愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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恋愛編

第18話「自分と向き合うためには誰かとも向き合わなければならない」①

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「あ~ん、由希ちゃん聞いてよもおぉぉ、真白にフラれちゃったよおぉぉ」

「……心春。もう私、3日も同じ話されてるんだけど」


 私はゴミ袋と酒の缶を持って、夜の公園で、友達の由希に大声で泣きついていた。前の土日の出来事を、飲み仲間になった彼女に愚痴っているのだ。

 真白と別れた時は笑顔を取り繕っていたが、あの後、すぐに涙が溢れてきて、どこかの駐車場に止まって、一人車の中で泣いていた。その後も、自分でも思いの外アイツのことを引きずっていて、三日経った今なお悲しみが収まらないのだ。

 由希は私が買ってきたお酒を手に持ち、一緒になって飲みながら私の叫びを聞いている。なんだかんだで呼び出せば付き合ってくれるのだから、本当、この子はいい人だと思う。


「由希ちゃんだってぇ、今でも待ち受け姫川さんとのプリにしてるじゃんかあああ! いいじゃん、そっちだってずっっと引きずってるんだからああ」

「お、お前、そういうの言うな! 恥ずかしいじゃんか!」


 由希が顔を赤くさせて私にギャンと言う。私は手に持ったほろ酔いをぐびぐびと飲んで、「ぶはぁ」と盛大な声を出した。


「……自分でもさあ。本当、ここまで本気だったんだって、思わなかったよ。だって、今まで好きになった奴と、全然違うタイプなんだもん……」

「……まあ、アイツを好きになるって言うのは、かなり物好きだなっては思うよ。けど、それはそれでわかるからさ」


 由希は私の言葉に、ややうつむき気味にそう答えた。私の感情に同調するようなその表情に、私は自分の中の濁流を止められず、吐き出すように彼女に心の内を明かした。


「たぶんね。ほら。結婚したい人と、恋をしたい人って、別って言うじゃんか」

「……まあ、言う人もいるな」

「私さ、アイツとそこまでの関係に行きたかったんだよ。不器用だけど、いつも誰かのこと気にしてて、シンプルに優しいからさ。けどさあ、もうアイツのこと、手に入らないんだよなあ」


 私はそう言ってまた缶に口を当てる。しかし、ほんの少し中身が出てきたかと思えば、もうお酒は無くなっていて、私はやけくそ気味にゴミ袋の中に空き缶を突っ込んだ。


「ああ、もう! いくらでもチャンスなんて転がってたのにぃ! だって私、アイツと結婚の約束もしてたんだよぉ! もう全部無くなっちゃったけどぉ! クソぉ、ド〇〇もん来てくれないかなぁ! タイムマシンがほしいぃ~!」

「マジか、お前、アイツとそんなこと言ってたの?」

「ちっちゃい頃はそこそこ顔が良かったんだよォ! 今はあんなんだけど!」

「か、顔の問題だったんだな……」


 由希は肩を落とし、やや口角を吊り上げて笑った。そりゃあ、お前、顔は重要な要素だから、まあ仕方ないよ。

 私は持ち込んだバッグから更に缶の酒を取り出し(ちなみに5本目だ)、プシュりとプルタブを開ける。そして中身をジュースのようにこれでもかと飲む。


「お前、その辺にしとけって」

「ヤダ! 嫌なことは飲んで忘れる! うわぁ~、ド〇〇も~ん!」

「まったく忘れられてねぇじゃねぇか」


 由希が呆れて肩を落とした。すると、彼女はスマホをいじいじして、誰かとのメッセージを確認しているようだった。


「……由希ちゃぁん……。誰と連絡してるの?」

「ん……まあ、たぶんもうすぐわかるよ。……あ、ほら」


 由希は言うと、公園の出入口にへと目を向けた。

 すると、そこから現れたのは、例の、地雷系な服に身を包んだ、おっぱいだけはやたらデカい、あのいけすかない女だった。


「由希!」


 姫川は、汗だくになって走りながらおっぱいをばいんばいんと揺らして、まっすぐに由希の方へと駆けて来た。

 私は内心で、うわ、と思ってしまった。だって、今の私が、一番会いたくない人物が、コイツだったからだ。


「……よう、詩子」


 由希はどこか寂しそうに、だけど、それでもほのかに笑っていた。私は、この子のそんな言い表せないような表情に、少しだけ悲しい気持ちにさせられた。


「……ま、まっ、て……久々に走って、息が……」

「運動不足なんだよお前。ちょっとは走ったら?」

「オタクに……運動は……向いてない……」


 はぁ、はぁ、と息を荒らげて、汗を吹き出し、化粧がそれで流れていく。
 と。姫川は、ふと私の方を見て、「あ……」と呟いた。


「……清水、さん……」

「……」


 どうやら、姫川にとって私は予想外だったらしい。私は眉間にしわを寄せ、ジトッとした、不快感を煽るような目で姫川を睨む。

 だけど姫川は、やけに据わった目をして、「ちょうどよかった」と、汗を拭きながら言った。


「私、あなたにも話があったの。だから、居てくれて、よかった」


 呼吸はもう、大分落ち着いていた。私はどことなく覚悟の感じられるその雰囲気に、内心、少しだけ気圧されてしまった。

 と。姫川は、由希に向き合って、「由希、」と彼女の名を呼び、口火を切った。


「……その、私、ずっと、アンタに言い忘れた……いや、言うのを避けていたことがあって、」


 姫川はそう言うと、歯を食いしばり、顔をうつむけた。由希はどうやら、彼女の言いたいことを悟ったようで、「うん」と、微笑んだまま、ただそうと返して。

 すると姫川は、目をギュッと瞑り、一層奥歯に力を込めてから、「ごめん」と、由希に頭を下げた。


「私――私が、ずっと、ハッキリしないから。だから私、ずっと、ずっと、アンタのこと、苦しめた」

「……うん。そうだな」

「あの時も――私を振った、あの時も! 私、アンタと離れたくなくて、もうダメだってわかっていたのに、自分の気持ちに向き合えなくて、アンタにも向き合えなくて、それで、何も言えなかった! だけど……アンタと向き合えないなんて、そんなの、それじゃあ嫌だって……!」

