愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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恋愛編

第15話「運命とは都合のいいものでは無い」③

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 夜。歓楽街の中心部で、大きな木に飾り付けられた電灯がキラキラと輝く。周りのカップルたちは騒がしく、みんなロマンチックな雰囲気に酔っていた。

 私は真白と共に、歓楽街に作られたイルミネーションを眺めていた。

 来週にはクリスマスと言うことで、本格化した飾り付けが一層輝きを放っている。夜の暗さの中心で光り輝くそれは、心が沸き立つほどに幻想的で。


「……綺麗」


 私は、心から漏れ出た言葉をそのまま呟いた。

 ふと、隣の真白へと目を移すと、彼は何も言わず、ただじっとクリスマスツリーを眺めていた。

 ――この時間になるまで、真白とは色々な場所を巡っている。

 昼頃にはお洒落なカフェで食事をしたし、その後も、いつも通りのゲームセンターではなく、水族館を並んで歩いたり、そこの屋上にあった観覧車で、狭い中で2人きりにもなった。
 しかし、真白はどこか、今日のデートを楽しんでいないようにも見えた。

 ――わかっている。今日の私は、彼に迷惑を掛けている。私は、真白の表情を見ながらそう思った。

 最初の段階で――今日声をかけた、あの段階で。真白はおそらく、こうやって、私と一緒に過ごす予定なんて、毛頭無かったのだろう。

 でも、そんなことは分かっていた。だから私は、あらかじめデートの予定を立て、色々な所に予約をして、彼が断りにくい雰囲気を作っていた。

 マジメな一方、控えめな所がある真白のことだ。私がそこで無理を言えば、きっと付き合ってくれる。その予想は見事に的中した。

 あとは、とにかく予定通りに動くだけ。私は少しでも雰囲気を良くするために、隣の真白に擦り寄って、彼の肩に頭を乗せた。


「――真白も、綺麗って思う?」


 真白はギョッとこちらを見て、しかし、私はそのまま、彼の手にするりと自分の手を重ねる。

 今まで手なんて、せいぜい彼を引っ張る以外で繋いだことは無かった。だけど今回は、ただ彼の気持ちを誘惑するためだけに、その温かな体温へと触れた。

 真白の指の間に私の指を絡め、離れないよう、かっちりと握り締める。真白はどこか困ったように、私から目を逸らしていた。

 大丈夫だ。彼は何も、心底嫌がっている訳では無い。私は真白の様子にそうと直感した。

 真白だって男だ。私のような、結構な美人にこうも迫られたら、正直、満更でもないはずだ。
 だとしたら、雰囲気次第では、あわよくば彼の好意を引き寄せることが出来るかもしれない。何より、後々の事を考えるのなら、ここで彼の心を刺激するのは必要不可欠だ。

 私は彼の関心を惹くために、より一層手を強く握った。心臓が高鳴って、冬の寒さの中でも感じられるほどの熱気が、私の中に満ち満ちた。


「――、清水……」

「ダメ」


 私は、私の苗字を呼んだ河野を、そうと諌めて、


「そろそろ、下の名前で呼んでよ。……もう、いいでしょ?」

「……僕たちは、恋人じゃないよ」

「なろうよ、恋人に。……それとも、私じゃ嫌?」

「い、嫌ってわけじゃ……」

「じゃあ、いいじゃん。私は、アンタのこと、大好きだし。それに、こう見えて私、料理得意なんだよ? 部屋も綺麗にしてるし、アニメとかも、今は好きなんだよ? ……自分で言うのもなんだけど、いい女だと思うよ」


 私は真白の腕に抱き着くようにして、彼に体重を預けた。

 真白は驚いたように私の体を受け止める。しかし、彼は一瞬歯噛みをしたかと思えば、優しい感触で私の肩に触れ、ゆっくりと、私の体を引きはがした。


「そういう問題じゃないよ。――清水、その、今まで、ずっと控えていたけど。言わなくちゃいけないことが――」


 と。私は、真白がそうと口火を切ったのを聞いて、彼の口元に、立てた私の人差し指を当てた。


「――真白。今は、まだにして。ここだと人が多いよ。……せめてさ、二人きりになった時にして」


 私がそうと言うと、真白は少し困ったように眉端を下げ、「……わかったよ」と小さく呟いた。

 ――言質は、取った。私は内心で頷き、真白の腕を引くように歩き始めた。


「……そろそろ、ご飯行こうか。いい店、予約してあるんだ」

「……うん。これで、最後だからね」


 真白はそうと言って、どこか申し訳なさそうに、表情を下げた。


◇ ◇ ◇ ◇


 有料の小さいパーキングエリアに車を停めてから、私は真白と共に夜の町を歩いていた。

 場所は先の歓楽街からさほど遠くない。キラキラと光る町の灯りを全身に受けながら、私は真白をリードするように彼の前を進んだ。


「……えっと、清水。この辺りにあるの?」

「ん、うん。そろそろ着くから、大丈夫」


 私はそう言って、怪訝そうな表情を浮かべる真白を受け流した。

 そして、私たちは、四階建て程度のビルへとたどり着いた。


「ここ」

「……えっと、この中にあるってこと?」

「ん。行くよ、真白」


 私はそうと言って建物の中へ入る。

 中は白い壁で覆われていて、自動販売機とエレベーター以外は何も無かった。ただ上の階へ行くためだけの場所と言う感じで、ネオンな光がギラギラとした街の中では、どこかそれが不気味にも思えた。

