愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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恋愛編

第15話「運命とは都合のいいものでは無い」④

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「ほら、これは私の奢りさ」


 店長さんがそうと言って、真白の目の前に一杯のカクテルを差し出した。真白はそれを眺め、怪訝な表情で唸り声をあげた。


「……すみません。僕、正直、その、お酒苦手で……」

「バーに来てお酒飲まないなんて、そんなのもったいないって。お酒苦手だったら、飲んで勉強しな! 男の子なんだから、弱かったら格好がつかないよ!」


 店長さんがそう言って真白に目配せをする。真白はやや不満げな表情を浮かべながら、迷うようにカクテルと店長さんの顔とを交互に見つめて、やがて、グラスに手を取り、避けるように口元へとそれを運んだ。

 ちびちびと唇をつけ、ほんの少しだけを飲み込む。と、店長さんが、「なにその飲み方! もうちょっとしっかり飲みなよ!」とケラケラ笑った。真白はそれを言われると、仕方がないと言いたげな表情で、カクテルを勢いよく流し込んだ。

 グラスが空になる。真白は飲み切るとため息を吐き、「お、美味しいです……」と肩を落としながら答えた。


「……なんか、釈然としない回答だね」

「いや、その、美味しいのは本当です。ただ、ちょっと、色々、思うことがあって……」


 私は真白がしどろもどろに言い訳をする様を、じっと見つめていた。

 ――飲んだ。私はそれを確認して、内心でグッとガッツポーズをした。

 あとは、彼がどれだけお酒に弱いかだ。ここまで来たのだから、やんよやんよと飲ませれば、いつかは酔うはず。私は内心でそう思うと、手元に置いたグラスを取った。


「まあ、真白。ここはそういう場だから、楽しもうよ」


 私はそうと言いながら、頼んだピンク色のカクテルを飲み込む。すると真白はややギョッとして、「ちょ、清水!」と私に声をかけた。


「どうするんだよ、2人とも飲んだら、帰れないじゃないか!」

「大丈夫、この辺り泊まる所あるし。〇活とか、アプ〇シオとか」

「――ちゅ、駐車場の代金、高くなるよ?」

「上限まで行っても、3000円でしょ。大丈夫よ」


 私はけらけらと笑いながら受け答える。

 お酒を飲んだことで、ほんのちょっとだけ、体が熱を持った気がした。少し息がし辛くなったが、まだ頭がぽわぽわとしだすほどでもない。

 対して、真白の方は、もう既に頬がほのかに赤くなってきていた。少し空きっ腹であることもあるのだろうが、本人が言っていた通り、お酒にはすこぶる弱いようだ。


「ねぇ、真白。こうなったらさ、もっと楽しんじゃおうよ!」

「あ、あまり悪酔いはしたくないのだけど……」

「大丈夫だって、お酒の席なんだし! それに、美味しかったでしょ?」

「……まあ、今まで飲んできたお酒の中だと、一番だよ」

「あら、お兄さん褒め上手だね!」


 真白がおずおずと言うのに合わせ、店長さんが楽しそうにケラケラと笑った。


「でもお兄さん、見た感じ、安酒しか飲んだことないんじゃないの?」

「ま、まあ……せいぜい、1000円くらいの……」

「それは良くないね! だったら、ここで酒の良さを知って、これからもウチにお金落してもらわなきゃ! ほら、コニャックとかどうだい?」

「え……こ、こんにゃく?」

「……お兄さん、もう酔ってる?」


 店長さんが呆れたように笑う。私は彼女の言葉に合わせて、「じゃあ、私にもちょうだい、マスターさん!」と声を出した。

 店長さんが「はいはい」と言ってお酒の用意をする。真白は私の調子を見て、呆れたように肩を落とした。


「……清水。これから、どうするんだよ」

「まあ、そんなのは、ほら。後から考えればいいし! 今は楽しむのが先!」

「…………。まあ、もう、しょうがないか」


 真白はため息を吐く。と、店長さんがグラスに入ったコニャックを用意して、「はい、お待ちどうさん」と声をかけた。

 私はそれを手に取り、真白へと目を見遣る。真白はやや呆れたような表情をしながら、私が飲むのに合わせて、同じくしてグラスの中身へと口を付けた。


◇ ◇ ◇ ◇


 ――足元がおぼつかない。僕はぼんやりとする意識の中で、清水と共に町を歩いていた。

 バーではマスターにほだされ、やんよやんよとお酒を飲まされた。どれも僕が飲んだことのない、美味しいお酒ではあったが、度数が高い物が多く、あっという間に酔いが回ってしまった。

