愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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恋愛編

閑話2「愛の証明」③

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 その後、数日が経ち。いつも通り真白が心美を幼稚園に送るためで払った後、私はPCを前に頭を抱えていた。

 ――やべぇ。どうしよう。間に合わねぇかも。

 私こと姫川詩子は、見事に原稿を落とす危機に陥っていた。

 私の作品は隔週で更新される。週刊連載ほど地獄のようなスケジュールではないが、それでもかなり忙しい。

 隔週で更新と言うのは、つまり2週間に一度の更新をすると言うことだ。私の漫画はおおよそ1話20ページを作るので、これを2週間で仕上げるというのは、結構骨が折れる作業になる。

 うまくハマればそれなりに時間を余らせることもまあ可能ではあるが、ストーリーとはそんな簡単にポンポンと出てこないもの。詰まった時の厄介さと言うのは、本当に度し難いことこの上ない。

 真白は言っていた。『リラックスと緊張のバランスがちょうどよくなると、アイデアは浮かびやすくなる』と。つまり気持ちが焦る状態は、心のバランスが崩れて、まさしく沼にハマってしまった状態であるということだ。

 しかもだが、私の今日の起床時間は朝の5時だ。下手をすると徹夜さえあり得る私の仕事で、絶対にこの時間に起きなければならないというのは滅茶苦茶しんどい。

 ――グチグチ言ってられねぇ。とにかく、やらないと。私は慌ててタッチペンを取った。

 と、その時、


「ただいま」


 真白の声が聞こえた。私は思わず舌打ちをしてしまい、出迎えることなく、机にかじりつく。

 しばらくしてから、真白が私の仕事部屋に顔を出し、私に話しかけてくる。


「……今やばい?」


 私は「やばい」と返事をすると、真白は「ん」と言うと、また更に私に話しかける。


「手伝うよ。僕のPC付けるから。ディス〇ードでデータ送って」

「たすかる」


 真白はそれだけを告げると、仕事部屋からいなくなった。

 こうして追い込まれると、私は度々真白にヘルプを頼む。アイツもアイツで忙しい中、こうやって私を手伝ってくれるのは本当に感謝極まりない。

 なんだかんだ、真白とは長く一緒にいるけれど、未だに仲が良いのは、アイツのこういう所があるからだと思う。今だって、必要以上の会話はしないで、ササッと部屋に行ってくれたし。

 その後、アシスタントが2名ほど来て、私の仕事部屋に入り、作業を始める。私は色々と指示を出しながら、黙々と作業を続けていく。

 そうして12時になった頃合いに、昼を告げる時計の音が鳴り響く。私は大きく背伸びをしながら、部屋にいる2人のアシスタントに声をかけた。


「ありがとう、2人とも。時間だから、お昼ご飯食べていいよ」

「あ、はい」

「わかりました」


 2名のアシスタントが返事をする。

 私のアシスタントは、1人が男で、もう1人が女の子だ(流石に部屋で男と2人きりは怖いので)。2人は液タブをスリープモードにすると、そそくさと部屋を出て、互いになにか話しをしながら、家を出て行ってしまった。

 あの2人、外食するんだな。私がそんなことを考えていると、「詩子」と、真白の声が聞こえてきた。

 私は立ち上がり、リビングへと移動する。


「あー、ごめん、真白。今用意するから……」


 私が言いながら、リビングに到着すると、食卓にはもう、2人分の料理が並んでいた。


「ん、もうできてるから。ご飯食べて、休憩したら、また作業の続きをしよう」


 真白が平然と言う。私はそれに、もう年増であるにも関わらず、図らずもキュンとしてしまった。


「……あ、ありがとう」

「忙しい時はお互い様だよ」


 真白は言いながら机に座る。私も彼を見つめながら、ゆっくりと食卓に座り込んだ。

 ――今日の飯は、ご飯に、みそ汁に、小さいハンバーグと目玉焼き、か。まあ、それなりの量ではある。私はふんふんと料理を眺める。

 ――しかし、今日は真白が作ったから、写真を撮るわけにもいかないな。私はふと、そんな言葉を頭に思い浮かべた。

 と。


「詩子」


 突然、真白が私に話しかけてきた。


「ちょっと、食事中で申し訳ないけど、この前言い忘れたことあったから」

「――あ、ああ。なに?」

「いや。以前も話した、お弁当のことから、追加でなんだけど」


 私はそれを聞いて、思わずため息を吐いた。


「……それ、今言わなきゃいけないこと?」

「今じゃなくてもいいけど、今言いたい」

「……なに?」

「詩子さ、ちょくちょく料理の写真撮ってるけど。……もしかして、イ〇スタやってる?」


 私は真白の言葉を聞いて、ドキリと心臓がはねた。

 ――しまった。私は内心でつぶやいた。

 真白の言葉はドンピシャだ。私は確かに、イ〇スタをやっている。そして彼が疑問を示した通りで、私はそれを真白に伝えていない。

 そもそも、それなりに有名な漫画家のイ〇スタだが、これの存在は誰にも伝えていない。ツイ〇ターの何万人というフォロワー数とは打って変わって、イ〇スタはせいぜい数十人規模と、こじんまりとしたアカウントになっている。