「……うん」


 横目で見た由希は、どこか涙を浮かべているようにも見えた。だけど、彼女は決してそんな態度は見せず、ただ、姫川の話を、微笑んで聞いているだけだった。


「……由希。ごめん、本当に、ごめん。あの時言わなきゃいけなかったこと、言わなくて、本当にごめん」

「……うん」

「それでね。今さら、あの時の返事をしなくちゃって。それも、本当、最悪だってわかってるけど……ごめん。だけど、言わなくちゃいけないから」

「わかってる。大丈夫。覚悟はさ、出来てるから」


 由希の言葉がわずかに震えた。姫川は目から涙を流して、そして、由希の両手を包み込むように握って、顔を少しだけ伏せて。


「ごめん、由希。私……アンタとは、付き合えない。女だからとか、そんなんじゃなくて――私、私……もう、好きな人がいるの。私、ようやくそれがわかって……」

「……うん。うん。わかってた」

「だから、アンタの気持ち……わかっているけど……私、それに、応えられない。だから、本当に……ごめん。ごめんね。私、本当、最低だって……」

「……泣くなって。こんなのはさ、当たり前なんだよ。人はさ、二人の人とは付き合えないんだから。……でも、アンタがそうやって、覚悟決めてくれたこと……私、スッゲー嬉しいよ。だってさ、アンタ、ようやく前に進めたんだよ?」


 由希は強がりを言いながら、だけど、純粋に笑って、姫川の頭をゆっくりと撫でた。


「ほら。次、やらなくちゃいけないこと、あるんだろ? だったらさ、もう、ここで泣いてちゃダメだろ?」

「……うん……」


 姫川は、鼻をスンスンと鳴らして、目から溢れた涙を腕で拭いながら、ゆっくりと、私の方へと目を向けた。


「――清水さん」


 姫川が呼びかける。私は、「……なに?」とぶっきらぼうに言って、彼女の心を刺すような態度を取った。

 だけど、姫川はもう、そんな程度じゃ、心を揺るがすことはなかった。


「……ごめん!」


 姫川はそう言って、勢いよく頭を下げた。


「あの時――あなたと初めて会った時……私、わかっていたけど、あなたに、凄く、凄く、失礼なこと言った。だけど、私、子供だったから……その、ぶっちゃけ気に食わなくて、ずっと、謝らなかった」


 姫川は心底申し訳なさそうに私に言う。すると彼女は顔を上げて、私に擦り寄りながら、更に言葉を重ねた。


「本屋のことだって――! 私、あなたの気持ち知っていたのに、あなたが、アイツに告ったこととか、わかってたのに! 配慮しなきゃいけないのは私だって、わかってたのに――あなたに突っかかって、キレて、本当、子供だった! ごめん、ごめんなさい、本当に私、謝っても、謝っても足りないけど――! でも、とにかく、謝んなきゃって……!」


 姫川の表情は必死だった。その言葉のどこにもウソは無くて、私はだからこそ、思わず、奥歯を食いしばってしまった。


「――それで、」


 姫川はそして、なお言葉を紡ぎ、


「私、ようやく、自分の気持ちに気付いた。
 私――アイツが好き。河野が好き。だから、アイツに告って、私、アイツの彼女になる!」


 私をまっすぐに見つめて、宣言した。

 腹の底から、怒りが沸いた。私はため息を吐いて、前髪をかき上げて、姫川の表情を睨みつける。


「――あっ、そ。……で? アンタは、私にそれ伝えて、どうしたいのよ。……アンタさ、知ってんでしょ? 私が、アイツに告って、完璧に振られたって」

「っ――」

「やっぱりねぇ。……はは、なるほど。つまり、当てつけに来たわけだ。こうやって、男に振られて、ヤケ酒している私をさぁ」

「違う! ……けど……確かに、そう……見える……」


 姫川は顔をうつむいて、苦々しく奥歯に力を込める。しばし黙り込んで、アイツは顔を上げた。


「けどっ――!」


 その顔はやっぱり、純粋だった。私はそれを見て、また大きくため息を吐いて。


「――ウソ。わかってる」


 姫川の態度に、私は彼女を認めざるを得なかった。


「アンタが、そんなんでここに来たわけじゃないって言うの。……ちょっと、ムカついちゃってさ。それで、嫌がらせしたくなっただけだよ」


 姫川は私を見つめ、私は彼女から目を逸らす。夜風になびく髪をかきあげながら、私は更に言葉を紡いだ。


「……私さ、高校の頃、河野に酷いことして――それ謝んのに、4年かかった。自分が悪いって自覚すんのに、3年近くかかった」

「……」

「……なんかさぁ。嫌んなるよ。どうして、アンタがアイツに選ばれたのか、分かりやすくてさ」


 私は髪の毛の先端をいじいじとしてから、もう一度ため息を吐いて、姫川に向き直る。


「……行きなよ。告るんでしょ?」

「――うん。でも、まだ行かない」

「いや、お前……この流れでよくその台詞言えるな」

「わかってる。けどね、」


 そう言うと姫川は、履いているスカートのポケットから、スマートフォンを取り出した。


「まだ、決着を付けなきゃいけない奴がいる」


 真剣な面持ちの彼女に、私は「?」と首を傾げた。
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