 そもそも、僕は普段お酒を飲まない。その上で、父親からの遺伝でお酒に弱いとなれば、ほんの1、2杯で頭が溶けてしまうかのような感覚に襲われた。

 合計で、どれくらい飲んだだろうか。おそらくは、4杯か、5杯程度……あれだけの度数の酒類となれば、結構な量だと思う。三時間程度居座ったが、もうとにかく、酩酊がどこまでも酷い。


「真白、大丈夫?」


 僕に肩を貸してくれている清水が、そうと話しかけてくる。僕は物凄く眠い体を引きずりながら、「らいじょうぶ……」とおぼつかない声を出した。


「もうさ、酷い状態だからさ。どこかで泊まろうよ」

「泊まる……」


 泊まるとなれば、どこでだろうか。この辺りに、ネットカフェとかはあるだろうか。


「ネカフェ、空いてないかな……」

「ん、どうだろうね。とにかく、歩こう」

「……そうだね……」


 僕はふらふらとしながら、清水の言葉に従って体を進めた。

 そうしてしばらくすると、僕たちの目の前に、何やら、大きな建物が映った。


「真白、ここにしようよ」

「……ビル?」

「ん、ビル。泊まれるよ?」

「ん――まあ、もう、しょうがないか……」


 やけに光り輝いているビルだ。もう結構な時間だと思うのだけれど。まあ、ネカフェだったら、これだけ遅くてもおかしくはないか。

 自動ドアが開く。中に入ると、小綺麗なホールが出てきて、受付の男性がにこやかに頭を下げてきた。


「いらっしゃいませ」

「あの、予約していた……」


 清水と受付の男性が言葉を交わす。そうしてようやく、僕はここがどこなのかを理解した。


「……あれ、ここ、ホテル?」

「あ……う、うん、そうだよ。ホテル」

「いあ……ちょっと、それは、まずいよ。清水、一回、出よう」

「もうここ以外空いてないよ? 大丈夫、部屋別にするから」

「――なら、いいか……」


 僕は清水の言葉を疑わず、こくり、こくりと頷く。受付の男性が「大丈夫ですか?」と尋ねてきたので、僕は反射的に、「だいじょうぶれす」と答えた。

 全然大丈夫じゃない。というか、もう、本当、なんでもいいから、安全な場所に行かなきゃ。僕は自分が自分じゃないかのような感覚に陥っていた。

 ここまで飲んだのは、本当に初めてだ。基本的に、僕が飲めない人間であることを理解して、友達はお酒を勧めたりはしない。姫川と遊ぶ時も、そもそも、ああいった酒の場へ行ったことがない。

 酒の席での失敗は、そもそも酒の席に立ち会わない僕には縁がない話だった。僕はせりあがる吐き気に顔をしかめた。


「真白、ほら、頑張って。もうちょっとで部屋だから」

「――うん」


 僕は清水に引きずられるようにして、とにかく、とにかく歩みを進めた。

 部屋まで行けば、あとはもう大丈夫だ。明日になれば、酔いも醒めて、それで、帰れるようになるだろう。

 お金、どうしようか。これまでは、ペイペイで凌いで来たが。というか、このホテルは使えるのだろうか。

 駐車場代は、半分は出さなきゃな。上限が3000円とは、町とは言え流石地方、良心的だ。

 この寒空の中、女の子を車の中に泊めるのは忍びない。そう考えると、まあ、この判断は妥当だろう。でも、ホテルって一体いくらくらいするのだろう。かなり豪華な雰囲気だったから、もしかしたら高いのじゃないだろうか。

 ――というか、なんで清水は、こんな豪華なホテルへ来たのだろう。僕は色々な疑問を、思い浮かべて、だけど、その全てを、考える余裕がなかった。

 部屋に入ると、まず目に映ったのは大きなベッドだった。なにやら天井から、薄ピンク色のレースのような物が垂れ下がっていて、異世界モノのアニメに登場する、よくある貴族のベッドのような雰囲気があった。
 あとは、かなり綺麗な一人暮らしの女の子の部屋のような、白くて清潔そうなソファーや、その前に置かれた机、壁掛けのテレビ、あとは小さな照明器具がベッドの付近や机の上などなどに設置されている。

 ――よくわからないけど、ますますもって高そうな部屋だ。僕はこのホテルでの宿泊に、どれだけの金額が必要なのかを思って、ごくりと唾を飲みこんだ。

 ――と。その時だった。


「――真白、」


 突然、清水が、僕の体を、後ろから、強く、ギュッと、抱きしめてきた。
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