愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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恋愛編

第17話「そんな恋もアリだと思う」①

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「真白とは中学の頃からの友達で。けどまあ、俺は理系だし、授業被んないし、アイツ結構一人好きだから、大学で話してるのは見たことないかもだけど」


 目の前の男、青山四郎はつらつらと、河野との関係性について説明をした。

 ……なるほど。そう言うことなのか。私は頼んだコーラを飲みながら、納得の意を示した。

 ……いや、納得できねーわ。どうしたってこんなイケイケ陽キャがアイツとつるむんだよ。アメリカと日本くらい世界観違うだろ。私は交わらないふたつの世界が交錯している様に疑問符を浮かべた。


「……ていうか、なんで私のこと知ってるんです?」

「いや、姫川さん、有名人だから」

「あー、そういう系。服が地雷系とか、ATMとか?」

「……ごめん」

「別に、いいですけど」

「あ、でも、最近は割と取っ付きやすいって話も出てるっぽいよ? なんか、見る目が変わったって言うか」

「え、そうなの?」

「うん。……あ、いや、ていうか。こういう話をしに来たわけじゃなくて」


 青山はそう言うと、一度咳払いをしてから、私の方へきつい視線を向けた。


「……姫川さん。ストレートに聞くけど。……真白のこと、どう思ってんの?」

「っ、」


 私は突然投げられた豪速球に、胸元を抉られたかのような感覚を覚えた。

 ――こいつ、やっぱり、そう言う話か。河野の名前を出されてから、薄々感じてはいたが、私は改めて対面した問題に言葉を失くしてしまった。

 どう思っているのかなんて、そんなの、答えられるわけないだろ。私が歯を食いしばりながら目を逸らすと、「姫川さん」と、青山が私に声をかけてきた。


「あのさ。ぶっちゃけ、好きでしょ? アイツのこと」

「んなっ……! わけ、ないし……」

「いや、その反応はどう見ても好きでしょ。ならさ、ていうか、ちょっと俺、アンタに言いたいことあってさ」


 青山はそう言うと、露骨に態度を悪くして、さながら私の神経を逆なでするかのようにため息を吐いた。


「……実はさ。月曜日くらいか。夜中にさ、俺、アイツから相談来ててさ」

「! ……月曜日に?」

「ああ。で、何かって言うと……振られた、ってさ」


 青山が私を睨みつけてくる。私は彼の言葉と視線で、ドキリと、備品を壊してしまった学生のような緊張を覚えた。


「アイツ、死ぬほど落ち込んでたよ。『わかってたのに、自分を抑えられなかった』って。アンタは自分とそう言う関係にはなりたくないって。ずっと、ずっと、そればっかり」

「――っ……」

「けど引っかかったこともあった。何かって言うと……姫川さんさ、1回、清水とバトったことあったでしょ?」


 私は彼の言葉に殊更大きく混乱した。


「ちょっ、待って。なんでアンタがあの女のことを……」

「清水とは同級生なんだよ。そりゃ、高校も同じだからな、俺と真白。いやそれはいいんだけどさ。でもさ、本屋でいきなりケンカし始めるとかさ。……それ、好きでもない奴に向ける感情じゃないでしょ」

「…………」

「男友達家に誘った。まあ、うん。ヨシにするよ。何度も何度も2人きりで遊びに行ってます。まあ、ギリセーフにしておく。けどさ、他の女と会って、それにガチギレしてましたなんて、そんなの、ただの友達が持つ距離感じゃないのよ。ていうか、ただの女友達なら、そこでキレるのは筋違いだし」

「っ……」

「姫川さんさ。だとしたらだけど、どうして振ったの? 真白のこと好きならさ、別に、普通にそう言えば良いじゃん。一体アンタ、どういう腹づもりなの?」


 どういうわけか、目の前の男は、私に対して怒りを向けているようだった。私はそれに困惑して、だけど、彼からの質問にどう答えれば良いかも分からず、ただ口を噤むだけだった。


「だんまりか。ま、別にいいけどさ」


 と。青山はそう言って、鬱陶しそうに大きくため息を吐いた。

 ……そして、


「それじゃあ、こっからは俺の話ね」


 彼はそう言うと、私に対して、殺しに来るんじゃないのか、と言うくらいの、強い視線を向けて来た。


「ふざけんじゃねぇぞ。散々思わせぶりな態度取って、束縛までして、それで『付き合えない』なんて、いくらなんでもおかしいだろ」


 彼は一切言葉を選ばず、私を刺すように言った。

 私は思わず口をパクパクとさせる。彼はしかし、私の困惑をわかっていながら、なお、言葉を止めはしなかった。


「あのさ、姫川さん。これがもし、俺のことだったら、まあ飲み込んであげるよ。だって、男がこういうのグチグチ言うとか、ダセェしさ。
 けど、これは俺の親友のことだ。だったらさ、ダセェことだって、言いたくもなるよ」

「――あ、でも……」

「でもじゃないよ。恋愛にもさ、一線って言うのがあるでしょ。アンタはそれを超えてるんだよ。
 好きじゃないなら好きじゃない。好きなら好き。ハッキリできないんだったら、他人の色恋にとやかく言うなよ。
 俺はあの女、まあ嫌いだけどさ。でも真白は、あの女のこと、それなりに良く思っていたみたいなんだよ」