 なぜか。それは、私のイ〇スタは、近所のママ友界隈でのみ運用している、極めてローカルな物だからだ。


「――当たりだね。じゃあ、詩子。ここからは予想だけど――君のイ〇スタ、あの・・ママ友たちとの交流用の奴だよね?」

「……えっとぉ……もしかして、オミトオシ?」

「いや。だから、確認している。……でも、ってことは、間違ってないってことだよね?」


 真白が私に睨みを効かせる。私は気まずくなって、「はい……」と呟いた。

 真白は私の返事を聞き、「ふむ……」と顎に指をかける。と、真白はうなずいてから、私の方に顔を向けた。


「――詩子。ちょっと、考えがあるんだけど」

「……なに?」

「明日の、心美のお弁当。――僕に任せてくれないかな?」


 真白に言われ、私は「えっ」と目を丸くした。


「そんな、いいよ、別に。私がやるから」

「いや。ごめんね、あまり厳しいことは言いたくないけど――君は絶対にしないでほしい」

「な、なんで――」

「君がお弁当を作る理由。……たぶんだけど、ママ友でしょ?」


 私は「うっ」と言葉を詰まらせた。真白は淡々としながら、さらに言葉を紡いでいく。


「……僕も以前、あの人たち、見たことあるけど。詩子も、感じているでしょ? あの人たち、怖いよ、なんか」

「……うん。子育てとか、新しい価値観とか言って、変な講習よくやってるし……」

「この前、数千円するよくわからない本買ってきたでしょ? アレも、あのママ友グループが発端だよね?」


 ぎえっ、と、私は首を絞められたかのような感触を覚えた。私は真白の言葉に逆らえず、「はい……」と素直に認めた。


「君があの手の本を買ってくるなんて、おかしいと思っていたから。内容を読んだけど、かなり思想が強めの本だったね。政治的と言うか、なんと言うか」

「……」

「詩子。説明してくれないかな。君が料理に張り切り出したのって、あのグループと関わってからなんだよ。正直、不安で、心配で、仕方がないよ」


 真白がそうして私に詰めると、私は反射的に、笑顔を引きつらせて、真白に答えた。


「で、でも――子育ての有益な情報とかも、もらえるし……ああいうの、入ってた方がいいかなって、私は……思ったんだけど……」

「ごまかさないで。これは流石に、僕も追求させてもらうよ」

「や、でも――」


 私がなお言い返そうとすると、真白は突然立ち上がって、私のすぐ横にまで来て、

 と、私の顔をパン、と両手で挟んで、息がかかるほどの距離まで来て、私の目を、真っすぐに見つめた。


「詩子。僕の目を見て、僕の声を聴いて。僕と、向き合って」


 私は真白の言葉に、「あっ――」と呟き、目を丸くさせた。


「君が見ているのは、僕でもないし、心美でもない。おおよそ、ママ友のグループから、何かマウントでも取られたんだろう?」

「――」

「だとしたら、君が見ているのは、あのグループだよ。僕たちが真っ当に家族をやっていくのなら、そうじゃなくて、僕たちを見て。でないと、君も、いつの間にか、呑まれちゃうよ。頭のおかしな思想に」


 私は真白に言われ、しばらく黙り込んでから。

 やがて、ぽつりぽつりとつぶやいた。


「――実は、あのグループの集会が、ちょくちょくあって。そん時に、言われたの。手作りで料理を作らないとか、お子さんへの愛が足りないんじゃないのか、って」

「……」

「――冷凍食品使わなくなったのは、それが理由で。私、あの子の愛を疑われるのだけは、嫌で。あんな奴らに馬鹿にされるのも癪で、ムキになって、張り合おうって思って」

「……続けて」

「ほかにも――ほ、本を買ったのは、ああいうの買っておかないと、あのグループでの立場が悪くなるって思って。い、いじめとかに発展したら、怖かったし……ご近所さんだから、いやがらせとかされたら、怖いって思って……」

「――僕たちを、守るため?」

「うん。ま、漫画家なのも隠してて。だって、私が2次元の絵描いてるオタクだってバレたら、一瞬で立場が悪くなるから」

「……そういう思想の人たちだからね。本を見た感じ」

「イ〇スタも、それで始めて。写真投稿しないと、またマウント取られて面倒臭いから。それで――」


 私は言いながら、真白に寄り掛かった。

 力が抜ける。何か、つっかえている物が落ちた感じがして、ふわりとした安心感が沸きあがってきた。


「詩子」


 と。真白が、ゆっくりと、私の頭を撫でた。


「何でも、自分だけで抱え込まないで。君の問題には、僕も向き合うから。僕たちは、そのために一緒になったんだから」


 真白の手の温もりが、全身に浸透していく。私は目を閉じて、「うん。ごめんね」と、彼の空いた手を握った。
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