愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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恋愛編

第18話「自分と向き合うためには誰かとも向き合わなければならない」②

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 由希や清水と話をした、次の日。私こと姫川詩子は、和風の小洒落た居酒屋の店舗を睨みつけていた。


「……またここに来ちまうなんてな」


 出入口に立ち、夜の中でも目立つように光る電灯を見ながら、私は呟く。

 駐車場に集まっていた大学生がワイワイとしながら店に入っていく。店の外では、垢抜けた兄ちゃんたちがタバコを吸っている。私は「よしっ」と呟くと、勇むように店の扉を開け、中へと入る。

 気の良さそうな店員さんが、「生一丁~!」と叫ぶ。周りはガヤガヤとしていて、飲み屋特有ののぼせ上がった雰囲気が満ち満ちていた。

 私はその中で、とある、一人の男を探した。そうして首をあちらこちらへと回していると、


「よー、詩子~」


 騒がしい中で、私を呼ぶ声が聞こえた。私はそちらへと目をやると、個室から顔を出して、手を振る輩がいた。

 ――宮本卓也みやもとたくや。私の、元カレだ。私は彼を見つけると、「よう」と言って、ソイツの元へと向かった。


「ごめん、突然呼びつけて」

「いいよ、別に。てか、ビックリしたわ。まさか、お前からLI○E来るなんて思ってなかったからさぁ」

「私も、アンタにLI○Eするなんて思ってなかった」


 私はピシャリと卓也に言い返す。

 実際、本当にコイツとは話す気なんてなかった。だからコイツのLI○Eはブロックして削除していたし、となれば、本来、コイツと連絡が付くはずなんてあるわけがなかった。

 けど、玲菜に聞いたら、やっぱりコイツの連絡先を持っていた。どうやら合コンの際に何気に連絡先を交換していたらしい(とは言え、LI○Eをしたことはほとんど無かったようだが)。


「……言っとくけど、話があるだけだかんね。変なことは期待すんなよ」

「ん……まあ、わかってるって」


 卓也はそう言って一瞬目を逸らした。コイツ、期待してやがったな。

 私は個室に入り、卓也の対面に座る。彼はメニューを広げながら、「何頼む?」と私に話しかけてきた。


「言っておくけど、飲みに来たわけじゃないからね?」

「わかってるけどさ。居酒屋来て何も頼まないなんて、流石に悪いじゃん。別に、お酒飲まなくてもいいからさ。なんか食べよ?」


 卓也はそう言って笑う。私はちょっとだけ口を尖らせながら、「じゃあ、枝豆」と呟いた。


「枝豆って、女子なのにしぶいね」


 卓也がケラケラと笑う。私は一瞬『なんだコイツ』とイライラして、卓也がメニューを決めて、店員さんを呼ぶのを待った。

 店員さんがやって来る。「ご注文はいかがしましょうか」という声を聞くと、卓也は、「枝豆と、あともも塩ください」と言った。


「あっ、詩子。飲み物どする?」

「ウーロン」

「じゃあ、あとウーロン茶2つ。お願いします」


 店員さんが声を受け、「かしこまりました!」と元気よく言う。そして注文を叫ぶと、「ごゆっくりどうぞ」と言って個室を離れていく。

 私は改めて卓也と向かい合って、肩の力を抜くように、大きく息を吐いた。


「……で、」


 私は卓也を見つめ、話の口火を切った。


「話があるんだけど」

「なんか、めっちゃガチじゃん。そんなに大事な話なの?」

「私にとっては」


 私が卓也の態度に不快感を醸すと、卓也は「あ、うん」と呟いて、改めるように肩を落とすと、真剣な目で私を見つめ返した。


「それで、話って、なに?」


 卓也が尋ねる。私は目を閉じて、大きく息を吸ってから、卓也に話の内容を伝えた。


「……謝りたいことがある」


 私が言うのを聞き、卓也は「ん?」と首を傾げた。


「……高校の頃、私たち、付き合ってたじゃん」

「ああ、まあ、一応ね」

「でも、私、アンタのこと振ったじゃん」

「……まあ、うん」

「あれをさ、謝りたくて」


 私が言うと、卓也は「ん? どゆこと?」とますます訳が分からないといった顔をした。


「言っておくけど、ヨリを戻したいわけじゃないからね?」

「いや、そーゆーのは分かってるって。だから、どういうことって」

「……あん時、私、アンタのこと、一方的に振ったじゃん。もう無理って」

「……ああ、まあ、うん。そだね」

「アレの理由、きっちり言いたくてさ」


 卓也は私の言葉を聞くと、「なるほどねぇ」と言いながら、一層真剣な表情で私を見つめてきた。

 当然だろう。この話は、彼にも関係がある話だ。私は彼の相槌を聞いて、ゆっくりと口を開く。


「……あの時、私がアンタを振った理由は……なんて言うか……合わないって、思ったから」


 卓也は私の言葉を聞き、また首を傾げてしまった。


「ああ、違うの。いや、違うってなんだ。とにかく、アンタとは本当、ソリが合わないって思っただけで、別に、アンタが悪かったわけじゃ無いって言うか」

「……詩子。えっとさあ、合わなかったから別れた……なんてさ、正直、当たり前の話でさ。俺が聞きたかったのは、俺のどういう所が、合わなかったのか、って言う所なの」

「そ、そうよね。……まあ、なんて言うか、」


 私は少しだけ溜めて、言葉を頭の中でごちゃごちゃと整理し、おぼつかないままに言った。


「……私さ、実は……恋人っぽいこと、好きじゃないのよ」

「……うん」

「LI○Eのプロフ揃えるとか、イニシャル揃えたよく分からんキーホルダー作るとか。あと、特別な体験をしに遠出したりとか、わざわざ恋愛映画見に行くとか。そういうの、どうしても性にあわなくて。けど、アンタとの恋は、全部そんな感じだった」