 私はそれを聞いて、思わずガタリと立ち上がってしまった。と、しかし、青山は、「座れよ」と私を脅すように低く切り返した。

 私は青山を睨みながら、ゆっくりと座る。彼はため息を吐いて、また私に悪意をぶつけた。


「とにかく、もしもアンタがいなければ、今頃真白は、とっくに彼女が出来てたかもしれないってことだよ。それをさ、アンタは、付き合う気もないのに、自分の気持ちで邪魔したんだよ」

「だっ、て――」

「だってじゃない。別にさ、勘違いさせるなとか、そう言う話じゃないんだ。アンタはでも、アイツのことが好きで、そこが問題だった。
 ……せめて、何も言うべきじゃなかったんだよ。付き合う気がないのなら、その気持ちは見せちゃダメだ。蓋をして、アイツが別の誰かと付き合うのを、黙って見守るしかなかったんだよ」


 私はぐっ、と奥歯を噛み締めて、目の前の男を睨む。しかし、相手の言うことは正論で、私は何も、言葉が浮かばない。


「……男はさ。二十歳超えても彼女が出来たことがないままだと、異常者って言われるんだよ。つって、変な女と付き合うくらいなら、まだそっちのがマシだけど。ただ、この事の重みを、アンタは理解した方がいい。
 俺は正直、真白があの女と付き合うことには反対だ。けど、アイツが納得して、その上で付き合ったって言うなら、文句は言わない。けど、今回のは、いくらなんでも可哀想だ。ようやっとその不名誉を取り払えるチャンスが巡って来たのに、1人の女のせいで、全部台無しになってるんだからな」


 青山はそう言って、呆れたようにため息を吐いた。

 頭の中にいくつもの不満が浮かんだ。きっと、そのどれもが、おそらく、反論に足るような、それだけの力がある言葉だっただろう。

 だけど、それは私の立場だから言えることだ。河野の側に立ったのなら、目の前の男の言い分も、よくよく理解出来て。

 そうして、怒りや、悲しみが、胸の中で滞留して――私は気付けば、涙を流して、くちびるを噛みながら、鼻をすするようになっていた。


「ちょっ――」


 目の前の男が焦りだす。私はそれでも、泣くのを止めることができずに。


「ちょっと、待てよ。なんで泣くんだよ。やめろよ、なんか、俺が悪いみたいじゃん」

「……」

「いや、俺が悪いのか? と、とにかく、わかったって。言い過ぎたとは思うから……」

「……どうすれば、」


 私は青山の言葉を聞かず、声を割り込ませる。青山は言葉を止めて、「え?」と首を傾げた。


「どうすれば、よかったの? だって私、どうしようもなくて。
 そうだよ。私、アイツのことが好きだよ。誰にも渡したくないよ。けど、だからって、アイツと付き合うのも嫌だよ。でもバカだから、自分の気持ちも、抑えられなくて。
 ……なんで、こんなことになったんだよ。私、だって、アイツといつまでも、友達のままだったら、それでよかったのに。なんで、アイツのこと、好きになっちゃったんだろう。嫌だよ。変わりたくないよ。でも、変わっちゃって、本当に、もう、本当、どうすればいいんだよ……」


 私は声を震わせて、机に突っ伏した。青山は私をじっと見つめてため息を吐き、気まずそうに、何も言わず、ただ時間が過ぎるのを待っていたようだった。

 ――と。そうして、私のすすり泣く声だけが、席に蔓延した、その時だった。


「四郎~?」


 何やら、どこか覇気を感じるような声が聞こえた。どこかで聞き覚えがあるな、と私は感じて、突っ伏した姿勢のまま、目と顔だけをチラリと動かし、その声の主を確かめた。

 そこに立っていたのは、やけにニコニコとした表情の優花里と、彼女について回る玲菜だった。


「アンタさ、なに私に隠れて女と会ってんの? あと、姫川さん? なんで私の彼氏と一緒にいるの? ちょっっっと話聞いてもいいかな?」


 優花里は笑ってこそいるが、随分と怒り心頭な様子だった。

 あまりに突然な修羅場の到来に、私は涙が引っ込んだ。そして困惑するままに、「え?」と言っていると、対面の青山が、顔を真っ青にして慌て始めた。


「ちょっ、優花里、なんでお前ここに……!」

「別に、ファミレスくらい来るでしょ。それともなに? 私がいるとなんか悪いの?」

「ご、誤解だ! 違うって、別にこの人とは、そういう関係でもなんでもないから! ホント、マジで!」

「嘘つきはみんなそう言うんだよ?」

「ウソじゃなくてもそう言うだろ! あぁ、姫川さん、ちょっと、説明してやってくれ! こういう時男が何言ってもダメなんだよ!」


 私はしばらくぽかんと2人を眺めた。そして、やがて、「えっ、もしかして、優花里の彼氏って、」と、ようやくここに来て事態を悟った。


「ああ、知らなかったの? そう。私の彼氏、コイツ」

「えっ、えええええええ!? ウソ、なんで!? ていうかいつから!?」

「ちょっと前だよ。2ヶ月? くらい前。言ってなかったっけ?」

「いや聞いてないよ!」


 私はあわあわと慌てふためく。優花里が「いやそんなことどうでもよくてさ、」と話題を変える。私はハッとして、優花里があらぬ誤解をしていることを、どうにか説明しようと身振り手振りを大きくした。


「待って、違うから! ちょっと、何かとんでもない誤解してるから! 話を聞いて、まずはちょっと落ち着いて!」


 私は人目もはばからずわんと叫ぶ。傍らにいた玲菜が、「それ、アンタじゃん」と、やや楽しそうにぷっと吹き出していた。
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