愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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サブストーリー1【いじめはいじめられる方が悪い】

10

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 吉田航平は、ぽつんとフードコートの机に座っていた。

 吉田の頭の中では、優花里から言われた言葉が延々と反響していた。

 心の中を看破され、自らがあまりに醜いことを突きつけられた。吉田は狂おしい程の怒りに駆られていたが、同時に、どこか自分の醜悪さを認めざるを得ないと言うような、そんな落胆も味わっていた。

 自分はどうすればいい。そんなことを思っていると、自身の目の前に、突然紙コップに入れられたコーヒーが置かれた。


「ん、吉田君。コーヒー」


 ふと脇を見ると、真白が淡々とした様子で自らにコーヒーを差し出していた。吉田はきょとんとしながら、「え? あ、ああ……うん……」とコーヒーを手に取った。

 湯気が立っていて、暖かい。吉田は紙コップ越しに伝わる温度に心が和らぐのを感じた。


「ブラックだけど、大丈夫?」

「あ……う、うん……大丈夫……」


 吉田が頷くと、真白は彼の対面へと座った。
 そしてしばらく自分の方を見もしないで、天井やら歩いている通行人やらへと目を向け、吉田はそれにかえって違和感を覚えてしまった。


「……なんで、僕にこんなことするの?」


 吉田は真白に尋ねる。しかし真白は、「別に、なんとなくだけど」とだけ答えた。


「いや……なんとなく、って。だって、見てたでしょ。今の」

「そうだね。……その件について、僕からも聞きたいことがあるんだ」


 真白はそう言うと、吉田へと真剣な眼差しを向けた。吉田は彼の目にキュッと胸を締め付けられるような情感を抱き、口を一文字に結び、黙して真白の言葉を待つ。


「単刀直入に聞くけど、なんであんなことしたの?」

「あ……そ、それは……言ったと思うけど……」

「うん。いじめられたからでしょ。でも、そう言う意味じゃない。……ハッキリ聞くけど、復讐って理由、正確じゃないんでしょ?」


 真白が背もたれにもたれ、腕を組む。吉田は彼の言わんとしていることを察すると、しばし目を泳がせ、何秒、何十秒と思考をして、


「…………わからない…………」

「え?」

「……なんで、こんなこと……しようとしたんだろう……。同じ大学だったのか、って知って……でも、あれ……僕は、どうして……」


 吉田は徐々に後ろめたい気持ちが強くなっていった。

 吉田は自分の感情を理解できていなかった。ただよくわからない衝動が頭の中で膨らんで、その結果、なぜかそうしなければならないと言うような感情に駆られてしまったのだ。

 もはや吉田には、自分の気持ちを説明するだけの記憶も、想いも残っていなかった。あるのは、熱が冷めきった心と、やってしまった行いへの強い羞恥心のみだった。

 しばらくぽかんと遠い目をしていた。すこしばかりの間が空いてから、真白はため息を吐き、「まあ、そう言うこともあるか」と目を伏せた。


「――こ、河野君は、僕のこと、どう思っているの?」


 と、吉田は焦燥感に駆られ、真白にそうと問うた。

 否。どう思われているかなど、よく理解していた。だが、そこから目を逸らしたいという感情が、しかし、どういうわけか、彼にこの質問をさせてしまったのだ。

 真白は腕を組んだまま、「うん」と呟くと、ゆっくりと体を前傾させていき、机に肘をつき、吉田の目を真っすぐに見つめて答えた。


「今から、不愉快なことを言うね」

「えっ、」

「正直、僕は君の事を見下している」


 吉田は真白から突き付けられた感情にショックを隠せず、ただ表情をゆっくりと落とした。


「そりゃそうだよ。突然怒り出して、一体何をしでかすかわからない。身近に置いておくと、それだけで気を使わなきゃいけなくてひやひやする。……琴月さんの言葉も、僕は終始納得していた。何も言い返すことはできないなって」


 真白の言葉は吉田の心に深く突き刺さった。さながら血が流れ出ていくかのように指先から温度が無くなり、身を焼かれるような羞恥心と罪悪感に頭が混乱する。


「……でも、君のコンプレックスについてはわかるよ」


 と、真白はしかし、吉田の心を肯定するような言葉を吐いた。吉田は思わず、「え?」とまた素っ頓狂な声をあげた。


「琴月さんはそんなにって感じで言っていたけど――君がイケメンだったら、まあ、もうちょっとマイルドな言い方をしていただろうなって思うよ。僕だって、見た目に関しては色々言われてきたからね。……中学生の頃、女の子が櫛(くし)を落としてね。それを拾って渡してあげたら、ギャンギャン騒ぎだして、そしたら周りの女の子が集まって来て、僕が悪いって言われた。『女の子のそういう所、理解した方がいいよ!』って」


