がいるのに、男女の話する奴らがどこにいんの?」

「別にいいじゃん、アンタだって彼女じゃないんだし。だからさぁ、聞かせろよ。あと河野、アンタは絶対逃がさないから」


 私と清水がそうして睨み合っていると、河野が「2人とも、いい加減にしてくれ!」と、音を上げるように大声で叫んだ。


「わかった! 話は好きなだけすればいい! 僕も付き合う! だけど、一度店を出よう! それでいいだろ、な?」

「良くないって! 大体、発端はアンタだろ! 説明しろよ、真白。アンタ、自分の時間が欲しいって言っていた癖に――」


 と、途端。清水はピタリと口を止めると、しばらく瞳孔をゆらゆらと揺らし、かと思えば、勢いよく私の手を振り払って、足早に私たちの前を歩き去った。


「ちょ、清水?」


 河野が声をかける。清水はしかし顔をうつむけたまま返事もせず、そのまま街灯の向こう側へと消えていった。

 しばらくして、長い沈黙が辺りを包んだ。少しずつ本屋の中は活気を取り戻していき、そこら中から聞こえてくる話し声が、皆々私たちを刺していた。


「……姫川」


 と。河野が私に声をかける。彼は疲れ切った様子で、私に手を伸ばした。


「帰ろう、もう。流石に、今日はもう、ここにはいられないよ」


 腹の底で、怒りがぐるぐると回る。私はそんな最中に河野の手を見つめ、一瞬手を伸ばしかけて、すぐに引っ込めてから、「うん」とトゲのある言い方で言い返した。


◇ ◇ ◇ ◇


 本屋を足早に飛び出してから。私は息を切らして、自分の住んでいるアパートまでの帰路を急いでいた。


「……ウソだ、ウソだ。そんなの、あり得ない」


 頭の中に、姫川と、真白の姿が浮かんだ。その度に突き付けられるようなその認識を、私は必死に呼吸を荒げて打ち消していく。

 しかし、それでも、浮かんだ悪い予感は、簡単には消えてくれない。私は額を、口元を左右の手で押さえ、沸き上がってくる不安を、吐き気を封じるかのように呑み込もうとした。


「……アイツ、もしかして――」


 しかし、それでも私は、どうしてもその感情を誤魔化せず、穴の空いた風船から空気が漏れ出るかのように、小さく喉を震わせた。
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