 私がエレベーターを呼び、そこに入ると、真白は恐る恐ると言った様子で私の隣に並んだ。

 そうして階を指定して、しばらく待ち。エレベーターのドアが開くと、そこには、やけに艶めかしい雰囲気のあるバーが現れた。

 暗いと言うほどではないが、明るい雰囲気もなく、それほど強くない光がにわかに室内全体を照らしている。私は店名を確認すると、真白の方を向いて、やんわりと微笑んだ。


「ここ。美味しいらしいよ?」

「ここ、って……え、バーじゃないか」

「そうだけど」

「ちょっと、おかしくない? バーってさ、お酒を飲むところでしょ? 僕たち、車で来ているのだけど……」

「別に、バーだからってお酒しか飲めないわけじゃないよ。ここはご飯も食べられるんだよ?」


 私がそう言うと、真白は「そうなのか……」と私の言葉を信じ切ったかのように頷いた。

 ウソではない。ネットで調べた前情報によると、このバーでは食事を取ることも可能ではある。

 だが、それはお酒を飲むための食事であって、お腹を満たすための物ではない。居酒屋なら「焼き鳥」や「鶏の軟骨揚げ」と言うような物も出てくるが、生憎とここはそうした所でもない。せいぜい、サンドイッチや生ハムと言うような物くらいだ。食事だけで済ませるには、あまりに乏しい。

 そしてどうやら、真白はそも、「バー」と言う物を嗜んだ経験が皆無らしい。コイツが今なお丸出しの陰キャであったことからそう予想していたが、これまた的中したようだった。


「早くしよ、真白。このまま待ってると、他の人に迷惑だからさ」


 私は行って、真白の手を引く。真白は「あっ」と呟きながら、私の手に引かれて店内へと入った。

 丸椅子の並んだカウンターにいる、40代くらいの女性が「いらっしゃい」と声をかける。私はカウンター席の真ん中辺りに座ると、真白に隣に座るように促した。


「真白、ここ」

「ん……うん」


 真白は辺りをキョロキョロと見回して、酷く緊張しているようだった。

 当然だろう。そも、こうした場所に来るのは、お洒落でイケイケな人間ばかりだ。真白とはあまりに気色が違い過ぎる。
 それに、真白は正直、服装に関してはダサい。より正確に言うなら、あまりに無難過ぎて何も思う所がない。それが彼から醸される陰キャな雰囲気と相まって、あまり良い印象は受けない。そんな彼は、このお洒落なバーという場所においては、酷く浮いた存在となってしまっている。


「なに、お兄さん、もしかして初めて?」


 と、カウンターの、恐らくは店長である女性が気さくに真白へ話しかけた。真白はビクリと身を震わせて、「えっ、と、まあ……」と、おずおずと頷いた。


「あはは、まあそう緊張しなくていいよ。男の子は堂々としてなきゃ! それにほら、彼女さんに格好いい所見せたいでしょ?」


 女性の店長さんが真白に言う。真白は全身をカチコチと強張らせながら、「い、いや、その、べ、別に、彼女では……」と呟いた。


「あれ~? 彼女じゃないの!? じゃあなに、女友達? 男女でバーに来るなんて、珍しいね」

「――彼女です」


 私は店長さんが真白に話しかけるのを聞いて、割り込むようにしてそうと言った。

 私が声を発した途端、真白が顔を赤くしてギョッと身を跳ねさせた。すると店長さんは、「な~るほど」とニヤニヤと笑みを浮かべ、私の方へとすり寄って来た。


「……お姉ちゃん。見た感じ、あの子、意気地なしだね?」

「……まあ」

「カーッ! いいねぇ、青春だねぇ。いいよ、おばさんがちょっとアシストしたげる」


 店長さんは私にそう耳打ちすると、ウィンクをしながら私の元から離れていった。

 ……これは、予定外だ。けど、ラッキーかもしれない。私は小さくため息を吐くと、目の前の男へと向かい合った。


「……なに頼む、真白」

「…………ど、どうしよう……」


 真白は上がり切って、まともな判断がつかないようであった。私は勝ちを確信して、ニヤリと口角を吊り上げた。
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