 真白がつらつら過去のエピソードを話すと、似たようなことに覚えのあった吉田は、パッと顔を明るくさせ、「そ、そうだよね! そう言うの、あるよね!」と深く頷いた。


「ただ常識的な行動をしているだけなのに、不快罪で悪者にされる。……僕らみたいなキモイ陰キャは、大体こう言うことを経験したことがあると思うよ」


 吉田は真白の言葉に更に深く頷いた。優花里からの言葉への反論になっているような気がしたからだ。

 しかし真白は、「でも」と言って、吉田へと鋭い目線を向けた。


「僕は、琴月さんの言葉は、間違ってないと思う」

「あっ……」

「あのタイミングでいきなり見た目の話を持ち出したのは、君が、都合が悪くなるとああやって納得してきたって言うことの証明だと思う。……こういう理不尽は確かにある。それで性格が捻じ曲がることも、まあわかる。だからって、君が自分と向き合わないことが、仕方のないことだとは思えない。ましてやそれで自分の言動を正当化するなんて、もってのほかだと思う」


 真白の言葉は正しく、それでいて厳しかった。吉田はまた体を漂白されていくような情感を抱き、押し黙って彼の言葉を聞く他なかった。


「まあでも、人間ってそんなもんだよ」


 と、真白はしかし、やや投げやりではあったものの、どこか肩の力を抜くように、吉田にそうと言い放った。


「君、リゼ〇は見たことある?」

「え? あ、う、うん。ある、けど」

「なら通じるね。……あれにさ、こんなセリフあったじゃん。『しょうがないって言いたい、仕方がないって言われたい』って」


 真白はそう言うと、背もたれにまたもたれかかり、手を椅子の後ろに回してため息を吐いた。


「誰しもそうだよ。僕らは許されたい生き物なんだ。だから被害者面をする。だから僕らは不幸を自慢するし、自分より不幸な人間を許せない。だって、自分の方がマシなんだってなったら、なんだか頑張らなきゃいけない感じがするじゃないか。そうじゃなくっても気が引けるよ」

「……」

「そうやって、向き合うことを避け続けた成れの果てが、あの時の彼なんだろうね。もっとも、あの作品の主人公は、そこから立ち上がってくれるから、魅力的なのだけれど」


 真白はそう言うと、立ち上がって、吉田に背を向けた。


「君がどうするかは君次第だ。どれだけ酷いことがあって、どれだけ辛いって思っても、手前の人生は自分で面倒見るしかないんだよ」


 真白はそして、その場から立ち去ろうと足を踏み出す。しかし吉田は、慌てて「待って!」と彼に声をかけた。


「……ぼ、僕は、どうすればいいんだ?」


 吉田の言葉に、真白が立ち止まる。吉田は目をきょろきょろと動かして、黙っている真白に畳みかけるように声を紡ぐ。


「わ、わかってるんだ。僕が酷いってことくらい。でも、どうしても僕は、自分を抑えられなくて……」

「……どうすればいいかは、さっき琴月さんが言っていたけど」


 真白が吉田を振り返り、ピシャリと言い放つ。


「嫌な所があったら、それを直すしかない。それが嫌なら、開き直った方がいい。まあ、見た目で人をバカにする輩は違うと思うけど、だからと言って、見た目で相手がどんな印象を抱くかについては文句を言っちゃいけないよ。キモイって『言う』ことと『思う』こととでは全く違うからね」

「あ……で、でも……だって、ダイエットとか、どうせやっても、バカにされるし……元が不細工なんだから、どうしようもないよ……」


 吉田はこれまでの経験を思い出しながらそうと言った。

 これまでに、そうした決心をしたことがないわけではなかった。ただ、そう言った意識をしていることを悟られると、周りからそれをバカにされてきたのだ。

 そうなると、次第にやる気を失っていく。元々努力の嫌いな性質はあったが、そうした経験をしてきたこともまた事実だったのだ。

 と。真白が、「ん~」と言って、自身の話を始めた。


「……詩子が言っていたのだけどね」

「……?」

「アイツ、中学時代は物凄いデブスだったらしいんだ。そんな自分が嫌で、高校に入る前に、ダイエットとか、肌のケアとかを頑張り出したらしい。今でもそれなりに意識してはいるってさ。……自分が頑張っていたのは、今よりマシな自分になりたかったからであって、彼氏が欲しいとかは二の次だったって」


 吉田は真白の言葉に、ハッと顔を上げた。


「結局、一歩ずつ進むしかないんだよ。結果が振るわなくってもね。世の中、理不尽なものだよ。けど、そのどうしようもない理不尽を受け入れられないのは、単にソイツが未熟だからだよ。まあ、物にもよるだろうけどね」


 吉田は真白の言葉に口を結ぶ。厳しい言葉だったが、それが自分にとって、一番受け入れやすい解釈だったような気がしたからだ。


「……ごめんね」


 と、真白は一通り言葉を終えると、吉田にそうと付け加えた。吉田は「え?」と目をぽかんと点にさせた。


「聞いててあまり気分は良くないって思ったから。けど、以前と違って、今は君とちゃんと向き合った方がいいって思ったから」

「――、」

「それじゃあ、ね」


 真白はそうとだけ言うと、吉田に背を向け、その場を立ち去った。

 フードコートの中で、吉田はしばらくぽつんと立ち尽くし、やがて、少しばかり熱の残るブラックコーヒーを、ぐいっと一気に飲み干した。
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