「――」

「だから、嫌になったの。て言うか、正直、ごめんね。私、アンタのこと、好きじゃなかった。嫌いだったわけでもないけど、なんか、別に好きじゃなくても、付き合えば好きになるのかな、って。そう言うモンなのかなって思って、ノリで彼女になった。でも、好きになれなかった。……私さ、ホント、とことん、恋愛向いてないって思った」

「……そっか。そっかぁ。……なんか、ショックだな。俺、詩子のこと、あん時、本当に好きだから告ったんだけど。……女、こえぇなぁ……」


 卓也はそう言って、苦笑いしながら顔を下げた。私は咄嗟に、「ごめん、本当。私が悪かった」と両手を合わせた。


「でも、そっかぁ。ああいうの、好きじゃなかったんだな。そうだったのか。……それだったら、そうと言ってくれればなぁ」


 卓也はしみじみと言う。私は申し訳なくて、何も言うことが出来なかった。

 沈黙が2人の間に流れる。すると、それを打ち消すように、個室の扉が開いて、「おまたせしましたぁ!」と気の良い店員の声が入って来た。

 運ばれて来たのは、枝豆と、もも肉と、2つのウーロン茶。私たちは「あ、ありがとうございます」と言って品々を受け取りながら、それを適当に机に並べる。

 そして、私の目の前に置かれる枝豆。私は早速それに手をつけて、ポイポイと食べては空になった皮を小皿へ落としていった。


「……なあ、詩子」


 と。卓也が私に話しかけてきた。私は沈黙が終わったのに驚いて、ウーロン茶で枝豆を流し込んでから、「なに?」と尋ねた。


「……なんで、俺に会おうって思ったの?」


 私は卓也の問いかけに、一瞬だけ声を詰まらせてしまった。

 私は一度目を瞑り、息を吐いてから、ゆっくりと目を開く。そして卓也に向けて、声を震わせないように、ハッキリと言った。


「……好きな人が、できた」


 私の言葉に、卓也は驚いたように目を大きくした。


「後からソイツに告白する。でも、その前に、アンタとの因縁に、決着をつけたかった。
 ……私さ。たぶん、恋愛観、拗らせちゃってるの。それで、その原因が、アンタとの付き合いにあったって思った。いや、私が悪いんだけどさ。だから、アンタに会えば、なんか掴める気がした」

「――」

「それが理由。……ごめんね。こんなことに、無理矢理付き合わせてさ」


 私が言い切ると、卓也はやや寂しそうに、「そっか」と呟いた。

 そしてしばらくすると、卓也はゆっくりと顔を上げた。


「……好きな人って、どんな奴?」

「……えっと、正直、アンタとは真逆。お洒落じゃないし、パッとしないし、陰キャでオタクで、髭剃ってりゃ清潔感出るだろって思ってそうな奴。
 でも、一緒にいて、凄く楽しい。優しいし、趣味合うし、何より、付き合い方が楽で良い。私のこと、ちゃんと見てくれる。私のこと、ちゃんと理解してくれる。リードしてくれる男じゃないけど、一緒に隣を歩いてくれる。そんな感じ」

「そっか。聞いた感じ、なんかアレだね」

「うっさい」

「ごめん。けど、凄く気持ちは分かった。……それに、良い人なんだなって、聞いてて思ったし」


 私は「え?」と卓也に言う。すると卓也は、体を後ろに傾け、天井を仰いだ。


「だって、ほら。さっきからさ、詩子、自分から謝ってばっかじゃん」


 私は卓也に指摘され、「あぁ……」と小さく返事をした。


「ほら、女子ってさ。なんでも男に『察して』って言って、それで済ませるところあるじゃん。でも詩子は、そうじゃなくて、自分が悪いってしっかり言えてる。そんな詩子が好きになったんだから、まあ、良い人なんだろうなって」

「……」

「……あー。そっか。もう、姫川って呼んだ方がいいか。付き合ってないわけだし」


 卓也はそう言うと体を起こした。


「ありがとね、姫川」

「……え?」

「いやさ。実はさ、俺、ずっと引きずってたんよ。なんであん時、姫川、俺のこと嫌いになったんかなってさ。なんか悪いことしたんかなって。けど、今日それがわかったから、よかった」

「……」

「これからは、その辺気をつけてくよ。それにしても、俺、こんないい女逃したんだな。もったいねぇなぁ」


 卓也――いや、宮本は、大きくため息を吐きながら、そうこぼした。
 だけど、彼の表情は、どこか、憑き物が落ちたかのような、そんな安らかさがあった。


「……姫川さ、今からその人の所行くんでしょ?」


 宮本が私に問いかける。私はゆっくりと、「うん」と頷いた。


「それじゃあ、行ってきなよ。あんまし俺とか店とか気にしないでさ」

「……うん。じゃあ、そうさせてもらう」


 私は言いながら、持ってきたショルダーバッグから財布を取り出して、1000円札を宮本に渡した。


「いや、いいって。枝豆とウーロンくらい奢るよ」

「アンタに借りを作るのが嫌なだけ。まあちょい多いけど、メンドイし、餞別ってことでもらっとけ」

「……うーん。まあ、それじゃあ、そうするわ」


 宮本は言いながらお金を受け取り、そして、「あざます」と言って、両手をわざとらしく合わせた。


「じゃあ、宮本。バイバイ」

「ん。姫川、頑張れよ」


 私と宮本は言葉を交わして、私は個室を出て、居酒屋を飛び出した。

 そして私は、はやる気持ちを感じながら、息を切らして、どこぞの男に電話をかけた。


「――河野。話したいことがある。……あの公園に来て」
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